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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
セイレーンの海

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お昼ご飯とヴァンダル山脈

「んで、中心からちょっと奥まったところまできて、本当に飯屋があるのかい?」


「ふっ、任せろ。この上は貴族街でな。人も少ないから人目も気にしなくて済むぞ」


「その代わり、ここに来るまでにいっぱい見られましたけどね」


 なんだか町行く人が私の方をちらりと見ながら去っていくのだ。大きい町に来るとたまにこうなるけど、どうしてだろうか?


「アスカの場合はしょうがないよ。それよりどこですか?」


「その奥だ」


「その奥ってあのでかいレストランかい?」


「ああ。俺もこの町に来た時は良く使うし、実家も利用しているから色々と融通が利くんだ」


「あれ? ジャネットさんってリックさんと一緒に店を見たんじゃないんですか?」


「それがリックのやつときたら楽しみにしてろって言って、武器屋にあたしを置いて行ってきたんだよ」


「武器屋に置き去りだなんてひどいですね」


 私がリックさんの方をジト目で見る。仮にもデート中に女性から目を離すなんて、どういう了見なのだろうか?


「アスカ、そんな目でこちらを見るな。ちょっとした趣向だ。それに他の貴族も利用するからな。今日の利用状態によってはぬか喜びになるだろう?」


「あっ、言われてみればそうですね。すみません」


「分かってくれたらいいさ。さあ、入るぞ」


リックさんに案内され私たちは立派な店構えのレストランへと入って行く。


「いらっしゃいませ! リック様ですね」


「ああ、予約しておいた席へ頼む」


「かしこまりました」


 女性の店員さんはうやうやしく一礼すると、私たちを予約席へと通してくれた。予約席といっても、テーブルにリザーブの札が置かれているわけではなくて、奥にある個室へと通されたのだった。


「これが貴族の力……」


「いまさらだよ。でも、僕らが普通に入ったら高そうなお店だよね」


「残念だな、リュート君。この店は紹介制でね。お金を持っているだけでは入れないんだよ」


「か、会員制……なんていい響き」


 貴族向け会員制のレストランなんてどんな料理が出てくるんだろう? 私は席に着く前から期待で胸を膨らませた。


「お食事の方はどういたしましょうか?」


「ああ、いつもの通り任せる。それと食事を運ぶ以外のサービスはいい」


「かしこまりました」


「食事を運ぶ以外のサービスって何ですか?」


 別にレストランなんだから他のサービスなんてないと思うんだけど。


「ここは貴族向けで港町だからな。魚料理などをフランベしたり、肉を焼く時に目の前で焼いてくれたりといったサービスから、個室で店員を呼ぶのが面倒な客は店員を付けたりもできるのさ。ただ、食事中に何の話しをするか分からんから不要だろう」


「確かにねぇ。こっちは新大陸に着いたばかりだし、さっき回ってきた時の話もしたいしねぇ」


 うんうんとリュートも二人の言葉にうなずいている。でも、みんな若干こっち寄りで納得顔なのは解せない。みんなも条件は一緒なのに。そんな思いもありつつ、三十分ほど待つと料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました。本日の料理はジュムーアの薄焼きステーキと、レッドスポッターにメルホノスや周辺の村から今朝仕入れたばかりの新鮮な野菜を使ったポトフです」


「レッドスポッターにメルホノス?」


「レッドスポッターはこの町周辺の海で獲れる魚です。皮は赤く斑点があり、煮物などによく使われます。メルホノスは同じく海で獲れる二枚貝です」


「へ~、地場産の食材なんですね。それじゃあひとくち……」


 味が気になったのでまずはポトフを鍋から器にとってひとくち食べてみた。


「美味しい! レッドスポッターのほろりととけるような口当たりに、メルホノスの大粒な身の食感が良いですね!」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


「あっ、それとこの子たちの食事もお願いします」


「かしこまりました」


 店員さんは部屋を出ていき、私たちは早速食事を楽しむ。その後、すぐにアルナたちの食事も運ばれてきて、みんなで食事タイムだ。


「うん、さすがに美味いねぇ」


「本当ですね。リックさんありがとうございます」


「いや、大したことはしていないさ。それで、そちらは何か収穫があったのか?」


「収穫ですか。アスカが次の目的地を決めたぐらいですね。ギルド内には物は多かったんですが、僕らが買いたいような物はなかったです」


「ま、ギルド内にそこまで良いもんを置いてもねぇ」


「でも、ギルド員からの委託品を置いてましたから、こまめに見に行けばいい物があるかもしれませんよ」


「なるほどな。まあ、次の目的地が決まったのなら、我々にはあまり関係がないな。それで、次はどこへ行くつもりなんだ?」


「正確な場所までは分からないんですけど、ちょっと気になったのが光の教団って組織ですね。リックさんは知ってますか?」


「いや、知らないな。なぜ俺に?」


 どうやらリックさんは光の教団について知らないらしい。でも、国境近くって話しだし場所ぐらいは知ってるかも?


「何でもルーシードとルイン帝国の国境近くの山脈に本部があるみたいなんです」


「国境沿いの山脈というとヴァンダル山脈だな。あんなところに宗教団体があったとはな」


「リックは全く知らなかったのかい?」


「ああ、うちの家からは離れているし、あの山脈は縦に伸びているからな。ルイン帝国とルーシードを行き来する時は本当に一部を通るだけなんだ」


「それじゃあ、山脈越えも大したことないんですか?」


「ん? ああ、リュート君の思っている通りだ。両国間は山脈でも低い位置に街道が作られているから馬車も悠々と通れるぞ。高いところでは三千メートル近くあるがな」


 どうやらヴァンダル山脈は低山地帯から高山地帯まで幅広い標高のようだ。でも、確かに山越えが楽なのはいいなぁ。整備されていない場合、歩くだけでも大変だし。


「それで、アスカは光の教団の何がそんなに気になるんだい?」


「ん~、なんとなくです。ただ、フェゼル王国にもサンダーバードがいましたよね? あの子たちみたいな魔物もいるんじゃないかなって」


「ああ、あいつらかい。そういえば固有種だから長らく会ってないねぇ」


「そのサンダーバードというのは?」


「フェゼル王国に生息している鳥の魔物です。姿はちょっと丸っこいんですけど、光の魔法を使いこなせるので移動は早いですよ。とても温厚で好奇心旺盛なんです」


 私は鳥の巣に住んでいる一家を思い出しながらリックさんに説明する。あの子たちみたいな温厚な魔物ってなかなかいないから、どこかで会ってみたいなぁ。


「ふむ。残念だがそういった魔物の話は聞かないな。俺の家がある領地だと危険な魔物も多いから、生きてはいけないだろう」


「リックさんの家がある領地ってそんなに危険なんですか?」


「ああ、フェゼル王国に比べるとかなり危険だな。ダンジョン深層で出るような魔物もいる。サイクロプスやミノタウロスなどの巨人種も確認されているほどだ」


「へぇ~、あんたんとこはそんなに危険だったのかい?」


「まあな。だから、土産に買った剣もいつまで使えるか。武器の消耗も早いし、農作物は作るのも難しいから割と大変なんだ」


 サイクロプスにミノタウロスかぁ。ゲームとかで見たことはあるけど、現実には会いたくないなぁ。


「それでアスカ。肝心の教団があるのはどの辺りなんだい?」


「それなんですけど、ヴァンダル村としか分からなくて……」


「ああ、それなら分かるぞ。街道からは少し離れているが、少し北に行ったところだ。行ったことはないが山脈と同じ名前の村だから覚えている」


「本当ですか⁉ じゃあ、最初の行き先はそこですね」


「なら、後はこの町にどれぐらい滞在するかだね。どうするんだい?」


 目的地も決まったところで、ジャネットさんから港町での滞在日数を尋ねられた。うう~ん、もうちょっと魚介類に触れていたいけど、そこまで長く滞在してもなぁ。


「一週間ぐらいでどうですか? その間は新大陸の情報集めということで」


「了解。リックもそれでいいね?」


「もちろんだ。ああ、宿についてもこっちで一週間分を手配しておく」


「良いんですか?」


「構わないさ。こっちには土産もあるし、情報もあることだしな」


 そういうと笑みを浮かべるリックさん。ここだけ切り取ると頼れる大人なんだけどなぁ。


「話しもまとまったし、残りを食べちまおう」


「そうですね。海の上でも魚とかが食べられましたけど、ここはそれとも違ってていくらでも食べられそうです!」


 どうしても海の上では航海日数を余分に見ておかないといけないから、最終日近くまでは調味料とかも抑え気味で使うからね。こういった時間をかけた料理は久し振りなのだ。



「もうお腹いっぱい……」


「大丈夫アスカ?」


「う、うん」


 料理が美味しかったのもあるけど、久し振りの陸地で食べ過ぎた私は、少し気分が悪くなってしまった。


「しょうがない子だねぇ。リック、先に宿へ案内してくれよ」


「分かった。そうだ、明日以降の食事はどうする? ここが気に入ったなら今のうちに予約しておくが?」


「だとよ」


「それじゃあ、お昼はここで食べましょう。野菜も美味しかったですし、ここならアルナたちも気兼ねなく食べられると思うんです」


「分かった。出る時に話しておく。それじゃあ、宿へ向かうか」


 こうして港町での滞在日数を決めた私たちは宿へと向かった。




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