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解体と野営

「作業終わりっ! 手伝ってくれてありがとう、アウロラちゃん」


「いえ、役に立てたなら良かったです。これからどうするんですか?」


「う〜ん、まだリュートの方は終わりそうにないし、部位ごとに分けたお肉の洗浄と乾燥かな?」


 私たちは手分けして角を落としたけど、リュートの方は一人作業だ。一応、今はリックさんも皮を剥ぐ工程はしてくれてるけど、どうしても肉を部位ごとに切り分けるのには時間がかかる。


「リュート離れなさい」


「うん、ありがとうティタ」


 少し切り分けると、血が流れるのでティタが水魔法で洗浄する。一頭が終わればまた洗って、最後はアルナの風魔法で乾燥させている。


「私は気が乗らないので見張りをしてます」


「うん。ごめんね、ここまで手伝ってくれて」


「いいえ、役に立てて良かったです」


 言葉少なくアウロラちゃんがジャネットさんと見張りを交代する。


「アウロラのやつなんだって?」


「やっぱり、魔物の死体とかが駄目みたいで……」


「あ〜、まあ無理ならしょうがないさ。肉にもあの反応だしねぇ」


「そうですよね。ここまでやってくれただけでも感謝ですよ!」


「まっ、見張りをしてくれるだけで文句もないしねぇ」


「アスカ〜、乾燥手伝ってあげて!」


「は〜い」


 ジャネットさんと話していると、リュートからアルナの応援を頼まれたので駆けつける。


「アルナ、大変でしょ。あっちの手つかずの方を任せてもいい?」


 ピィ!


 私の言葉を聞いてアルナが元気に返事をしてくれる。可愛いなぁ。おっと、作業しないとね。



 その後も作業を進めていったけど、なにせ十三頭は多かった。結局、二時間以上足止めを喰らいつつ、私たちは何とか作業を終えた。


「お疲れさま〜」


「お疲れ様アスカ。今回は大変だったよ」


「あはは、リュートはずっと肉を切ってたもんね」


「十三頭だからね。当分はもういいよ」


「でも、これで道中の食事には困らないね。いい値段で売れたら良いなぁ」


 アウロラちゃんは肉を食べないから、消費するのは四人だ。全長三mもあるバッファローたちを毎日食べてもここから港町まで食べられるのは三頭分ぐらいだろう。


「売るならちまちま売らないとねぇ。安く叩かれちまうよ」


「ジャネットさん! そうですね。でも、処理に時間がかかっちゃいましたから、この先のヤルトー村では売れないですよね」


 ヤルトー村はここから三時間ほど歩いた場所にある村だ。少しだけ街道を離れるけど建物で休みたかったから目的地に設定していた。でも、もう夕方だし今から向かっても入れてもらえないだろう。


「そうだねぇ。今夜は野営に切り替えるから行くことはないね。明日、わざわざ向かっても儲けはしれてるだろうしね」


 村に売れて二頭まで。この辺じゃ、それなりにいる魔物だろうから一頭あたり銀貨二枚になるかどうかかな?悪くはないけど、それなら街道を行って偶然商人に会えば売るぐらいの方がまだマシだろう。


「埋め終わったぞ」


「リック、ご苦労さん。じゃあ、出発するか!」


「おいおい、ジャネット。少しぐらい俺にも休憩をくれ」


「しょうがないねぇ。五分だけだよ?」


「流石はジャネット。悪いな」


「いちいち言わなくていいから休みなよ。全く…」


 もう少し休めそうなので、私もシートを敷いて座る。


「リュートも座ったら?まだ二時間ぐらい歩くし」


「そうだね。失礼するよ」


「アウロラちゃんは?」


「私は見張りを続けます。気にしないでください」


「移動中でも疲れたら言ってね。みんな気をつけるから」


「はい。ありがとうございます」


 さっきから見張りを続けてくれてるアウロラちゃんは、一向に疲れた様子を見せない。村から出てきたばっかりなのにすごいなぁ。私が街に出てきた時は……思い出すのはやめよう。私は未来に生きるのだ!


「さぁて、出発するか」


「そうだな」


 休憩も終わり、シートを片付けると今日の野営地に向けて出発だ。


「そういえば野営地はどんなところでした?」


「あん?リュートは地図見てないのかい?」


「はい。作業に夢中で……」


「二時間ほど歩いたら街道横にスペースがある。そこだよ」


「街道横の共有スペースですか。楽でいいですね」


「ま、今から村に行って交渉するよりはね」


 たまに野営で使う街道横の共有スペースは前の人が使ったかまどや、薪なんかも残っていることがあるので野営も楽だ。それに魔物たちも追い払われた経験があるので、なかなか近寄らない場所なのだ。


「ただ、見張りだけはきちんとしないとな。野盗が出たら面倒だぞ」


「そうですね……」


 唯一の問題は野盗の存在だ。あいつらはそれを逆手に取って襲ってくるので、安眠が妨げられる。


「野盗?」


「あっ、アウロラちゃんの村の近くには居なかった?」


「いた。いえ、いました」


 一瞬で顔つきが変わるアウロラちゃん。背中に羽根が生えていることといい、野盗となにかあったのかな?そう思いながらも私たちは街道を進む。さっきのイレギュラー以外は何もなく目的地まで行くことができた。



「ここが今日の野営地か。なかなか良い設備だな」


「本当だねぇ。かまどはもちろん、薪も一晩とはいわないけど残ってるし、テント用の杭の予備もあるね」


 かまどに関しては残っていることが多いけど、薪がまとまって残っているのは珍しいかも? 雨の日とかだと木は湿気てるし、探す時間が確保できない時はとりあえず火を起こしたいから、マジックバッグに余裕があればみんな三つぐらいは塊を持っている。特に火の魔法を使える人がパーティーにいないところは貴重なのにな。


「まぁ、ありがたく使わせてもらうか日暮れも近いし」


「そうですね。先に火を起こしてご飯だけ作っちゃいましょう。私はその間に薪を補充して来ます」


 幸い、視界の中に林が見えるので木々の間を()くように切って加工しよう。


「それなら僕はすぐに肉を焼いていくね。野菜は先に出しておくよ」


「お願い。じゃあここのかごに入れといて。アルナたちの分と分けるから」


「分かったよ。ジャネットさんたちは見張りとテントの設営をお願いします」


「はいよ」


「了解だ」


 力仕事をリックさんたちに任せて私は火を起こす。


「リュート! 火は起こしたからあとはよろしくね」


「ありがとう」


 料理をリュートにお願いして、私は木を切りに行く。


「う〜ん、夜明けまでに必要な薪はこれくらいで、あとは朝と次の人の分かな?三本くらい切っておこう」


 余っても誰かが使ってくれるしね。私は木を切ると枝を落とし適当な大きさに切っていく。


「あっ、そうだ! せっかくだしテーブルと椅子も作ろう」


 プラス一本、太めの木を選んで加工する。あとは温風で乾かせば完成だ。私が薪と家具を作り終えて帰ってくると、辺りにはいい匂いが立ち込めていた。


「あっ、もうすぐ完成しそう?」


「うん。あと10分ぐらいかな?」


「それじゃあ、持って来た薪はここに置いとくね。あと椅子」


「ありがとう」


 私はリュートに椅子を差し出すと、風の魔法を使って匂いをコントロールする。一応アウロラちゃんは風上にいるけど、好きな匂いじゃなさそうだからね。


「ジャネットさん!リックさんもこれどうぞ」


「おっ、椅子まで作ったのかい。ありがとな」


「これで少し楽になるな」


 お次はアウロラちゃんだ。特に興味無さそうに辺りを見てるけど、見張りをしてくれてるのかな?


「アウロラちゃん、はいこれ。椅子だよ」


「ありがとうございます」


「見張りをしてくれてるの?」


「はい、二人はテントの設営で忙しそうだったので」


「ありがとう。そういえば、今日は誰のテントで寝るの?」


 テントは各々持っているものの、二人が入れそうなのは私のぐらいだ。元々、ジャネットさんとか誰かと一緒に寝たくてちょっと大きめのを選んだんだよね


「私ですか?別にどこにも入りませんけど……」


「えっ⁉ それじゃあ、どこで寝るの?」


「う~ん、一番大きいのはアスカさんのですからそのテントの上でも」


「テントの上? それなら中に入ればいいのに……」


「いいえ。いつも夜空を眺めながら寝ていたので、その方が落ち着きます」


「アウロラちゃんがいいならいいけど……」


「アスカ~、ご飯できたよ!」


「あっ、リュートが呼んでる。アウロラちゃんも行く?」


「私は肉が苦手なのでいいです。こっちで食べておきます」


「そう。それじゃあ、行ってくるね。そうだ! アルナも一緒に食べてあげて」


 ピィ!


 同じ野菜好きのアルナと一緒に食べてもらうことにした。


「ご飯はここに入れておくからね。アルナ、あなたの分はこっちだから横のは食べないでね」


 ピィ


 少し不安だけどちゃんと返事をしてくれたアルナを信頼して私は焚火の方へと向かう。


「アウロラちゃんは来ないって?」


「うん、やっぱり肉が苦手みたい」


「おいしいのにねぇ。まっ、個人の好みだし、あたしは多く食べられてラッキーだけどね!」


「それならどっちが食えるか勝負するか?」


「いいねぇ……といいたいところだけど、こんなうまい肉を焦って食うのはもったいない。ゆっくり食べるよ」


「そうだな。じゃあ、スープを入れよう」


「んじゃあ、あたしは肉だな。あっ、見張りは…」


「私がしておきます」


「悪いねぇ、ティタ。後でアスカがいいやつを出してくれるよ」


「そっ、それは……」


「ありがとうございます、ご主人様」


 言葉の端から感じ取れるティタの喜びよう。これはほんとに良いやつを出さないとあとで面倒だな。私はそう思いながら自分の椅子に座って配膳を待った。




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