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お部屋の案内

「すみませ~ん、乗船の手続きをしたいんですけど……」


「ん? お嬢ちゃんが受付かい……頭ぁ!」


「船長と呼べ!! なんだ?」


「アスカ様がいらっしゃいました!」


「何だと! すぐに一等船室へ案内しろ。手の空いた船員も集めるんだ!」


「へいっ!」


 受付をしてくれる船員さんは船長さんらしき人の指示ですぐさまその場を離れてしまった。


「あ、あの、穏便に……」


「まあ、町での反応を見る限りこうなるだろうねぇ」


「ジャネットさん、落ち着いていないで何とかしてくださいよ!」


「あたしに言われてもね。アスカが直接言えばいいじゃないか」


「ええ~」


 言って聞いてくれるのかなぁ。「お構いなく! これは勝手にしていますので」みたいな感じで通される気がする。そんな予感めいた思いを持ちながら戻ってくるのを待つ。


「船長! 手の空いている船員、全て集まりました!」


「おうっ! よくやったぞ」


「何だよ、ポービー。俺は調理中だったんだぞ。暇なんかじゃ……あ、あの方はっ⁉」


「兄貴、来てよかっただろ?」


「あ、アスカ様だ……」


「俺たちの船に乗ってくださるなんて!」


 あっ、いや、この船に乗ったのは行き先が港湾国家ルーシードだったからなんだけど……。


「アスカ様、改めまして先日はありがとうございました。今回の船旅を預からせていただく、船長のカルベイン・デュークと言います」


「カルベイン船長ですね。こちらこそよろしくお願いします」


 あれ? この人、名字を名乗ったよね?


「ひょっとしてカルベイン船長って貴族の方ですか?」


「はっ! 端くれながらも。代々、この港町で船長職についております」


 代々船長職だなんてすごい家系だ。海は荒れるし、難破とかも考えたら危険だらけなのに。それに、この世界じゃ海魔が勢力を持っているから、魔法があるから簡単に帆船でも進めるってわけじゃないしね。


「今回は港湾国家ルーシードまでよろしくお願いします」


「もちろんですとも! お前ら、挨拶だ!」


「アスカ様!! どうか、我らの船で良い旅を!!!!」


 船員さんたちが一糸乱れぬ動きと声で挨拶をしてくれる。それ自体は嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしいのと、まさかとは思うけど普段から練習とかしてないよね? 前にも大陸間移動をする船に乗ったけど、みんな忙しそうにしてたのに、時間を取るのは悪いなぁ。


「ありがとうございます。それじゃあ、お部屋まで案内をお願いします」


「はい。ベスティア!」


「はっ!」


「失礼のないようにな」


「了解致しました! アスカ様、お付きの方もこちらに。大きな荷物に関しては隣室にて、保管させていただきますので、そこの者にお渡しください」


 ベスティアさんがそういうと二名の船員さんが前に出る。私たちの方はマジックバッグにある程度荷物を入れているので、使わないものだけを渡した。


「こちらだけでよろしいですか?」


「はい。船内でも色々とやりたいことがありますので」


「お忙しいのですね。何かありましたらお気軽にお申し付けくださいませ。扉の前には誰か置いておきますので」


「そ、そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ!」


「……分かりました。では今からご案内する部屋の左手は直ぐにデッキになっておりますので、誰にでも何なりと申しつけ下さい」


「ありがとうございます」


 こうしてベスティアさんに先導されながら私たちは船内へと歩いていく。


「へぇ~、前に乗った船より飾りっ気はないねぇ」


「はい。我がフェスティーユ号はアダマスからルーシードまでの長期間の航行を鑑みて、丈夫かつ乗員の快適さに比重を置いております。そのため、装飾などできるだけ航行に関係ないものに関しては削っておりますので」


「なるほどねぇ。あたしはこっちの方が好みだね」


「そうだな。陸に上がった時に疲れがたまらない方が重要だ」


「ありがとうございます。アスカ様のお部屋に着きました」


「ここですね。えっと、私の部屋というのは?」


 まさかとは思うけど、個室だなんてことはないよね? 荷物置きに一部屋使うんだし、そこにリュートたちが入るとしても二部屋だろう。そう思って私は聞いてみた。


「はい。アスカ様がこちらのお部屋で、その右隣りに荷物を置かせていただきます。お付きの女性騎士様が向かいの部屋で、男性騎士二人はその隣になります」


「いや、さすがに四人しかいないのに四部屋も一等船室を使うなんて悪いですよ」


「そうですか? 私共は構いませんが……」


「あ~、船員さん。この子はこういう遠慮がちな性格でね。それにいつもあたしらがついてたから、なかなか一人で過ごすのに慣れてないんだ。あたしだけでも一緒の部屋でいいかい?」


「そういうことでしたら。では、こちら手配を変えておきますね」


 ほっ、一等船室を無駄に埋めなくてよかった。


「では、こちらへどうぞ。女性騎士の方は……」


「ああ、あたしの名前はジャネットだ。そのまま呼んでくれていいよ。んで、こっちがリックでそっちはリュートだ」


「よろしく」


「よろしくお願いします」


「これは失礼を。私はこの船の客室責任者のベスティアと申します。以後よろしくお願いします」


《ピィ!》


「アルナもよろしくって言ってます。賢い子なので時間があったら構ってあげて下さいね」


「ご紹介ありがとうございます。アルナ様、どうかよろしく」


《ピィ》


 アルナがよろしくとベスティアさんの肩に乗る。優しい物腰だし、どうやら気に入ったみたいだ。


「後、今は寝ちゃってますけど、こっちの子がキシャルでこちらはティタって言います。キシャルはお昼寝が好きであまり見かけることもないと思います。ティタも普段は部屋にいます」


「そうなのですね。よろしくお願いします」


 キシャルが寝ているということもあり、ベスティアさんは簡単な挨拶に留め、扉を開けてくれた。


「わぁっ⁉ 綺麗なお部屋ですね」


 案内された部屋は薄いピンクに赤の枠で囲まれたカーペットが敷いてあった。それに、棚はもちろんのこと立派なベッドもあり、こちらは大きなものが一つ用意されている。ただ、やっぱり船内ということで、つぼなど割れる可能性が高いものは置いてなかった。安全にも配慮されている作りになっているみたいだ。


「航行中は揺れることもあり、装飾は少なくなっておりますが、快適な生活が送れるよう家具にはこだわっておりますので、是非ルーシードまでの道中をお楽しみください」


「とても素敵な部屋をありがとうございます。早速使わせていただきますね!」


 私は部屋の中央にある丸テーブルの方へと向かい、革張りの椅子に腰かけた。テーブルはシンプルながら、椅子は四つ足ではなく下部が平たくなっている。これも揺れで倒れないようにするためだろうか?


「全く、久し振りの船ではしゃいで」


「ジャネットさんも早く! 座り心地、すっごく良いですよ」


「はいはい。それじゃあ、あたしはアスカの面倒を見てるから、リックたちの案内をよろしく頼むよ」


「かしこまりました。ではお二人はこちらへ」


《ピィ》


「あら、アルナ様も来ていただけるのですか? ではご一緒に行きましょう」


 アルナはベスティアさんについて行ってしまったので、他の従魔たちの居場所を考える。


「キシャルは横に小さいベッドを用意してもらうとして、ティタはどうする? ベッドの上側の物置にする?」


「テーブルの上で大丈夫です。食事を部屋で取る時はどこかに置いて頂ければ」


「分かった」


「さて、それじゃあ少しゆっくりするとして、後はどうするんだい?」


「まずは船内の見学と出発したら甲板に出たいですね。いい景色が見られそうですし!」


 海といえば海水浴か景色だ。特に船上からの景色は素晴らしいので絶対に見なくちゃ。


「了解。ならあたしはその間、本でも読んでおくかねぇ」


「ジャネットさんは何を読むんですか?」


 ジャネットさんも最近色々本を読むようになった。いったいどんな本を読むんだろう?


「ん? 格闘術についての本だね。ちょうどいいのがあったんだよ」


「そんな本をいつの間に……」


「ちょっと立ち寄った本屋でね。なんでも、元武闘家の子どもが売ったみたいでね」


「道場とか開かなかったんですね」


「まあ、格闘術っていうのは補助的な側面が強いからねぇ。爪とかもあるけど、そっちはそっちで別の技術がいるだろ? だけど、リーチの面から言えばどの武器よりも短い。苦労して得るものが少ないって考えさ。腕力は同じ値でも体格の差があるから魔物には力じゃ勝てないしねぇ」


 そう言われてみると、確かに今まで格闘家の人って出会ったことあったっけ? 筋肉自慢の人はいても、そういう人には会ったことがない気がする。


「でも、格闘術自体は役に立つんだよ。剣が持てない時もそうだけど、相手が格闘術で戦いを挑んでくること自体は多い。代表的なもので言うと、オーガ系の動きの見切りに役立つのさ。野盗よりそっちに対して効果的なんだよ。そのために覚えてる側面もあるね」


「なるほど! それじゃあ、リュートも覚えた方が良いですね」


「あ~、まあそうだけど、リュートは短剣があるからねぇ。投擲と合わせれば元々リーチの長い槍を使うんだから大丈夫だろ」


 ジャネットさんは自分でも格闘術を使うし、そういうなら大丈夫なんだろう。私は近距離だと弓を斬撃に使うぐらいだし。


「お茶をお持ちしました」


 そんなことを考えていると、ベスティアさんとは別の人がお茶を持って来てくれた。丁寧にフルーツも添えられている。


「ありがとうございます」


 今はせっかく持って来てくれたんだし、この時間を楽しもう。




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