まったり休日
「すみませ~ん。オークとファングバードの解体をお願いしたいんですけど」
「ん? 見慣れないやつだな。とりあえずそこへ並べて行ってくれ。六体以上の場合は作業を分けるから、待ってくれ」
「分かりました」
解体場の人の指示に従って、まずはオークを六体置いて行く。それから作業をするのに合わせて追加で出していった。
「まだ若いパーティーなのにこれだけ倒すなんて腕がいいんだな。下手な傷もないし、これなら満額買い取りだぞ」
「そうなんですね。あっ、ファングバードは一羽だけそのままでお願いします」
「ん? 何かに使うのか?」
「解体の練習に使いたいと思ってて」
「アスカ、ひょっとして僕が解体する分?」
「そうだよ。練習したいよね?」
私はリュートにファングバードを残すつもりだったんだけど、違うのかな?
「あっ、うん。それは嬉しいけど、全部やってもらわなくていいんだ」
「次にいつ出会えるか分からないからね」
「何だ。そっちのやつが解体するのか。じゃあ、作業を見ていくか?」
「良いんですか?」
「構わんぞ。ただし、俺たちも仕事中だからいちいち手を止めて教えんし、今からしか時間も都合は付かないがな」
「リュート大丈夫?」
「うん。確かに拘束時間は長かったけど、強い魔物ってわけでもなかったしね」
「じゃあ、お願いしていい? 結果を楽しみに待ってるから」
「分かったよ」
リュートにファングバードの解体を任せて私たちは先に宿へと戻る。
「俺はリュート君がファングバードを持ち帰ることを宿の人間に言ってくる」
「そうかい。あたしたちは寛いでるから行ってきな」
リックさんも宿の人へ伝言をするため部屋を出ていった。
「ジャネットさん、私の今日の戦い方どうでした?」
「うん? 別に問題なかったと思うけど、何か気になることでもあるのかい?」
「気になるって程でもないんですけど、従魔のみんなも戦ってくれたし、そういうのも含めてどうだったのかなって思いまして」
最近ちょっと気になっているのが従魔を含めた戦い方だ。海上ではジャネットさんたちも上手く動けないということで、あの子たちにも助けてもらったけど、基本的にはあんまり従魔と連携して戦うことがないんだよね。せっかく魔物使いになったのに、特徴を生かしてないと思って最近は少し悩んでいるのだ。
「まあ、アスカ自身が強いんだからそこまで気にしなくてもいいと思うけどねぇ」
《ピィ!》
ジャネットさんの言葉にアルナも同意してくれる。それは嬉しいんだけど……。
「ほら、いつかバルドーさんも言ってたじゃないですか。魔物使いって強い人がほとんどいなくて見本になるような人もいないって。考えてみたら私も見本になってないなぁって」
「アスカが見本ねぇ。さすがに無理があるよ」
「なんでですか? 別にそこまで特殊な魔法を使いませんよ?」
属性だって火属性と風属性の二属性で多いわけじゃないのに。
「アスカの普通はねぇ。従魔が活躍する前に魔物を倒せるし、従魔だって揃って小さいやつばかりだからね。せめてリンネやソニアぐらいのサイズがいたらねぇ」
「リンネたち元気でしょうか?」
「ソニアはともかく、リンネが元気ないのは想像できないねぇ」
リンネもソニアもともにウルフ種の従魔だ。リンネはサボりがちで、ソニアは頑張り屋という対称な性格をしているけど、夫婦として仲良くやっている。確かに二人とも中型の魔物だから、前衛も任せられるし『ザ・従魔』って感じの魔物だ。
「そうですよね。元気で怪我してないと良いですね。だけど、戦い方はどうしましょうか」
うんうんと唸ってみるものの、なかなかいい案が思い浮かばない。
「悩んでてもしょうがないさ。新しく急に従魔が増えるわけでもないだろ?」
「う~ん、そうですよね」
「そうと決まれば飯でも頼むか」
「でも、二人ともいませんよ?」
「リュートとリックなら自分たちで頼むだろ。悩みがある時は飯でも食って落ち着かないとね」
「悩んでても答えは出ませんし、そうしましょうか」
私たちは一緒に食事を注文すると食事を済ます。リックさんは他にも用事があるのか、結局私たちが食べている間来ることはなかった。
あくる日、今日はもう冒険に行かないので部屋にみんな集まってまったり過ごしていた。
「リュート、そういえば昨日はあれから会わなかったけど、解体はどうだった?」
「しっかり見せて貰ったからうまくいったよ。好意で場所も借りられたしね」
「じゃあ、もう次からは大丈夫?」
「うん、任せてよ!」
おおっ、普段から引っ込み思案なリュートがここまで言うなんて、これは期待できそうだ。まあ、ファングバードが次にいつ出てきてくれるかは分からないけどね。
「後、心配なのは味の方だね。リックさんは美味しいって言ってたけど」
「ん? そんなに心配するな。食べたらびっくりするぞ」
テーブルを挟んでジャネットさんと一緒に本を読みながら返事をするリックさん。この前買って来たレアな剣術書らしいけど、顔ぐらいこっちに向けて言えばいいのに。
「で、昼には食べられるのかい?」
「ああ、ちゃんと宿には言ってきたからな。料理長も乗り気できっとうまいやつが出るぞ」
「そいつは楽しみだねぇ」
二人とも本を読みながら会話を進める。普段とは違う姿にそんなに貴重な本なのか気になった。
「前に買った剣術書ってそこまで貴重なんですか?」
「ん? ああ、まあね。技が載っているのもそうなんだけど、構えも詳細に載ってる上に、その構えの意味や弱点まで書いてある書物なんてまず見ないからねぇ」
「ん~。でも、そういう書物がないと弟子の人たちは練習できないのでは?」
「アスカみたいな魔法使いと違って、近接とかはひたすら実践だからねぇ。文字なんて読めなくてもできるし、読めたって実行できなきゃ無意味なんだよ。そういうわけで有名な道場とかでも本の一冊もないところがほとんどだよ」
まあ、一般人相手ならそうなのかなと思ってリックさんにも尋ねてみる。
「騎士でも大して変わらんぞ。さすがに構えのところや基本的な動きの本はあるが、それも国で採用されている代表的なものだけだ。こういう個人で開いた剣術の書物はまずお目にかかれない」
「でも、お二人とももう剣術は学ばれてますよね」
特にリックさんは貴族で騎士なんだから騎士学校に通ったはずだけど。
「まあ、そうではあるが、習う流派にはない構えが載っていると役に立つんだ。同じではなくても、似た構えなら目的は同じ事が多い。次にどういう行動へ移るかを推測しやすくなるのさ」
「あたしからしたらちゃんとした教えは受けてないから助かるねぇ。載ってる構えも頭の中じゃ悪くない構えだし、取り入れられそうなら取り入れようかね」
「何だ。俺の流派じゃ駄目なのか?」
「一緒の剣術より違う方がいいだろ? あんたとあたしの腕が同じぐらいなんだから、強敵に会った時に切り抜けられる確率も上がるし」
「そう言われると返せんな」
ぺらぺらとページをめくりながら会話を続ける二人。本当に器用だなぁ。
「私もこういう本を読めば弓の腕が上達しますかね?」
話を聞いて読書の邪魔をして悪いなと思ったけど、自分のスキルアップにつながるかもと思い聞いてみた。
「アスカの弓ねぇ……」
「アスカの弓か……」
「えっ⁉ 二人ともなんでそんな反応何ですか? リュートも何か言ってよ!」
私は仲間を増やすべく、リュートに協力を仰ぐ。
「えっと、アスカには言いにくいけど、僕もあまり役に立つとは思わないかな?」
「ひ、ひどい」
「まあ、大量の矢を空に滞空させたり、矢に魔法をかけて放ったりと普通の使い方をしないから、本を買うことで悪い影響も出るかもしれないし」
「むぅ。リュートだって槍の本を読んでるところを見てないけど、大丈夫なの?」
同意を得られず、反撃を試みる。
「一応、初心者向けの本は読んだよ。後は魔槍頼みかな? 鎧とか防具にも色々言うけど、実は動きやすい構えとか隙のない構えとか知識も凄くて、本いらずなんだ」
「ぐぬぬ。ずるい、私は頑張って練習してきたのに」
弓はフィアルさんにも色々と教えてもらったけど、レストランの経営があって時間もあまり取れないし、使い方も違うから大変だったのに。私がそう思っていると、ベッド横に置いていたマイが光る。
「ソードブレイカーの扱いだったら教えてあげるって? そこは短剣じゃないの?」
リュートの魔槍は薙刀の扱いだって教えられるぐらい博識なのに。
《ピカッ》
「分かった、分かったから光らなくていいって」
「マイのやつなんて?」
「そもそもソードブレイカーは特殊な短剣だから、その使い方を教えられるだけですごいって」
「まあ、そう言われちゃね。あたしもリックも教えるのは無理だし」
「そうだな」
「あれ? リックさんも無理なんですか? 武芸百般って感じなのに……」
剣ほど得意じゃないけど、槍とか斧も使えるって前に話してたことがあったんだけどな。
「さすがに特殊なものは無理だ。薙刀も使いこなせん。そもそも騎士団の武器は支給品だ。個人にしか使えない武器をストックするのは難しいから、使用許可が出ん」
言われてみればそうか。騎士団員が全員で特殊な武器を要求しだしたら、全部オーダーメイドになっちゃうよね。武器の話で盛り上がった私たちは、そのままお昼まで話ながら過ごした。




