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旅立ち

※注意、旅に出るのに際して、前作とわずかに出来事に時差が生じています。

 私はアスカ。日本で死んだ少女、前原明日香が転生を司る女神アラシェル様に、アルトレインという世界へ転生させてもらった存在だ。13歳の少女として転生した私は、冒険者になって〝世界一周をしてみたい〟という目的を果たすため、冒険者として二年間活動してきた。今ではそこそこ名の知れたCランク冒険者として生活をしている。

 

 そんな私もこの二年の活動で十分に資金も経験も得ることが出来たので、いよいよ旅に出ることにした。今日は記念すべき旅の出発日と言うわけだ。


「アスカ、別れはちゃんと済ませたのかい?」


「ジャネットさん! はい、本屋のおばあさんや細工師のおじさんにも言ってきました」


 この人はジャネットさん。出会ってもうすぐ二年になる先輩冒険者だ。とっても頼りになる長剣を使う剣士で、私よりランクも高いBランク冒険者。今は私のパーティー『フロート』に所属してくれている。今回の旅にも同行してくれる人だ。


「しかし、残念というか意外だったねぇ。まさか、ノヴァがこの町に残るなんてね」


「私はいいと思いますよ。その方が安全だし、好きな人と一緒に居られますしね!」


「そこは私だって良かったと思ってるよ。だけど、土壇場でエステルとねぇ……」


 ノヴァはリュートという子と一緒に知り合った、同じパーティーのメンバーだ。二人は私より二歳年上の17歳で孤児院出身だ。本当はリュートと一緒にノヴァも旅に同行する予定だったんだけど、直前で同じく孤児院出身で、私がこの二年間お世話になっている宿屋『鳥の巣』に勤めているエステルさんの告白によって、この町に残ることになった。


「でも、あの時の告白はすごかったですね。私もあんな恋がしてみたいです!」


「「私は旅に出られないのにノヴァは行ってしまうの?」ってな。ああ言われて行っちまう様な奴でなくて良かったよ」


「本当ですよ。エステルさんは今やこの町のアイドルみたいなものですからね。あの料理の腕なら将来はレストランを持つでしょうし、ノヴァも幸せそうで良かったです」


「だけど、あいつが冒険者から衛兵になるって言うとはね」


「でも、冒険者資格が消えないようにたまには依頼も受けるって言ってましたけどね」


 冒険者の資格は一年間依頼を受けないと失効してしまう。ノヴァの実力なら一人でも依頼を受けられるだろうけど、ちょっとだけ心配かな?


「どうだろうね。たまの休みにはデートにでも行くんじゃないかい?」


「それはそれでいいんじゃないでしょうか?」


「確かに。あたし達よりは真っ当だね。だけどアスカ、あんただってかなりのアイドルなんだけどねぇ」


「私がですか? ないですよ~」


 そんな風に否定するアスカにジャネットは心の中でため息を吐いた。


(いやいや、アスカは薄い銀色の髪にこの二年で、かわいいから綺麗になった顔つき。そして冒険者として高いパラメータと隙のないキャラなんだけどねぇ。本人が気に留めていないだけで街中にファンがいる。ただ、容姿が整いすぎていて近づけるような気概のあるやつはいないけどね)


「そう言えばフィアルさんはどうしてますか?」


「あいつなら二号店をどうしようかって悩んでるみたいだね。店の経営も順調だし」


 フィアルさんも私のパーティーの一員だ。だけど、普段はレストランの経営をしていて、ほとんど冒険には同行していない。どっちかというと元冒険者みたいな感じかな? Cランクで今でもかなりの実力者だ。もちろん、店を経営しているので今回の旅には同行しない。私の旅は世界一周が目標なので、いつ帰れるかわからないしね。


「そう言えば聞きましたか? そのフィアルさんも結婚するらしいですよ」


「ああ、副店長の子だろ? かなり迫られて最後は薬まで盛られたってこの前愚痴ってたね……」


「すごいですよね。でも、仲が良くてよかったです」


「結果としちゃ、あいつも好きだったんだから良かったけどねぇ。にしても、アスカは良くエレンから出発の許可が出たね。もう数年は居ろって駄々こねると思ってたけど……」


「私もそう思ったんですけど、よく分からないことを言われたんですよね」




 ほわんほわんほわん


「おねえちゃん、とうとう旅に出ちゃうんだね……分かったよ。このままおねえちゃんが宿に泊まり続けると、変なお客さんも増え続けるし、ここはすっごく嫌だけど認めてあげる。だから、今度は子どもを連れてきてね。絶対だよ!」


 アスカは知らなかったが、美人に成長したアスカ目当てで泊まる客が後を絶たず、隣室や食堂で隣の席を希望する人が毎日のように訪れ、その対応にエレンを始めとした宿の人間は時間を割いていた。


「儲かるんだけど、とってもつかれるんだよ~」




「なんだったんだろうあの一連の発言?」


「まあ、許可が出たならいいさ。コールドボックスだっけ? あれと風呂もエレンの魔力で使えるし、大丈夫だろう」


「はい。それにミーシャさんもライギルさんもいますし、エステルさんもいることですしね。入口には従魔のリンネとソニアも控えてますし」


「そこに新人の番犬も加わるわけか」


「番犬ってノヴァはれっきとした人間ですよ」


「ほら、アスカもそう思ってんだろ?」


「あっ!」


 ついジャネットさんに乗せられてしまった。


《ピッ》


「あれ、アルナ。ミネルと一緒に居なくてもいいの?」


《ピィ!》


 この子はアルナ。ヴィルン鳥のミネルとバーナン鳥のレダの子どもで、もうすぐ1歳になる。幸運を呼ぶヴィルン鳥の特徴を大きく受け継いでいるのか風の魔法が得意だ。最近はミネルがまた子育て中ということもあり、代わりにほとんど冒険に付いて来ている。


「こいつはひょっとしたら旅についてくる気かもね」


「そんな、せっかく親子水入らずなのに……」


「まあ、アスカは立派な魔物使いなんだからきっと大丈夫だよ」


「そんなこと言ってもう。まだ成ってそこまで経ってないんですから……」


 ジャネットさんの言った通り、私の職業は魔物使いだ。冒険者はCランク以上になると個別職業になれる。職業にはそれぞれ特徴があり、剣士なら剣の扱いやスキル上昇にボーナスが付いたりする。

 魔物使いは文字通り魔物を使役できる職業だ。ただし、剣士なら力やHPにボーナスがあるのに対し、魔物使いはわずかに運に作用する程度でパラメータ上昇が少なく、スキルボーナスもない不遇職とされている。魔物のご飯代だけでも結構するしね。でも、私は適性試験の結果、迷うことなくこの職を選んだ。


「魔物使いと言えば、南の岩場地帯にいたゴーレムがこんなに小さくなるとはねぇ」


「本当ですね」


 私たちが今話しているのはかつて町の南東に住んでいたゴーレムのことだ。ティタと名付けたゴーレムは、去年までその周辺の魔物から冒険者たちを守っていたけど、サンドリザードの上位種ハイロックリザードとの戦いで私を助けるため大きく損傷して、今は手のひらに乗る大きさだ。私が魔物使いの道を選んだのも、小さくなってしまったティタを保護したからだ。


 魔物使いは魔物に魔力を与えることもでき、ティタは頑張れば五十センチぐらいにはなれるようになった。普段は私の肩に乗っかっているけど、休みの日はミネルたちと出かけたりもする。ミネルは風魔法を使って器用にティタを浮かせて運ぶのだ。


「そう言えば旅に出るってムルムル様には手紙を出したのかい?」


「はい。彼女も今までより会えるかもって喜んでいました」


 ムルムルは慈愛を司る女神シェルレーネ様の巫女で、私の副業である細工師の仕事を通して知り合った。シェルレーネ様の像を作り、渡したのがきっかけだ。きっかけといってもその依頼自体はシェルレーネ様からの神託で、いまだにその意図は分からないんだけど、この世界に来て同年代の友達が出来てうれしかった。最初はムルムルさんって言ってたのももう懐かしいぐらいだ。


「あっちはそもそも巫女として巡業だらけだしねぇ」


「三人も巫女がいれば中央と地方巡礼に分かれるのも仕方ないですよ」


 特にムルムルは気さくな性格をしており、地方巡業でとても人気がある。着飾ることはみんな出来るけど近寄りがたいかどうかは性格もあるからね。


「それじゃあ、今日はどうするんだい? これから依頼ってわけにもいかないし」


「一応ドルドに行って保存食を買っておこうと思うんです。干し肉とかもストックがいっぱいありますけど、最初のころだけでもフルーツを食べたいですから」


「そうかい。なら行くか」


「はい!」


 こうして私たちは雑貨屋ドルドへと食料確保に向かった。



「いやぁ~、結構買ったね」


「そうですね。傷まないうちに食べ切れるでしょうか?」


「あたしとリュートがいれば大丈夫だよ。あいつも最近よく食べるだろう?」


「そうですね。リュートも出会ったころとは違って随分体つきもしっかりしてますし、良く食べますね」


「リュートは旅立ちが近いって言うのにまだ仕事続けてんのかい?」


「みたいです。私も宿のお世話になってますけど、きちんと引継ぎがしたいみたいですね」


 リュートは冒険者ランクが低い時から副業として、私が泊まっている宿でアルバイトをしていた。まあ、私も前はやってたんだけどね。ただ、私が途中でやめたのに対し、リュートは孤児院の子たちの仕事を受け入れてくれる場所として、いまだに関わっていたのだ。


「全く、真面目だね」


「そこがリュートの良いところですよ」


「本人に言ってあげなよ」


「いまさら本人に言うのは恥ずかしいですよ……」


 それに最初のころはよく言ってたと思うし、あえて言わなくてもいいんじゃないかな?


「それもそうかね。それじゃあ、後は宿でゆっくり休むか」


「ですね」


 私たちは宿に戻って、それぞれの時間を過ごす。ジャネットさんはおそらく武器の手入れだろう。私はというと……。


「さて、細工師アスカのこの町で最後の作品を納品しないとね。次はいつ戻るかわからないんだし……」


 二年間の感謝と成長を前面に出すために、今の私の全力で作る。作るのはもちろんアラシェル様の像だ。


「アラシェル様の巫女としての使命と、細工師の両立ができるのがこの仕事の良いところだね」


 像を普及させ信者を増やしつつ、お金も稼げる。ただ、神様の存在しているこの世界では神像は大変ありがたいものだ。一定の技術持ちながらも値段の安さがなければ罰当たりだとみなされる。当然この像も完成すればその他の題材よりは安い。

 もっとも、例外もあってそれは各神を信仰する宗教からの依頼。これは出来によってはかなり高額になることもある。見栄もあるけど、どれだけ自分の中の神のイメージを具体化してくれたかも関係する。


「私はまだ三柱しか作ったことないけどね」


 三柱とはアラシェル様とシェルレーネ様とグリディア様だ。もし可能なら旅の途中で他の神様も作ってみたい。他の神様の像をアラシェル様の巫女の私がそんなに簡単に作っていいのかって? 悪神とかじゃない限り大丈夫。何てったってアラシェル様は優しい方だもの。直接会ったこともあるし、神託だってもらってるんだから!


「さてそれより作業を進めないと……」


 こうして私の出発前の時間はアラシェル様の神像作成でつぶれていくのであった。




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