表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
513/572

解決策

『アスカ、私を呼びなさい』


 私たちがじりじりと後退する中、頭に声が響いた。この声って……。


「ジャネットさん、ちょっと相手から見えない位置に行きます」


「分かった。不自然にならないように前に出るよ」


 小声で連携を取る。ジャネットさんが近くにいてよかった。


「なんだ? その妖精をあくまでも庇う気か?」


「契約なんでね、自分との」


「愚かだな」


「隊長、腕をお持ちしました」


「うむ。すぐに回復させたいところだが、まずはこの魔道具だ……」


 隊長の腕を回収し、再び魔道具を発動させようとする伯爵家の騎士たち。こちらへの意識が薄れた……今だ!


「我呼ぶは高位なるもの。清浄なりし泉に住み、多くの力を扱うもの。我が求めを聞き、その身をここに現せ! 精霊シルフィード!!」


「はぁ~い、アスカ。危険が迫っていたみたいだけど、どうしたの?」


 私の呼びかけに応えてシルフィード様が来てくれた。どうやら事情を知って呼び掛けてくれたのではなく、私の危機を感じ取ってくれたみたいだ。


「せ、精霊だと……ま、まやかしだ!」


「あら? あの子たちは妖精みたいね。ふ~ん、やってくれるじゃない。人間風情で!」


 おお、シルフィード様が怒っている。でも、貴族を殺しちゃったら不味いのではないだろうか。アウロラちゃんもそうだけど、人間社会のことには疎いみたいだしこの後の解決が難しくなりそうだ。


「大丈夫よ、そこは分かってるから。まあ、伯爵以外は知らないけどね。あと、MPを回復させなさい。人間がこんな愚かなことをしないようにするから」


「は、はい」


 シルフィード様の言葉を受けて私はすぐにマジックポーションを飲む。イリス様からもらった品質のいいやつだ。効き目は他のポーションの比ではなく、すぐに回復した。


「準備が出来たみたいね。それじゃあ……我呼ぶは古きなるもの。根源なる湖底に住み、深淵まで迫る水の力を扱うもの。我が求めを聞き、その身をここに現せ! 大精霊ミネルナ!!」


「はぁ~、今日もファラはかわいいのぅ~。ん? なんじゃ、シルフィードか。何の用じゃ、わしはファラの相手で今忙しいんじゃが……」


 ミネルナ様、前は妙齢の女性だったのに今はファラちゃんと同じぐらいの背丈になってる。アラシェルちゃんみたいに魔力の抑制してるのかな?


「あっち見なさいよ」


「あっち……ほう? ずいぶんなやつらがおったもんじゃな」


 それにしてもシルフィード様、何をするのかと思ったらミネルナ様まで呼んじゃった。もうだめだ、この国は終わったかもしれない。それぐらい精霊様は強くて、魔力も私の四倍はあると思う。


「私の四倍って1,600だもんね。桁違いだよ」


 正直、今回の件はあまり止める気もないし、この状況だと投げやりにもなってしまう。


「いくら精霊だとしても、この状況では……」


「舐められたものね。トルネード!」


 まずはシルフィード様が檻に向かって竜巻の魔法を唱える。完璧にコントロールされた魔法は檻だけをきれいに包み込み、辺りに暴風をまき散らす。


「こ、これでは檻に近づけん!」


「では、わらわも動くとするかの。アクアスプラッシュ」


 ミネルナ様も水の魔法を騎士たちに向けて放つ。


「たかがその程度の魔法! アースウォール……ぐわっ!」


「あのね、魔力の桁がね、違うんだよ。……ははは」


 魔力が200の人間が100の人間に対して使うだけでも優位性を感じるのに、1600や1300の魔力を持った存在が、魔力を200持つかどうかの存在に放つのだ。防げるわけがない。私だって固定威力の高い上級魔法で中級魔法をなんとか相殺することができるかどうかだろう。


「お、お前たち! 私はアダマス連合国家、ラムザス王国のメルボルドル伯爵だぞ。こんなことが許されると思っておるのか!」


「あらら、今度は地位で何とかしようっての。本当にこれだから人間は困るわね。お前たち、控えなさい!」


「うっ」


「くぅ……」


 シルフィード様の一声で、まだ残っていた騎士たちが膝をつく。どうやら強力な威圧をかけたみたいだ。そして、シルフィード様が左にミネルナ様が私の右に来る。


「いい? 一度しか言わないからよく聞くのよ。こちらにいるものを何とする!」


「シュバル大陸はフェゼル王国ティリウス侯爵家出身の一人娘、アスカ=ティリウスじゃぞ!」


「フェゼル王国……まさかっ! 最近隣国のリディアス王国と国交を結んだ国か!」


「そういうことじゃ。連合国家を構成する小国の伯爵風情が、シュバル大陸で影響力を持つ国の侯爵家に敵うと思うてか!!」


 胸を反らして迫力ありげに言うミネルナ様。でも、今は私より背が低いんだけどね。


「って、そんなこと気にしてる場合じゃない! お二人ともなんてことを!」


「どうじゃ? 明日香の観ておった時代劇とかいうものの台詞に近くしてみたぞ」


「あ、いや、お気遣いありがとうございます」


「うむ。わしはできる大精霊じゃからな!」


「アスカ、今の話は……」


「リ、リックさん。今はそれより妖精さんです」


 私は強引に話を戻す。


「そうだねぇ。あとでしないとね」


 伯爵をシルフィード様たちがけん制している間に私たちは檻に近づく。檻を覆っていた竜巻が消えると、ジャネットさんとリックさんが剣で檻を切っていく。


「みんな! 大丈夫?」


「冬と木漏れ日の妖精……来てくれたの?」


「当たり前じゃない!」


 アウロラちゃんが檻の中の妖精に飛びつく。本当に大切な友達だったんだね。


「さあ、もう観念なさい!」


「くくく、どんなに強くとも精霊は精霊。まだだ、わしの手にはまだこれがある!」


「性懲りもないのう。ん? その魔道具は確か……」


「遅いわ! 発動!!」


 妖精たちの力を抑える魔道具が発動し輝く。


「フルイエ・アーレ!」


 しかし、ミネルナ様がそう唱えた途端、魔道具から輝きが失われた。


「な、何だ? 何が起こったのだ!?」


「お主知らんのか? その魔導具にはのぅ、停止命令が入っておるんじゃ。そのコードを言うとしばらくは動かんぞ」


「そ、そんなバカな! この魔道具はダンジョンからの発掘品。太古の魔道具だぞ!」


「そう言われてものぅ。わしは作者本人からコードを聞かされたからのぅ」


「ミネルナ、あの魔道具を作った人を知ってるの?」


「うむ! もう何千……いや、何万年前じゃったかの。ある青年がミネルナ湖へやって来たんじゃ。こういうものを作ったが、壊すこともできんと。せめて停止用のコードを組み込んだからもし悪用されたら止めてほしいとな。誰の手にも届かんところに隠すとは言っておったが、ダンジョンが飲み込んでしまったようじゃな」


「ん~、そっか。それだけ前なら私はまだ一介の妖精だったし、知らないわね。流石は湖底の大精霊!」


「任せておくのじゃ!」


 うう~ん、ミネルナ様の方が元の格は上だし長命だけど、シルフィード様には勝てない気がする。


「まあ、そういうことだから」


「ぐおっ!」


 シルフィード様が伯爵に風を当てて気を失わせる。


「さ、これであなたたちの戦う理由もなくなったわね。これ以上の手出しをするなら……」


「ぐっ」


 今度は反対に主を人質に取られた騎士たちの動きが止まる。相手は騎士といってもこんな相手に付くぐらいだから、忠誠心は高くなさそうだ。


「ふむ、動きを止めたのう。制圧するのじゃ!」


 ミネルナ様が水の魔法で騎士たちを縛り上げる。あとは私たちがロープで縛って終わりだ。


「ちっ、思ったより人数が多くてロープが足りないねぇ」


「あ、あのっ! これをどうぞ」


「おっ、悪いねぇ」


 人に捕らえられていたからか、おびえながらも自分を助けてくれたジャネットさんに木妖精の子がロープ代わりのつたを出してくれる。木妖精だけあって茶色い髪に緑の服をまとって、羽根を動かしている。一人ぐらいなら……。


「おっと、アスカはこっちよ」


「へっ?」


「『へっ?』じゃないわよ。こいつら消したら不味いんでしょ? 処理できそうな人のところでしてもらわないと」


「処理できそうな人?」


「行けば分かるって。それじゃあ、ミネルナ。こっちは頼むわよ」


「任せるのじゃ!」


「適当にやった眷属化だけどしておくものね。離れていても簡単に位置が分かるわ。かの地とこの地を結ぶ扉よ、開け! ゲート」


 シルフィード様が魔法を唱えると目の前に歪んだ空間が広がる。一体どこに行くのかな?


「それじゃ、行ってくるわね~」


「行ってきます」


「ああ、頑張りなよ」


 ジャネットさんたちに挨拶をして私とシルフィード様は歪んだ空間に入って行く。




「ん~、明日は久し振りの休みね。今日の夜はゆっくり過ごしましょう。まずは恋愛小説でも……」


 私は机の奥から小説を取り出し開こうと……。


「ふむ、中々いい部屋ね。話をするにはちょうどかしら?」


「何奴!!」


 目の前にいる人がこちらにナイフらしきものを投げる。


「あら、生意気になったじゃない、エディン」


 パチッ


 シルフィード様が指を鳴らすと音も立てずにナイフは床に落ちた。


「シ、シシシ、シルフィード様っ!!ご、ごご、ご無礼を……」


 相手を視認したエディンさんは一瞬で土下座の態勢を取る。うう~ん、この場合悪いのはいきなりお邪魔した私たちの方なんだけどなぁ。


「今回は緊急事態だから許すわ」


「緊急事態? そういえば、そちらはアスカ様ですね。アダマスから船に乗るはずがどうしてこちらに?」


「あ~、ちょっと面倒なことになって」


「その説明をしたいからここの領主を呼んでくれる。まあ、私が連れてきてもいいけど」


「すっ、すぐに呼んでまいります!!」


 乗り移られるのが嫌なのか、すぐにエディンさんは部屋を出ていってイリス様を呼びに行った。


「シルフィード様の言っていた『処理できそうな人』ってイリス様のことだったんですね!」


「ええ、アスカが信頼している中であそこと距離も近いしね。シェルレーネ様の巫女でもよかったけど、あっちはさらに大ごとになりそうだし」


「確かに」


 世界中に信者を持つシェルレーネ教の巫女様が『妖精を捕らえた不届きものを捕らえよ!』なんて言ったら、戦争どころか世界中の信者まで乗り込みかねない。それだけは避けないと。


「んもぅ~、こんな深夜にアンタの部屋に来客って何よ、エディン。失礼な客もいたものね!」


 あっ、イリス様の声だ。相変わらず、響きのいい声をしてるなぁ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あ~もうメチャクチャだよぉ~ 精霊様とりあえず助かったけど、水戸黄門ごっこでアスカの身分バレはアカン! おかげで今回の敵は全員殺さなきゃいけなくなっちゃったよ!(面倒が無くてちょうどいい)
[良い点] 前作よりいつも楽しく拝読させて頂いてます!最近またちょいちょい更新があって嬉しいです。 困った時にはお助け精霊さんズ!優しいキャラが多い点も好きです。 [気になる点] たまに気になってる点…
[一言] >「冬と木漏れ日の妖精……来てくれたの?」  アウロラの属性が氷と光か。  んで北の一部地域でしか出ないオーロラ。  あー、うん。 オーロラの名前自体が答えか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ