早めの食事と出発
「この魔道具はどうですか?固定された魔力を込めれば光の魔法を放てるようになる魔道具です」
「そんな魔道具があったんだ。どれどれ」
私はアウロラちゃんの勧める魔道具に目線をやる。形はブレスレットか。簡単に着脱できるから使い勝手は良さそうだ。私は店員さんに了解を取って腕にはめてみる。
「つけてみた感じは軽いなぁ。素材は軽めの木に金属加工を施したものかな?」
強度は金属に劣るものの、加工も容易で軽量だ。ブレスレットということを考えれば、この方がいい場合もある。
「魔石はやや先端寄りで、この部分だけ銀が導線に使われてるなぁ。よく考えてある魔道具だ」
軽量化に加え、魔道具として効果を発揮する体と接触する部分には純度の高い銀が使われ、それが魔石まで伸びていた。これにより無駄なく力が伝わる作りになっている。
「ね!いいものですよね」
「うん。あとは効果だけかな?すみませ~ん」
アウロラちゃんの話だとこの魔石は光属性に関わるってことだけど、どんな効果かは聞いてみないとね。
「何でしょうか?」
「このブレスレットの効果って何ですか?」
「こちらですね。こちらは…ライトプレッシャーの魔法が込められております」
「ライトプレッシャー?」
光の魔法だろうけど、聞いたことのない魔法だな?
「光の圧力を放つ魔法です。物体を押しつぶすことができる魔法で、このブレスレットの魔石はそれをある程度収束して放つことができます。」
「へ~、変わった魔法ですね。ちなみに汎用魔石ですか?」
「それが専用魔石なのです。作りもいいのですが、中々買い手が現れず…」
そう言うと残念そうにする店員のお姉さん。まあ、あんまり光属性を使う人って見かけないし、そもそも込められてるのが攻撃魔法ならなおさらかぁ。光単属性以外の人は別の属性で攻撃するだろうしね。それに光単属性って言葉だけ聞けば大変だけど、汎用魔石さえ買えれば割と何とかなるのだ。それよりも、簡単に上げられない魔力の高さの方がネックだろう。
「う~ん、でしたら買わせていただきます。私は旅する商人ですから、きっとどこかでこれを買いたいっていう人に会えると思うんです!」
「まあ、よろしいのですか?では…」
欲しい人は目の前にいるとは言えないので、ごまかしつつブレスレットを購入することにした。そして、支払いをしにレジに向かう。
「こちら合計金貨33枚になります」
「33枚ですね。このカードでお願いします」
私はトリニティ商会のカードを出して購入する。さっき言った手前、個人のカードを出すと変だからね。
「おや、ご購入ありがとうございます。気にいるものはありましたか?」
「はい!もう少しゆっくり見る時間があればよかったんですけど、この後は予定がありまして…」
「そうですか。またのご利用をお待ちしております」
「ありがとうございました。時間を早めに開けて下さって」
「いえいえ」
セルダールさんとあいさつをして別れ、私たちは店の外に出る。時間はまだ11時前になるかどうかだ。店も開店して途中からお客さんがちらほら入ってきていたけど、あまり見かけなかったし。
「まだお昼には早いですけど、軽く食べてから出ます?」
「そうだねぇ。ただ、店に入ってのんびりってのもあれだし、中央広場の屋台に行くか」
「分かりました」
というわけで、早めのお昼は中央広場のところに出ている屋台飯だ。どれも美味しそうではあるものの、時間が早いからまだ準備が終わったばかりの店もある。
「いらっしゃ~い!うちの串は美味いよ~」
「いらっしゃい!うちのが美味いよ~」
「何だと!」
「なんだ!」
「あれ、何やってるの?」
「さあ?喧嘩というより呼び込み合戦だろうけど、あまり近くに行きたくないよね。あっちに行こう」
言い争いを始めた屋台を背に私たちは店を見ていく。
「あっ、アウロラちゃん。ここなら食べられるんじゃない?」
私が足を止めた屋台は野菜を焼く屋台だった。味付けもたれではなく、軽く塩を振るかミックススパイスのようなものをかけるシンプルなものだ。
「いいですね。まあ、そのままでも構わないのですが…」
そう言うと、ほんとに焼く前の野菜に目を向けるアウロラちゃん。でも、視線の先のやつはかぼちゃっぽいから無理だと思うんだけど。
「さすがにそれは硬いよ。そっちのだったら食べられるけどね」
私はトマトを指差してみる。焼きトマトも美味しいけど、そのまま食べるのも大好きだ。
「おや、お嬢さんが二人でどうしたんだい?何か食べたいものがあれば焼いてやるよ?」
「あっ、え~と…」
私が言いにくそうにしていると、アウロラちゃんがむんずとかぼちゃを掴む。
「これ、食べたい」
「それかい?ちょっと焼けるまでかかるけどいいか?」
「大丈夫。串に刺して食べる」
「そうかい?まあ、いいや。どのぐらいだ」
「ここからここまで」
多分意図は伝わってないだろうけど、アウロラちゃんが切って欲しい大きさを伝える。厚みは4cmほどあり、ほんとに噛めるか心配だけど、食べられるものが少なそうだし、しょうがないよね。
「ほらよ。このサイズだと銅貨6枚だな…っておい!まだ焼いてないぞ?」
「いい、このまま食べる」
「変わった子だな」
「あはは、気を悪くしないでくださいね。これ、料金です。私はトマトをお願いします。半分で!」
「まあ、美味そうに食べてるからいいけどな。トマトのハーフなら銅貨2枚だ。他はどうする?」
「う~ん。後はこのキノコとこっちのピーマン?あとはこれも」
「あいよ。合計で大銅貨1枚だ」
「じゃあ、先に払いますね。アウロラちゃんは他に欲しいものある?」
「これです」
「えっ!?これ?」
アウロラちゃんが指さしたのはニンジン…の葉っぱ部分だった。
「ほ、ほんとに?」
「はい」
「いや、これは売りもんじゃねぇんだが…」
「では、丸々ひとつ」
「あ、えっと、銅貨3枚だ」
おじさんはアウロラちゃんに押されつつもなんとか受け答えする。そしてニンジンを受け取ったアウロラちゃんが食べようとすると…。
ピィ
「むっ!お前のじゃない」
ピィピィ
「あっ、そういえばアルナもそこ好きだっけ」
雑食ながら野菜好きなアルナはこういう葉物もよく食べる。別に意識してというわけではないんだろうけど、こういう人が食べないようなところが好きなのだ。
「あなたはあなたで自分で確保なさい」
ピィ!
「…しょうがない」
なおも食い下がるアルナに負けて、アウロラちゃんは茎ひとつをアルナに譲る。
ピィ!
アルナは嬉しそうにもらった葉を咥えると、パタパタと宙に舞い広場の像に乗って食べ始めた。
「全く、食い意地が張ってる」
「ごめんね」
「いえ、アスカさんは悪くありません。それでは」
気を取り直して、バリッボリッとニンジンを食べるアウロラちゃん。美味しそうではあるんだけど、さすがにスティック状でもないと私は無理かな?気を取り直して私はおじさんに焼いてもらった串を食べる。
「はむっ!ん~、かすかな塩味がアクセントになってておいしい!こっちのスパイスの方はと…あっ、こっちも!」
中央広場で屋台を出しているだけあって、どれも美味しかった。素材もいいんだろうけど、特製スパイスが決め手だな。こういう出会いがあるから旅はやめられないよね。その後も少し屋台を回って食べ歩いた後、みんなと合流した。別に一緒でもよかったんだけど、あっちはみんな肉組だからね。アウロラちゃんに悪いと思ったのだ。
「さて、飯も食ったしそろそろ出発だねぇ」
「そうですね。準備はOKですか?」
「うん、僕は大丈夫」
「俺も問題ない」
「アルナやキシャルも大丈夫?」
ピィ!
にゃ~~~
みんな元気に返事を返してくれる。ただ、キシャルだけは一杯ご飯を食べたのかいつもより眠そうだ。
「キシャル、おいで」
にゃ
私の言葉に反応してぴょんと頭に飛び乗ると、キシャルはすぐに寝息を立て始めた。
「この猫、本当に役に立つの?」
「そう言わないであげて。まだ小さいから睡眠が必要なんだよ。それに、ほんとに危険を感じたら起きるから」
「う~ん、アスカさんがそういうなら。それにしても、こっちのゴーレムは愛想のひとつもないわね」
「…。」
「ティ、ティタというより、しゃべるゴーレムは珍しいから、黙ってもらってるんだよ」
「そうですか」
まだ何か納得がいかない様子だったけど、ひとまず私たちは街の西側に歩いていく。
「ん?街を出るのか」
「はい。ここから西に進むつもりです」
西の端に着いた私たちは門番さんに町を出る旨を伝える。
「そうか、気を付けてな。護衛もいるとはいえ、魔物の目撃情報も出ている」
「この辺は何が出るんですか?」
「そうだな。町の近くだとオーガやオークにフィールドラットだが、それを狙うペックニノックスには特に注意しろ。後はピアースバッファローに、町を離れるにつれソードウルフに出会う可能性が上がる」
「結構色々いるんですね」
「他にも草食の魔物がいるが、まあその装備なら大丈夫だろう」
「ありがとうございます。さ、みんな行きましょう!」
「あいよ」
みんなには先に門を出てもらって、私は通してもらう際にこそっと門番さんの後ろ手に銀貨を握らせる。
「どうもありがとうございました」
「んっ!まあな」
「これからも旅人の無事を祈ってくださいね」
「ああ、そうさせてもらおう」
軽くお礼をすると私はみんなに合流する。ああいうのは目立っちゃうといけないからね。周りにもばれないようにこそっと代表者がやるのだ。町に住んでる冒険者ならともかく、私たちのような旅の冒険者相手に巻き上げてると思われたら大変だからね。
「アスカ、終わったかい?」
「はい。貴重な情報だったからちょっと弾んじゃいました」
「まあ、あんたの見た目もあるんだろうけど、確かに有用だったね。町の近くはのんびりできそうだし、アウロラの適性でも見るとするか」
「えっ!?なんの?」
「将来に向けてだ」
というわけで、町を出て私たちは街道を行きながら、アウロラちゃんの可能性を探ることになった。




