港町の見回り依頼
「さぁ、ここからは魔物もいそうだし、注意して進むか」
リックさんの言葉で私たちは装備を確認する。うん、弓の調子も問題ない。
「そんじゃ、あたしが前に出るかね」
「おっと、こっちも船旅で腕が鈍っているからな。任せてもらおう」
「ちっ、好きにしな」
珍しくジャネットさんが隊列の先頭を譲る。最近はちょっと食も細いみたいだし、体調大丈夫なのかな? そんな心配もしつつ進むと、魔物の気配があった。
「あっ、魔物です。でも、地上じゃないですね」
「へぇ~、最初っから新しい魔物とはね」
「まだファングバードって決まったわけじゃないですよ」
ジャネットさんに返事をしつつ魔物の大きさを測ってみる。あ~、大体の大きさからファングバードみたいだ。
「ほら、あたしが言った通りだろ?」
「表情で心を読まないでください。敵は六体です」
「それより、迎撃の準備を。僕は自分で魔法をかけるから、アスカは二人の補助をお願い」
「分かった。フライ&ウィンドバリア!」
私はリュートの指示通り魔法を二人にかけ、最後に自分にもかけて準備を整える。
「それじゃあ、行くぞ!」
リックさんの言葉でみんな空へと飛び上がる。相手も私たちの魔力を感じ取ってこちらへやって来た。後はファングバードの相手は初めてなので気を付けるだけだ。
「まずは小手調べ。ストーム!」
左手に弓を持ったまま右手で魔法を放つ。これで当たらないまでもバランスは崩せるはずだ。
《キイィィィ》
ファングバードは攻撃を避けたけど、私の魔法の影響でうまく飛べないみたいだ。
「今なら!」
弓を構えてふらついたファングバードへ矢を放つ。
「やった!」
「アスカに負けてられないねぇ。そらよ!」
ジャネットさんたちも次々に相手を始める。
《ピカッ》
「えっ⁉ せっかくだから自分も使って欲しいって? しょうがないなぁ」
みんなが戦っているのを見てマイもやる気を出したみたいだ。どう戦いたいのか知らないけど、一応望みは叶えてあげよう。
「それで、どうやって戦うの?」
《ピカッ!》
マイが一鳴きすると、急にファングバードが飛行能力を失い、地面へと落ちていく。
「何だ? いきなり他のやつも動きが悪くなったぞ?」
「どうしたんでしょうか?」
リュートもリックさんも急な反応に驚いている。
「マイ、ひょっとして……」
《キラッ》
私の言葉に魔力美味しいというマイ。どうやらファングバードが空を飛ぶためには魔法が必要という話しを聞いていたみたいで、その魔力を食べているようだ。当然、ファングバードは自力で飛べないので後は落ちるだけだ。
《ピィ》
そこへアルナが魔法でとどめを刺す。う~ん、この協力体制は無駄がない。
「みんなすごいね!」
《にゃ~》
私の言葉に自分もとキシャルがブレスを放つ。氷のブレスは空気に触れ、周囲を凍らせていく。そのせいでまたもやファングバードは空を飛ぶことが困難になり、高度を落とす。
「ナイス!」
落ちて来たファングバードに合わせジャネットさんが剣を振るいとどめを刺す。
「終わったな。空を飛ぶ魔物にしては早く片付けられたな」
「従魔たちのお陰ですね。みんな頑張ったね」
《ピカッ》
すかさずマイが自分を忘れるなと主張してくる。もう、マイのことも入ってるのに。
「ちゃんとマイの活躍にも感謝してるよ」
《キラッ》
ようやく納得してくれたのか、ご機嫌になるマイ。本当に子どもっぽいんだから。
「さあ、まだ見回りの途中だし、さっさとマジックバッグに入れていくよ」
「あっ、そうですね。回収回収っと……ん?」
ファングバードを入れようとしたところで気配に気づく。
「みんな、敵です!」
「やれやれ、どうなってんのかね」
「この大陸じゃ、よくあることだ。獲物をただで手に入れる気なのだろうさ」
「きちんと働かないと駄目ですよね。敵の形からゴブリンだと思います。数は十二」
私は探知魔法を使って敵の形からゴブリンだと推測する。ただ、数が多い。今、探知しているだけでも十二匹はいる。
「弱いくせに数だけは揃えてまぁ。リュート、こんなのに一撃も貰うんじゃないよ!」
「分かってます! いくよ魔槍」
魔槍もリュートの呼びかけに応えて魔力を吸い光る。こっちは私たちと違って人器一体って感じだなぁ。おっと、今は戦いに集中しないと。私は弓を構えてゴブリンが射程に入るのを待つ。
「来ました。牽制します!」
「任せるよ」
ジャネットさんの返事を聞いて、私は弓を引き絞る。
「三・二・一・今だ!」
《ギャ?》
まずは先頭のゴブリンを射抜く。所詮は数頼みの下級の魔物。今の私たちの敵じゃない。私の攻撃を皮切りに一気呵成に攻め立てる。
《ピィ!》
「アルナってば今日はやる気だね。リフレッシュできたのかな?」
町で遊んだみたいだし、元気なのは良いことだ。数はいたとはいえ、今度も難なく倒した。
「ふぅ、どうやら血の匂いを嗅ぎつけてすぐに来るみたいだね。さっさと埋めちまうよ」
「分かりました」
リュートと手分けをしてゴブリンを埋める。
「でも、本当に魔物の行動単位が多いね」
「そうだね。僕もびっくりしたよ。アルバ周辺じゃ、十二匹出ることなんて滅多にないしね」
「うんうん。確かにこの数を相手に少数のパーティーは危険だよね」
二人でちょっと昔のことを思い出しながら感想を述べる。
「よし、埋め終わったし、次に向かいましょう!」
「では、進む方向はここから少し西だな。そこから南に下がるようだ」
再び地図を見て進み始める私たち。見晴らしがいいので、巡回依頼自体の難易度は高くなさそうだ。
「問題は数だよね。もうちょっと加減してくれたらなぁ」
「アスカ、お客さんみたい」
私が考えごとをしているとリュートが話しかけてきた。探知魔法を使うと確かにお客さんのようだ。
「形から言ってオークだね。でも、こっちにはそこまでいないみたいだけど……」
「魔物の血の匂いを嗅ぎつけたのかもしれんな。さすがにそれはどうしようもない」
「ま、獲物が増えることは悪くないね。大して手間もかからないし」
「そうだな。巡回依頼の報酬も倒した魔物の数で増えるしな」
というわけで、オークに気づかれる前に配置につく。配置と行っても見晴らしがいいので攻撃しやすい位置に動くぐらいだけど。
《ブヒー》
「向こうもこっちに気づいたね。先制は任せたよ」
「了解です! ウィンドカッター」
私とリュートが風の刃でオークへ攻撃を仕掛ける。視界が良いこともあり、簡単にオークを倒していく。七体いたオークも見る間に姿を減らし、数分で倒した。
「ん~、これでお肉を確保ですね。さっきのファングバードと合わせれば、結構な量になりますね」
「ああ。そうだ、ファングバードの肉に関しては一部、宿に渡していいか? あの鳥の肉はなかなか手間がかかる分、美味いんだ」
「手間?」
「ああ。あの大きい頭だが、あそこから良い出汁が出てな。料理長に頼むと美味いスープを作ってくれるんだ」
「本当ですか? じゃあ、全部渡しちゃいましょう!」
ファングバードは肉が胴体部に集中している代わりに、味が濃くて美味しいらしい。ただ、肉の取れ高は少ないのと、臓器の切り離しに手間がかかるんだって。
「肉の切り分けはリュートがやってくれるし、出てくるのが楽しみだ」
「で、できるかな? 最近は厨房にもあまり入ってなかったし」
「おや? リュートはできないっていうのかい?」
「そうは言ってませんけど……」
「みんな。先に片づけだ。また襲ってくるかもしれないからな」
リックさんの言葉でみんなすぐにマジックバッグへとオークをしまう。まだまだ見回りは続くので、解体はなしだ。そのまま解体場へ持って行って処理してもらう。
「終わったな? それじゃあ、また見回り再開だ」
こうして私たちは町の西側を数時間かけて見回った。この後も少し魔物は出たけど、町や海が近づくほど出なくなった。
「ん~、後は町へ戻るだけだ~」
私は伸びをしてこの間の疲れをほぐす。隣を見ると大なり小なりみんなもやっているみたいだ。
「久し振りだとちょっと疲れるね」
《ピィ!》
「アルナも疲れたかい? 魔物が出ないならあたしの肩でも良いんだけどねぇ」
《にゃ》
ジャネットさんが呟くと、私の頭からキシャルがジャネットさんの肩へと飛び移る。
「もう~、キシャルったら。アルナはジャネットさんを取ったりしないのに」
キシャルは嫉妬深いというか、気に入った相手には結構執着するんだよね。船の上でも気に入ったお姉さんにずっと懐いてたし。今はジャネットさんだからいいけど、変な人につかまらないか心配だ。
「あっ、町が見えて来た! 早く帰りましょう」
久しぶりの冒険で疲れていた私は早足で町へと向かう。
「待って、アスカ!」
私に続いてリュートが、その後はジャネットさんたちが付いてくる。こうして私たちの新大陸初依頼は終了した。
「ただいま戻りました!」
「お帰りなさい。依頼はどうでしたか?」
「ばっちりですよ!」
受け付けのお姉さんとやり取りをしながら、見回りの依頼を渡す。
「え~と、討伐種類はファングバードにオークにゴブリン。討伐数は……多いですね。ひょっとして、指定エリアを全部一日で?」
「え? そういう依頼じゃないんですか?」
「依頼期限は四日ですよ。普通は二度ぐらいに分けるんです。まあ、お金のないパーティーとかは無理して一日で回ることがありますが、フロートさんは違いますよね?」
「はい。別に難しい依頼ではないので回っただけですね」
「お強いパーティーですね。討伐数も多いですから、報酬も多いですよ。全部で金貨一枚と銀貨一枚になります。素材の方はどうされますか?」
「オークの肉は一部売ろうと思います。解体場はどこですか?」
「町の西側のやや南ですね。ギルドからだと直線状ですから分かりやすいですよ」
「ありがとうございます」
お姉さんにお礼を言って、報酬はパーティーカードに入れてもらった。それから私たちは解体場へと向かった。




