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侵入、地下通路

 私たちはアウロラちゃんの作戦に基づいて配置につく。


「それにしてもリック。あんた良かったのかい、実家に迷惑がかかっちまうだろ?」


「まぁな。だが、話を聞いて黙っていられるようなことではないだろう。それに、今回の事件は精霊様に手を出すようなことだ。精霊様や神に連なるものに手を出すことは国際法で禁じられている。妖精の売買もそれに類することで禁止事項だ。今回のように違法を承知でする愚かな貴族はいるがな。それにここで引き下がったら騎士の名折れだ」


「ありがとな」


「ふっ、任せておけ。事後処理に絡めばこの国を出るぐらいで済むだろう」


「まあ別に未練もないし構わないか。じゃあ、用意をするかね」


「ああ」


「リュート、緊張するね」


「うん。でも、アスカは目的を忘れないようにね」


「頑張る」


 本当に頑張らないと。アウロラちゃんの作戦は大変なものだから。



「凍れる氷河よ……壁を打ち崩せ!」


 精霊魔法を使ってアウロラちゃんが離れに張られていた結界を吹き飛ばす。


「今だ!みんな行くよ」


「ああ」


 私は光学迷彩もどきでみんなを隠したまま、離れの敷地に入る。そしてすぐに敷地の角に隠れる。あとはこのままアウロラちゃんを見守るだけだ。


「な、何だ! あいつらの仲間か?」


 離れの方からは五人ぐらい男が出て来た。剣の他にも杖を持った人もいる。


「喰らいなさい! 氷河よ!」


 相変わらず、アウロラちゃんの方は詠唱も何もない感じで魔法を使っている。効果も手のひらを突き出しながら、足元から発生するなど滅茶苦茶だ。人間の魔法ではなかなかこうはならないだろう。


「うわぁ!」


「くそっ、このままじゃやばいぜ。隊長を呼んでこい!」


「はいっ!」


 すぐに一人が離れの奥に入って行く。そして一人の男を連れて戻って来た。


「ちっ、まだいたのか! だが、これさえあれば!!」


 男が手に持った何かしらの魔道具を発動させる。視覚的には何も分からないけれど、魔力の流れだけは感じる。


「うぐっ!」


 その魔道具の発動と共にアウロラちゃんに異変が走る。苦しそうに片膝をつき、魔法も発動させようとしながらも実際には発動しない。これが、他の妖精たちを捕まえた魔道具なんだ……。


「ふん、いくら魔力があろうともこの魔道具の前では無力だ!」


「くっ、くそっ!」


「おい、こいつも奥にぶち込んでおけ!」


「はっ!」


 さっきまでいいようにやられていた男たちがアウロラちゃんの腕と頭を掴んで無理やり中に運んでいく。


「あの人たち……」


「ア、アスカ落ち着いて。魔力が漏れ出してる」


「でも!」


「アスカ、アウロラの覚悟を無駄にする気かい?」


「……分かりました」


 私はなんとか心を落ち着けその場に留まる。


「ん?何か変な感じが……」


「どうしました?」


「いや、あと一人ぐらいどうとでもなる。それより、今回で一旦打ち止めだ。多いに越したことはない」


 男たちが去っていくと私たちは一度周囲を警戒する。さっきの魔道具か魔法陣によって維持されたバリアが復活した感覚はない。


「アスカ、アウロラの位置は?」


「地下に行ってます。隠し通路だと手間ですね」


「きっとご主人様なら魔力の糸を辿れると思います」


「分かった。その時が来たらやってみるよ!」


 せっかくアウロラちゃんが作ってくれたチャンスを生かすためにも頑張らなきゃ! 周囲を確認すると私たちも静かに建物に入って行く。


「中は人の気配がほとんどありませんね」


 風の結界で音を閉じ込めながら会話する。


「まあ、これだけ違法なことしてたらねぇ。まともな人間を入れるのも難しいしね」


「お陰で見張りも少なくて助かるな。以降はばれないように斬り捨てていくかどこかに気絶させて放り込むしかないな」


「仕方がありません」


 あまり人を斬って欲しくはないけど、妖精たちを捕まえるような人間に遠慮をしてみんなが傷つく方が嫌だ。そして、アウロラちゃんの魔力を辿りながら地下へと進んでいく。


「どうだ?」


「まだ下です。でも、道が……」


 地下二階まで降りたところで行き止まりに辿り着いた。


「ご主人様、何とか見つけられませんか?」


 アウロラちゃんの事情を聴いたティタも心配そうに私に語り掛けてくる。


 にゃ~


「キシャル? 自分の氷の魔力を使って魔力を繋げろ?」


「そんなことできるのかい?」


 にゃ!


 ジャネットさんの問いにキシャルは力強く返事をする。キシャルも今が自分の力を生かす時だって分かってるんだね。


「よ~し、私も負けてられない!」


 意識を集中してアウロラちゃんの魔力を辿る。辿り始めると横からキシャルの氷の魔力を感じる。その氷の魔力を意識すると似た魔力が壁の向こうに感じられた。


「あった!」


「本当かい?」


「はい、ありがとうキシャル」


 にゃ~


 まあな、とキシャルが返事を返してくれた。本当に助かったよ!


「んで、壁はどうやって開けばいいのかねぇ」


「スイッチか何かがあるはずだ。ここまで来るのが難しいからさしたる仕掛けでもないだろう」


「本当かねぇ」


「さっき外に出てきた奴らを見ただろう?あいつらの頭でも開けられる仕掛けでないといけないからな」


「そう言われると納得だねぇ」


 調べるとすぐに色の違うブロックが見つかった。


「これだな。念のため、準備をして入るぞ」


「はいっ!」


 私も意識を集中させて装備を確認する。


 ゴゴゴ


 壁の扉が開き、新たに地下への通路が現れた。そして、再び降りていく。


「この先です」


「やはりネズミがいたか……」


 私たちが広い場所に出た瞬間、辺りが明るくなる。


「ちっ、待ち構えてたとはねぇ」


「それだけではないぞ。いくら、冒険者を連れて来たところで無駄だ。お前自身は力が出せまい!」


「へっ?」


 私を指差してそう言った隊長の男の台詞に思わず変な声がでた。まさか、私も妖精だと思われてる?


「なるほど、向こうは判別まではできないみたいだな」


「アスカはそう見えてもしょうがないしねぇ」


 小声で二人はそんなことを言ってくる。リュートは……視線を逸らされた! 


「なんで!」


「何をごちゃごちゃ喋っている。これを見ろ!」


「うっ!」


「アウロラちゃん!」


 隊長が後ろから出してきたのはアウロラちゃんだった。まだ体調が万全じゃないみたいで、男二人に肩を抱えられている。


「なんでこんなことを、みんなを攫って!」


 とりあえず、時間を稼ぐために妖精のふりをして男とに話しかける。


「決まっているだろう、儲かるからだ」


「それにこの力があればこの国……いや、この大陸を手中に収めることもできる!」


 奥からさらに人が出て来た。装飾も豪華なことを見ると、どうやらこの人物がこの地を治める伯爵みたいだ。


「そんなことどうやって!」


「決まっているだろう? 今のお前たちのようにこうやって仲間を餌に使うのよ。今日までは捕らえて売ることで資金を集めていたが、明日からは違う! いずれは精霊をも手中に収め、大陸の覇者になるために動くのだ!」


「そこまで大それたことを考えていたとはな」


「何だ貴様は? そいつの子飼いか。残念だが、そやつは妖精。冒険者風情が加担しても金にならんぞ?」


「見くびらないで欲しいもんだねぇ。報酬云々なんて些細な事さ。お前みたいなゴミに加担するよりはね」


「言わせておけば! さあ、降伏しろ。さもないとこいつの命はないぞ!」


「その前にまずは抵抗する気をなくしてやろう」


 そう言うと隊長の男はさっき地上で使った魔道具を発動させる。不味い、このままだとまた……。


「甘いわね。アイスコフィン……」


 アウロラちゃんがそういうと、隊長の魔道具を持っている腕が凍り付く。


「なっ、なにっ!? どうしてこの魔道具を使っているのに魔法が……」


「その足りない頭で考えなさい!」


 アウロラちゃんはそう吐き捨てると、凍った腕を蹴り上げて腕ごと魔道具を男から離す。


「ぐあっ!」


「アスカ、今のアウロラの言葉……」


「わっ、私じゃありません! あんなこと言いませんって」


 私がジャネットさんに弁明していると、アウロラちゃんを拘束していた男たちが向かってきた。


「戦闘中によそ見とは舐めやがって!」


「こういうのは余裕って言うんだよ」


 ジャネットさんが左の男を剣で斬り捨て、右の男にはパンチをお見舞いする。


「ふん、この程度であたしに向かってくるなんてね」


「ぼ、冒険者風情が! であえ、であえーー!!」


「おおっ!! とうとうあこがれの台詞が!」


「また何に感動してるんだか」


「そんなことを言っている余裕はないようだ。かなりの腕だな」


「伯爵家お抱えってことかい」


 伯爵が声をかけると奥から十人の騎士が出て来た。それぞれ、CランクからBランクぐらいの実力がありそうだ。


「それだけではないぞ。おい!」


「はっ!」


 じゃらじゃらと音がすると、奥から大きな鉄の檻が出て来た。中にはアウロラちゃんの友達とみられる妖精たちが入っている。人数も20人近くはいそうだ。


「あんなに……」


「あんたら!」


「さあ、どうする? 実力があってお前たちが戦えてもこいつらの命はないぞ?」


「卑怯な……」


「何とでも言うがいい。勝てばよいのだ!」


「ぐっ!」


 こうされると私たちではどうしようもない。助けるのが目的なのに手を出すことができない。私たちが手をこまねいていると、相手は距離を詰めて来た。



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