アウロラの実力と次の町を目指して
町を出発した私たちは街道をしばらく進み、周りに人がいないことを確認する。
「まずはアウロラ。あんた魔法は何が使えるんだい?」
「魔法ってこれ?」
アウロラちゃんが腕を前に突き出すと、氷の塊が飛んで行く。
「あ、ああ、そういうのだけど、あんた魔法も知らないのかい?」
「これが魔法なら色々使える」
そう言うと、アウロラちゃんは色々な氷魔法を見せてくれた。最初は氷の塊、そこから削り出した槍や剣に一気に塊を砕いた後は、それを勢いよく放つブレイズ系の魔法へ。ひとつの魔法から多種多様な魔法につなげる辺り、本当に才能があるんだなぁと思わされる。
「こりゃあ参ったね。リックはどう見る?」
「魔力操作を入れてBランク相当だな。即、魔法兵団に入団できるレベルだ」
「アスカはとんでもない拾い物をしたみたいだねぇ。とはいえ、魔法の事には無知だし、どうやって今まで練習してきたのか」
そう、何とこれだけの魔法の才能を見せながら、アウロラちゃんは魔法の名前を知らなかった。私も最初の頃は夢中で使っていたけど、それにしても、文化的な暮らしをしていればいくつか覚えていそうなものだけど…。
「これが今までの私の魔法。今度は今の魔法を見せる」
「えっ!?」
一瞬、言っている意味が解らなかったが、次の瞬間にそれを理解した。
「氷塊よ、砕けて全てを刺し貫け!!アイシクルバースト!」
そう叫ぶと、アウロラちゃんの目の前に大きな塊ができ、爆音とともに砕け散った氷の破片が周囲へと飛んで行く。
「うわぁ…」
「凄いね、この子」
「へへっ、どうですか?」
やってやったぜ! という顔で私の方を向くアウロラちゃん。
「すごい、すごいよ!アウロラちゃん」
「やっぱりですか?私、凄いですよね?」
「うん。だけど、もうちょっと周りの影響を考えないとね」
「あっ……」
アウロラちゃんの魔法は前方半円状に氷の槍を飛ばした。当然、平原とはいえところどころに生えている木々は無残にも貫かれ砕かれていたのだった。
「ご、ごご、ごめんねみんな!この周辺にまた生えるように頑張るから」
アウロラちゃんは木々の近くに寄っていき、なにやら魔力を込めている。私にもわからないけど、悪いことではなさそう。
「ふぅ~、これで良しと!おっと…」
「だ、大丈夫?」
急に魔力を使いすぎたのかよろけるアウロラちゃん。慌てて肩を貸すものの、5分ほど休むと落ち着いた。
「すみません、迷惑をかけて」
「ううん。自分が頑張れるってところを見せただけだもん。気にしないで!」
「それにしても、そんだけ戦えるならこの後の心配はしなくて良さそうだね。ただ、あまりに強すぎるし、冒険者登録はねぇ」
「ダメなの?」
「ダメっていうか、目立ちすぎるね。新人のくせに実力だけ一級品だなんて」
「そうだな。まず、入るパーティーがないし、入ったところでどういう扱いを受けるか…」
「僕も同意見です。しばらくは僕らに同行するとはいえ、今後を考えると難しいですね」
みんなもアウロラちゃんの実力の高さに逆に困っている。魔力は昔の私ぐらいだろうけど、最初から戦うレベルにあるのが余計にネックなのだ。それに、町での振る舞いとか私以外への言葉遣いとか、ハードルは思っている以上に高そうだ。
「せめて、もう少し素直だったらねぇ」
「うるさい。そんなのどうでもいい」
「まあ、登録は無しだな。恐らく登録時点で大騒ぎになるだろう」
「だけど、それならわたしたちと別れたらどうしましょう?」
「大丈夫です。目的を果たしたらまた村に帰りますから」
「ん?港町に行きたいんだよね、あんた」
「そう。でも、町に用事はない」
「んん~~?」
アウロラちゃんの発言にますます私たちは困ってしまった。ほんとにアウロラちゃんが港町に行く理由って何なんだろうか?気にはなるものの、性格的に言わないことは分かっているので、私たちもそれ以上は追及しなかった。その代わりに、道すがら私が魔法の扱い方についてレクチャーした。なぜかというと…。
「なるほど。これが風魔法なんですね。不思議ですね。目には見えない風が、魔法で起こすと緑色に見えるだなんて」
「そうでしょ? 私も気になったんだけど、魔法の属性自体に色があるみたいで、魔力で作るとどうしてもその色が付くみたい。もちろん、全部が全部じゃないけどね」
「全部じゃないんですか?」
「うん。見せたいんだけど、ちょっといい場所があったらね」
一番私が見せやすいのは火の魔法なんだけど、ちょっと危ないから林が点在する今の地形だと使いたくないんだよね。
ピィ
「あっ、アルナ帰ってきたの。大丈夫だった?」
ピィ!
引き続き、野外に出られて元気いっぱいのアルナ。遠くに行かないようには言ってあるけど、空を飛ぶ関係でたまに見失いそうになる。
「満足したの?ならさっさと寝なさい」
ピィ……
「ま、まあまあ。だけど、アルナ。もう疲れたんでしょ? 無理はしちゃだめだよ」
ピィ
アウロラちゃんは従魔が苦手って訳じゃないけど、言い方はみんなに言うのと変わらない。ただ、さっきの言葉もだけど、単純に突き放すだけじゃないんだよね。ツンデレっていうのかな?
「まあ、アウロラの言うことにも一理あるわ。街道沿いは危険が少ないとはいえ、寝てなさい」
ピィ!
今度はティタも会話に加わってきた。アルナもティタの言葉には敬礼するような感じだ。やっぱり、お母さんであるミネルの友人だからかな? それとも魔物の世界って年功序列だったりするんだろうか?
「アスカ~、また遅れてるよ」
「は~い! リュートが呼んでる。行こう、アウロラちゃん」
「はいっ!」
う~む、それにしてもほんとに私にはこの態度。謎である。
「はっ!」
「ウィンドカッター」
「アイスブレイズ」
私たちはあれから一時間ほど歩き、今は魔物との戦闘中だ。ただ、運が悪かった。フィールドラットを追うペックニノックスに出くわし、戦闘を避けようとしたところにピアースバッファローの群れがやって来たのだ。そして、ペックニノックスに驚いたバッファローたちは何とこっちに突っ込んできた。
「いいぞ。手数で押すんだ!」
「リック、あんたも壁なんて作ってないで仕事しなよ!」
「ピアースバッファローどもは壁で視覚を奪えば、そこには突撃してこないんだ。仕方ないだろう?」
私たちの中で唯一の土魔法使いのリックさんがハの字に壁を作り、私たちはその中央に来るバッファローだけを倒している。そうでもしないとこの数十頭はいる群れには対処できないのだ。
「リュート君、後ろはどうだ?」
「回り込んでくるやつはいません!」
「それは良かった」
姿が見えないリュートは一人後ろに下がっている。万が一、バッファローたちが反転してきた時の備えだ。もしそうなったら、こっちも範囲魔法を使わないといけないだろう。
「アスカ、群れの切れ目が見えたよ!」
「ほんとですか、それなら!」
ジャネットさんの言葉を受けて、私は前方の少し離れた場所に狙いを付ける。今まで範囲魔法は相手の動きが変に変わるのを防ぐため使ってこなかったけど、途切れるなら遠慮はいらない。
「これを試すいい機会! ライトプレッシャー」
私はメリサリアで買ったばかりのブレスレットをはめると、そこに込められている魔法を放つ。
魔法が発動すると上空から光が注ぎ込み、ドンッと大きい音がした。
「あれが光の攻撃魔法……雷以外だと初めて見るかも」
以前にディーバーンに対してシルフィード様が使っていた魔法は、不浄な存在に対して使う魔法だったし実質初めてだ。そんな感動も覚えつつ、現在の状況を確認する。
「正面敵なしです!」
「こっちもありません」
「左側も片付いたよ」
「リュート君、後ろは?」
「今駆けていきました。さっきのアスカの魔法が功を奏したのか、皆急いで逃げていきます」
「ほっ、よかった。そうだ、ペックニノックスは?」
こっちの戦いが終わったところで、今回の元凶であるペックニノックスの姿を探す。すると、つがいで来ていたのか、二羽はちょっと離れた木にしがみついて、捕らえたフィールドラットを食べている。しかも、まだ二体ほど確保しており戦果は上々のようだ。
「全く、元凶のくせにいい気なもんだよ」
「そうですね。でも、こうして眺めてるだけなら可愛いですね」
「可愛いかぁ? まあ、何にせよ怪我がなくて良かったよ」
「ほんとですね」
「アスカ~、こっち手伝ってくれる?」
「あっ、わかった~!じゃあ、行きましょうか」
「そうだね」
戦いも終わったので、あとはピアースバッファローの処理だ。近くに木はないから、リックさんが土魔法で穴を掘る。その横でリュートは部位ごとに切り分ける作業中だ。私の仕事はというと…。
「エアカッター」
ピアースバッファローの特徴である槍のような角を落としていく作業だ。地味だけど、このバッファローの角自体、武器にも使われるぐらいの強度だから武器でやると大変なんだよね。同じバッファロー種でもここまで固いのはこの種類だけなんだとか。
「私も手伝います」
「ほんと、アウロラちゃん。じゃあ、あっちをお願い」
今回仕留めたピアースバッファローは全部で十三体。一体につき角は二本あるから手間だったんだよね。リュートは肉を部位ごとに切り分けてるし、ジャネットさんは見張りをしてくれてるから他にできる人もいないし。
ピィ
「あれ? アルナもやってくれるの?」
ピィ!
元気返事をしてエアカッターで切断をしてくれるアルナ。しかし……。
「途中で止まっちゃったね」
ピィ……
残念ながら200近いアルナの魔力でも一刀のもとに角を落とすことはできないみたいだ。Dランクの魔物ながら、本当に硬い角だなぁ。




