小島の大冒険
ちなみに取り出したピアースバッファローの干し肉はやや厚めに切ってある。肉の量自体が多かったこともあるけど、食べ応えのある干し肉が欲しいという私たちの要望にリュートが応えてくれた形だ。
「ほう、分厚めの干し肉だな。歯応えもあって旨そうだ」
そう言っておじさんは一枚、干し肉を掴むと口に含む。
「うん? うん!!」
何度か噛んだ後、一気に残りの干し肉を食べ始めるおじさん。良かった、口に合ったみたいで。
「おい、補充品をすぐに食べてどうする。大体、他のやつにも食べさせないといけないだろう」
「はっ⁉ 思わず……」
「デスカ、俺にも寄こせ!」
「もうないぞ」
「あっ、出しますね」
用意していた分がすぐになくなってしまったので、もう一枚干し肉を出す。これもリュートのおかげだ。小島へ行くことが決まった時にこういうこともあろうかと、干し肉を渡してもいいように手配してくれたのだ。本当に頼りになるなぁ。
「出会った時は背も同じぐらいで頼りなかったのに」
「ん、何が?」
「ううん、何でもない。追加のお肉はと……」
他の人にも味見をしてもらうため、追加で二枚の干し肉を出す。これで一人につき一枚出せた。やっぱり、ちゃんとした量食べてもらって判断してほしいしね。
「おおっ!」
「こいつはうめぇ。デスカが一気に食うわけだ」
どうやらピアースバッファローの干し肉はみなさんにも好評のようだ。前日、ベスティアさんにも味見をしてもらったから自信はあったけど良かった。
「それでは私たちは打ち合わせをしますので。アスカ様たちは自由に島を探検いただいて構いません。ただ、お伝えした通りムールマイマイにはご注意を」
「分かりました。それじゃあ、行ってきます!」
私はベスティアさんに返事をしてみんなで外に出る。
「外に出てきたけどどうしましょう? みんなで小島を巡りますか?」
「ふむ。従魔たちの興味が違うかもしれんし、二手に分かれるか?」
「分かれるとしたらどう動きましょう?」
「こっちはキシャルが寝てるからねぇ」
《ピィ!》
アルナの方は久しぶりの陸地アンド私と遊んでもらえると確信しているみたいだ。これは不本意だけどしょうがないな。
「じゃあ、私たちは島の東側を見て回りますね。ジャネットさんたちは西側からで、北で合流しましょう!」
「そうだねぇ。リュート、アスカを頼んだよ」
「はいっ!」
「じゃあ、行こうかジャネット」
「いちいち手を掴むな。キシャルが起きるだろ」
バシッとリックさんの手をはたくとジャネットさんたちは西側へと向かって行った。
「……私たちも行こっか」
「そうだね」
《ピィ!》
アルナも肩から飛び立つと私たちの歩く速度に合わせて進んでいく。島の南側は砂浜だけど、東側に進んでいくと少しずつ岩が見えてきた。さらにそこへ登って海岸を進んでいく。
「リュート、どんどん岩が大きくなっていくね」
「そうだね。最初は靴より小さいものばっかりだったけど、今は足場になるような物も多くなってきたね。滑らないよう注意してよ」
「大丈夫だって。わっ⁉」
「アスカ!」
リュートを安心させるようにぴょんぴょんと岩場を飛び移っていると、運悪く潮に濡れた岩に着地したみたいで足を滑らせた。慌てたリュートが飛び込んできて抱き止めてくれる。
「あ、ありがとう」
「もう、心配させないでよ」
「大丈夫だって、いざという時は風の魔法で浮くからさ。さっきもちょっとだけ踏ん張ったし」
「ダメだよ。怪我したら大変でしょ? ほら立ってみて、怪我してないか見るから」
リュートに降ろされると、くるっと周りを回って怪我がないか確認される。ちょっと恥ずかしいけど、心配されてるんだからと思い我慢する。
《ピィ》
「アルナも心配だって? ありがとう。それじゃあ、今度は注意しながら探検を続けようね!」
まだ探検は始まったばかりだし、ロマンを求めての旅は続くのだ。
「あっ、このサンゴ綺麗だね」
「うん。持ち帰る?」
「ダメダメ! こういうのが砂になるんだよ。だから、持ち帰っちゃダメなの」
「へ~、そうなんだ。アスカって物知りだよね」
「そう? まあ、知識だけなら任せてよ!」
前世じゃ遠出が出来ない分、旅行ガイドも見ていたのだ。海関係は情報も充実してたからね。その後もリュートとアルナを連れて島の東側を歩いて行った。
「うう~ん、めぼしいものはないね」
「ちょっと、綺麗な貝殻とかはあったけどね」
《ピィ》
アルナもそこまで変わったものはないと空から教えてくれた。くぅ~、やっぱりロマンは難しいのかな。結局、五分ほど進むと小島の東端へと辿り着いてしまった。
「うう~ん、もう東の端かぁ。しょうがない、北側へ進もう」
「そうだね」
《ピィ》
そこからは割と岩も小さくなったんだけど、しばらく歩くとまた岩が増えてきた。
「岩というかもう山? ずいぶん大きくなってきたね」
「確かに。これまでは僕でも押せるような物ばっかりだったけど、今見えるのは無理そうだ」
リュートが地形の変化について感想を述べると、アルナが私の目の前にやって来た。
《ピィ》
「「代わりに自分が動かしてあげようか?」大丈夫だよ。それより、魔物がいるから気を付けてね」
《ピィ》
こうしてまた道を行くと、ちょっと小さいけど横穴のようなものが見えた。
「あっ、ここって洞窟なのかな?」
「アスカ、どうしたの?」
「見てリュート、洞窟みたい。奥まで続いていそうではないけど」
入り口も狭くてリュートの身長ぐらいだとつっかえそうだ。でも、見つけてしまったものはしょうがない。慎重に中へと進んでいく。
「う~ん、特に何もなさそうだけど……」
しかし、少し奥に進むと探知に反応があった。
《チチィ》
「わっ⁉」
「アスカ、どうしたの?」
「奥に魔物がいるみたい。でも、この声ってどこかで聞いた気がする」
私は頭をひねって記憶を引っ張り出してくる。確か……。
「あっ、キノコウモリに似てるんだ!」
「キノコウモリって魔力を食べて生きてるコウモリだよね?」
「うん。懐かしいなぁ。白い子、まだ元気かな?」
ワインツ村の北東に住んでいたキノコウモリたちに思いを馳せる。おっと、今はこの子たちだ。
「この子たちも魔力が良いのかな?」
果物とかを食べるなら今は手元にないからどうしようもないけど、物は試しということで魔力を流してみる。
《チチィ?》
私が魔力を流した意図をくみ取れないのか、コウモリたちはその場から動かない。しかし、一分ほど待つと一羽がこちらに向かってきた。
「魔力食べる?」
もう一度魔力を流してみると難なく魔力を吸収して見せた。良かった、食べ物でなくても大丈夫みたいだ。
《チチィ!》
食べ物をムシャムシャ食べるみたいに魔力を食べるコウモリ。あっ、大きくなってきた。
「だ、大丈夫なの? 何か大きくなってるけど」
「大丈夫だよ。こういうものみたいだから」
本来の生態は知らないけど、とりあえず魔力を食べられる種類なら大丈夫なはずだ。私はそのまま加減をしつつ魔力をあげると、その体は縮んでいき、最後にはポンッというエフェクト共に姿が変質した。
「あれ? 君は白くなるんじゃなくてちょっと緑っぽくなったね。元の属性のせいかな?」
まだ二例目だから詳しいことも分からないけど、動き回れているところを見る限り、害はないようだけどちょっと気になる。
「私の属性が関係するのか別に魔物側の属性だけなのか分かったらいいのにな~」
通訳のティタも今日はお留守番だし、アルナだと分かんないよね。私はそう思いながら、ちらりとアルナを見る。
《ピィ?》
「まあ、無理だよね」
私がそう言うと何かを察したのかアルナがコウモリの方へと向かって行く。
「あっ、ちょっと」
《ピィ》
アルナはコウモリたちの輪に入って行くと会話し始めた。う~ん、ここでも話ができるあたり、魔物言語ってやっぱり魔力を媒介して話しているのかな? 日本語みたいな人の言語とは一線を画すようだ。そうして十分ぐらい遊んだ後はお話ししてきた内容を教えてくれた。
「えっ、この子たちはずっとこの洞窟に住んでて、人とも出会うことは滅多にないって?」
《ピィ》
普段の食事は魔力ではなく、島に植えられている植物を食べているみたいで、大好物は果実。ただ、鋭い牙でもないのでもっぱら地面に落ちたものを食しているとのこと。
「アスカ、そろそろ行こう。ジャネットさんたちが心配するといけないし」
「おっと、そうだった。この場所のことを話すにしても一度合流しないとね。それじゃあ、またね。コウモリさん」
《チチィ》
また会えるかは分からないけど、私はそう告げて洞窟を出ていった。




