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夕食とアイス

 細工をしていると時間が経つのも早いもので今は夕食の時間だ。


「いただきま~す」


「いただきます」


「……いただきます」


 私の言葉を皮切りにリュート、ジャネットさんが続く。


「アスカ様は魚もお好きとのことでしたので、今日は魚がメインとなっております」


「わ!? 本当ですね。魚がいっぱいです」


 並べられているのは少し小さめの焼き魚にムニエル。それに魚介のスープと野菜だ。港町でこのメニューは期待できそう! 魚のサイズもきっと私が少食だから合わせてくれたのだろう。


「アスカ、口元」


「はっ!?」


 ジャネットさんに注意され咄嗟に口元をぬぐう。あ、危なかった。メイドさんたちに見られてないよね? みんな私を貴族令嬢として扱ってくれるから、変な姿は見せられないよ。


「アスカ、別に大丈夫だよ。ジャネットさんはからかっただけだから」


「えっ!?」


「そういうこと。まだまだ甘いね、アスカは」


「ジャネットさん! あれ? そう言えばリックさんの姿が見えませんね」


「ああ、リックならまだ打ち合わせだよ。ほら、臨時の領主はあいつの国の大使だろ? それで長引いてるんだよ。隣の国の大使とも打ち合わせしないといけないってさ」


 なるほど。それでジャネットさんだけ出てきたんだ。はは~ん。


「さてはジャネットさん。リックさんがいなくて寂しいから私をからかったんですね?」


 うんうん、そういうことなら妹として甘んじて先程のことは受け入れよう。私が勝手に納得して頷いていると、案の定ジャネットさんが反論してきた。


「ちっ、違うよ! ただ、あたしは飯につられてるアスカを見てだね……」


「はいはい」


「全く!」


 ジャネットさんはそれだけ言うと、黙って食事を始めた。ちょっと言いすぎちゃったかな? でも、ジャネットさんを言い負かせるなんて滅多にないし。まあ、その理由がリックさんっていうのは気に入らないけどね。


「アスカ、話もいいけど料理が冷めちゃうよ?」


「おっと、いけない」


 私は料理が冷める前に手を付ける。まずは焼き魚から……。


「ん、美味しい~! 白身の魚からほんのり感じる塩味が良いですね」


「お褒め頂きありがとうございます。こちらは塩を使った包み焼です」


「あっ、そうなんですね。海が近いからかなぁ。滅多に塩の包み焼なんて食べられませんよ」


「そうですね。塩は地域によっては専売品目でもありますし、その中で海沿いの町はまだ安価ですからね」


 ただ、塩に関しても自由に塩田を作ることはできず、単純に安いと言うわけでもないそうだ。目の前にいっぱいあるのにな。


「それはそうとどんどん食べないと!」


 料理が冷める前に私は夕食を堪能したのだった。



「では、こちらデザートになります」


 食事が終わり、みんなで談笑しているとデザートが出てきた。ひょっとして……。


「これってアイスですか?」


「はい。アスカ様のご指導で作らせていただいたものです」


「えっと、せっかくですけどこちらは食べられません。みなさんのために作ったので」


「我々も残りを後で頂きます」


「いいえ、人数分あるか分かりませんけど、これは皆さんで食べて下さい。アイスの良さも分かりますよ」


 私としても甘いデザートは大好物だから食べたかったけど、これはメイドさんたちをねぎらうために作ったので我慢する。


「ですが……」


「では、差し出がましいですが、いただきますね」


「モーリア!」


「ジェイク、お嬢様がこうおっしゃられているのです。私たちは従うべきです。ではひと口」


 私の意を汲んでくれたモーリアさんがアイスを食べてくれた。


「これは……」


「お口に合いましたか?」


「はい! みんなもすぐに食べるべきですよ。でないと一口も残りませんよ。特に昨日の深夜から働いていたものはすぐに手に取りなさい」


「えっと、じゃあ私も……」


 モーリアさんがそういうので、昨日目元に隈が出来ていたメイドさんの一人がアイスを手に取って口元へ。


「お、美味しい!! なんなのこれ! 甘くて舌でとろけるし、入っている果肉も美味しいわ」


 あっ、あれは角切りにしたリンゴを入れたやつだ。こってりアイスとさっぱりリンゴのハーモニーが良いよね。


「ほ、本当? 私も少し……」


 やはり、一人食べ始めると続きやすいものでモーリアさんとメイドさんの一人が食べ始めて、残りの人もひと口またひと口と食べてくれた。


「アスカ、良かったのかい?」


「はい。今回はみなさんにも負担をかけてましたから」


「全くこの子は……」


 私の行動にジャネットさんが頭を撫でて返してくれる。気持ちがいいので髪が乱れるのも気にせず、されるがままとなっていた。


 そんな出来事もありながら、部屋に戻るとちょっと疲れた顔のリックさんがいた。


「あっ、リックさん。帰ってたんですね!」


「ああ、アスカか。まあな」


「流石に疲れたみたいだねぇ。飯はどうするんだい?」


「簡単に後で貰うさ」


「それで話し合いの方は?」


「ああ、何とかまとまった。ジャネットも大体は聞いていただろう? あそこに少し足された程度だな」


「足されたって何を?」


「国同士の外交関係だ。今回の迷惑料のようなものだな。今後港を使う時に隣国が港湾使用料を安くしてくれということだった」


「受けたのかい?」


「まあな」


「えっ⁉ でも隣国の人って今回直接は関係してないですよね?」


 私はちょっと気になったのでリックさんに質問する。


「そうだが、領主の交代や今後妖精を発見した場合の護送など、協力してもらうことはあるからな。臨時の領主としてはその条件を受け入れてもらう他ないから、交換条件ということだ。向こうの本音としては外交官が出てくる前に話をまとめておきたいということだろうがな」


「本職の人と話をまとめるのが難しいからですか?」


 私に続いてリュートもこの話には興味があるみたいでリックさんに聞き返した。


「それもあるだろうが、大使の実績作りだよ。今回の事に絡むのは難しいだろう? そこで何とか実績を上げれば昇進もあり得るということだ」


「抜け目がないですね」


「ただ、悪いことだけでもない。一日でも早く妖精の護送を行えるようになるし、相手も外交のプロじゃない。使用料の値下げも常識的な範囲だ。吹っ掛けられたらたまらないからな」


 そう言いながら椅子に腰かけるリックさん。珍しく仕草にも疲れを隠さないところから、今回は本当に疲れたのだろう。


「それで結局決まったことって何ですか?」


「あ~、簡単に言うとだな。俺の国の大使が臨時の領主になる。これはアスカも聞いただろう?」


「はい」


「それと、経済活動に関してもその大使と隣国の大使が協力して、地元の港湾関係者と町長と話し合いを持つことになった。半分以上、この国の所属ではなくなる感じだな」


「それって大丈夫なんですか? 法律とか色々と」


 前世でも日本と他の国じゃかなり相違点があるのに、大丈夫なのだろうか?


「ああ、基本的な法は変えずに管理者側の変更が主だからな。後は大使殿が上手くやってくれるさ」


「じゃあ、一息付けるってことだね。ほらよ」


 ジャネットさんが自分のマジックバッグから水筒を取り出す。


「これは?」


「喉乾いてるだろうと思ってね」


「済まないな。じゃあ、遠慮なく……」


「なっ⁉ コップに入れなよ!」


「ああ、悪い。つい癖でな」


 ジャネットさん慌ててなんだろう? とりあえず、今回の件は片付いたみたいだし、後は明日の町での話だけだな。


「はぁ、緊張するなぁ」


「明日のこと?」


「うん。リュート、絶対いてよ」


「分かってるって」


「そういや、アスカはもう一仕事あるんだったね」


「そうなんです! 別に私じゃなくていいと思うんですけど……」


「そう言うな。アスカが登壇するのが一番説得力があるんだ」


「う~ん、別にだれでも良いと思うんですけど」


 事情を説明するだけなら、それこそ町長さんとかの方が良いと思うんだけどな。一応、話す内容はまとめたけどね。


「まあ、明日も疲れるんだったら今日は早めに寝るかい?」


「はい。リックさんが食べ終わったら寝ましょうか!」


「ん? なら先に寝ればいい。俺は軽く酒を飲んでから寝るからな」


「ええ~! 疲れてるのに?」


「そういう時こそ一杯飲むものだ。なぁ、ジャネット?」


「一杯だけだよ。あんたも一緒に立つんだろ?」


「しょうがないか。と言うわけだから、もう寝ていいぞ。アスカも疲れただろう?」


「実はリックさんが会議中も細工をしてて、ちょっと眠たいんです」


「なら、俺たちは引き上げるとしよう。レディの部屋にいつまでもいられないしな」


 リックさんはそう言いながらモーリアさんを一瞥すると、リュートと一緒に部屋を出ていった。


「ジャネットさんはこれからどうするんですか?」


「あたしかい? う~ん、寝てるアスカを置いて部屋を出るのもあれだし、アウロラかリエールを呼んでくるよ」


 こうしてジャネットさんと入れ替わりでアウロラちゃんたちがやってきて、私は少しだけ話をしてから眠りについたのだった。




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― 新着の感想 ―
>これは皆さんで食べて下さい。アイスの良さも分かりますよ」 >私としても甘いデザートは大好物だから食べたかったけど、これはメイドさんたちをねぎらうために作ったので我慢する。  今回は冷やして混ぜてを…
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