夜中の歌声
「ん~、いい朝!」
昨日はあれからみんなで少し話した後、ちょっと早めに眠った。食事が早かったということもあるけど、島民さんたちに負担をかけすぎるのも良くないと思ったし。
「でも、星空は綺麗だったよね~」
「うん。遮るものが何もなくて綺麗だったよね」
「本当だよね。また見に来られたらなぁ~」
「そんなこと言って、どうせ島に居ついたらすぐに暇だって言わないかい?」
「言いませんよ~。細工で時間も潰せますし」
「まあ、アスカは大丈夫か」
「私だけじゃなくてリュートも問題ないですよ。ねっ!」
「うっ、まぁ」
まだ細工を始めたばかりだからかちょっと返事に詰まったけど、今後も付き合ってもらおう。リュートは才能も有りそうだし。
《にゃ~》
「あっ、キシャルも起きたんだ。結局昨日はご飯にも来なかったけど大丈夫だった?」
《にゃ!》
「ああ、キシャルなら夜にちょっと起きて来てたから飯はやったよ」
「そうだったんですか。でも、ご飯あったかなぁ?」
従魔たちのご飯も小島の方で貰えるって聞いていたから、持って来てるマジックバッグには入ってなかったと思うんだけど……。
「ああ、飯なら持って来てたピアースバッファローの干し肉を出しといたよ。ほら、キシャルは肉好きだからな」
《にゃ~》
昨日の食事を思い出したのか幸せそうにするキシャル。
「だけど、その肉って補充品何じゃないですか?」
元々は私たちの物だけど今は島への補給物資なんだから手を付けたのはまずいんじゃないかと思う。
「別に構わないさ。キシャルが食べる量なんて知れてるんだしさ」
「それはそうですけど……」
一応許可も取ったみたいだから今回は良いとしよう。キシャルが満足してるみたいだし。
「キシャルのことはともかく、あたしらも朝飯を食うよ。今日はあと二時間で出航だからねぇ」
「そういえば、出航時間は早いんでしたね。行きましょうか!」
ご飯の時間だけではなく、船に戻る時間も必要なので私たちは食堂へと向かった。
「あっ、今日は魚と海魔なんですね」
「はい。アスカ様に頂いた料理を参考にしてみました」
今日の朝は大胆な切り身を使った魚の塩焼きとハンドラーの浜焼き風だ。醤油も使ってあって香からして食欲をそそる。
「いただきます」
手を合わせてまずは魚の塩焼きから口に含む。
「わっ! ふんわりとした身が美味しい!!」
「ああ、こいつならリックも食べたかっただろうねぇ」
「そういえば、リックさんって船で見張りしてたんですよね。なんだか悪いなぁ」
「気にすることはないさ。本人が勝手にやってるんだから」
ジャネットさんはそう言うけど、こんな美味しい朝食を食べられないなんてかわいそうだ。
「それよりこっちのハンドラーも食べてみなよ。美味いよ」
「あっ、はい」
勧められるまま浜焼きにも手を伸ばす。
「美味しい……醤油が染みてるのもあるけど、コリッとした食感も良いですね!」
「そう言っていただけると我々も嬉しいです」
「ま、量もあるし食いごたえはあるねぇ」
「ジャネットさんったら」
実際、海魔は大きいので遠慮なく食べられるのも良いところだ。大きいからちょっとずつなんて考えてたら腐っちゃうしね。干物も今度試してみようかな?
「ん~、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「いいえ。この後はもう船に戻られますか?」
「そうですね。船員さんたちは積み込みがあるみたいですし、邪魔になってもいけませんから」
「では、準備が出来ましたらお呼びください。荷物を積む際はお手伝いいたします」
「ありがとうございます」
部屋に戻ると早速荷物をまとめる。とはいっても荷物はマジックバッグに入るものばかりなので荷物らしい荷物はないけどね。
「あっ、そうだ!」
「アスカ、どうしたの?」
「せっかくだし、ここの食堂かどこかに置いてもらえたらなって」
私は良いことを思いついたのでマジックバッグからあるものを取り出してみる。
「さあ、みんな忘れ物はないよね。行こう!」
《ピィ》
《にゃ~》
従魔たちを引き連れて私は食堂へ戻り島民さんたちへ挨拶をする。
「それじゃあ、お世話になりました」
「いいえ。こちらこそ肉を分けて頂きありがとうございます」
「あっ、それと良かったらこれを是非!」
「これは?」
「シェルレーネ様とグリディア様とアラシェル様の神像です。アラシェル様は私が信仰している女神様なんです!」
私はさっき取り出しておいた神像を島民さんたちに見せる。あまり飾り気のない部屋だし、こういうのが一つあればちょっと違うかなと思ったのだ。
「何と見事な……」
「これは私が作った物なので気にせずどこかに飾っておいてください」
「アスカ様が!?」
「はい。普通のオーク材で作ってありますからその辺のテーブルにでも並べて下さい」
「そ、そんな。是非、専用の棚で飾らせていただきます」
「えっ、いや、そこまでしなくていいですよ」
確かに三柱だから作るのにちょっと時間はかかるけど、定期的にフェゼル王国の商会へ送ってるものだしなぁ。
「いいえ、これだけの細工物です。きっとこの島へと渡るものへ伝えていきます」
「よろしくお願いします」
あまりに真面目な顔をして言われるので、とりあえずうなずいておいた。
「さて、お土産も渡しましたし船に乗り込みましょうか」
「そうだね」
島民さんたちへお別れの挨拶を済ませ船に乗り込む。結局、荷物は手に持てるだけだったのでお見送りだけとなった。
「それじゃあ、皆さんお元気で」
「アスカ様こそ」
こうして船に戻った私たちは部屋に戻った。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「あっ、ティタ。留守番ご苦労様。変わったことはなかった?」
「はい。海岸沿いで魔物が来ることもありませんでした」
「リックは?」
「リック様でしたら甲板の方にいらっしゃいます」
「ありがとな、ティタ。あたしはリックのところへ行って見張りを代わってくるよ」
「分かりました。リュートはどうするの?」
「僕は特にやることもないし、このままゆっくりするかな」
「じゃあ、昨日の続きをしようよ。船の上だからちょっと揺れるとは思うけど、細工の練習になるよ」
「うっ、頑張るよ」
《ピィ!》
「ん? アルナはもうお休みなの。ちょっと待ってね」
昨日はしゃいだからか、どうやらアルナはもうお眠のようだ。テーブルの上にお家を出してあげる。そして私たちは再び細工をしてお昼まで時間をつぶしたのだった。
「アスカ様、そろそろお昼となります」
「あっ、ベスティアさん。ありがとうございます」
「いいえ、お邪魔ではなかったでしょうか?」
「大丈夫です。今日は力を抜いて細工してますから」
「それは良かったです。では、食事をお持ちしますね」
「あっ、ジャネットさんを見ませんでしたか? あれから帰ってきていないんですけど……」
「ジャネット様でしたら甲板の方でお過ごしですよ。お呼びいたしましょうか?」
「あっ、いえ。ちょっと気になっただけですから」
食後も再び細工に打ち込んだ私とリュート。気が付いたら夕食も終えていた。
「ん~、やっぱり細工をしてると時間が経つのって早いなぁ~」
「そうだね。やってみて僕もそう思ったよ」
「うんうん、だから私が普段食事を忘れるのもしょうがないんだよ」
「それはどうだろう?」
《にゃ~》
「あっ、キシャル起きたの?」
アルナと一緒に寝ていたキシャルだったけど、一足先に起きてきたようだ。そしてすぐにご飯が欲しいとせがんできた。
「ちょっと待ってね。昨日は肉を食べてたけど今日はどうする?」
《にゃ!》
今日も肉でいいというので、再びピアースバッファローの干し肉を出してあげる。ただ、さすがにそのままというのもかわいそうなので、甲板に向かう。
「はい。ここなら肉を焼いても大丈夫だからゆっくり食べるんだよ」
「ん、アスカ。どうしたんだい?」
「キシャルがご飯を食べたいって言って。ここで焼いてあげようと思ったんです」
「そうかい。なら、焼いた後は任せな」
「お願いします」
テーブルにお皿をセットして肉を焼くとすぐに部屋へと戻って来た。
「あれ? 早いね」
「うん、ジャネットさんに任せてきたから」
「そっか」
「それより、途中になってる細工を終わらせておこうよ」
今日も途中で細工が終わっていたので、完成までもっていくことを提案する。
「分かったよ。僕も途中だったから気になってたしね」
二人で細工をするとすぐに時間は経ち、二一時ごろになった。
「おっと、もうこんな時間。そろそろ甲板に出ようかな?」
「今日も出るんだ?」
「うん。みんなも楽しみにしてくれてるみたいだしね」
船上で魔笛の練習を始めてから早数日。夜の見張りを行っている船員さんにも好評だから辞めづらくなっているのだ。まあ、いい練習になるし、聞いてくれる人がいるのは嬉しいけど。
「じゃあ、今日も軽く練習から」
まずは音の確認だ。そしてこれが合図になって船員さんたちも聞き耳を立てる。
「おっ、アスカ。今日も練習かい。元気だねぇ」
「向こうに着いたらなかなか音が出せる環境もないですからね」
泊まった先の宿で音を消しながらしてもいいけど、それだと演奏に集中できない。う~ん、今度音を消してくれる魔道具でも作ってみようかな?
「音が漏れないような魔道具はあるけど、あっちは高価だしもう少し安い魔石で作りたいよね」
それに音漏れの効果を抑える魔道具はちょっと扱いも難しいので、もう少し気楽に使えるようなものが良い。そう思いながら音の確認を済ませるといよいよ練習開始だ。
「♪~~♪♪~」
「相変わらずいい音だねぇ」
「ああ、日々の癒しだな」
「あれ? リックさんは寝なくていいんですか?」
「昼に少し寝たのでな。アスカの演奏を聞き終わったらまた寝るさ」
「そうですか。無理は禁物ですよ」
リックさんに注意しながら私は演奏を続ける。すると変な音が聞こえてきた。
「る~、らら~」
「何だろうこの音?」
気になって辺りを見渡すと何と船員さんたちが倒れていた!
「ど、どうしたんですか皆さん!」
「ア、アスカ……」
「リックさん!? ジャネットさんは?」
私はすぐにジャネットさんの方を確認すると、ジャネットさんも椅子に座ったまま気を失っていた。
「あら、演奏は終わり?」
その時、甲板の右側から謎の声が響いたのだった……。




