ご相談
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「えっと、5人なんですけど、2人部屋が2つと1人部屋1つってできますか?」
「可能ですがよろしいのですか?」
「はい。食事は無しで大丈夫なので1泊だけ。あと、この子たちも一緒に泊められますか?」
「従魔ですね、可能です。お部屋の料金は2名様のお部屋が1室大銅貨5枚。1名様のお部屋は大銅貨3枚になります」
「分かりました。これでお願いします」
私は銀貨1枚と大銅貨3枚を受付の人に渡す。
「ではこちら、314号室と2名様のお部屋、323号室に324号室のカギになります」
「ありがとうございます。はい、アウロラちゃん。これがカギだから部屋に入ったらちゃんと忘れずにカギをかけるんだよ」
「分かりました。ありがとうございます!」
そのまま勢いに乗って駆け出そうとするアウロラちゃん。私は慌ててその背に声をかける。
「3階だからね~!」
「は~い!」
「全く、騒がしい子だね。さあ、アスカ。あたしらも行くか」
「はい。アルナたちもおいで」
ピィ
アルナが返事を返してくれ、私たちは323号室に入る。
「それじゃあ、また後で」
「わかった。終わったらアスカの方からノックしてくれる」
「うん」
リュートたちとも別れて部屋に入るとカギをかけ、音が外に漏れないように結界も張る。
「んで、何を聞いて欲しいんだい?」
「あっ、やっぱりわかりました?」
「長い付き合いだからねぇ。それに、アスカならアウロラのやつがああ言ったところで一緒に泊まろうって言うはずだからね」
「あはは、お見通しでしたか。それじゃあ、本題に移りますね」
「はいよ」
部屋に備え付けられていた椅子に腰を下ろすと、私はアウロラちゃんのことで気にかかっていることを相談し始めた。
「まず、アウロラちゃんをどうして受け入れたかってところからなんですけど…」
「そういや、いくらアスカとはいえ物分かりが良すぎたね」
「それなんですけど、初めてアウロラちゃんを見た時から私には見えてるんです」
「見えてる?なにが?」
「アウロラちゃんの背中にある羽根が」
「羽根…身体にかい?」
「はい。みんな驚いてなかったので多分、私にしか見えていないと思うんですけど…」
「そりゃあまた…それで気になって一緒に行動することにしたのかい」
「はい。すみません、黙っていて」
「いや、いいよ。こうして直ぐに言ってくれたんだし、あんなところで言ったらあの子がどういう行動に出るか分かったもんじゃないからねぇ」
「そうなんですよね。みんなに見えてない羽根っていうのが気になるんですよ。そういう種族がいるんですかね」
「ん~、あたしらがいた大陸には獣人やエルフみたいな亜人はほとんどいないからねぇ。リックに聞いても分かるかどうか…」
「リックさんなら分かるかもしれないんですか?」
「ああ。あいつの出身はレザリアース大陸で、あっちの大陸には獣人の国があるらしいんだよ。その情報から分かる可能性もある。まあ、それより手っ取り早いのがいるけどね」
「手っ取り早い?直接聞くんですか?」
「いいや、ここにいるだろ」
ジャネットさんはそういうと、私の肩で固まっていたティタを掴んで自分の膝に乗せる。
「と言う訳でティタはどう見るんだ。あのアウロラって子を」
「…分かりません」
「「えっ!?」」
私とジャネットさんの声が重なる。ティタが分からないことなんて今までほとんどなかったのに…。
「分からないのかい?」
「申し訳ございません、ジャネット様。彼女が何者であるか理解できないのです」
「分からないんじゃなくて、理解できないのかい?」
「はい。彼女の魔力の流れを見て正体を探ろうと何度もしたのですが、魔力の流れを掴むことができないのです。そのせいで人なのか、人に見える別の何かかどうかさっぱり分かりません。ご主人様が見えるという羽根も私には見えませんでした。申し訳ありません」
再度、私たちに謝るティタ。自分が役に立てないことで申し訳なく思っているのだろう。そんなこと気にしなくてもいいのに。
「気にするな、ティタ。それにそのことで一つ分かったことがある」
「何ですか?」
「ティタには見えないけど、アスカには羽根が見える。それと、ティタには魔力の流れが見えない。アスカはまだ確認してないんだよな?」
「はい。ただ、私なら見えるかというと自信はありません。ティタより魔力はありますけど、魔力操作だとちょっと劣るぐらいですから」
それぐらい魔物の魔力の扱い方は上手い。おそらく、持って生まれた本能に魔力の使い方が組み込まれているからだろう。
「まあ、アスカも魔力の流れが見えるか分からないのは別にいいさ。それより、ティタに見えないってことは、少なくともBランクの魔物位の強さは持ってるってことだ。魔力型のな」
なるほど、ティタの魔力と魔力操作をもってしても相手を推し量れないってことは、それより上のランクの魔物…。
「って、すごく危険じゃないですか!?」
「まあ、そう焦るなって。まだ魔物だって決まった訳じゃないし、味方になれば心強いだろ?」
「それはそうですね。早とちりしちゃいました」
「まあ、味方とは限らないけどね。今のところは。それよりも、常識を教えて過激な行動をしないようにさせないとね。誰かさんみたいに」
そう言いながらジャネットさんはこっちを見てくる。いや、私はそんなことしたことないですよ?
にゃ~にゃにゃ
その時、大きなあくびをしながらキシャルが話しかけて来た。
「えっ!?私は大丈夫だって?あの子がどういう子なのか分かるの?」
「おっ!キシャルはアウロラのことが分かるのか?」
にゃ~
「ちょっとだけって言ってますね。ひょっとして、同じ属性の魔物だったりするんでしょうか?」
まだ魔物とは限らないけど、キシャルが分かるって言うんだからその線が濃厚かな?
「それで、実際は何者なんだい~、うりうり~」
にゃにゃ~~!!
ジャネットさんがキシャルを両手でつかむと、頭をわしゃわしゃし始めた。その後のキシャルの言葉を翻訳するとこうだ。
『あの少女は普通じゃない存在。魔物とも少し違うけど、アスカには絶対手を出さない』
「何だいそりゃ、結局アスカに手出ししないだけであたしらには全く意味ないじゃないかい」
そう言われても、安全が確認できたから興味が沸かないというキシャル。私のことを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、もう少し深掘りして欲しいな。結局、キシャルが安全だから大丈夫で通すのでいったん話は終わりだ。
「ふわぁ~」
「ん?もう眠いのかい?」
「はい。なんだか町に着いてからちょっと眠くなって。変ですよね~」
「知らない間に疲れを溜めてたんじゃないか?別に飯まで時間があるから横になっときなよ」
「そうします」
無理はしない方がいいし、また明日の昼からは町を出るので私は少し横になることにした。
「う~ん、この感じは前にもあった気がするんだけど、どこだっけ……」
そんな思いを抱きながら、私は夢の中へと落ちていった。
「あ~あ、寝ちまったか。まあ、ある程度理由も分かったし、後は成るようになれだね。ほら、お前はまだ寝起きで元気だろ」
眠そうなアルナは寝かせておいて、あたしはキシャルの相手でもしてやるかねぇ。こうして、私とジャネットさんは夕方までのんびり過ごしたのだった。
「アスカ、そろそろ起きな」
「んん~~」
「起きないと、リュートを連れてくるよ?」
「リュート…?起こして」
「ダメだねこりゃ、ほいっと」
「痛っ!?な、なにっ?」
突然の衝撃に頭を左右に振って確認する。ここは…宿?
「起きたかい?そろそろ飯に行くよ」
「あっ、もうそんな時間ですか?」
「良く寝てたねぇ。ほら、着替えた着替えた」
寝起きの私はジャネットさんに促されて、町行きの服へと着替える。狙ったわけじゃないけど、アウロラちゃんと似た格好になったので、みんなと一緒に行動していても違和感がないだろう。
「ん~、終わりです。じゃあ、迎えに行きましょう!」
「はいよ」
荷物を部屋に置いたまま私たちは部屋を…おっと!
「みんなのご飯を出しておかないと!」
「ああ、それならあたしがやっておいたよ」
「ほんとですか?ありがとうございます。それじゃあ、隣の部屋に行きましょう!」
この時、私はまだ気づいていなかった。普段ジャネットさんはご飯をあげる時、特に何も見てなかったことに。帰ってきてあんなことになろうとは…。




