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アスカとリュートの細工部屋

「アスカ様、もう夕食のお時間ですよ?」


「ふぇ? もうですか?」


 コールドボックスを製作しているとモーリアさんが声をかけてきた。結構時間が経っていたみたいだ。今回は細工物ではないので集中していなかったから、呼びかけにもすぐに気がついた。


「はい。夕食の用意が終わるころになります」


「分かりました。リュート、リュート?」


「うん? どうかした。アスカ?」


「リュートもやっぱり集中しちゃうんだね。何度か呼びかけたのに」


「嘘っ⁉」


「本当だよ。ご飯だから行こう」


「分かったよ。でも、片付けは?」


「できるだけ今日のうちに仕上げたいから、また戻って作業だよ」


「じゃあ、ひとまず道具はここに置いておくね」


 リュートもテーブルの上に細工道具を置いて私たちは部屋を出る。部屋を出たところでモーリアさんが部屋にカギをかけていた。


「鍵までかけなくて大丈夫ですよ」


「いえ、作業風景を見させて頂きましたが、とても早くすぐに公開できないかと。間違って誰かが入らないよう、念のためです」


「そうですか。モーリアさんがそういうなら」


 私は他の魔道具師を良く知らないから、そう言われたら納得するしかない。そのまま夕食を食べるため食堂へと向かう。


「おっ、ようやく来たね。疲れてるのによくやるよ」


「ジャネットさん! 広場はあの後どうでしたか?」


「まあ落ち着いてたよ。もちろん、色々話をしてる奴らはいたけど、そういうのは話の内容もあるししょうがないさ」


 実はジャネットさんは行きこそ私に同行してくれたものの、帰りに関しては臨時の領主となる大使の騎士たちが私の護衛も兼ねるため、それならと町の様子を確認してくれていたのだ。


「まあ、ジャネットは女性に囲まれていたがな」


「リック!」


「そうなんですか?」


「ああ。精霊信仰の強いこの町でアスカを守る女騎士だろう。主がいないことを良いことに質問攻めにあっていた」


「あたしはただの冒険者だって言ったのにねぇ……」


「そういう割には態度も堂々としていたからな」


「まあ、アスカと一緒にいればね。貴族の相手も何度かしたし、水の巫女様に仕えてる神官騎士とも話したしねぇ」


「そう言えば、その時に儀礼も習ったんでしたっけ?」


 ムルムルたちと一緒の宿で滞在していた時は女性神官騎士の人と相部屋だったみたいだし。


「まあね。あたしはいいって言ったんだけど、後で使うって聞かなくてね。まあ、役に立ったわけだから今度会ったら言い返せないけど」


「それでか。本当に見事な立ち姿だったぞ。本物の騎士に今から成れるぐらいにな」


「よしてくれよ。そんな窮屈なもんは合わないよ」


「騎士と言っても普段はそこまでじゃないさ。式典や帰還時の凱旋以外はむしろ冒険者と変わらんよ」


「リックの言うことはいまいち信用できないね」


「別にジャネットにウソを言った記憶はないが?」


「はぁ? あんたあの時……あっ、いや」


「あの時?」


 ジャネットさんは何かを言いかけるもすぐに口を閉じて運ばれていた食事に手を付けた。何だろう? 気になるけど、食事も冷めちゃうし後で聞いてみようかな?



「さてと、続きをしないとね」


 ジャネットさんのことも気になるけど、今はコールドボックスの完成が優先だ。にぎやかな夕食を終え、再び作業部屋に帰ってくると私とリュートは作業に戻る。


「えっと、ここはピンを入れて曲げてと。こっちも同様に」


 作業を再開すると手際よく進めていく。


「後はここを組み上げれば……できた!」


「えっ!? もうできたの?」


「フレーム部分だけね。後は仕切り板を入れて板を入れてと」


 私は風の魔法を操って重たい銀の板をセットしていく。自分で持てないこともないけど、怪我の危険もあるからね。


「えっと、ここはこの板。こっちはこの板を入れて、後はここをはめて……」


 順番通りに板を入れていき、全体が完成する。


「後は隙間を埋めるものを入れて、完成!!


「あっ、できたんだ?」


「うん。といってもまだ魔石は入ってないけどね」


 今のままだと銀でできた、ただの箱だ。これに魔石を入れて魔道具化をしないといけない。


「ちょっとティタを呼んでくるね」


「うん」


 作ってもらった魔法陣はあるけど、せっかくなのでティタに見てもらう。もしかしたらこれを作るのに便利な陣があるかもしれないからね。



「ティタいる~?」


「何か御用でしょうか?」


「うん。今コールドボックスを作ってるんだけど、それに使う魔法陣を見てもらいたくて」


「分かりました」


 自分の部屋からティタを連れて行くと再び作業部屋へ戻る。


「ただいま~」


「お帰り」


「……」


「入り口で立ち止まってどうしたの、アスカ?」


「ううん、なんだか家に帰ってきたみたいだったなって」


 旅をするようになってから、みんなと一緒に泊まることが多かったけど、それでも〝ただいま〟が帰ってくることはあんまりない。まあ、私の方が部屋にいることが多いのもあるけどね。

 だから、こうやってリュートにお帰りを言ってもらえて嬉しかったので、立ち止まってしまったのだ。


「そうなんだ。でも、家だったら相当豪華な家になっちゃうね」


「言えてる」


「ご主人様、コールドボックスの方を」


「あっ、そうだった! それじゃあ、魔石を置いてと」


 私はオークメイジの魔石を二つコールドボックスの中にセットすると、使う魔法陣をティタに見せる。


「今回はこれを使う予定なんだけど問題ない?」


「こちらの魔法陣ですね。ふむ、少しだけこの線を曲げると効率が上がりますね」


「へ~、何で効率が上がるの?」


「冷やすということは冷気を扱うわけです。これは水の流れにも似たところがありますから、曲線の方が良いのです」


「そういうことなんだ。さすがはティタ先生!」


「お任せください!」


 ティタにアドバイスを貰って魔法陣を修正すると、いよいよ魔道具化だ。MPの消費が大きいので一度残りを確認する。


「えっと、冒険者カードでと……あちゃ~、もう100ぐらいしか残ってない。銀の加工には結構使うもんね」


 私はMPが多い方だけど毎日従魔たちにMPを渡しているのと、銀の加工でそのほとんどを消費してしまっていた。


「う~ん、これはMP回復用ポーションに頼るしかないか。でもなぁ」


「どうかしたの、アスカ?」


「ううん、MP回復用ポーションを飲むんだけど、この前イリス様からもらった良いやつは使い切っちゃったから普通のしかなくて」


 あれは美味しくないんだよね。はぁ~。


「ひょっとして、あのポーションでしょうか? 少々お待ちください」


 私たちの会話を聞いて控えていたモーリアさんが部屋を出ていく。その三分後……。


「お待たせ致しました。こちらでしょうか?」


 モーリアさんが運んできたのは私がイリス様からもらったのと同じポーションだった。同じというのも瓶のところに細工がしてあって一目で分かるのだ。


「いいんですか? このポーションって高いやつですよね?」


「構いません。使わなければ意味はありませんし、護衛の方からも妖精たちを救う時に使ったとお聞きしております」


「あ、それはそうですけど……」


「ですから、出発前には補填させていただきます。伯爵家ともなれば普段から備蓄しているものがありますので、お気になさらず」


「分かりました。ありがとうございます」


 ちょっと悪いかなとも思ったけど、あのポーションは効き目がすごいから遠慮なく貰うことにした。一番は味がいいからだけど。普通のポーションはともかく、MP回復用ポーションは本当に美味しくないからね。


「じゃあ、最後までやっちゃおう!」


 私は遠慮なくMP回復用ポーションを飲むと一気に仕上げていく。ほどなくして全工程を終え、コールドボックスが完成した。


「後はリュートの方だね。リュート、どう?」


「あっ、うん。アスカのアドバイスもあって一応はできたんだけど……」


 ちょっと言いづらそうに作品を出してくる、リュート。確かに見た目はお世辞にもよくない。でも、初めて作った物だしね。


「良くできてると思うよ」


「そんな! アスカの細工と比べたら全然だよ」


「私は細工師だからね。それに私が初めて作った物より断然いいよ!」


「だけど……」


 なおも何か言いたげにしている、リュート。こうなったら!


「それじゃあ、これは私が貰うね。リュートは要らないみたいだし、大事にしておくよ」


「ちょっと……そんな出来の悪い細工なんて」


「大丈夫。私が初めて作った細工も大事にジャネットさんが持ってくれてるし。私は自分の分がなくなっちゃったから、これで代わりになるし。うん、良いとこだらけ!」


「まあ、アスカが良いっていうならいいけどさ」


「じゃあ決まり!」


 私はリュートの作ったつたないコスモスの細工を大事にマジックバッグにしまう。今度、時間を作ってこれを保管する入れ物を作らないと。


「出来たらガラスを使って取り出さずに見られるようにしないとね!」


「そんなにしなくていいよ」


「ううん。いつか家を持ったらちゃんと飾るからね」


 リュートの意見は無視して私は決意を固めると、作業後の片づけに入る。


「片付けでしたらこちらで……」


「いえ、大丈夫です。それにこの削りカスとかも銀だったら再生できるので。買うと結構高いので助かるんですよね。さすがにちょっと色味は変わっちゃいますけど。あっ、ひょっとして不味いですか?」


 銀はコールドボックスのために用意してもらったのに、余った部分を貰ったらダメかな?


「いいえ。それでしたら構いません。是非お持ちください。不足があったらと思い、余裕をもって手配しましたので、そちらもお渡しします」


「そんな、そこまでしてもらったら悪いですよ!」


「いえ、当邸には細工が出来るものはおりませんから、遠慮なくお持ちください」


 結局、私はモーリアさんの説得により、銀も追加で貰うことになったのだった。




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