来訪者
アウロラちゃんとアルナが少し離れたところで食事を取っている間、私たちは焚火を囲んで食事を取る。今日はメインがお肉だからこうなっちゃったけど、今度お野菜が大量に取れたらみんなで食べたいなぁ。
「そんで、今日のメニューはなんだい?」
「今日はピアースバッファローをぜいたくに使ったリブボーンステーキです。他には口の中をさっぱりさせる野菜入りのスープですね。あえてパンは出してません」
「まあ、あんだけ獲れりゃあねぇ……」
十三頭ものバッファローを処理するのも大変だ。私たちで食べる量も知れている。そんな中でも少しでも消費しようとパンなしなのだろう。
「でも、私はできればサーロインがいいなぁ」
「そう言うと思って、アスカのためにこっちで別の鉄板に乗せて焼いてるよ」
「あっ、ほんとだ! ありがとう、リュート」
「そんなこと言って、本当はキシャルがうるさかったからだろ?」
「ち、違いますよ。本当だからね、アスカ」
「うん、信じてるって」
ただ、キシャルが言ったのも本当だろうな。現に今、凍らせた肉を地面に落として食べてるし。グルメなキシャルは今日も今日とて肉を焼いたあとで凍らせている。ほんとにどうしてこんな子に育ったのか。
「さ、私も食べよう!」
ジャネットさんたちはリブボーンステーキの突き出した骨をうまくつかんで食べている。見ているだけでも美味しそうだ。まあ私は服が汚れそうだからやったことないけど、憧れはするよね。いつかボロ布みたいになった服で試そう。それよりも今はこっちだ。私は手元に視線を移すと、鉄板の上でナイフとフォークを使って切り分けていく。
「アスカは相変わらず最初にそうやるんだねぇ」
「変ですか?」
「いいや、お行儀がいいと思ってね。もらい!」
「あっ……味はどうでした?」
「なんだい、面白みがないねぇ。美味しいよ。でも、早く食べないと硬くなるからさっさと食いな」
「は~い」
私はジャネットさんに注意されてすぐに肉を口に含む。……見た目通り赤身であっさりとしてておいしい。それに、脂が少ないからかジュムーアの肉より歯ごたえがある。最初はちょっと少ないかも? って思ってたけど、これぐらい歯ごたえがあるならこの量でちょうどかな?
「スパイスのおかげか臭みもないしいっぱい食べられそう!」
「本当? もう少し焼こうか?」
「あっ、いや、それはやめとく」
ほんとにリュートが焼くともう一枚! ってなりそうだし。ジャネットさんやリックさんほどじゃないけど、リュートも食べるからなぁ。そんな定規で追加されたら絶対残しちゃうよ。肉はいっぱいあるけど、残すのは良くないからね。
「ふぅ~、食った食った。今日はこんだけだったけど、明日はちょっと少なめだね」
「そうだな。少しホルモン系も入れながら、肩やすねの方でも食べるか」
「いいねぇ~。こうエールを…おっと、今は外か」
「そうですよ。それに明日は町に入る予定です」
私は地図を広げながら明日の予定を確認する。
「明日は…ミルカリス王国の首都ミルカリスか。どんなもんかねぇ……」
「あまり期待しない方がいいぞ。アダマスは十以上の国の集まりだ。確かミルカリスはその中でも小さい国だったはずだ」
「あっ、ほんとですね。最初に入ったところの半分あるかないかの国土です」
「せめてメリサリアぐらいの規模はあって欲しいねぇ」
「さすがにそれぐらいはありますよ」
「明日は早いんですよね。そろそろ寝ませんか?」
「何だいリュート、もうへばったのかい?」
「そういう訳じゃありませんけど、このままこうしていてもと思って」
「まあ、良い判断じゃないか? 慣れない土地だし、アウロラだって強いといっても今日は戦いで疲れただろうからな」
「あっ、そのことなんですけど……」
「何かあるのかい?」
「何かってわけじゃないんですけど、アウロラちゃんって村にいた時は夜空を見て寝てたらしいんです」
「それがどうしたんだ?」
「それで、さっき今日は誰のテントで寝るのって言ったら、私のテントの上で寝るって」
「ひょっとして空を見ながら?」
「そのつもりみたい。どう思います?」
「う~ん、これがただの村人ならやめさせるけど、アウロラだからねぇ。テントの配置を見直せば行けるか?」
「今のテントの位置はアスカが中央ですから、そのままでも行けると思います」
「それは都合がよかったね。ならそれで行くか。見張りはあたしとリックとリュートで」
「えっ⁉ 私は?」
「アスカは結構魔力も消費してて疲れてるでしょ? 途中ちょっとふらついてたし」
「あっ、うん。実はちょっとだけ……そこまで魔法を使った覚えはないんだけど不思議だよね」
「そういうことなら、なおさらだね。順番はどうする?」
「ジャネットからでいいだろう。次は任せろ」
「げっ! あんたが次じゃなくてもいいんだけど……」
「それだと、朝飯が遅くなるだろう?」
「……しょうがないか。リュート、最後は頼むよ」
「分かりました。じゃあ、早速寝る準備をしてきます。アスカはアウロラちゃんに伝えてきて」
「分かった」
夜の予定が決まったところで私はアウロラちゃんの元に向かう。
「ご飯どうだった?」
「美味しかったです。この小鳥が食べなければ余計に」
「アルナほんとに食べちゃったの?」
ピィ……
アルナがごめんなさいと頭を下げる。うう~む、ここまで素直だなんてティタに怒られた時みたい。実はアウロラちゃんに結構怒られちゃったのかな?
「小鳥には自然の素晴らしさと恵みの大切さを教えておきました」
「アッハイ」
思わず即答しちゃったけど大丈夫だったのかな? まあ、怪我をしてる感じはないからよしとしよう。それより本題に移らないと。
「そうだった。アウロラちゃん、ほんとに今日は私のテントの上で大丈夫?」
「はい。こちらこそお邪魔します」
「ううん、何か危険があったら言ってね! 駆け付けるから」
「分かりました。今日はもうお休みですか?」
「私はね。他のみんなは交代で見張りがあるの」
「なるほど……それで」
「アウロラちゃん?」
「いえ。では、ごゆっくりお休みください」
「うん。アウロラちゃんもお休み。アルナ、おいで」
ピィ!
やっと解放されると元気にアルナがこっちに来る。
「さて、私もみんなの好意に甘えて寝よう」
もう一度、焚火のところに戻りみんなにあいさつを済ませる。
「それじゃあ、お先におやすみなさい」
「はいよ。朝またね」
「はい!」
「良く休むんだぞ」
「分かりました」
「朝ごはん用意しておくからね」
「うん!」
みんなにあいさつしたらいよいよベッドインだ。その前に…。
「アラシェル様、新しい出会いに祝福を……」
恒例となっているアラシェル様への祈りを済ませる。今日は大人版アラシェル様の日だ。
ピィ
「アルナはもう眠たいの?それじゃあ、おうちに入ろうね」
アルナ用のおうちを出してあげるとすぐに中に入り、寝息を立てだした。
「疲れてたのかな? 私もお休み」
こうして、今日も一日お疲れ様だ。私は朝までゆっくりと眠りについた。
「ふん。この気配は人間ね」
私はアスカさんが寝たことを確認するとある一点を見つめる。どうやらそこには人間がいるらしいが、その気配は邪悪だ。ここにいる人間とは違う。
「ん? アウロラ、どこへ行くんだ?」
「用事」
「あっ、待てって!」
ジャネットがついてくるのを振り払って私は木々が生い茂っているところへ向かう。奴らの位置は木が教えてくれる。
「頭!あの煙、どうやら上手くいってるみたいですぜ!」
「おうっ!しばらく、派手に動いたから罠にかかるやつなんざいないと思ったが、馬鹿な旅人か冒険者が引っかかったみたいだ」
「でも、冒険者なら見張りが立ってますぜ?」
「大丈夫だ。もう少ししたらバキスを大回りさせて…うん?」
何か目の前の草が動いたような…。
ドサッ
「か、頭っ!!」
「ひぃっ!? 頭が落ちた」
「どっ、どっからだ?」
「……遅い」
一瞬で前にいた男の首を切ると、私は空へと跳び上がる。そして、周囲にいた男たちに気づかれぬまま、風の刃を出して首を落とした。
「ふむ。風の魔法は使い勝手がいい。氷の魔法だと飛び散るか処分に困っていた」
「おっ、おい、アウロラ!急に走って……こいつらは⁉」
「来たの?邪悪な気配を感じたから」
「感じたからってこれはなぁ。まあ、こういうことだとは思っていたけどねぇ」
「ジャネットも探知が得意?」
「いや、状況からな。ほら、あたしらの泊まってるところって、かまどはあるし薪はあるし親切だっただろ?」
「でも、優しい置き土産だってアスカさんが」
「まあ、アスカのやつはね。純粋だからねぇ」
少し困った顔でジャネットが言う。純粋なのは良いことではないの?
「それよりも色々あるのに他の冒険者や商人がいなかっただろ?」
「うん、でもそういうこともあるんじゃない?」
「あんだけ色々物があるんだ。普通は今日出発した何組かはもういるはずさ。あたしらみたいに村に泊まりそびれたやつらや、少しでも早く目的地に着きたいやつらがね。でも、誰もいなかっただろ? だから、飯の準備をしている時にリックたちと話してたのさ。これは仕組まれてるかもねって」
「それで、私について来たの?」
「まあね。心配だったしさ」
「心配いらないわ。ほら」
私は地に伏せた人間を見せる。
「こうなるから心配だったんだよ。こいつらどうするんだい?」
「どうって放っておけば?」
おかしなことを言う。
「はぁ~、別方向に問題児が増えたねぇ。こいつらも街へ突き出せば金になるんだよ。もちろん生きてる方がいいね」
「でも、消しちゃった方が確実よ」
そうすれば、次に襲われる人もいない。
「いや、まあ単純に考えたらそうだけどさ、こいつらだって街で引き渡しをされればそう簡単には出てこれないから。それにアスカだってあんたがこんなことしてたって知ったら悲しむよ」
「アスカさんが?」
「そうさ。全く、こういう時に容赦ないところまで似てるなんてね」
そう言われれば気に留めておこう。
「分かった。今度から気を付ける」
「ああ、そうしてくれると助かるねぇ。とりあえず、残りがいないかとリックに知らせるか」
そう言うと、ジャネットは戻っていった。
「おい、アウロラも来な。説明しなきゃならないだろ?」
「あっ、うん」
全く人間は面倒だ。




