新天地でのお買い物
「さて、それじゃあ商人ギルドへ向けて出発だね!」
「うん」
私とリュートは港口にあった案内板の表示を頼りに商人ギルドへと向かう。
「えっと、この先を右だね! 人通りも増えて来てるし、もうすぐかな?」
「そうだね。道行く人も色々な服装をしてるね」
リュートの言う通り、さっきからすれ違う人は色々な恰好をしている。中には今までほとんど見ることのなかった、獣人の姿もある。獣人……いわゆる亜人族はこの大陸以外にはほとんど住んでいないので、他の大陸で見かけることは珍しいのだ。
「仲良くなったら触らせて貰えたりするのかなぁ」
「アスカ、何か言った?」
「ううん、それよりここが商人ギルドみたいだね。港町だけあって大きい施設だね」
到着した商人ギルドを二人で見上げる。今までも大きい商人ギルドはあったけど、ここもそこに負けず劣らずの三階建てだ。敷地も広いし、植物も植わっていてこの町の賑わいぶりを見せてくれる。
「ずっと見ててもしょうがないし入ろうか」
「そうだね」
《にゃあ》
普段町中では寝ているキシャルも、異国の物が気になるのか起きておくことにしたみたいだ。
「それじゃあ、入るね」
「いらっしゃいませ! どういったご用件ですか?」
「あっ、入国したばかりでこの大陸への上陸手続きを取りたいんですけど……」
「それでしたら三階の受付へお願いします。他にも登録等がございましたら、同じく三階で受け付けております」
「ありがとうございます」
受付のお姉さんにお礼を言い、私たちは三階の受付へ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「上陸手続きをしたいんですけど」
「かしこまりました。どちらの大陸からでしょうか?」
「ヴィレスタ大陸からです」
「ヴィレスタ大陸からですね。登録地はこの町でよろしいですか?」
「最初はそれでお願いします。もし町を移動する場合はまた来ますから」
「かしこまりました。それではカードをお願いします」
私は受付の人に商人ギルドのカードを渡すと、所属地を更新してもらう。無事に更新も終わり、何か商品を見に階段を下りようとしたところで、一人の人とすれ違った。
「あの白いローブの人はなんだろう?」
通りすがりに気になったので少し見ていると、受付の人から手招きされたので、そっちへ行ってみる。
「あちらの方が気になりますか?」
「あっ、ちょっとだけ」
「あちらの格好をした方は光の教団の方です。新しく登録に来られたんだと思います」
「光の教団?」
「ルーシードからルイン帝国へ向かう途中のヴァンダル山脈にある宗教団体ですね。山頂付近には神殿もあるんですが、今は往時のような勢いはなく、その麓にある村と周辺の村だけでのみ信仰されているんです」
「お姉さん、すごく詳しいですね。受付の人ってみんなそうなんですか?」
いい情報を教えてもらえて助かるけど、そんなマイナーな宗教のことまで覚えないと受付ってできないのかな?
「実は私の父がそこの村の出身なんです。だから、普通の人は知りませんよ。まあ、村がどうなっているかまでは父も知りませんけど」
「どうしてですか?」
「麓にあるヴァンダル村は名産もないですからね。村を出た人間が戻る時は、近くに移り住んだ人が里帰りするぐらいなんです」
「ふ~ん」
「でも、昔はそれなりの規模だったみたいで、神殿も立派な造りで歴史も長いらしいですよ」
「歴史のある建造物かぁ。この町でひと段落したら行ってみようかな?」
「興味がありましたら二階へ行ってみて下さい。ルイン帝国方面への地図も売っていますから」
丁寧に説明してもらったと思ったら最後は営業を掛けられた。やっぱり立派な受付さんだった。
「アスカ、さっきの話し行ってみるの?」
「出来たらね。まずはジャネットさんたちに聞いてみないと。だけど、ルイン帝国との国境近くだって言うから行ってみたいかも」
光の教団って名前がちょっと気になるしね。光といえばフェゼル王国にいたサンダーバードや、その付近にかつて存在していた村なんかもあったし、離れた大陸だけど何かあるか確かめたい。そういうのも旅をしていないとできないことだしね。
「ここが二階だね。二階は商品が色々と並んでるんだね」
「そうみたい。リュートは何か見るものある?」
「う~ん、強いて言うなら鍋かな?」
「な、鍋!?」
また意外なものを。そういえば、食器はその辺の木を使ってるから新しくなるけど、鍋だけは旅に出る前からの物だっけ?
「さすがに鍋はないみたいだね」
「まあ、ギルドにあるのって大体は冒険者向けの物だもんね。街中で探すよ」
「それじゃあ、ちょっと魔石とか見ていい?」
「どうぞ」
リュートの言葉を受けて私は何があるか探し出す。
「えっと、魔石魔石……」
魔石のコーナーを見ていくけど、多くは水に関するものみたいだ。海が近いからだろうか? だけど、海魔の魔石は少なくて魔石自体も大きいものはあまりない。
「これは何の魔石かな? シーローナ?」
説明を読んでみると、元は淡水に住んでいる魚と同類の、海に住むものみたいだ。魔石の説明も併せて読んでみると、どうやら守りに特化した魔石みたいで、盾の裏につけたりすると多少強度のある膜を表面に張れると書いてあった。
「へ~、こういう魔石もあるんだね。出力がどれぐらいか気にはなるけど値段がね~」
興味は出たものの、残念ながら魔石の値段は金貨二枚だった。これなら他の有用な魔石の資金にした方がまだいい。
《に~》
「キシャルは気になるものがあるの?」
どうやらキシャルには気になるものがあるみたいなので、そっちへと意識を向ける。
「これも魔石みたいだけどちょっと色味が違うなぁ」
見た目は魔石に見えるけど、少し違和感がある。色味も統一されてないし、輝石かなぁ?
「とりあえず、値段はと……」
いくらキシャルが興味を持っていても値段が高かったら買えないからね。価格を確認してみると、大銅貨八枚となっていた。名称も『詳細不明:魔石か輝石と思われる』という形で曖昧な記載となっていた。
「あまり価値がないとみなされて鑑定されなかったのかな?」
でも、商人ギルドの物なら鑑定も費用は掛からないと思って横を見ると、販売委託品となっていた。
「ああ、売り場を借りて出品してるんだ。それなら買っちゃおう」
ただ、これだけ買うのもどうかなと思ったので、同じように委託販売になっていたウィンドウルフの魔石も買い足しておいた。バリアの魔道具はどこでも売れ行きがいいので、この町にいる間はまた作っておこう。
「アスカ、もういいの?」
「うん、そろそろ集まる時間だしね」
ギルドの建物の面積が広いから、フロア全体を見るのに時間がかかったので、そろそろ待ち合わせの時間が近づいていた。最初の反応以降はキシャルも興味がなくなったのか、今は肩ですやすやと眠っている。
「じゃあ、待ち合わせ場所に行こう!」
私はリュートの手を取ると、そのまま広場へと向かった。
「あっ、ジャネットさん。お待たせしました!」
「アスカ。ギルドの方はもういいのかい? 武器屋でここのギルドは品ぞろえもいいって聞いたけど」
「はい。確かに品ぞろえは良かったんですけど、私の欲しいものはあんまりなかったです。リュートも買いたい物があったんですけど、売ってませんでしたし」
「あっ、それは……」
私の言葉にちょっと慌てた感じになるリュート。どうかしたのかな?
「なんだい、小洒落た物でも買いたかったのかい?」
「是非俺も後学のために行ってくれ」
二人に詰められるように迫られ、口を開くリュート。
「えっと、鍋です。ほら、野営の時とか結構傷んでるのを見かけませんか?」
「そうだっけ? リックは覚えているかい?」
「いや、器に盛ることも俺はあまりないし、鍋の方はあまり見ていなかったな」
「そ、そうですか」
案外、料理をする人以外は道具を気にしないのか、みんなもそこまで気にしてはいなかったみたいだ。
「でも、リュートは買い換えたいんだろ? この町にしばらくいるなら見に行ったらどうだい?」
「そうします。それと、今後の目的地なんですけど……」
「おっと、話が長くなるみたいだし、先に飯にしようじゃないか。ゆっくりできるところを押さえてあるんだ」
「分かりました。それなら行きましょう!」
ちょっとまだ早い時間だけど、私たちは食事をするためリックさんについて行った。




