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グリーンホワイト

「わくわく」


「アスカ、わざわざ心の声を口に出さなくていいよ」


「は~い」


 グリーンホワイトが楽しみでメインの食事を終えるとまだかまだかと到着を待つ。


「アスカはそんなに果物が好きなの?」


「好きっていうか前に食べた時、美味しかったんです。でも、前は急だったので焼いた料理だったんですけど、今回はちゃんとフルーツとして食べられるので、本当に楽しみだったんです!」


 追熟が必要というところも期待感を増す要素だ。積み込みから数日、ただ待つだけだったからね。


「人は複雑ね。そんなことに真剣になるのなんて」


「いや、これはアスカぐらいだよ。あたしなんて積み込んだこと忘れてたからねぇ」


「ジャネットさん、フィレーナさんに変なこと吹き込まないでくださいよ」


「変ではないと思うけどね。どの町に行っても飯に興味持ってるだろ?」


「そりゃあ、旅の醍醐味ですからね」


 旅というのは宿とご飯と相場が決まっているのだ。なおも反論しようとしたけど、ドアがノックされた。


「アスカ様、お待たせしました。お貸しいただいたコールドボックスのお陰で良く冷えております」


「ありがとうございます。わぁ~、綺麗に半分こだ!」


 用意されたグリーンホワイトは半分にカットされていて、私とジャネットさん、フィレーナさんとリュートで二玉使われているみたいだ。ちなみに食事前にベスティアさんが見せてくれたのは見本で、まだ明日以降じゃないと食べられないやつだったみたい。私がフライングして食べようとしたらそう説明された。


 《にゃ~》


「あっ、キシャル起きてきたんだ。ご飯食べる?」


 《にゃ!》


 船に乗ってからはベスティアさんにおねだりしたらご飯を貰えるからか、キシャルは適当なタイミングで食事を取っている。ティタもあまりしゃべるわけにも行かず、部屋も別なことが多いので悠々自適な生活だ。


「じゃあ、このお皿に移してあげるね」


 私がグリーンホワイトをスプーンですくって置いてあげると、間髪入れずに凍らせる。


 《にゃ!》


 凍らせたら水分があるためかシャリシャリと音を立てながら食べ始めるキシャル。


「あっ、これってひょっとしてシャーベットにもできる?」


 キシャルの行動を見て、一口だけもらう。


「わっ!? これ美味しい! ベスティアさんに言って、冷凍室にも入れておこう」


 その後、冷えたグリーンホワイトを食べてみた。


「ん~、美味しい! ジャネットさん、これ美味しいですよ」


「そうだねぇ。確かに島で食べた時よりこの方がいいね」


「あら、本当に美味しいわね。これってこの船が付いた先でも食べられるの?」


「いえ、これは栽培されている地域が少なくて……」


「じゃあ、今度育てておいて」


「は、はぁ」


 フィレーナさんもお気に入りになったみたいだ。でも、この果物ってどこでも育つのだろうか?


「まあ今はそんなことより食べないとね!」


 せっかくこの日を心待ちにしてたんだし、私はどんどん食べ進めた。



「あ~、美味しかった!」


「ありがとうございます。では、明日の分は冷凍室へ保管しておきますね」


「よろしくお願いします。リュートはどうだった?」


「美味しかったよ。ただ、ちょっと食べてる時は気まずかったかな?」


「まあ、リュートとしちゃ目移りしちゃうよねぇ」


「し、しませんよ!」


「目移り? 他の人のグリーンホワイトが気になってたの?」


「あ、いや、そういうことじゃなくて……」


 もごもごと口を濁すリュート。ほんとうにどうしちゃったんだろ?


「さあ、デザートも食べ終わったし、後は細工に打ち込むだけだね」


「今日はどこまで作るの?」


「ん~、夜の魔笛もあるから魔石を入れる枠だけかなぁ?」


 進みが遅いのにも理由がある。白銀とミスリルの合金は魔力をたっぷり吸うので、加工の量に反して消費するMPが多いのだ。かといって普通の細工道具だと硬すぎて加工が大変だし、せっかく魔力を吸って強くなる金属なのにもったいない。だから、こういう船の上とか時間がある時じゃないとね。


「それじゃあ、一時間ちょっとかな? 僕も一緒にやるよ」


「ありがとう」


 食後にちょっとだけお茶をして、細工に入って行く。まずは魔石を横に置いてはめ込む枠の作成だ。


「ここは少し出っ張ってて、こっちは普通。見える方はできるだけ平らにしたいから、こっち側が奥だね。う~ん、粘土で型取りしたやつを使おう」


 この細工は魔石を削れないので、枠の作成は慎重にしないといけない。そう思って粘土で作っておいた型を取り出す。


「これを使って実際にはめるテストをしないとね」


 普通の魔石と違ってセイレーン族の魂が込められている魔石なんだから。こうして頑張って細工を始めた私は、フィレーナさんとの約束の時間も忘れ細工に取り組んだのだった。



「先日はすみませんでしたフィレーナさん」


「良いわよ。細工に一生懸命だったんでしょ?」


「ま、まあ……」


 あれから二日経ち、もうそろそろルーシードのあるレザリアース大陸が見えてくる頃らしい。見えるといっても大陸周辺にある小島群だけどね。今はこの前の夜の約束を破ってしまった謝罪に訪れていた。


「それで、細工の方は進んだの?」


「はい。正式な謝罪は作ってしまってからかなと思って、それにしても本当にネックレスで良かったんですか? 結構重たいですよ」


「良いのよ。私はダンスじゃなくて歌で魅せるんだもの。それにあの子が歌ってる時に勇気をくれるじゃない?」


「そうですか。一応、ブローチにもできるよう簡単ですけど後ろにピンをつけられるようにしてますから」


「悪いわね、気を遣わせちゃって」


「いいんですよ。私も貴重な体験ができましたから」


 私は水色の綺麗な魔石を中央に配し、それを包み込むようにフェイデス様のお姿を作り上げた。自分では良くできたと思うけど、最後はフィレーナさんが気に入ってくれるかどうかだ。


「これがネックレスです。魔法の方はティタに頑張ってもらってアクアバリアとスプラッシュレインを込めてます」


「えっ!? スプラッシュレインまで込められるの?」


「はい。ティタは魔道具作りが得意なんです。魔法を込めるのは私以上ですよ!」


「う~ん、ありがたいけど悪いわね。もらってばっかりになっちゃったわ」


「いいえ、フィレーナさんとのセッションのお陰で私の魔笛のレベルも上がりましたし、これからも頑張れますから」


 実際、魔笛は私にとって舞を彩る感じの物だったので、曲も一部の曲に限って練習していたし、細工に集中しだすとおろそかになりがちだったけど、今回の出会いを機にもう少し頑張ってみようと思うことが出来た。


「良かったわ。ルーシードだったわよね。町に着いたらアスカたちはどうするの?」


「そうですね。ちょっと観光した後はリックさんの故郷に行くと思います」


「じゃあ、町に着いたらお別れね」


「フィレーナさんはどうするんですか?」


「ベスティアに酒場でも紹介してもらってひとまずは町でお金を稼ぐわ。それから生活が落ち着いたらどこかへ行くかもね」


「また、旅先で会えるかもしれないんですね!」


「そうね。会ったらまたセッションしましょう」


「約束ですよ」


 私はフィレーナさんと指切りをして、作ったネックレスをかける。うん、サイズ感もいいし似合っている。


「いい感じです。これならきっとすぐに人気になりますよ」


「アスカが言うなら信用するわ。何とか常識は身に付いてきたけど、人としての振る舞い方とかはまだまだ分からないもの」


「頑張ってください。私もみんなと知り合った時は知り合いもいなくて大変だったけど、何とかなりましたから。フィレーナさんならきっと大丈夫ですよ!」


「根拠がないけど信じるわ。アスカってちょっとあの子に似てるわね」


「どの辺が似てるんですか?」


「そういう変な自信があるところよ。あの子も陸に上がる時はそうだったわ」


「フィレーナさん……」


 私たちはその後、しばらく海を二人で見つめるのだった。


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