不思議な金髪少女
「ここがメリサリアですか~」
城門近くに来て改めて城壁を眺める。高さもかなりあり、人が容易には登れないようになっている。もちろん、魔物たちも無理だろう。見張り櫓も大きくて、数人が詰められそうだ。
「さて、商人入り口に並びましょうか」
「あっ、待ってください!」
「どうかなさいましたか?」
私は商人用の門に並ぼうとするセルダールさんを呼び止める。あっちは結構馬車が並んでいるし、私には秘密兵器があるのだ。
「こっちに来てください」
「ですが、そちらは貴族用入り口では?」
「頼りになる人に頂いたんです」
私は乗船証をきらりと見せる。これには貴族印も使われており、この大陸に限っては身分証にもなる。
「ええと、乗船証のようですが…」
「まあ見ていてくださいよ」
私は馬車の前に出て、貴族門のところに向かった。
「止まれ!こちらは貴族用の門だ。商人用はあっちだぞ」
「こちらを見て下さい」
「これは…乗船証?セリアレア港のものだな。うん?隣の紋章は…リディアス王国発行か。確認させてもらっても?」
「どうぞ」
何やら、真贋を向こうで確認できるみたいだ。ひょっとして他の都市でもできるのかな?
「…終わりました。どうぞお入りください」
「ありがとうございました!」
門番さんにお礼を言って町に入っていく。
「驚きました。まさか、貴族の方とお知り合いだとは」
「えへへ、とてもやさしい方だったんですよ」
「お陰で助かりました。それでは私はこれで失礼します」
「はい」
門をくぐったところでセルダールさんたちとはお別れだ。そして、私たちもと思ったところで後ろから声がした。
「ちょっと通してよ!」
「なんだ?」
「何でしょうね?」
「私はあっちの人と知り合いなの」
「じゃあ、なんで離れてたんだ?」
「しょうがないでしょ!疲れて遅れちゃったんだから」
「何か揉めてるみたいですね。あの~、どうしました?」
「あっ、これはさっきの方々。この女があなたたちの一行だと言ってるんですけど、本当ですか?」
「本当だってば、ね?」
「あ~、えっと…」
目の前にいるのは金色の髪をした少女だった。それも背中にはうっすら羽根が見える。どうやら深い事情があるようだ。
「あんたねぇ…」
「そ、そうです!一緒にいると思ったのにはぐれてたんですか?」
「えっ!?」
「そうなの!足が痛くなってね」
「あの…本当に一緒に来られていた方で?」
「はい、アウロラさんって言うんですよ、ねっ!」
「えっ!?あっ、そそそ、そうですっ!私、アウロラって言うんですよ!!」
適当に言った名前が当たっていた…なんてことはないんだろうけど、わけありだししょうがないよね。ん~、というか今一瞬だけ羽根が光った気がしたけど大丈夫かな?みんなには見えてないみたいだけど…。
「アスカ、どうかしたかい?」
「いえ、このまま門番さんとお話してきます」
その後、門番さんには何とか通してもらえた。一番の勝因はやっぱり貴族印だったね。これが商人入り口とかなら無理だったと思う。私たちはなんとか町に入ると早速聞き取り調査だ。
「んで、あんたの本当の名前は?」
「アウロラ」
「そんな訳あるか!苦し紛れにアスカがでっち上げた名前と一致するなんて変だろ?」
「…でも、アウロラなんだもん」
「ま、まあまあ、名前はアウロラでいいとして、どうして私たち一行に紛れて行こうと思ったか聞かないと」
「そうだな。名前より、何をする気で近づいたかの方が問題だ」
「ちっ、後でそっちも聞くからね!」
リックさんの助言もあり、名前に関しては引き下がってくれたジャネットさんだが、理由については引く気はないようだ。もちろん、町に入れた以上は私にも責任があるから理由については私も引く気はないけど。
「というわけで、アウロラちゃん。どうして町に入りたかったの?」
「別にこの町に入りたかったわけじゃないの。ただ、ずっと先の町に行くのに通り抜けしたくて」
「別の町?」
「うん…いえ、はい。セリアレアっていう、この国の北西にある港町に用があって…」
セリアレア。この連合国家アダマスの国際港湾都市で、セルダールさんや他の商人がダンジョン都市から買って帰ったものはもちろん、それぞれの国の特産品を北北西にあるレザリアース大陸に輸出している港町だ。ひょっとして船に乗りたいのかな?
「アウロラちゃんは船に乗りたいの?」
「いいえ。船になんて興味ありません。その町に用事があるんです。でも、今まであんまり住んでいるところから出たことがなくて、行く先々で入れないって言われて…」
「別に金を払えば犯罪してない限りは入れるだろう?」
「お金、持ってない…」
「おいおい、文無しかい。今までどうしてきたんだい?」
「む、村に住んでたから必要なかったの。でも、町に入るのにお金はいるし、セリアレアまでは何回も支払わないといけないと言うから…」
「それで、私たちが入るところへ一緒に?」
「はい。以前に見た時、あそこから入る人はお金を払ってなかったので」
「まあ、貴族は通行証か家紋入りの馬車なら身分証明できるからな」
「そう!だから、私も入れてもらおうと思って」
「はぁ…アスカとは別方向で厄介な子だね。あんたね、そんなことしてたら何されても文句言えないよ!」
「ううっ…でも、セリアレアに行かないといけないんだもん」
ジャネットさんがアウロラちゃんを叱る。でも、別に悪いことをしているからではなくて、たとえ入れてもらえたとしても、その人が後で料金を請求したり、お金を持ってないなら強制労働に連れて行ったりと、危険があるからだ。そういう心配ができるジャネットさんはやっぱり素敵だなぁ。
「それで、どうしてセリアレアに行きたいの? 別に船に乗らないなら他の町でもいいよね?」
「そこで会いたい人がいるんです!」
必死に訴えかけるアウロラちゃん。見たところ11歳ぐらいだし、すごい覚悟で村を出てきたんだろうな。
「ジャネットさん…」
「うちのパーティーのリーダーはアスカだよ。どうするかは任せる」
「うん、僕もだよ」
「俺も人のことは言えないからな」
みんな、私の意志を汲んでくれる。本当にこのパーティーは最高だ!
「ねぇ、アウロラちゃん」
「はい」
「実はね、私たちの行き先もセリアレアなんだ。一緒に行く? といっても、道中ちょっと寄り道するかもしれないけど…」
「だ、大丈夫です! 寄り道はあんまりですけど、それでも私一人でセリアレアまで行く方が遅いと思うので!」
「じゃあ、決まりだね」
「ありがとうございます」
ぺこりとアウロラちゃんがお辞儀をする。すごく深くしてくれてるし、本当に大事な目的があるんだなぁ。ただ、後ろに羽根がついて無ければもっとよかったんだけど。
「まあ、そういうことならしょうがないな。よろしくな、アウロラ」
「ジャネットだっけ? よろしく。あなたたちは?」
「リュートです」
「リックだ」
「ふぅ~ん。まあ、覚えとくわ。おチビちゃんたちもね」
ピィ
にゃ?
「…。」
従魔たちにも一応挨拶はしてくれるみたいだけど、みんなの反応も少しいつもと違うなぁ。
「あのさ。あんた、アスカと話す時とあたしらが相手じゃ口調が違うよね?」
「当たり前。アスカさんは私の…」
「私の?」
「あ、え~と…そう! 私を助けてくれた人だから」
うう~ん、なんだかちょっと釈然としないけど、まだ出会ったばかりだしいっか。深くは考えずにとりあえず今日の宿を探す。今は宿を取ってジャネットさんに確認したいことがあるしね。
「じゃあ、先に今日の宿を探しましょう。明日の午後にはこの町を出るけど、ゆっくりしたいですからね」
「わかったよ、それにしてもアウロラ」
「なに?」
「あんた、セリアレアまでの間に何か金儲けのやり方覚えとくんだよ?」
「どうして?」
「どうしてって、今回ので懲りただろ?次から何かあった時のために金を貯めとくんだよ」
「む~、面倒だけどそうするかな。じゃあ、何がいいの?」
「何って何ができるかも知らないしねぇ。その辺は明日以降だね。リュートが教えてくれるさ」
「ええっ⁉ 僕ですか?」
「この中で一番器用だろ? 色々やらせてみるには最適だと思うがね」
「そうだな。魔槍以外にも変わった槍を使うし、料理もできる。任せておいていいだろう」
「ア、アスカとかは?」
「教えるのに絶望的に向いてない」
「ええっ⁉ どうしてですか? 私も一杯教えてきましたよ!」
アルバにいた頃はノヴァにも二刀流のスキルとか芽生えさせたこともあるし、ミディちゃんにも魔法の効率的な使い方とか教えたのになぁ。
「アウロラにまだ才能があるか分からないだろ? アスカは試しに向いてないんだよ。実力が測れてからだねぇ」
「ううっ」
まだまだ上級冒険者の仲間入りは難しいみたいだ。まあ、色々依頼を受けないといけなくなるからそこまで興味はないけど。
「おっ、ここが良さそうだね」
「結構立派な宿ですね」
「ああ。でも、アウロラもいるからセキュリティは大事だろ」
そう言いながらちらっとアウロラちゃんに目をやるジャネットさん。色々考えてくれてるんだなぁ。
「それじゃあ、ここにしましょうか? 部屋は…アウロラちゃんは私たちと一緒がいい?それとも一人?」
「ひ、ひとり部屋でもいいんですか⁉ できればひとりがいいんですけど…」
「じゃあ、決まりだね。それじゃあ、三部屋取りましょう!」
「三部屋?」
「うん、私とジャネットさんで一部屋。リュートとリックさんで一部屋ね」
「別にそこまで気にしなくともいいだろう?」
「まあまあ、早く入らないと部屋が埋まっちゃいますよ」
私はなおも何か言いたげなリックさんの背を押しながら宿に入っていった。




