珍しい魔道具を求めて
「ここが魔道具屋みたいだね」
「案内ありがとう、リュート」
本屋さんの後は二人で魔道具屋さんにやって来た。こっちでも珍しいものを見せて貰えるといいんだけどな。
「最悪、こっちでもシェルレーネ教刻印使用許可証を見せれば何とかなるかな?」
細工の方が魔道具に近いし、行けそうな気はする。そんな期待を胸に店へと入った。
「いらっしゃいませ、どのようなものをお探しですか?」
「えっと、珍しい効果の魔道具ってありますか? 別に実用的な物じゃなくてもいいので」
「珍しい効果ですか……少々お待ちください」
「じゃあ、アスカ。僕は店の物を見てるから」
「うん、何かあったら呼ぶね」
リュートと別れ、店員さんが帰ってくるのを待つ。少しして店員さんはいくつかの魔道具を持って来てくれた。
「こちら順に説明していきますね。最初はこちら、トーンベルという商品です。この魔道具は持ち主の魔力や属性によって触った時に鳴る音が変わる魔道具となっております」
「へぇ~、面白いですね。魔力が高いと高音になったり、火の魔力だと強くて短く響くとかですか?」
聞いたことのない効果に私はワクワクして自分の予想を話す。
「あっ、いえ、本当にそれだけの効果なのです。きちんと触った人を認識して同じ音にはならないのですが……」
言いにくそうにお姉さんが答えてくれる。
「本当に魔力の強さを計れるとか全く追加効果なしですか?」
「はい」
うう~ん、確かに珍しい効果だけど、他は意味がないのかぁ。でも、もうちょっと改良したら良さそうなのになぁ。欲しいのは欲しいけど、このままだと使う意味はない。ただ、ここで買わないでアイデアだけ使うのもなぁ。
「ちなみにこれっていくらですか?」
「こちらは金貨二枚ですね。意外に思われるかもしれませんが、ベルの中に使われている魔石が少々珍しいものでして」
「うっ、しょうがないか。とりあえずこれは買うので置いといてもらえますか」
「はい!」
元気よく店員のお姉さんが返事をする。ひょっとして長い間、在庫していたのかな? まあ、面白いアイデアだけど、使い道がないのは確かだしね。安全っていうところは褒められていいと思うけど。
「では、次の魔道具ですね。次は不可視の壁を作る魔道具です」
「おおっ、今度はすごそうですね! あっ……」
思わず本音が出ちゃった。いけない、いけない。
「これはすごいですよ。使うと見えない壁が横一メートル、縦二メートルに渡って生成されるのです!」
「おお~~っ!」
私はお姉さんの説明に拍手で応える。
「ただ、これもちょっとした問題がありまして……」
「何ですか?」
不可視の壁なんて便利そうな効果、問題があるのだろうか?
「実はこの壁、使った本人にすら見えないのです。ですから、張った位置を忘れてぶつかることが多いらしいです」
「がくっ」
まさかの説明に肩を落とす。でも、言われてみると納得だ。不可視の壁なんだから使用者だろうが誰だろうが、簡単には見えないよね。でも、魔力を感じて探知できないかな?
「えっと、その壁って魔力で探せないんですか?」
「できなくはないと思いますが、返品率が高い商品ですので難しいかもしれません。それともう一つ問題があって、作った壁は壊さない限り一日生成されたままになるのです。ですから、気軽に使って放っておくと他の冒険者が困惑してしまうのですよ」
「うう~ん、それは困りましたね。でも、探知できれば問題は解決しますから使わせてもらっても良いですか?」
「分かりました。奥のスペースをお貸しします」
おおっ、大通りが近くてスペースも限られるのにお試しスペースもあるんだ。感心しながら一緒に奥へと進む。
「こちらでお試しください」
「ありがとうございます」
お姉さんからブレスレット型の魔道具を受け取ると、実際に壁を生成する。
「壁よっ!」
掛け声とともに不可視の壁が生成された?
「これって本当に成功してます?」
「実はできたことが確認できないのも問題なのです」
効果は良さそうなのに問題だらけだな。後は生成された壁が探知できるかだ。
「……魔力を探すのが大変だけど、分からない訳じゃないな。少し待ってもらえますか?」
「はい」
私は魔道具を返すとリュートを呼んできた。
「どうしたの、アスカ。魔道具関係で僕を呼ぶなんて珍しいね」
「えっと、実はこの魔道具って不可視の壁を作れるんだけど、作った人にも見えないんだ。それでリュートが探知できるか知りたくて」
「そういうことならちょっとやってみるね」
リュートに協力してもらうと、魔力探知に集中しだした。
「うう~ん、それっぽい反応はあるんだけど、ひょっとしてあそこ?」
リュートが指さした先は正しく私が作り出した壁のある位置だった。
「やった! リュートにも探知できるんだね」
「うん。でも、集中してやっとだから戦闘中には無理だね。後はこんな壁があるなんて思いながら歩けないから実際には探知できないと同義かな?」
「そっかぁ。リュートでも難しいなら普通の人には無理だね」
リュートの魔力は100を越えてるし、普段から私と一緒に探知もよくしてる。そのリュートでさえ探知が難しいなら流石に使うのは無理かな?
「せめて複数枚同時に展開できればいいんだけどなぁ」
それなら盗賊とかを閉じ込めるのに便利そうなんだけど。見えるから変な動きをしたら気づくし、相手も見えない壁の情報なんて持って無さそうだからね。反対に魔物に対してはあんまり効果がなさそう。
元々魔力に対して敏感だし、リュートが探知できるってことはある程度魔力のある魔物はすぐに気づいちゃうだろう。
「これはちょっとパスで。えいっ!」
お姉さんに断りを入れて生成した壁を壊す。気を取り直して次の魔道具だ。
「残念ですが仕方ありませんね。今度は先程の魔道具より実用的な物ですよ。こちらです!」
お姉さんはやけに自信たっぷりで魔道具を出してきた。これはイヤリング?
「こちらはアイアンゴーレムの魔石を使用したイヤリングになります。魔力を通しますと……」
よほど自信があるのかお姉さんが実演してくれた。
「魔力が通ってお姉さんの身体が鉄みたいになってる!」
なるほど、アイアンゴーレムの魔石は身体を硬化させるみたいだ。それにしても本物の鉄みたいだなぁ。私がそんな感想を抱いていると、お姉さんからの反応は全くなかった。
「ひょっとして……」
しばらく待つとお姉さんの身体が元に戻っていく。
「どうですか? 賊などに襲われた時に身を守れるのです。後は護衛が倒すのを待つだけですね」
自信満々に言っているところ悪いけど、私は貴族令嬢でもないし仲間に任せて自分だけ安全と言うのは性に合わないな。後、一つ気になることが残っていた。
「これって護衛がやられちゃったらどうするんですか?」
「……」
やっぱり。鉄みたいになるのはいいけど、逃げられないからそこまでだよね。それなら危険を冒してもファルバードの魔石みたいにその場から高速で離れる方がましかも。その後もいくつか見せて貰ったけど、これというものはなかったので、魔石を見せてもらうことにした。
「こちらが魔石ですね。各種属性の物を取り揃えております」
お姉さんの言葉通り、魔石はかなり種類があった。特に火山がある影響か火属性の魔石が多い。
「でも、値段はそこまで安くはないね。この中だとディリクシルの魔石かな?」
サーシュイン領のディーバーンの浄化に役立つだろうし、少しぐらい送っておこう。
宛先はエディンさん宛でいいかな? イリス様は忙しいだろうし、ついでに色々と送っておこう。エディンさんにはシルフィード様の件で苦労もかけてるしね。
「後は定番のウィンドウルフの魔石とファモーゼルの魔石とサイクラスの魔石っておいてますか?」
私はあったらいいなリストから風属性の魔石がないか伝える。
「えっと、ウィンドウルフの魔石とファモーゼルの魔石はお出しできるのですが、サイクラスの魔石に関しましては……」
う~ん、やっぱり風属性高位の汎用魔石ということで、サイクラスの魔石を購入するのは難しそうだ。
「あの、いくつか魔道具を卸すので代わりに購入とかってできませんか?」
「魔道具ですか? ちなみにどういった物でしょう?」
おおっ! 食いついてきてくれた。ここは自信作をいくつか出すべきだろう。私はマジックバッグから定番となったウィンドバリアを張る魔道具二つと、効果はやや弱いものの、エリアヒールを使えるネックレスを出してみた。
「こちらで如何でしょうか? 旅の魔道具師から買い取ったものなのですが……」
「見せて貰っても構いませんか?」
「どうぞ!」
お姉さんが鑑定の魔道具を持ち出して私の作った魔道具を見ていく。
「これは素晴らしい出来です! これを作った方にお会いできればこちらから依頼を出したいぐらいですね」
「そ、そうですか、ちょっと照れますね」
「アスカ、ちょっと……」
「?」
「いえ、すみません。もし今度会ったらその方に伝えておきますね。それじゃあ、よろしくお願いします」
疑問符を付けて私たちのやり取りを聞いているお姉さん。私は慌てて話を変えて切り上げる。
「任せてください! 店長~、いいものが入荷しましたよ~」
まだ売る話はしていないのにそのつもりで話しかけるお姉さん。これなら魔石の件もいけそうだな。折角だし、この機会に少し火の魔石もお願いしようかな?
「君がこの魔道具を売ってくれる人かい?」
「はい。他に在庫はないんですけど……」
「それで欲しいのはサイクラスの魔石だったね。貴重な魔石だから一個だけになるけどいいかい?」
「構いません。それともし出来たら火属性の魔石も欲しいんですけど、良いですか?」
「火の魔石ですか? お出しできる中で一番いい魔石はこちらになります」
サイクラスの魔石を買うということで機嫌を良くしたのか、店長さんが丁寧な言葉づかいで断りを入れると少し奥へ行き、すぐに小さい箱を抱えて戻って来た。
「もしかしてこれってレッドワイバーンの魔石ですか?」
「おや、ご存じでしたか。どうなさいますか?」
「買います! 他にも火属性の魔石ってないですか?」
「他ですか。汎用魔石になるのですがこちらはどうでしょう。イルリヒトの魔石と言って、中級でもやや高めの魔法を扱えます。その分、値段も高いですが」
「いいえ、お金にはまだ余裕があるので買わせてもらいます」
「ありがとうございます」
こうして私は魔道具屋さんで大きな買い物をした。魔道具の売却額は金貨五十枚に満たない程度で、購入額はその倍近かった。ま、まあ、今後のための投資だししょうがないよね?
 




