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南市場 市場見学その1

ちょっと衝撃的な出来事の次の日。今日は南の市場に行く日だ。南の市場は食料品以外の様々なものが揃っている。交易品に武器や防具や魔道具まで扱う、大規模な市場だそうだ。ただ、どうしても王都経由の町なのでここでしかというものは少ないみたいだけどね。


「準備できた?」


「うん。アスカの方は?」


「キシャルがちょっと構って欲しそうにしてたけど、今はティタが相手してくれてる」


「じゃあ、向かおうか。北の市場のことを思うと早い方がいいからね」


基本、大量輸送が出来ないこの世界では1点物も数多く存在する。まあこれは、工業的な発展にも関係してるんだけど、商人も同じものは揃えないので早い者勝ちなのだ。


「分かった。それじゃあ、みんなお留守番よろしくね」


年長のティタに託して市場に向かう。南側に向かっていると他にも移動している人がいる。市場に着くとまだ準備中の店も多い。手前では馬車から必死に荷物を卸している商人の姿も見えた。どうやら昨日のうちに街に入れず、朝一で入場して何とか間に合わせようとしているみたいだ。


「活気があるね」


「そうだね。ほら!迷子にならないように」


「うん」


リュートの手につかまって一緒に市を見て回る。また、フリーマーケットみたいだったらと思ったけど、きちんと扱っているもの毎に区画が分かれている。ただ、どうしても商会単位なので、主な取り扱いがということになってしまうみたいだけど。


「まずはどっちから見て回る?」


「うう~ん。武器とか魔道具に急ぎはないし、交易品とかにしようよ」


「分かったよ。じゃあ、こっちからだね」


1点物も多いのでまずは交易品からだ。


「これは絨毯かな?いい素材だね。丈夫そうだし」


「でも、どこで敷くの?まさか、宿で?」


「そっか。そうなっちゃうか~」


家でもあれば違うんだろうけど、旅をしている私には使う場所がないね。ガラスのコップは…割れちゃうしなぁ。


「ん?これって…」


「おや、お嬢様。お目が高い。そちらはリディアス王国からのもので、鉛筆と万年筆って言うんだ。文字を描くのに最適だよ。万年筆はこの交換軸ってのとセットで、長く使えますよ。まあ、軸の販売が次はいつだと言われると難しいんですけどね」


「リディアス王国…」


「ええ。最近あの国じゃ珍しいものが多く出回ってましてね。商人としてはあたりの国ですよ」


「じゃあ、この万年筆セットを下さい」


「ありがとうございます。使い方の説明をしますね」


「いえ、大丈夫です。わかりますから」


「へぇ~、アスカはこんな珍しいものも使ったことあったの?」


「うん。でも、最近は使ってなかったけどね。さあ、他にも見ていこう」


リディアス王国か…行きたいけど結構離れてるし、まだあとの話だ。それに気にはなるものの、今はこの場所で買い物を楽しまないと!


「そちらのお嬢さん。このつぼ買わないかい?」


「つぼですか?場所が…」


「場所の心配何て無粋ですよ。このつぼは人呼んで幸運を呼ぶつぼ。見てくださいよこの羽。実は本物のヴィルン鳥の羽なんですよ。これが焼き入れの時に焦げないようにするのが難しいんですよ」


「へ~…」


全く興味がないし、こういう話ってこっちにもあるんだ。じろりとヴィルン鳥の羽だと言われたものを見る。これ、絶対違うんだけどな。


「やはり、お家のことを考えるとご興味が?」


「いえ、ヴィルン鳥の羽ってこういうのじゃなかったなぁって」


「ん?このつぼに文句があるって?」


「文句というか、実物じゃないですよね。これ見てもらえますか?ヴィルン鳥の羽を模したものなんですけど…」


そう言って付けていたミネルの羽を模したネックレスを出すと、おじさんはそそくさと店じまいを始めてしまった。


「おお、嬢ちゃんやるねぇ。あいつの詐欺商売を黙らせるなんてな」


「えっ、あはは…」


「アスカは全く。まあ、何もなかったからいいけど気を付けてよ」


「うん」


「じゃあ、こっちも見てくれよ」


隣の店は革製品のようだ。質はどうかな?


「思ったより、触り心地もいいですね。ただ、ハンドバッグかぁ」


それもひもがなくて手で持たないといけないやつだ。これは流石に駄目だね。


「あっ、これいいかも。街行きにぴったりだ。リュートもこっちのどう?」


「これ?でもそんなに量入らなくない?」


「もう、またそんなこと言って。量入れるんじゃなくて、服に合わせるんだよ。ほら、中にマジックバッグ入れれるでしょ」


「それなら、そのままでよくない?」


「良くないよ。街を歩くのに変でしょ。ねっ、これにしようよ」


渋るリュートを何とか説得してバッグを買う。他にも欲しいものはあったけど、残念ながら壊れ物とか家具も多くて購入できそうなものは無かった。


「この辺りは魔道具が中心みたいだね」


「だね。私に使えそうなものがあるといいんだけどな」


とはいえ、簡単に店主に声をかけるのもはばかられる。営業トークとともに買わされたりすることもあるらしい。


「こちらの火付けの魔道具はいかがですか~。暴発もないものですよ」


「ああいうのは?」


「多分魔力が高くてコントロールできない人向けのやつだね。アルバにもいたお姉さんなら買ったかも」


魔力が強い人の中には威力のコントロールが難しい人がまれにいる。そういう人のための魔道具は珍しくはあるのだが、需要はというとほぼ皆無だ。


「こっちは風の魔道具だよ。誰でも空を飛べるものだ」


「うわっ、あれ危なそうだね」


「そうだよね。フライって飛べるけど、MPが切れた瞬間に落ちるし知らない人が魔力を込めたら大変だよ」


「ははは、大丈夫だよ。フライといってもこれは調整されていて50cmぐらいしか浮き上がらないように制限がかかってるからな」


「どこで使うんですかそれ?」


「沼とか川とかだな。悪路が汚れずに進めるんで、たまに売れるんだよ。補助魔法の練習をするぐらいなら攻撃魔法を練習したい冒険者にも需要があるぞ。どうだい、あんたも?」


「私は間に合ってますから…。他にはないんですか?」


「実用的なのはこっちの盾が出る小手だな。1つだけだがブレスレットのもあるぞ」


「あ~、それ以外でお願いします」


それ、私作のだよ。


「そうか。人気なんだがな…。後はとスラッシャーがあるな」


「効果は?」


「ウインドカッターが決まった威力で出る。便利だぞ、イメージもいらないし」


「うう~ん。それぐらいなら大丈夫です」


「へ~、あんた風魔法には自信があるんだな。風使いでも威力を毎回、固定するのは難しいからそういう層にはこういう魔道具も需要があるのにな」


「どのぐらいのランクの人が買うんですか?」


「DランクからCランクのやつだな。これで、イメージを固めたり戦闘を有利にすることでいいパーティーに入ったり、昇格を済ませたりだな。売れるんだが、そこそこ中古もあるやつだ」


「こういうのって試し射ちはできないんですか?」


「流石にな~。ただ、オーガにもぎりぎり効くとは聞いたな」


オーガにギリギリ?魔力70の頃の私でかすり傷だったから、100ぐらいかな?どちらにせよ私には実用的じゃないな。でも、こういうものにも需要があるって分かったのは収穫かも。帰ったら作ってみようっと。


「アスカ、魔道具はやっぱり難しいね」


「そうだね~。値段もかなりのものでないと意味がないし」


幾つかアイデアを頭に入れて魔道具のところを通り過ぎる。色んな店が立ち並ぶ時点であまり魔道具を買うのに向いていないのかもしれない。


「じゃあ、次は武器とかだね。アスカが見たいものはある?」


「うう~ん。これこそ私はね~。特殊な矢があればいいけど…」


「そんなものがあるの?」


「言ってみただけ。リュートは?」


「この前、槍というか薙刀だっけ?買ったばかりだしね」


「そうだったよね。防具は?」


「そっちは新調してもいいかも。金属部分がちょっと傷んでいるし…」


「じゃあ、ちょうどだね!あっ、でもジャネットさんと一緒の方がいいかな?防具について私はほとんどわからないし」


私の防具遍歴と言えば、以前使っていた胸当てとハイロックリザードの革鎧だけだ。その二つの品質の違いもさることながら、どちらも革素材。金属製のものに関しては採取用のナイフか矢じり程度なのだ。


「まあ、無知でもないし大丈夫だよ。タイプは似てるけどちょっと違うしね」


「そうなの?」


どっちもスタイルは早さを生かしながら戦うし、鎧も肩当がついてるかぐらいの差なのに…。ちなみにリュートのには肩当というか肩部分は付いてない。槍の可動域の確保のためにはここは諦めろという魔槍からの強い指定らしい。


「僕の場合、受け流すか避けるのが前提。槍はリーチも長いしね。ジャネットさんは最悪、受けても死なないようにする。同じような作りに見えてコンセプトは違うんだ」


「そんな違いがあったんだね」


という訳で防具屋中心に見ていく。


「あそこかな?」


途中で槍主体の武器屋を見つけたのでリュートがのぞく。


「でもあそこ武器屋だよ?」


「大丈夫。剣以外は大体、セットなんだ。防具も専門的になることが多いからね。剣はメインもサブも多く使われるから別れてることも多いけどね」


「へ~、流石物知り!」


「ジャネットさんの受け売りだけどね」


「ふふっ、そうだとしてもそれをちゃんといえるリュートは好きだよ」


「そっ、そう?照れるな…」


「アンタラ客か?」


「あっ、はい。防具なんですが、肩が出ているのありますか?」


「そっちのがいいのか?今はみんな安全も意識して剣士用のを買う奴も多いんだが…」


「師匠がうるさくて…」


「なんだ騎士志望か?大変だねぇ。でも、今だと派手なのは上が嫌がるだろ?こんなのはどうだ」


リュートを騎士志望と勘違いしたのか、割としっかりした作りのを出すおじさん。


「あれ?金属なのにかなりの軽さですね」


「こいつはミスリル製だ。ただ、流石に全部となると高くなりすぎるから、主要部分以外はサンドリザードの皮も使ってるがな」


「いくらですか?」


「こいつは金貨12枚だ。使ってある量を考えたらまあまあ安いぞ」


確か銀製の剣が1本金貨4枚。ミスリルは倍近くするって聞いたから加工もろもろを無視したとしても、同じぐらいかそれ以上使ってるのか…。


「それに金属部分のはみだしは銀だからな。ぱっと見、銀製に見えて相手の動揺も誘えるぞ」


あっ、それは良さそう。銀は付与しやすいけど、魔法耐性なんかはミスリルに劣る。相手の行けるっ!って思いをくじくことは戦いには重要だ。戦闘中の勢いは確かにあって、それに乗って来られると実力差を覆すこともあり危険なのだ。特にそれが顕著に表れるのがオーガ種だ。死ぬ時まで攻めの姿勢を崩さないから、ランクの低い冒険者は勢いに飲まれがちなのだ。


「じゃあ、これを」


リュートが鎧を下取りに出して何とか金貨10枚と銀貨5枚になった。もちろん、ハイロックリザードの革は抜いてたよ。

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