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町での宣言

「アスカ様、朝ですよ」


「うう~ん、朝ですか?」


「はい」


 リエールちゃんに起こされて体を起こす。するとアルナたちがやって来た。


 《ピィ!》


 《にゃ~》


「あっ、二人とも元気だった? あまり部屋にいてあげられなくてごめんね」


 アルナたちもれっきとした魔物なので、今は邸を自由に動けないでいる。私が言えば何とかしてもらえるかもしれないけど、これ以上負担をかけるのも悪いからね。

 実は昨日の会議もそうだけど、新しい領主にこの邸を使ってもらうため、今もメイドさんたちは大忙しなのだ。


「さてと、着替えなんだけど……」


「着替えの方はお時間を頂きますので、先に朝食をどうぞ」


「あぅ」


 モーリアさんにそう言われ、先に食事を取ることに。でも、さっきの言葉にもあったように今日はドレスでお目見えするので、朝は簡単な食事だ。そのため、すでに部屋に運ばれていた。


「パンに野菜にジュース……」


「申し訳ございません。お帰り頂いてからきちんとしたものをお出ししますので」


「いえ、しょうがないですよ」


 出された朝食を食べると、いよいよ着付けタイムだ。


「んんん~~~~!」


「もう少しです」


 モーリアさんに手伝ってもらってコルセットを巻く。本当はやりたくなかったけど、今回はどうしても必要らしい。なんとか巻き終えるとドレスを着る。


「今回はこちらになります。既製品ですが、それなりのものですよ」


 用意してもらったのは空色に近い青を使ったドレスだ。通常の生地に透かした生地を被せる二重構造になっている。涼やかな見た目だけど、ちょっと透けてるのが恥ずかしくもある。


「それじゃあ、行きましょう!」


 今日の戦闘服であるドレスに着替えた私はいよいよ伯爵家を出て街に向かう。向かう時も馬車での移動だ。


「あっ、でもこの辺は普通の馬車だ」


 カーナヴォン領の馬車より乗り心地が良くないな。まあ、どんどん改良されていくと思うけどね。馬車に揺られること二十分。馬車はいよいよ今回の会場である中央広場へと着いた。


「なんだ。伯爵家の馬車がこんなところに……」


「今日は話があるって町長から張り紙が出ていたけど何かしら?」


 町の人たちにもどんな話があるかまでは伝わっていないらしい。そう思うと余計に緊張してきた。


「皆の者!! 集まってくれたか? 今日は皆に伝えることがある」


「町長。どうしたんですか?ギルドまで呼ぶなんて……」


 ちらりと馬車の窓から外を見ると、冒険者ギルドと商人ギルドのギルドマスターらしき人までいる。そう言えば、昨日の会議は町の人だけだったな。


「ギルドマスターたちも来てくれたのか。今日は大事な説明があってな」


「そりゃあ、俺たちも書簡を貰ったが別に呼びつけなくてもよぅ」


「でも、事がそれだけ重要なのでは?」


「その通りです。まずは群衆が落ち着いたら説明します」


 その後、十分ほどかけて町の人たちを集めると事態の説明が始まった。


「諸君! 今日は急な呼びかけに集まってご苦労。今日集まってもらったのはここ数日、伯爵家で起きたことを説明するためだ」


「伯爵家で? 伯爵様が倒れられたのかしら?」


「まあ、恰幅のいい方だったからな」


 町長さんがそこまで言ったところで、町の人は憶測を口にする。まあ、普通思いつくのはそれぐらいだよね。


「いや、残念ながら皆の予想とは大きく異なる。実は伯爵は国際法で禁じられていた妖精の売買を行っていたのだ!」


「えっ⁉ よ、妖精を?」


 この言葉には町民だけでなく、来ていたギルドマスターたちも驚いている。まあ、彼らからしたらあり得ないことだろうしね。


「落ち着くのだ! その件に関してはすでに隣国、リディアス王国の協力を得て一時的に解決している」


「リディアス王国が?」


「一時的に解決ってどういうことなの……」


 突然の発表に会場は浮きっぱなしだ。でも、しょうがないよね。特に集まっていた港湾関係者は一様に厳しい顔をしている。船乗りの人も多そうだし、自然への畏敬の念が強いんだろうな。


「静かに。詳細は追って看板を立てるが、伯爵の企みは阻止された。売買された妖精の一部は行方不明ではあるが、こちらの二か国の協力を元に捜索を続けるつもりだ」


 町長さんがそう宣言すると、そこかしこから当然だという声が上がる。


「では、お二方。紹介を」


「ああ。町長より紹介のあった港湾国家ルーシードの大使、ファゼル・ノーマンだ。今回は妖精の捜索及び、こちらの都市の一部管理をすることになった」


「続いて、ルイン帝国大使」


「ああ。ルイン帝国の大使オードア・ショレイグだ。今後、今回の件で一時的にではあるが、領主となる」


「ど、どういうことなんだ?」


「他国の大使が領主に⁉ 国の方は知ってるんだろうか?」


 またもや急な発表にざわつく広場。しかし、もうそんな空気にも慣れたのか、大使は言葉を続ける。


「これに関しても後日掲示するが、私が領主の任に就くのは今回伯爵の企みを調査する調査団に我が国の貴族が加わっていたためだ。リーダーの者は別にいるが、この国とは国交を持っていないため、我が国が代わりに治めることになる」


「皆の者、不安になるとは思うが安心するのだ。私も港湾責任者も昨日の時点でこのお二方と会談を持って、基本的な事に関して変更はないと確認している。ただ、どうしても管理する国家が変わるため変更を余儀なくするところは後日伝える」


 町長さんがそう言うと、二人の大使も大きくうなずく。これに少しほっとしたのか町の人たちの顔には安堵の表情が見える。


「そしてここにいるみんなにはもう一人の人物を紹介したい。その人物は今回の騒動で妖精からの協力申し出を受け、自らリディアス王国の調査団リーダーとして動かれた方だ。また、同時に解決のおりには精霊様よりお力添えを頂いた方でもある」


「精霊様の……」


「すごい方がいるのね!」


「どんな人なのだろう?」


 ああ、そんな説明しないで。無駄に町の人から私への期待が高まってしまう。事態の収拾をしたのはシルフィード様やミネルナ様なのに……。


「では、ご登場いただきましょう。アスカ様です!」


 町長さんの言葉とともに馬車の扉が開き、リュートが先に降りていく。そして私に向き直ると手を出す。まるで物語の騎士とお姫様のような錯覚を覚えながら私は馬車から出た。


「アスカ、心配しないで。僕もジャネットさんも付いてるから」


「うん」


 馬車から降りると小声でリュートがそう言ってくれる。ジャネットさんは馬車の周りを守る護衛として任に当たってくれて、今からは私の後ろに控えてくれる予定だ。


「おおっ!? なんて美しい少女だ!」


「あの人も貴族じゃないのかしら?」


「では、アスカ様。挨拶をお願いします」


「はい」


 私はこの時のために覚えてきた内容を読み上げる。


「みなさん、只今ご紹介に与りましたアスカと言います。私はフェゼル王国というこの大陸とは別の大陸よりやってきました。そして、この大陸での旅の途中、両親の知己であるリディアス王国の領地に立ち寄っている最中、偶然にも妖精の方から同胞が捕らえられていると聞き及びました」


 時系列がおかしいけど、この辺は私たちの立場に整合性を付けるためしょうがない。でもまぁ、この話はイリス様の方で調整してもらっているから問題ないだろう。


「じゃあ、あの方は元々無関係なのか?」


「しっ、黙って聞いてろ!」


 ここでもやっぱり船乗りさんらしき人が聞き入っている。普段から自然と共生しているから興味も人一倍なんだな。


「そこで私は居ても立っても居られず、リディアス王国で結成される調査団に同行することを決めました。そこには副団長としてそちらのリックさんも付いていただき、領主様からは護衛もつけて頂きました。後は後日に発表となりますが、伯爵家にて実際に妖精が捕らえられている現場を押さえ、それを確認された精霊様が伯爵と悪事に加担した騎士たちを捕らえて下さったのです!」


 そう! あくまで私は協力者。ただの同行者としてアピールする。そして、私の紹介でルイン帝国の大使さんの横に控えていたリックさんが軽く町の人に会釈をする。


「皆も聞いての通りだ! このアスカ様の協力により、精霊様の助力を得られ事態は早期に収拾できたのだ。それを忘れてはならない。そして、未だ帰らぬ妖精たちを我々はその生涯をかけて元の住処に戻さねばならない。それが精霊様を怒らせた我らの使命なのだ!」


 最後に町長さんが力強く宣言する。〝精霊様を怒らせた〟というワードは町の人にも強く伝わったようで、みんな真剣な顔だ。


「あの少女が精霊様を……」


「そうだ。精霊様はこうもおっしゃっておられた。『アスカのような妖精に対し、真摯に向き合うものがいなければ、町を壊滅させていただろう』と!」


 あっ、いや~。そこまでのことはシルフィード様もミネルナ様も言ってないんだけどな。後、私が真摯に妖精たちに向き合っているかとか聞いた覚えもないし……。ただ、町長さんもスラスラと喋っていたことから、打ち合わせ通りだと思われる。

 ちらっとリックさんを見ると、ウィンクしている。ううむ、流れが少しおかしくなってきたような気がする。


「精霊様の怒りを鎮められるなんて……」


「あの容姿だもの。きっと高貴なお生まれなのよ!」


「そう言えばリディアス王国の領主と親が知り合いなんだろう? そうに決まっている!」


「リディアス王国とは過去に色々あったけど、感謝しないとね」


 そんな町の人の話が聞こえてくる中、ある一団が目についた。その人たちは直ぐに整列すると、みんな一様に右腕を胸の中心へ持ってくる。


「我らが海の英雄に敬礼!」


「「敬礼!!」」


 先頭の人物が一度右足を上げて下ろし宣言すると、後ろの人間もそれに続く。みんなガタイもいいし、あれは船乗りの一員みたいだ。というか、宣言されるなんて恥ずかしい。私はただ自分の思った通りに動いただけなのに……。




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― 新着の感想 ―
これでイリス様は「巻き込まれ事故からの大事件解決への功労者」になったわけね。 突然とんでもない調整をさせられたけど、領主としては国のイメージアップに大貢献した事になるから昇爵も今後あり得るね
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