出発、ラスツィア
「アスカ、忘れ物ないかい?」
「大丈夫です」
「僕の方も大丈夫です」
あれから細工をして過ごし、とうとうラスツィア滞在最終日となった。元々予定していた依頼についてもキシャルの加入により、あまり同族を倒すのも。という訳で受けなかったのだ。
「それじゃ、出発するけどアスカは店に用事があるんだろ?」
「はい。納品だけ終わらせてきます」
この町ではあまり目立ちたくないので、ある程度の数は直接取引だ。残りは次の目的地である神殿に行って、そこの商人ギルドを通じて売る予定だ。
「こんにちわ~」
「あらアスカ様。ようこそいらっしゃいました」
「今日は町を離れるのでと思って。一応細工師には会えたのでこれだけ渡しますね」
「まあ!ありがとうございます。ではこちらお代ですわ」
「こんなに!良いんですか?」
「ええ。仲介料も含めてです。それに、この細工を見れば地元の細工師も黙ってはいないでしょうから」
「でも、貰いすぎなような…そうだ!これ合間に作った指輪なんですけど良かったらどうぞ。ペアリングなんですよ」
たまには指輪もと思って作ったものだ。ペアリングといってもギミックはないが、それぞれ青と赤の石がきれいに映えるように作ったものだ。
「きれいな指輪ですね。それに珍しいカットです」
「そうなんですか?見よう見まねで作ったんですけど…」
「はい。もし、気が向いたら商人ギルドで登録していただければと思います。この町でぜひ広めたいですわ」
「分かりました。機会があったら登録しておきます」
こうしてラスツィアでの日々を終え、私たちは町を出た。
「それで、中継都市はどこにするんですか?」
「ここからだとゴッツォかね。そこから東に行くとアサルセナって街があってその真南が中央神殿だよ」
「なら、どうせですし、北の山に行ってみませんか?」
「ああ、あそこね。いいよ。リュートも構わないよね?」
「もちろんです。特に僕はお金が厳しいですから。少しでも収入につながるなら」
「なら、決まりだね。みんなも行くよ!」
ピィ
にゃ
「わかった」
従魔たちも門を抜けそれぞれの位置に着く。といっても歩いているのはキシャルだけでアルナもティタも相変わらずの肩だ。キシャルも肩に乗ろうとしたんだけど、やっぱりちょっと重いのだ。や、ティタも重いんだけどティタは移動が遅いからね。
てくてく
てくてく
「ん~、やっぱりこれぞ従魔!って感じだね」
んにゃ~
私がずっと見つめながら移動するので、たまにキシャルが振り返ってくる。
「アスカ、それは良いけどペース上げるよ」
「は~い」
僅かに南下するとそこから東に進んでいく。数時間で山肌に近づく。
「ここにも固有の魔物がいるんでしたよね?」
「ああ、アルプスリザードだ。低温の山間部にしか住まないやつだね。まあ、出会わなくてもあたし的には問題ないけどね。獲れる皮もバッグとかそっち系だし」
割と滑らかな皮と、染めなくてもやや青みがかった色味が人気を呼ぶ魔物だ。ただ、生息地も限られあまり遭遇率も高くないことから買取価格はそこそこ高い。一応今回の寄り道もこの魔物狙いだ。
「どうしたの?」
んにゃ~
まあ見ていろと言わんばかりにキシャルが先頭を行く。その内にどんどん山に進んでいく。
「ティタ、キシャルはどうしたの?」
「じぶんがアルプスリザードを、つれてくるって」
「えっ!?囮になるってこと」
確かにアルプスリザードの皮は珍しいけど、キシャルに危ないことはして欲しくないな。しばらくしてキシャルが戻ってくると確かに2匹のアルプスリザードを連れて来ていた。
「みんな、構えて!」
「はいよ」
「僕は上から行くよ」
リュートは風の魔法を駆使して山肌の上から狙う。
「はっ!」
「よっと」
リュートは空から脳天を一気に。ジャネットさんは素材を傷めないようにもう1体を牽制して、私が弓で脳天を射抜いて戦闘を終えた。
「キシャル。頑張ってくれたのはうれしいけど、無茶しないでよね」
んにゃ~
分かったけど、ほめて~ということで私にすり寄ってくるキシャル。
「もう~、しょうがないんだから~」
キシャルをぎゅっと抱きしめる。
「でも、ほんとに無茶はダメだからね」
とりあえず、素材は取ってその後は山肌に沿って移動したけど、結局それ以降は魔物が現れなかったのでそこから南下した。
「キシャルが言うにはアルプスリザードは寒いほど活動的になるから、この季節は難しいんだって」
「なるほどねぇ。せめて狩るなら冬か春かってところか。今は寝てたのがようやく起き出したってところかね」
キシャルの情報といってもティタに通訳してもらったんだけどね。でも、おかげでまた魔物辞典に書くことが増えた。こうやってこの旅の間にこの図鑑を埋めて行かないとね。今日の夜はスケッチも書かないと。
「おっ、草原が見えてきたね。ここからはまた山を目印に進むよ」
実はこの山脈から南に行くと結構広い草原がある。草原ということはまた、夜襲がたくさんの環境な訳で今日の野営はもちろんそこを避ける形だ。再び進んで山脈に当たりそうになったところで今日の野営地に着いた。
「ここから南に行けばゴッツォだ。多分、午前中に着けると思うよ」
「分かりました。それじゃあ、準備ですね」
「僕は食材を切っているから、アスカは薪をお願い」
「なら、あたしがテントを張っとくよ」
「その前にテーブルとまな板だけ作っておくね」
薪を拾ったり作ったりするのは私の仕事だ。それについてくるのはアルナとキシャル。ティタは調理補助としてリュートに付いている。水魔法が使えるからだけど、つまみ食いもしないし、いい相棒なんだって。味見もしてくれないけどね。
「ふぅ~、食べた~」
「今回は町での補充も決まっているし、食材も普通だからね」
「それじゃあ、お風呂入ってくるね~」
「う、うん」
「というか、最近気づいたんだけどお風呂入るのを考えたらまだ野営の方がいいんだよね。目立たないし」
「聞いたかいリュート。常識ってのは大切だねぇ」
「あっ、ジャネットさんひどい」
「ほら、つべこべ言わずに入る。後がつかえてるんだよ」
「は~い」
ジャネットさんに促されてお風呂に入る。
「キシャルも入ってみる?」
んにゃ
足を湯に近づけたけど、お湯ということが分かってすぐに引っ込めてしまった。そういえば、熱気が苦手だったっけ?
「ならこれで~」
近くにあった切株を利用して簡単な桶のような物を作る。そこに湯をちょっとだけ入れて風魔法で冷ます。
「これぐらいならどう?」
恐る恐るキシャルは湯につかる。うん、結構冷ましたからか嫌がってはいないみたいだ。
「わっ、虫がいた。そっか、野生だもんね。注射とかできないし、簡単なスプレーでも作るかなぁ。しまったな、ラスツィアでそういう本も買っておけばよかったよ」
せめて、次の町であることを祈ろう。お風呂から上がるとジャネットさんとリュートが次にどっちが入るかで争っていた。というよりはジャネットさんが楽しそうにしているだけみたいだけど。こだわりでもあるのかな?
「さあ、出発だよ」
無事に野営も終わったので、ゴッツォに向けて出発だ。出発から一時間ほどで面倒な相手に出くわした。
「そっかぁ、横は草原だもんね。そりゃあいるよね」
出てきたのはローグウルフ。ほんとにいっぱいいるんだね。キシャルに風魔法をアルナがかけて私の頭に乗せ、左肩にはティタ、右肩にはアルナが乗っている。
「行くよ2人とも!トライブレイズ!」
私がファイアブレイズ、ティタがアクアブレイズ、アルナがウィンドブレイズを放つ連携攻撃だ。まあ、別に魔導書に載っている訳でもないし、ビジュアル重視なんだけどね。7頭ほどの群れに放った魔法はそこそこの命中率を見せた。
「こらアスカ!もうちょっと的を絞りな!」
「は、はい」
そう言えば素材のこと考えてなかったな。もうちょっと改良が必要な魔法みたいだ。戦闘はジャネットさんが確実にローグウルフにとどめを刺し、リュートは牽制とバリア魔道具を使った防御で安定した戦いで幕を閉じた。もちろん、私もすぐに切り替えて弓で援護したよ。
「あ~あ。誰かさんのお陰で先頭の3匹の毛皮が痛んでるよ」
「すみません」
「まあ、まとまって来られなくなったし、別にいいけどね。ラスツィアで買った魔導書かい?」
「いえ、かっこよさそうだったのでみんなで話し合ってたんです」
そう言いながらアルナとティタを見るが、どっちも首を振っている。ええ…2人とも別に文句言わなかったじゃない。
「それよりアスカ。この小手使い易いよ。ありがとう」
「ほんとに!?でも、それは職人さんの腕がいいんだよ」
「でも、あのままの小手じゃダメだったし、アスカがいたから作れたのだし」
「そう言ってもらえると私もうれしいよ」
戦闘も終わり、解体も済ませて再び街を目指す。今回は一番後ろを歩いているので不意に考えてみる。
「RPGとかじゃどんなパーティーだろ?」
もう前世のことは滅多に思い出さないし、知識も微々たるものだけど、本やゲームのことぐらいはたまに気になったりする。
「速さと力の剣士に、風魔法を使う槍使い。そこに火と風の魔法使い+仲魔か…」
定番ならもう一人は僧侶ってところなんだけど、魔法の中に回復魔法もあるし私も使えるからなぁ。となると騎兵?うう~ん、維持費高そう。ただでさえ従魔がいるのに。斧使い?それだったらフィアルさんみたいな人の方が違和感ないな。でも、そうなると軽装ばかりになっちゃうし…。
「アスカどうしたの?遅れているよ」
「リュート、ちょっと考え事」
「そっか。ほら、ジャネットさんが早く来いってさ」
「は~い」
ゴッツォの町はもうすぐだ。私はリュートに差し出された手をつかんでジャネットさんに追いついた。




