アウロラの食生活
「リュート、リックさん今大丈夫ですか?」
「アスカ起きたの?大丈夫だよ」
「入るね~」
許可をもらって部屋に入ると、2人とももう準備が出来ていた。こっちは従魔もいないので直ぐに部屋を出て今度はアウロラちゃんの部屋へ。
コンコン
「アスカさん?」
「良く解ったね。入ってもいい?」
「はい」
カギを開けてもらって部屋に入ると、中は壁に固定された板の小さなテーブルに椅子。ベッドはリックさんだとギリギリ使えそうなものだった。同じ内装かと思ったらちょっと違うみたいだ。
「失礼するよ。今何してたの?」
「特に何も。何か用ですか?」
「えっと、私たち今からご飯に行くんだけど、一緒に行こうと思って…」
「ご飯…野菜って食べられます?」
「食べられるけど、野菜好きなんだ」
「好きというか、肉とか魚は苦手で…」
「そうなんだ。じゃあ、そういう店にいこっか」
「はいっ!」
アウロラちゃんも一緒に食べることになったので、みんなで一度宿を後にして、今日の夕食を取る店を捜す。
「どこがいいですかね~」
「あそこはどうだい?」
「臭いがキツイ」
「あそこならどうだ?」
「ちょっとはましだけど…」
どうやら、アウロラちゃんが肉や魚を苦手にしているというのは臭いも含むようだ。私たちには肉の焼けるいい匂いだけど、それも好きじゃないみたい。
「結構偏食なんだね、アウロラって」
「そうみたい。でも、食べられないとか苦手な臭いはしょうがないよ」
私も病院に入院してる時は頑張って出されたものを食べてたけど、病院の制限食は美味しくないのもあったし、他に食べられるならあんまり苦手なものを無理に食べて欲しくない。
「それじゃあ、アウロラちゃんが選んでみる?」
「いいのですか?」
「うん。どこか気になる店はある?」
「えっと…」
辺りをきょろきょろしながらアウロラちゃんが店を捜す。ん?今、魔力が流れたような…。
「ありました!あそこなら大丈夫です」
どうやらアウロラちゃんが店を見つけたみたいだ。それにしてもさっきの魔力操作。きっとアウロラちゃんだと思うけど、確かにティタよりすごいかも。魔力操作だけかもしれないけど、もしかしたら魔力も高いのかもしれない。
「アスカ、ぼーっとしてると置いてくぞ」
「あっ!?待ってください」
みんなに追いつきながら店に入る。店内は…食事時間だけど結構空席もある。ただ、アウロラちゃんが選んだだけあって肉の匂いはしない。
「いらっしゃいませ!精進屋へようこそ!!」
「精進屋?」
「はい。こちらはこの大陸でちょっと話題になってる精進料理を扱ったお店です。肉や魚を使わない料理をそう呼ぶんですよ。本当は作法とかもあるんですけど、そちらはご自由に。さあ、席へどうぞ」
元気よく店員のお姉さんが案内してくれ、席に着く。そこにはメニューと共に精進料理とは!とつらつらと説明書きがあった。なるほど、こういうコンセプトの料理屋さんなんだ。アウロラちゃんが気に入るわけだ。
「は~、いい匂い!さて何にしようかな?」
「あたしはなんでもいいや。肉もないんだろ?」
「そうだな、量を頼むか。といってもどんな料理か分からんな」
「リックさんの地方でも知らないんですか?」
「ああ、リュート君も知らないのか?」
「はい。今度本屋に寄って調べてみます」
「私は…あっ、結構見知った料理もある。ゴマ豆腐とか」
イリス様もちょっと絡んでるのかな?それとも、他の誰かかな?
「まあ、4品ぐらい頼めばいいよね?」
量は分からないけど、元々量を楽しむというものでもないはずだから、私は4品選ぶことにした。
「アウロラちゃんは決まった?」
「えっと、ちょっと文字が難しくて…」
「あっ、村から来てたんだよね?代わりに読んであげよっか?」
「いいですか?」
私がメニューを読んでいく。ついでにわかる料理に関してはどういうものか簡単に説明もしてね。ところが、ページをめくって次の料理を説明するところで、アウロラちゃんから話しかけて来た。
「あっ、この先は分かります」
「えっ!?そ、そうなんだ」
ずっと説明してもらうのを遠慮しているのかなって思ったけど、注文する時は自分で言えていた。最初から知ってたわけじゃなさそうだし、どういうことなんだろ?う~む、謎は深まるばかりだ。
「お待たせしました。こちら、料理が多くなると思いますので、机をくっつけますね」
「ありがとな」
しばらく談笑していると、料理が運ばれて来た。豆腐みたいに、火を入れずに出せるものも多いからか、どんどん料理が並んでいく。
「へぇ~、量は少ないけど綺麗だねぇ」
「ああ、そうだな。味の方はと…ほう?ジャネット、これをつまんでみろ。美味いぞ」
「ん、これかい?おっ、本当だね。なんていうか、肉じゃないのにジューシーだね」
「だろ?そっちのはどうだ」
「あっ、待ちな。あたしもまだ食べてないんだよ」
「僕もこれを…うん?ちょっと味が薄いかなぁ?」
そういいながらリュートが食べたのは、がんもどきのような料理だ。
「リュート、それもうちょっとゆっくり食べてみて。汁が舌に残って美味しいと思うから」
「そうなんだ。じゃあ、もう一回」
「あっ、ううむ…」
私のアドバイスを聞いてくれたリュートだったけど、もうひとつを一口で食べてしまった。
「リュート、それは一口で行くものじゃない」
「そ、そうなんだ…」
でんっ!っと精進料理の説明書きを目の前に置き、強く主張するアウロラちゃん。
「えっと、アウロラちゃんって精進料理に詳しいの?」
「いいえ。でも、森の恵み、地の恵み、山の恵み、水の恵みには常に感謝が必要なのです」
「お、おおっ…」
何だか今、アウロラちゃんの背中に光輪が見えた気がする。
「自然を大事にする気持ち、私も見習わなきゃ!それじゃあ、いただきま~す」
私も食材に、恵みに、作ってくれた人に感謝しながら、ゴマ豆腐に箸を入れる。
「それ、何ですか?」
「これ?お箸だよ。こういう料理には合うと思うよ」
そう言いながら私は箸をアウロラちゃんに見せる。そのまま私が食べているとじーっと箸を見続けていたので、聞いてみた。
「アウロラちゃんも使ってみる?」
「いいんですか?」
「どうぞ」
私は予備に持って来ていた箸を渡す。
「では…」
最初こそ、ぎこちなく使っていたアウロラちゃんだったけど、私が使って見せるとすぐに覚えたようで、綺麗に食べ始めた。
「おっ!あんたもそれ使えるんだね。アスカ以外に使うやつ初めてだよ」
「慣れると便利。みんな使わないの?」
「僕にはちょっと難易度が高くて…」
「今のマナーを忘れそうでな」
口々にNOを表明する。慣れたら便利なのにな…。そんな楽しい食事も時間が過ぎて、お会計の時間だ。これ、結構高いんじゃ…みんな品数も頼んだしなぁ。
「お会計は銀貨3枚になります」
「銀貨3枚ですね。これでお願いします」
「ありがとうございました」
銀貨3枚か、思ったより安かったな。大体、1品が大銅貨1枚ぐらいだろうから、私で大銅貨4枚。リュートはもとより、ジャネットさんもリックさんも結構食べる。3人でそれぐらい食べてそうだったんだけどなぁ。美味しいって言いながら、結局アウロラちゃんって私より食べてなかったし、そのせいかな?
「アスカ、支払いは?」
「済ませちゃいました。でも、思ったより安かったですよ」
「そうかい。なら、今度はあたしがおごるよ」
「あれ?こういうのってリーダーが払うんじゃ」
「まさか、ひとりひとり別だよ。まあ、あんな人手のない店で個別会計するやつなんざいないがね」
「ふ~ん、人げ…町の人って面白い。私の所じゃ、リーダーが面倒みるわ」
「ま、そういうところもあるだろうさ。そういうのは個人の自由だね」
「アウロラちゃんは自分で収入が持てるまでは気にしないで私に頼ってね!」
「はいっ!」
「返事が良すぎるだろ…」
どうやら、お金についても詳しくないアウロラちゃんの村では、村長さんがほとんどを取り仕切っていたようだ。生活の保障をすると言ったら飛びついて来ちゃった。これは教育係に認定されてるリュートに頑張ってもらおう。私はひそかにそう思いながらみんなと帰る。
「おっと、あたしらは夜店でも少し見て帰るよ」
「あっ、僕もちょっと」
「そうですか。それじゃあ、私たちは帰りますね。いこっ、アウロラちゃん」
「はい」
さっき食べたと思っていた3人はまだ食べ足りないようで、夜店に行ってしまった。明日は明日でまた食べられるんだからみんなすごいなぁ。
「到~着!」
「それでは、私はこれで」
「あ、うん。おやすみなさい」
「おやすみなさい、アスカさん」
宿に戻るとアウロラちゃんとは別れて部屋に戻る。
「みんなただいま~」
ピィ!
にゃ~~!!
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
あれ?何だかみんないつもより歓待してくれてるような…。
あくる日…。
「ああ~~~~!!」
「どうしたアスカ?」
「ジャ、ジャネットさん、昨日これ出しました?」
「ご飯のことかい?そうだよ、よくあげてたじゃないか」
「ソ、ソウデスネ」
「??」
違うんですジャネットさん。それは何か特別なことがあった日にあげるご褒美ご飯の入れ物なんです。いや、確かに青ラベルと緑ラベルでしか分けてませんでしたけど…。いつものご飯より6倍ぐらいするのに。
ピィ?
「まあ、美味しかったならいいか」
そんな些細な出来事もありつつ、私たちは翌日を迎えたのだった。




