食事と細工
先週はインフルエンザで全く更新できず申し訳ありません。
また連載を再開しましたのでよろしくお願いします!
「ほら、これでいいんだろ?」
「ありがとうございます、ジャネットさん」
ジャネットさんにマジックバッグを持って来てもらうと早速、細工道具を取り出す。
「後はオーク材を出してと……リュート、作りたいデザインって何かある?」
「うう~ん。特にそういうのはないかな。アスカお勧めのやつってある?」
「私のお勧めかぁ。作りやすいのはあるけど、一番は自分が気に入ったデザインが良いと思うから、ひとまずこの中から選んでみて」
私は昔使っていたスケッチブックを取り出す。今でもたまに作るけど、難易度が低いものが多いので、最近はほとんど開かなくなっていたのだ。
「あっ、懐かしいなぁ。プリファとかも久しぶりに作ってみようかな? リメイクもしたけど今ならもっと良いのができると思うし
初期に作っていたシリーズはデッサンこそいいものの、作った細工はまだまだ微妙な出来だったので、こういう機会を生かして作っていきたいところだ。
「今となっては交換してほしい位だよね~」
「何が?」
「昔作った細工。今作るのと全然出来が違うから恥ずかしくて」
「前にも言ってたよね。そんなに気になるもんなんだ?」
「リュートも作っていればそのうち分かるよ。というわけで何かいい題材は見つかった?」
「う~ん、やっぱり僕が作るならヴィルン鳥かバーナン鳥の羽根飾りかな?」
「あっ、それにするんだ。良かったね、アルナ。リュートがミネルやアルナの羽根を作ってくれるって」
《ピィ!》
私の言葉に元気よく飛び回るアルナ。
「ええっ⁉ そんなに期待されても……」
「この期待を裏切っちゃだめだよ、リュート。あっ、ちなみにこれがミネルで、こっちがレダ。アルナとエミールはこれだから」
「みんな羽根の形って違ったんだ」
「そうだよ。特徴としては似てるアルナとミネル、レダとエミールでも違うから注意してね」
私も最初に作ってた時は色々注文を受けたからね。やっぱり自分たちの羽根を模しているだけあって、こだわりも強いからね。
「が、頑張るよ」
「アスカ、やる前から脅してどうするんだい?」
「脅してなんていませんよ。心構えです」
「まあ、あたしとしてはどっちでもいいけど、話ばかりじゃなくて実践に移ったらどうだい?」
「あっ、そうですね」
滞在期間は一日だけって限られているので細工道具の扱いを手解きしたら、早速オーク材を削っていってもらう。
「うう~ん、これでいいのかな?」
「そうそう、そのまま削っていって。今回作る羽根の飾りは小さいからまずは大胆に削って行ってもいいからね」
私は自分の分をやりながらもリュートの質問がある度に手を止めて答えていく。こういうのもたまにはいいな。
「ここって一気にやってもいいのかな?」
「あっ、う~ん。ちょっと待ってね」
自分で実際に細工をする場面を思い浮かべると、ちょっと手間になりそうだったので手を止める。
「ちょっと貸してみて。ここはこうやってゆっくり線を入れるの。羽根の重なる表現だね。これを先にしておくと後で助かるよ」
自分の経験も交えながら、やりやすいと思える方法を伝えていく。そんな感じで一緒に細工をしているとドアがノックされた。
「は~い」
「お食事の時間です」
「もうそんな時間ですか?」
「ここは何もない小島ですから。みんな早めに食事を取って寝るんです。一人は三階に行き、船が到着していないか、異常がないか見張るんですよ」
「へぇ~、島での生活って夜は早いんですね。じゃあ、リュート。一度ここで手を止めて行こう」
「うん」
私たちは簡単に片づけを済ませると食事に向かった。
「お待たせしました」
「いいえ、急にお呼びだてしまってすみません」
「今日のメニューはと……」
一日だけしか滞在できないとはいえ、何か変わったものがないかと料理を眺める。どうやら私たちの方は果実など島の名産みたいだ。でも、島民さんたちの食事は肉中心みたいだ。下船前にピアースバッファローの干し肉を分けたからそれかな?
「それにしてもありがたいですなぁ。肉なんて船が来ないとなかなか食べられませんから」
「そうだよな。マジックバッグで運んでくるやつもすぐになくなるし、食べる時もちょっとずつ食べないとすぐになくなっちまう」
「へ~、苦労するんですね。こういう果実を普段は食べてるんですか?」
「ええ。島のやや北に生えていて、今の季節だとこの果実を割って焼いたものや、熟したものを食べております」
「美味しそうですけど、やっぱり飽きちゃうんですか?」
「はい。私たちも料理人と言うわけではありませんから、種類も作れませんから。確かにおいしいんですが……」
島民さんたちが私たちの前に用意された果実を見る目は微妙そうだ。最近はずっと食べていたのかもしれない。
「では、遠慮なくいただきます」
とはいえ、私たちからすると滅多に食べられない珍しい食材なので、冷めないうちにまずは焼いてある方から食べる。
「ん、ん~! 美味しい!!」
「それは良かったです。アスカ様なら島でも生活できそうですね」
「旅をしてなければもうしばらくいたいぐらい美味しいですよ!」
果実は焼いたからか外側は少し水気が抜けているものの、中身はジューシーだ。果実自体外れないように特殊な皿に乗っており、それをスプーンですくうのがまた風情があっていい。
「リュート、これ美味しいね」
「うん。焼いてあるだけだろうけど、甘みも感じるし自然の恵みだね」
「あたしは塩でもかけるとするか」
「塩ですか?」
「ああ。こういう味のもんにはちょいとかけてやると味が締まるんだよ」
そういうとパラパラと塩を振りかけるジャネットさん。そういえばスイカにも塩をかけるって聞いたことがあったし、実は合うのかもしれない。
「わ、私もちょっとだけ」
スイカに塩をかけたことはなかったけど、私もこの世界ではもう大人。今こそ挑戦する時かもしれない。恐る恐る塩を振りかけると私は果実を口に含んだ。
「ん……美味しい! 塩が良いアクセントになってる」
「本当? それじゃあ僕も」
リュートも私の言葉を聞いて真似して食べ始めた。
「ん。どうしたの、アスカ?」
「リュートって料理とか食べる時って大体、誰かを手本にしてるよね」
「そ、そうかな?」
「うん。醤油料理とかもほとんど食べないし、ジャネットさんに勧められてから照り焼きは食べるようになったでしょ?」
「確かにリュートは食事の時ってあたしら頼みだよねぇ。自分じゃ料理はするのにさ」
ジャネットさんもスプーンを回転させながら私の言葉に賛同してくれた。
「僕も色々と挑戦した方が良いのかな?」
「ま、その辺は自由でいいさ。アスカみたいに海魔だろうが何だろうが、いきなり食べ始めるのも困りもんだしねぇ」
「いきなりじゃないですよ。ちゃんと信頼と実績を持って選んでます!!」
別に海魔なら何でも食べているわけじゃない。イカやタコの形をしたものならともかく、不定形だったり、明らかに毒を持っていそうなものは避けているのだ。他にも魚類ならベニッシュも食べるけど、ちょっとだけあれは苦手だ。血合いの多い魚だからね。
「ごちそうさまでした」
デザート代わりの熟した果実も食べ終わると、再び細工をするべく部屋へと戻る。
「えっと、さっきは羽根の途中だったね」
「うん。ここからは細かくなるから注意しないと」
「頑張ってリュート!」
私は邪魔にならないように声援を送りながら作業を見守る。こうして1時間半ほど作業を行い出来た羽根飾りは……。
「ちょ、ちょっとだけ形が歪んだけどできたね」
「うん。私が最初に作ったのより断然いいよ!」
実際、リュートが作った羽根飾りは店で売れるかといえばちょっと微妙なものの、悪くはない出来だった。そう思って私も褒めたのだけど、そこで待ったがかかる。
《ピィ!》
「えっ、もうちょっと羽根のこの部分は細いって? アルナ、さすがに昨日今日で細工を始めたリュートにそれを言うのは酷だよ」
《ピィ》
しかし、アルナは私とお母さんの羽根がこんな出来なのは耐えられないと言い始めた。アルナが物心ついた時には私の細工の腕も上がってたから、こういう未熟な細工を見てこなかったせいかな?
「アルナはなんて?」
「もっと綺麗に作ってだって。これだって十分なのに……」
《ピィ》
「あっ⁉」
それならとアルナが作り終えた細工の方へと飛んで行く。一体どうするのかと思いきや、器用に滞空しながらくちばしでコココンと細工を突いている。数分後……。
「あれっ? 結構いい感じになってるね」
《ピィ!》
せめてこのぐらいやってよとアルナが形を整えた細工はなかなかの出来だ。これなら売りに出してもいいぐらいにはなっただろう。
「うっ、僕が作ったのよりいい出来になってる」
「ま、まあ、アルナは自分の羽根だし、普段から観察できるから」
だからこそ、出来に不満だったんだろうけど。
《ピィ》
「今度はなんて?」
「今後、リュートが作る時は自分が監修してあげるって。ちょっと上手くいったからってもう……」
今回みたいに小さい細工以外はどうにもできないと思うんだけどな。私はこの時、簡単に考えていた。まさかのちにあんな風になるとは思わず。




