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邸と妖精

 朝ごはんを食べ終え、私はリエールちゃんに邸を案内してもらうことにした。


「ごめんね、リエールちゃんも疲れてるのに」


「いいえ、私たち妖精は人とは違って簡単には疲れません。疲れる時というのは魔力が不足したり自分が持っている属性が弱まったりした時ですね」


「魔力が不足した時は分かるけど、属性が弱まる時って?」


「例えばアウロラなら冬と木漏れ日の妖精ですから、冷気が少ないところ……火山地帯などでは力が下がります。逆に寒冷地でも能力が上がることはほとんどありません」


「あれそうなんだ」


 てっきりその理屈で言うなら、寒冷地だと強くなるのかと思った。


「というのも、私たち妖精は自然半分、この世界の住民としての存在が半分ぐらいなんです。精霊様たちと違って、そこまで影響を受けづらいのですよ」


「あのさ、なんでリエールは私を例に出すの? そこは自分でよくない?」


「あら、私はつる植物ですから、なかなかそういう具体例は思いつかなくて。あなたはこういう質問に最適だから」


 むすーっとしながら私たちの後ろをついてきているアウロラちゃん。ごはん時から少しこんな感じだけど、やっぱりリエールちゃんとお話しできるのは嬉しいみたいだ。


「それにしてもこの邸、調度品もそうだけど廊下とかの装飾もきれいだよね」


「はい。メイドたちに聞いたところアダマスでも重要な港町ですから、その格に見合ったものをとこういう造りになっているとのことです」


「なるほど、やっぱり港町は大事だもんね。他の国のものも入って来るし」


「そのせいで他の妖精たちも行方知れずなんですよ。一隻ぐらい沈めてやらないと!」


 元々自然の中で暮らしてきたアウロラちゃんが物騒なことを言う。


「だ、駄目だよ、アウロラちゃん。そんなことばっかりしてると、良いところも見えなくなっちゃうよ」


「そうよ。過激な事ばかり言っていないで、まずは皆を助ける方が先決よ」


「リエールは前から人と親しいからそう言えるのよ」


「あっ、リエールちゃんって村の外れに住んでたんだよね。村の人たちとも交流を持ってたんだ?」


「はい。ですが、村の人が子供の時だけですね」


「どうして? 別に大人とも交流すればいいと思うけど……」


 大人じゃダメとか何か妖精としての決まりがあるのかな?


「子供は純粋です。私と遊ぶ時も何も考えずに近寄ってきます。私も食べ物に困っていれば分け与えもしますが、大人になってしまうと変わるのです。それを産業にしようとしたり、お金にならない他のつるや木を切り倒そうとしたりします。ようは今まで自分が付き合ったものの価値を知ってしまい、感情だけでは付き合えなくなるのです」


 なるほど、自然に生きている部分もある妖精たちにとって整備された環境っていうのは生きづらいんだ。だから付き合う対象を絞っているんだね。でも、それって辛くないのかな?


「だけど、それだと寂しくない? どんなに仲良くなっても数年でお別れでしょ?」


「別に全く会わない訳ではありません。子供が出来れば挨拶には来ますし、私もたまには植物を通して見てますから」


「あっ、それならよかった。本当に二度と会わないのかと思っちゃったよ」


「そんなことないですよ。この子ってば前に……」


「ちょっと! その話は今は関係ないでしょ!!」


 どうしたんだろう? 今までリエールちゃんって冷静な感じだったのに、一気に感情的になったな。それだけ村でもいい出会いがあったんだろう。


「でも、それだけお互いを知ってるってことは、二人とも結構生きてるんだね」


 私たちと時間の感覚は違うだろうけど、長生きなんだろうなぁ。シルフィード様も元は妖精だって言ってたしね。


「私は今、二百八十六歳よ。どうよ!」


 アウロラちゃんは元気いっぱいにリエールちゃんへと宣言する。しかし……


「あら、アウロラって案外若い妖精なのね。私は三百二十一歳よ」


「えっ!? 嘘でしょ?」


「こんなつまらないことで嘘はつかないわ。よろしくね、妹分」


「そんな! いえ、アスカさんの盟約者としては私の方が姉よ!」


「私たちの年齢でひと月ほどの時間が何の意味を持つのかしら?」


「ぐぬぬ」


「ま、まあまあ二人とも……」


 お互い譲らない二人をなだめつつ、そのあとも伯爵家を案内してもらう。邸の中もそうだけど、外の庭園も素晴らしくて思わず庭師の人に声を掛けたら感謝されてしまった。なんでも、前の伯爵は庭師みたいな裏方には一切声を掛けない人だったみたい。まあ、あんなことする人だし。



「これで一通りは見終わりました」


「ん~。じゃあ、しばらく休むね。案内してくれてありがとう」


 私はリエールちゃんに感謝を伝えると部屋に戻る。今日頑張ってくれてたメイドさんたちにもお礼を考えないといけないしね。


 《にゃ~》


「あれ、キシャルどうしたの? お腹が空いたって? そう言えば朝は見かけなかったね。せっかくだしこれどうぞ」


 私はコールドボックスからキシャルの好物であるアイスをあげる。


「そうだ! せっかくだから、これをアレンジしてあげよう!」


 今回はお世話になったし、きっと喜んでくれるだろう。


「じゃあ、明日頑張るとしてあとはリエールちゃんに協力してもらわないとね」


 頭の中で色々と考えを巡らせていると声を掛けられた。


「ご主人様、お考えも良いですがもう少しお休みください」


「ティタ!? こっちに来てたんだ」


「はい。先ほどリックとリュートが来まして、アウロラのことが片付いたからこちらに来るようにと」


「リュートたちは?」


 私は部屋を見回す。確かにアルナのおうちとティタはいるものの、二人の姿はなかった。


「昨日から駆けずり回っていましたから、二つ隣の部屋で休んでいます」


 あっ、二人は昨日の夜からずっと動いてるんだっけ。仮眠は取ったかもしれないけど、朝から外に出てるんだから大変だったんだろうな。色々としてきただろうから話を聞きたかったけど、今は休ませてあげよう。


「それじゃあ私は明日の準備をしないとね」


 今思いついたことを実行するため、私は厨房にお邪魔してお願いする。あとは今日できることがないので、これでおやすみだ。


「まだちょっと体がだるいんだよね……」


「ご無理はなさらずに」


「うん。ティタ、ありがとう」


 私はティタに返事を返すと、再びツタのベッドで眠った。大きなベッドじゃないのかって?このベッドってなんだかいい匂いがするんだよね。クッション性ならあっちかもしれないけど、今の私に必要なのは癒しなのだ。



「おはようございます。アスカ様」


「リエールちゃん、おはよう」


「今日は会議がありますから先に朝食をどうぞ」


「あっ、持って来てくれてたんだね」


 昨日はあのあと特に何もなく過ごし、いよいよ今日は会議の日だ。今日の朝食も昨日と一緒で豪華かと思ったらそうでもない。きっと、会議で緊張することを考えて少なめにしてくれたんだろうな。


「それじゃあ、いただきま~す」


 美味しい朝食を頂いたあとはいよいよ会議の準備だ。さすがに冒険者の格好ではまずいので着替えるんだけど……。


「あ、あの、モーリアさん。このドレス派手じゃないですか? 別にパーティーに出るんじゃないんですから……」


「いえいえ、貴族にとって会議は重要なもの。ドレス姿でなくては!」


 いや、スリットとか入ってるし、肩はともかく腕とか腰もちょっと出てるんだよね。エロティックとまでは行かないけど、さすがにこれを着る勇気は出ないよ。何か、何か手は……そうだ!


「あっ、あの、このドレスって大丈夫ですか?」


 私は以前、イリス様から頂いた薄い青を基調とし紫のデザインが施されたドレスを取りだす。


「あら、そちらも素晴らしいですね! どちらでお買い求めに?」


「これは人から頂いたんです。何かあった時に着るようにと」


「なるほど、思い入れのあるものですか。ではそちらにいたしましょう。すぐに準備いたしますね」


「あっ、それと靴はもう決まっているんです。これでお願いします」


 私はマジックバッグから一足の靴を取り出す。このドレスに合うようリュートが選んできてくれたものだ。


「分かりました。アクセサリーもお持ちでしょうか?」


「いくつかは。だけど、どれが似合うかは分からないのでよろしくお願いします」


 モーリアさんに残りの飾りも見せると、ドレスと靴に合うように選んでいってもらう。


「こちら頭飾りは髪留めのみにしましょう。本来であればティアラのようなものでも構わないのですが、今回はご自身の領地ではありませんし少し抑え気味で」


「よろしくお願いします」


 私の家の領地なんてないけどね。そうして準備も終わりいよいよ会議の場へと向かった。




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― 新着の感想 ―
[一言] >なんでも、前の伯爵は庭師みたいな裏方には一切声を掛けない人だったみたい。まあ、あんなことする人だし  まあ下っ端に興味が無いとか、そう言うのも有るんでしょうが。  庭師って敷地の植物のあ…
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