表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
552/572

船旅の終わり

「ジャネットさん! 陸、陸ですよ!!」


「はいはい、昨日も見ただろ。何がそんなに嬉しいんだか」


「昨日は小島じゃないですか。見つけたと思ったらすぐに通り過ぎちゃって……」


 レザリアース大陸が近づき、昨日から小さな小島が見えていたんだけど、とうとう今日は奥に大きな山が見えたのだ。


「アスカ様、あれはマーカー山というのですよ」


「へ~、何だか人みたいな名前ですね」


「ふふっ、そうですね。ですが、人名ではなくマーキングから来ているのです。人々にとってはあれがレザリアース大陸のどこに位置するかの目印なのですよ」


「なるほど。あそこを基準に目的の国や港へ行くんですね!」


「アスカ、今からそんなにはしゃいでたら港に着いてからしんどいよ」


「え~、だって新大陸だよ? 今までと違う物もいっぱいだよ」


 フェゼル王国からすぐ隣の大陸へ行くだけでも色々と違ったのに、ここまで離れた大陸なら何があるのか俄然楽しみだ。


「はぁ、全くこれじゃ先が思いやられるね」


「まあそう言うな。アスカにとっては初めての場所なのだ」


「リックさんはこの大陸の出身なんですよね。案内は任せて良いですか?」


「もちろんだ。ルーシードは齧った程度だが、ルイン帝国のことは任せてくれ!」


「出身国ってだけだろ。それにちゃんと案内できるほど国内を回ってるのかい?」


「無論だ。ルイン帝国なら隅から隅とは言わないが、一通り案内できるだろう」


 ルイン帝国や周辺諸国についてリックさんは結構知っているみたいだ。それならせっかくだし、ちょっと聞いてみようかな?


「だったら、遺跡とか知りませんか?」


「遺跡? アスカは相変わらず変わったものに興味があるんだな」


「え~、みんなは気にならないの。自分の国の歴史とか」


「まあ、俺の場合は教育として受けることはあるが、遺跡ともなると研究者の領分だな」


「ジャネットさんやリュートはどうなの?」


「あたし? う~ん、村だと言い伝えぐらいかねぇ。それもどこどこには近寄るなってことぐらいだねぇ」


「僕は小さい頃から孤児院生活だから特にないかな?」


「うっ……」


 みんなそこまで興味ないのかぁ。結構ここまでの旅は都市を回ったり、他の転生者を探したりと今に関することを捜していたから、この大陸では歴史を調べたかったんだけどな。特にこのレザリアース大陸は数百年前に現れた魔王が大暴れした土地でその時の遺構や、国が滅ぼされた関係でそれ以前の建物が放置されているところもあるらしい。


「きっとお宝とかも残ってるはずですよ!」


「お宝ねぇ。そんな物があるならもう回収されてるだろ。ねぇ、リック?」


「どうだろうな?」


「おいおい、あんたまで実は乗り気なのかい?」


「いや、そういうことではなくてな。特に死霊大戦関連の遺構はどこの国も調査に慎重でな」


「どうしてなんですか?」


 魔王の軍団と戦った跡だし、英雄譚や遺物を求めて人が集まっても良いと思うんだけど。


「フェゼル王国の方ではどうだか分からんが、レザリアース大陸では大きな被害が出ていてな。滅びた国の研究も安易には行えないのだ。それに、デンバードがあるからな」


「デンバードって荒野の国って呼ばれてるところですよね。何があるんですか?」


「あそこはかつて平野が多く、隣国にも大量に作物を輸出する農業大国だったのだ。しかし、死霊大戦の影響でその平野のほとんどが荒れ地となり、現在でも放置されている」


「それだけ肥沃な土地だったら誰かが活用しないんですか?」


 私がそう言うと一瞬リックさんは口を閉ざして話し始めた。


「……その肥沃さが仇となり、死霊大戦であそこはアンデッドの最も多い場所となった。人も魔物の死骸もその大地に暮らしていた全てが成ったと言われたほどだ。そのため、今ではほとんど植物も生えないような荒野が広がっている」


「そんな!」


「だから、あの国を訪れるものは非常に少ない。その影響もあって各国もあの当時の遺跡の調査は慎重なのだ」


「じゃあ、調査というか遺跡に行くのも許可とかいるんですか?」


 冒険者は自由業だけど、許可を取ることになったらしんどそうだなぁ。


「場所によるな。確か冒険者ギルドか主要都市で冊子が配布されていたはずだ。有料だがな」


「えっ、有料なんですか?」


 観光地のパンフレット感覚でいた私はびっくりした。


「当たり前だろう。遺跡の場所を調べるのにも金がかかっているし、何より紙に書いているからな。写しも縮尺が理解できる者が書いているからそれなりにするぞ」


 そういえば、紙は貴重なんだった。旅の最中も安宿には泊まらないからメモがあるのが当たり前になってた。本の代金も半分ぐらいは用紙代だしね。


「ま、特に目的もないんだし、気が向いたら行けばいいさ」


「ですよね。とりあえずは町に着いたらまずは情報集めです。新大陸ならではの噂とか気になりますし!」


「町に行く時は僕も呼んでよ。細工も卸しに行くんでしょ?」


「うん、その時はよろしくね!」


 船の上でもいくつか作ったし、それまでのストックを送らないとね。できたらこの大陸でも販売したいし、一番最初に行くのは商人ギルドになりそう。


《ピィ!》


「あっ、アルナも来たんだ?」


 そろそろ上陸も近いと思ったのか、アルナも大陸を見に来たみたいだ。これまでも各町や大陸で友人を作っていたし、アルナも楽しみなんだろうな。


「そういえば、キシャルはどうしてるの?」


《ピ、ピィ!》


「あ~、まだ寝てるんだ。キシャルもお友達とかいっぱい作ればいいのに」


 インドア派だからかキシャルは町でもほとんど出歩かない。新しい大陸だし、今回は勧めてみようかな?


 《ピィ》


「アルナもそう思うよね」


 こうして新大陸へ思いを馳せながら、私たちは船旅での最後の夜を迎えた。



「ベスティアさん、今までお世話になりました」


「いいえ、こちらこそ海魔の相手に始まり、お手間をかけ申し訳ありませんでした」


「困った時はお互い様ですから。特に船の上は」


「そう言っていただけると幸いです」


「うんうん、海魔を倒したのは見事だったわ。私の仲間もこれでしばらくは安心できるもの」


 フィレーナさんも海魔の件では私に感謝してくれている。海魔自体も水属性だから相手にするのも大変らしい。そういう時はたまに生まれる水以外の属性も使える子が相手をすることが多いとのことだった。


「じゃあ、明日も一緒だけどセッションはこれで最後になるからちょっとだけ気合を入れましょうか」


「そうですね」


 私は魔笛を、フィレーナさんは喉の発声を確認しながら演奏に向けて準備を整える。


「さあ、行くわよ!」


「はいっ!」


 こうして私たちのセッションが始まった。


「ああ、今日も素晴らしい声と音楽ね」


「まあね。でも、こんなに披露して噂が広まっちまわないかねぇ」


「そちらは私の方で対応致します。フィレーナさんもお仕事が見つからないうちは船の専属歌手として雇入れることも相談していますから」


「へぇ、そいつはいいね。ま、周りにいるのは荒くれものばかりだけど」


「しょうがないです。まだまだ常識が足りませんから」


「二人とも。そんな話は明日にでもできるだろう。今は曲に集中だ」


「良く言うよ。昨日まで篭ってたのに」


 私たちの演奏を見ながらジャネットさんたちが何やら話をしている。どんな会話なのか気になるけど、私は魔笛から口を離せないので旋律を奏でることに集中する。


「♪~♪♪」



 気が付けば演奏に集中していた私はジャネットさんたちの会話も気にせず、二曲の演奏を終えた。始めた時は気が付かなかったけど、船内入り口から少し離れたところにはリュートもいた。最後なのに聴いてくれないのかなと思っていたから嬉しい。やっぱり長い付き合いだし、成長を見届けてもらいたいもんね。


「ありがとうございました」


 パチパチと拍手が沸き起こり、私たちはお辞儀をしてみんなのところへ駆け寄る。


「どうでした?」


「良かったよ。最近はなかなか吹ける場所もなかったし、良かったんじゃないかい?」


「そうですね。野営もそうですけど、町でもなかなか吹けませんからね」


「これで聴けなくなるのが残念で仕方ありません」


「ベスティアさん、ありがとうございます。みんなもありがとう」


 改めて素晴らしい仲間にお礼を言って、夜の海を眺める。


「アスカどうしたの?」


「ううん。この景色もしばらく見納めだな~って」


「そうだね」


「そういえば、リュートは船酔い大丈夫だった?」


「あっ、うん」


「じゃあ、もう克服したんじゃない?」


 私が笑顔で言うとリュートの顔が曇る。あれ?


「アスカ、船旅で数日リュートを見ない日があっただろ? その時はちゃんと酔ってたよ。ご丁寧にアスカが甲板に上がらなさそうな時間を使って部屋を出たりしてね」


「そうだったんだ。大丈夫だった?」


「アスカの薬のお陰でね。ただ、やっぱり効くまでの時間とか飲み忘れるとね……」


 リュートは船酔いの時のことを思い出したのか一気に暗い顔になった。


「ご、ごめんね。変なこと思い出させちゃって」


「ううん。僕も悪かったから。アスカの薬の効きが良くてもう克服したのかなって思ったぐらいだったし」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。頑張って作った甲斐があったね」


「リュート様の船酔いがピタリと止まるぐらい効き目があるのですか?」


 私たちの会話が気になったのかベスティアさんが質問してきた。


「はい。ただ、材料費が……」


 私はこっそり懐から手帳を取り出して材料を見せる。


「これは揃えるのが難しいですね。もう少し入手性が良ければこの船でも導入しようかと思ったのですが」


「乗客用ですか?」


「いえ、船員用です。船員たちも普段は酔いませんが、新人や体調で酔う者がいますから」


 ベスティアさんの話に寄ると航海自体長いからそれなりに船酔いする船員さんはいるそうだ。効果は薄まるけど、今度また酔い止めのレシピを考えてみようかな。なんてことを思いながら私は眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「これは揃えるのが難しいですね。もう少し入手性が良ければこの船でも導入しようかと思ったのですが」  薬じゃなくても、気分がスッキリして目が覚める飲み物も有効とか聞きますね。  それ以外には梅干しの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ