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ルーシードへ入国

「接舷!」


「はいっ!」


 いよいよ船はレザリアース大陸にある港湾国家ルーシードの玄関口、フォスターへと到着した。


「アスカ様、申し訳ございませんが先に積み荷を下ろしますので、もうしばらくお待ちください」


「分かりました。どのぐらい作業にかかりますか?」


「まずは交易品と一等船室に乗られている方の荷物のみですから、一時間あれば終わるかと」


「じゃあ、終わったらまた呼んで下さい」


「はい。では、失礼します」


 私の返事を聞くとベスティアさんはやや急いで廊下を歩いて行った。


「なんだか忙しそうでしたね」


「ま、航海中と違って積み下ろしはどうしてもねぇ。それに交易品を下ろすんだろ? 割れ物の確認は下ろす前に済ませたいだろうしね」


「私も手伝った方が良いですかね。風の魔法で下ろしたら早く終わると思うんですけど……」


「やめときな。ろくなことにならないから」


 風の魔法でお手伝いできると思っていた私に、渋い顔で即答するジャネットさん。どうしてダメなんだろう?


「その顔はなんでって感じだね。よく考えてごらんよ。いつもは荷下ろしに一時間かかるところをアスカが協力したおかげで半分の時間で終わるとする。それ自体は船員にとっては嬉しいだろうね」


「はい。だから何が駄目なんだろうって」


「でも、そうしたらこの船は交易品を三十分で下ろしたって実績が残るんだよ。今日の担当者は事情を知ってるけど、次の担当者は話を聞いていれば遅くなったって感じるだろうね。そうなると手を抜いてるんじゃないかとか、色々面倒になるわけだ。こういうのは仕事をする奴らに任せた方が上手くいくんだよ」


「なるほど!」


 ま、海賊騒ぎに関しちゃ対岸の火事でもないから別問題だけどねぇ。と軽口を交えながら教えてくれるジャネットさん。やっぱり、頼りになるなぁ。


「それはそうと、リュートは?」


「陸地が近づくのが待ち遠しいのか甲板へ上がっちゃいました」


「やれやれ、まだまだ修行不足だね」


 二人で会話をしていると時間はあっという間で、ベスティアさんが荷下ろしを終えたと知らせに来た。


「アスカ、忘れ物は?」


「ありません!」


「それじゃ、いっちょ新大陸に乗り込むとするか」


「はいっ!」


 ベスティアさんを先頭に私たちは部屋を後にする。甲板へ出ると既にリュートは準備万端だった。


「リュート、リックさん。お待たせしました」


「ううん、僕が出てただけだから」


「私は付き添いだからな。ジャネットどうだ? これがレザリアース大陸だぞ!」


「別に。賑わっているとはいえ、ただの港町じゃないか」


「私が生まれた大陸だぞ?」


「あんたはこの国の出身じゃないだろ」


「よし分かった。なら、下りたらすぐに俺の国に……」


「リックさんそこまでです! まずは情報収集ですよ。まずはルーシードの国内を見て回るんですから」


 私が二人の間に割り込むと、リックさんはやや苦い顔をしながら引き下がる。


「分かった。それじゃあ、船を下りたら早速、宿の手配と情報収集をしてこよう。アスカたちは商人ギルドへ行くのだろう?」


「はい、そうですけど……」


「今は九時過ぎだ。みんなで固まっていては昼に間に合わなくなるだろうからな」


 うっ、言い返したいけど、言い返す言葉が見つからない。


「悔しいですが、仕方ありません。ジャネットさんのエスコートは任せましたよ」


「アスカ⁉」


「任せてくれ。この港には何度か来たことがあるからな。宿も顔が利くところを取ってくる」


 今までも大陸を移動してきたけど、その都度商人ギルドや冒険者ギルドで聞いた店に頼ってきた身としては、現地のことを知っている人の案内は助かる。特に最初の宿はね。ご飯のこともあるし。


「宿の方は期待してますね。ただ、合流するのに待ち合わせる場所が必要ですから商人ギルドへは一緒に行きましょう」


「しょうがないな」


「キシャルちゃん、元気でね!」


 《にゃ~》


 下船後のことを話している私たちの少し横ではキシャルのお世話をしてくれていた人と、キシャルが別れの挨拶を済ませていた。この人も気難しいキシャルが懐くぐらいお世話を一生懸命してくれたんだよね。


「キシャル、ちゃんとありがとうは言えた?」


《にゃ~》


「えっ!?」


 お礼を言うのかと思いきや、キシャルの頭が輝くと、ぽとりと小さい石が落ちる。


《にゃ~!》


「ええっ!? キシャルちゃんの額から石が……」


「これを渡してって? 分かったよ。あの、これを貰って欲しいってキシャルが」


「き、貴重なものなのでは?」


「多分。でも、キシャルが良いって言っているので貰ってください」


 光っている時に魔力の流れを感じたから、何らかの効果があるのだろうその石を女性に手渡す。女性は恐縮しながらも、キシャルとの思い出が形に残ると思ったのか、逡巡した後に受け取ってくれた。


「ありがとうございます。キシャルちゃんもありがとう」


《にゃ~》


 キシャルは返事をすると女性の方へ跳び乗り、二度頬をこすり当てると私の肩へと戻った。


「よっぽどお姉さんとの生活が楽しかったみたいですね。本当にありがとうございました」


「私こそキシャルちゃんと一緒に遊べて嬉しかったです。キシャルちゃん、これ大事にするからね!」


《にゃ!》


 キシャルが力強くうなずく。船に乗る時は揺れるし、飽き性のキシャルが心配だったけど、楽しかったみたいでよかった。


「それじゃあ、失礼します」


 長々と話していては他のお客さんの下船に影響が出るので話が終わるとタラップへと向かう。


「それじゃあ、ベスティアさんお世話になりました」


「いいえ、こちらこそありがとうございました」


 みんなで改めて船員さんたちへ礼をしたらいよいよ船を下りる。船を下りたらまずは大陸を移動というか国境を跨いだので入国審査だ。


「一等船室の方ですね。身分証をお願いします」


「はい、どうぞ」


 入国担当の人へ冒険者カードを渡す。カードを受け取った男性は読み取り機に通すと、水晶を出してきた。


「申し訳ございません。規則で冒険者の方はこちらを使うこととなっておりまして……」


 私が一等船室から下りてきたからか、申し訳なさそうに話す男性。


「いいえ、こちらですね」


 犯罪歴を調べる水晶は町へ入る時にかざすタイプと同じみたいですぐに結果が出た。


「問題ありません。では、次の方」


 順番に審査を終えるといよいよ入国だ。その前に……。


「すみません。港を出たら商人ギルドへ行きたいんですけど、どこにありますか?」


「商人ギルドでしたら港を出て右に曲がって大通りを左です。商人が多い通りですからすぐに分かると思います」


「ありがとうございます」


 男性に商人ギルドへの道を教えてもらったので、まずは場所の確認にみんなで向かう。


「まだ大通りに出てないのに人通りが多いですね」


「そりゃあ、船が着いたばかりだからねぇ。荷物の受け取りもあるだろうし、出迎えに来てる人もいるだろう?」


 ジャネットさんがそう言いながら船着き場へと向かう人を指差す。確かに商人とみられる人以外にも、一般の人も向かっている。今から下りてくる人を待ちに行くんだろう。


「商人ギルドの周辺では埋もれそうだ。これは別の待ち合わせ場所を決めておかないとな」


「そうですね。あっ、あそこはどうでしょう?」


 リュートの言葉に目を向けてみると、小さいながらベンチがいくつか置いてある場所があった。公園的な場所みたいだ。


「あそこか。確かに大通りの手前だし良さそうだな。待ち合わせは二時間後でどうだ?」


「あれ? リックさんたちは商人ギルドへ行かないんですか?」


「俺たちが商人ギルドで見ると言ったら仕入れた武具ぐらいだ。それらも武器屋に行けば手に入るし、わざわざ人ごみに入って行くことはないからな」


「う~ん、そう言われれば……。それじゃあ、アルナを連れて行ってください」


《ピィ?》


 私の言葉になんでと首をかしげるアルナ。まあ、キシャルでも良いんだけど。


「アルナだったら空から私を捜せますし、私はアルナの魔力を捉えて二人を捜せますからね」


「なら、一緒に行くかアルナ」


《ピィ!》


 ジャネットさんの肩に飛び乗ると、アルナはこちらへ顔を向けてくる。


「また後でね。というわけで、キシャルは頭じゃなくて肩へ乗ってね」


《にゃ?》


 私は頭に乗っていたキシャルを両手でつかむと右肩へと置く。左肩にはティタを乗せているからこれでちょっとバランスが取れたかな?


「じゃあ、また後で会いましょう!」


「ああ、しっかりね」


「はいっ!」


 こうしてジャネットさんたちと一時的に分かれた私たちは商人ギルドを目指して歩き出した。


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― 新着の感想 ―
>光っている時に魔力の流れを感じたから、何らかの効果があるのだろうその石を女性に手渡す  さあ、その石にどんな効果が込められたんでしょうかね?   キシャルの属性的に雪かき氷でナニカする系統なのは間…
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