小島とお泊り
コウモリさんたちと別れた私たちは再び島の北へと歩みを進めた。ただ、この島は小さいので他に何かあるということもなく、無事に着くことが出来た。
「アスカ、遅かったじゃないか!」
「すみません、ジャネットさん。ちょっと寄り道してまして」
「寄り道? あたしらは特にみるものがなかったけどねぇ」
「そうだな。浜を歩くジャネットぐらいだ」
「いらないことは言うんじゃないよ」
リックさんの言葉にわき腹を突くジャネットさん。心なしか頬が赤い気がする。
「んで、結局何があったんだい?」
「洞窟があってですね。規模は大きくなかったんですが、中にはコウモリさんがいました」
「コウモリ? 襲われなかったかい?」
ジャネットさんの目つきがキリッとする。魔物ということで心配してくれているのだろう。
「大丈夫です。危険な子たちじゃなかったですよ。昔からそこに住んでいたみたいで、普段は下に落ちた果物とかを食べてるみたいですね」
「ふ~ん、害がないならよかったよ。あたしはてっきり……」
「なんですか?」
私が不思議そうに聞き返すもジャネットさんはそれ以上何も言ってこなかった。
「いいや。それじゃあ、こっちにはめぼしいものもなかったし帰るか」
「じゃあ、帰りは西側から帰ってもいいですか?」
「別に何もないけど見たいならいいよ」
「それより、中央から帰るのはどうだ? それなら誰も通ってないだろう」
「あっ、それ良いですね。リックさんもいいこと言うんですね!」
「アスカ……」
ん、リュートがこっちを見てるけど何だろう?
「いいじゃないか。ほら行くよ」
「はいっ!」
こうして私たちは北から一直線に港を目指した。
「あっ、こっちにムールマイマイがいますよ。あっちにも!」
「ふぅ~ん。結構いるもんだね」
「この辺りに残飯などを捨てているのかもな。人と違ってこいつらは食べられるだろうからな」
「じゃあ、人がいる人数に合わせて増えるんですかね?」
人の食料に影響されるなら今は4人しか滞在していない島民が増えると生息数にも影響しそうだ。
「それはあり得るだろうけど、ムールマイマイは強くないから減らされちゃうんじゃないかな?」
そういえばベスティアさんも魔物としては強くないって言ってたっけ?
「まあ、こいつらのことは置いといて、そろそろ見えてきたよ」
「本当ですね。もうここまで来たんだ」
「どうやら島は左右に少し伸びた形のようだな。そのせいで早く戻ってきたのだろう」
「じゃあ、もうこの島には何もないんですね。残念」
この島にもロマンはなかったか。いや、伝説の逸話があるからそれはロマンだけどね。
「アスカ戻りました」
「おや、戻られたのですね。こちらの方も話は終わりました。これからどうされますか? 船に戻ることもできますし、ここで泊まることもできますよ」
「う~ん。それじゃあ、泊まらせてもらってもいいですか?」
「かしこまりました。それでは手配を致します。我々はこれから荷物の積み込みに入りますので、あちらでお休みくださいませ」
家の奥の部屋へと通された。ここは補充を行う際に船員が泊まるための部屋だそうだ。やっぱり船員の中にも陸が恋しい人が出るので、その時のために用意されているとのこと。普段は使用しないので、他の部屋と違って部屋も綺麗だ。
「荷物とかほとんど船の中だけど、どうしよう?」
「何か必要な物がある?」
「う~ん、久し振りの陸だし細工道具かな?」
「こんな時までアスカは……たまには休んだらどうだい?」
「でも、リュートと細工をする約束をしてるんです」
「えっ⁉ ああ、確かにそんなことを約束してたような……」
「でしょ? だから、必要なんです。先に陸で作ってた方が海の上でもやりやすいと思いますし」
「しょうがないか。どのマジックバッグだい。あたしも取りに帰るものがあるから取ってきてやるよ」
「えっと、一番小さいやつです。あれに細工関係をまとめてるんです」
「あいよ」
私はジャネットさんに必要なマジックバッグを教える。
「それじゃあ、俺も戻るとするか」
「ん? リックも忘れものかい?」
「いや、海上の警備をしようと思ってな。この島は安全だろう?」
「乗客の癖してやる気だねぇ」
「船が沈んでこの島に取り残されるのは御免なんでな」
「リックさんはこの島が嫌なんですか?」
自然もいっぱいだし、島固有っぽい生き物もいて楽しいのに。
「数日ならいいがな。一か月以上は流石に御免だ。アスカだってルーシードの港を見てみたいだろう?」
「それはそうですね。一度は行ってみたいです!」
まだ見ぬ景色にまだ見ぬ料理たち、世界が私を待っているのだ。それに、これまでの海岸はほとんどが護岸だったけど、今度こそ砂浜も見える港かもしれないし。
「ま、一度戻ることは決定してるみたいだし、行ってくるよ」
「は~い」
私たちは二人を見送るとそのまま部屋の中でくつろぐ。部屋は椅子が四つとベッドが四つだ。私たちの人数に合わせてくれたというより、これが元々の設備みたい。ただ、ベッドはこれまであまり経験のない二段ベッドだ。
「これはこれで楽しみだね~」
《ピィ?》
一緒に来たアルナもキシャルも不思議そうな顔でこっちを見る。
「ほら、みんなで一緒の設備に泊まるってワクワクしない?」
《ピィ》
《にゃ》
「う~ん、まだ二人には分からないかぁ」
「アスカが言ってるのって、前に孤児院に泊まった時のこと?」
「うん。アルバで私がお邪魔した時の感じかな? 夜まで話をして楽しかったよね」
「まあ、僕らはずっとあんな感じだったから懐かしいって感じかな?」
「そっか~、いいなぁ~。私も同級生と一緒に泊まりたかったけど、なかなか行けなかったんだ~」
「同級生?」
「えっと、学校に行ってた時の短い期間だけね」
「ふ~ん」
あっ、何かリュートが疑ってる目をしてる。でも、全部は言えないし、しょうがないよね。
「陸とはいえ僕に細工かぁ~。できるかな?」
「大丈夫だって。私にもできたんだから」
「アスカに言われても……」
「むっ。私が細工を始めたのってリュートたちと会ったころだよ? 大丈夫だって!」
みんなは私の細工を褒めてくれるけど、最初の方はできも悪かったし、綺麗にできたのも魔道具のお陰だ。手作業の細工が上手くいくようになったのはそれから時間がったころなので、器用なリュートにはぜひ頑張ってもらいたい。
「やっぱり仲間がいると違うもんね!」
パーティーで冒険するのも仲間がいるから楽しいんだし、細工だって一緒にできる人がいれば楽しいと思うのだ。
「それに新しい発想も欲しいしね」
「新しい発想?」
「うん。私だけじゃ気づけないこととか題材とかね。男女の違いもあるし、今だと視点も違うでしょ? そういうのを生かしていけたらなぁって」
「そう言われると僕も断りづらいな……」
おっ、リュートも少しやる気を出してくれたみたいだ。これは将来、いい細工師になるかも。
《にゃ~》
「ん~、キシャルは遊んでほしいの?」
最近はずっと船上で暇をしていたからか、久し振りの陸だからかキシャルが遊んでほしいみたいだ。
「よ~し、それならこれを使おう!」
私はマクロバッグから猫じゃらしを取り出すと、キシャルの目の前で振ってみる。最初こそ「こんなものに釣られるか」と我慢していたキシャルだったけど、とうとう我慢できずに跳び付いて来た。
「えいっ!」
しかし、私はこれでもCランクの冒険者。簡単に取らせはしないのだ。
「あれっ?」
と思っていたのもつかの間、気づけば簡単に取られてしまっていた。
「うう~ん、いつの間に取られちゃったんだろ?」
「アスカ、いくら小さいって言ってもキシャルもキャット種なんだから、人間じゃ勝てないよ。僕も触らせてもらえない時の方が多いし」
「えっ、リュートってキャット種が苦手じゃなかったんだ」
「苦手という前に中々触る機会がね」
「そっか。キシャル、リュートは触っちゃダメなの?」
意外や意外。これまでそんなことは考えたこともなかったので、キシャルに尋ねてみた。
《にゃ~》
「気が向いた時はいいんだって。でも、それっていつだろう?」
キシャルは結構気分屋だからなぁ。
「まあ、これからゆっくり頑張るよ」
「応援してるね!」
判断するのはキシャルだから私には応援しかできないけど。リュートと話をしているとドアがノックされた。
「あたしだよ」
「は~い」
よしよし、これで二人で細工ができるなぁ。




