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こぼれ話 海上のティタ

 これは伝説の小島へ上陸する前、私たち〝フロート〟が全員寝ている時のお話です。


「ふぅ、ご主人様たちもみんな寝ているし暇ね」


「ティタは暇なの?」


「アルナ、前も言ったけれどきちんと〝さん〟をつけなさい」


「は~い」


 やれやれと手を振り呆れる。彼女の母親であるミネルはきちんとしていたのにどうしてこんなお転婆になったのだろうか?


「まあ、エミールが大人しかったし、しょうがないのかもね」


 かつて生活の中心だった都市を思いながら呟く。私は甲板のテーブルで波に揺られながら優雅に過去の思い出へと触れていた。


「ふふっ、こういうのも悪くないわね」


 その時、頭に何かが落ちてきた。


「何かしら……!!」


「あっ、ティタさん。海鳥から贈り物だよ」


「ななな、なにするのよ~~~~!!」


(ガァァァァァァッ)



「なっ、なにっ⁉」


 私は大きい声が聞こえたのでガバッと飛び起きた。


「アスカ、急にどうしたんだい?」


「ジャ、ジャネットさん、何か大きい声がしませんでしたか?」


「いや、あたしには何にも聞こえなかったよ。アスカは寝てたのに聞こえたのかい?」


「はい。ひょっとしたらティタかも!」


 ジャネットさんには聞こえていないのに、私にははっきり聞こえたので、念話かもしれないと思い当たった。


「そうと分かれば……」


「アスカ、一体どこに⁉」


「ティタに何かあったのかもしれません。行ってきます!」


「待ちな。そんな服装で外に行く気かい?」


「あっ!」


 しまった。着替えだけは寝る前にしてたんだった。私は急いで服を替えると甲板に向かった。


「ティタ!」


「あっ、アスカ様、ティタ様が!」


 やっぱりティタに何かあったんだ。船員さんの声を聞いて、私はすぐにテーブルにいるはずのティタへと目をやる。


「こら! 降りてきて攻撃に当たりなさい!!」


 そこには声を張り上げ、無茶なことを言うティタがいた。視線の先を追ってみると海鳥がいて、そこへ向かって器用に水鉄砲を撃っている。


「あの、ティタ……さん?」


 その迫力と発言に押されながら恐る恐る声をかけてみる。


「何よっ! 私は今忙し……ご、ご主人様⁉ 寝ておられたはずでは?」


「あ~、うん。そうだったんだけど、急に頭の中に大きい声が響いてきてね」


 今のティタさんにあまり言いたくはなかったけど、聞かれた以上はしょうがないので答える。


「すみません! 気づかないうちに念話を使っていたみたいです」


「ううん。それはいいんだけど、何があったの?」


 甲板にはティタが放った水鉄砲の名残がいっぱいあるし、さすがに聞いておかないと不味いよね。


「あ、えっと、あそこを飛んでいる鳥の奴がですね……」


 私が来たことにより冷静さを取り戻したのか、ティタがぽつりぽつりと話してくれた。なんでも、テーブルに座ってのんびりしているところへ海鳥が贈り物をしてくれたらしい。それ自体は水魔法で綺麗にしたんだけど、謝らない海鳥に苛ついて、つい攻撃に及んだとのことだ。


「う~ん、ティタって怒りっぽいからね~」


「えっ⁉ そんなことありませんよ」


「そう? 結構アルナとかにも怒ってるイメージなんだけど……」


 まあ、教育的指導がほとんどだろうけど。でも、たま~に怒ってる時もあるんだよね。こだわりが強いところもあるから、『今さっき何て言いました?』みたいな雰囲気を出す時があるんだよね。


「誤解です。ねぇ、アルナ?」


 そういう圧をかけるところなんだけどな。まあ、別に今回も事情は分かったから後始末をしないとね。私は近くの船員さんへ事情を説明して後始末を始める。


「ヒートブレス!」


 力を調整した風と火の混合魔法を放って濡れた甲板を乾かしていく。


「ふぅ、これで良しと。とりあえず、あっちの子にも事情を聴いてみようかな?」


 私は空へと向かって風魔法を放つ。ティタの水鉄砲と同じように避ける海鳥。しかし、私の狙いはここからだ。風の玉を避けた先で爆発させると一気に気流が乱れて、海鳥の飛行がおぼつかなくなる。後は追加の風魔法で覆って終了だ。


 《クアッ》


「はいはい、ちょっと待ってね。今はティタさんが荒れてるから」


 風魔法で捕まえた海鳥さんを手元に引き寄せる。こうすれば危ないお姉さんも手を出してこない。


「それで君はわざとやったの?」


 言葉が分かると信じて魔力を乗せながら私は海鳥さんに語り掛ける。すると、首を左右に振った。どうやらたまたまだったらしい。


「ティタさんが下にいるのは知らなかったんだね。でも、船があるのは見えたでしょ?」


 私がそう言うとこくりとうなずいた。


「こういう人もいるから今度からしないようにね。とりあえず、疲れただろうからこれでもお食べ」


 まだ陸地は見えないし、海の上で無駄に力を使ってしまっただろうからマジックバッグからソードハンドラーを取り出す。


 《クアッ!》


「ちょっと待ってね。解凍するから」


 魔法でサッと解凍を済ませると、今度はティタに水を出してもらう。やっぱり最後は流水でやらないとね。熱が入り過ぎちゃうし。


「なんで私がこんな奴のために……」


「まあまあ、たまにはいいでしょ」


 ティタさんをなだめながら私は海鳥さんを撫でる。


「お~、よしよし。怖かったねぇ」


 《ピィ!》


「あっ、アルナも来たんだ。一緒に撫でてって? ちょっと待ってね」


 私は海鳥さんとアルナを交互に撫でる。私が撫でている間も二羽は仲良く話をしていた。残念ながらアルナの言葉は分かるのだけど、海鳥さんの言葉はあまり分からなかった。同じ鳥というよりも言葉に魔力を乗せず、わざと周囲に聞こえにくくしているようだ。ひょっとして人が小声で喋るのと同じ感じなのかも。


「は~い、順番ですよ~」


 海鳥さんは落ち着けるため、アルナは久しぶりに二人で。


「こうしてるとミネルと一緒に木の上にいたころを思い出すなぁ」


 《ピィ?》


 お母さんと? と反応を見せるアルナ。


「うん、最初は二人だったから木の上に座って二人でのんびりしてたんだ。あのころはここまで来るとは思ってなかったし」


 世界を巡るっていうのは目的としてあったけど、実際に遠くに来ちゃうと余計に思うよね。


 《ピィ!》


「あっ、ごめんね。手が止まってた」


 こうしてしばらくの間、二羽を撫でると眠くなってきたのでまたベッドへ戻った。



「それじゃあ、私は帰るわね」


「うん、さよなら海鳥さん」


 アスカもいなくなったので代わりに海鳥さんをお見送りする。もう少し遊びたかったけど、私もちょっと眠たいからお家に戻って寝たいし。


「あっ、そうだわ。あのおかしなやつから守ってくれたお礼に、これを渡しておいて。お気に入りの石なの」


 去り際に海鳥さんは口から石をこちらに渡してきた。


「うわっ、あなた汚いわよ!」


「ティタさん、もういないよ。とりあえず、これはアスカに渡そう」


「そ、そうね。浄化っと」


「じゃあ、見張りお疲れ様。私は寝てきます」


「はいはい。キシャルが起きてたら連れてきて。さっきのことを話すわ」


「分かった~」


 私はパタパタと飛びながらアスカの部屋へと戻った。もちろん、キシャルに伝言などせず。どうせ愚痴に付き合わされるだけだしね!


 《にゃ~?》



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