城塞都市メリサリア
無事にウッズオーク肉も手に入れた私たちは食事も終えて出発することになった。
「目的の町は何て言うんですか?」
「メリサリアですね。うちも拠点を持っている都市です。ダンジョン都市からも近いので、賑わいもありますよ。他にアダマス方面だと、コービーさんのところが本拠地を持つ西のシェイナスという都市が有名ですね」
「2か所に何か差はあるんですか?」
「差と言いますか、地理的要因ですね。メリサリアは別大陸への輸出も含めた北方、シェイナスは国内の南から西の国家をカバーしています」
「役割分担なんですね!あっちに行ったものも見たかったです」
アルトゥールで手に入ったレア品は中々普通の冒険者には手が出せない。もちろん値段が高いということもあるんだけど、一部のものは商人向けオークションになってるんだよね。私も一応商会長なので、行ったことはあるのだが、何というかもう…怖いの一言だ。買える買えない以前に、あの熱量に圧倒されて参加どころではなかった。
「そろそろ、店開いてみないと」
「店をですか?」
ぼそっと呟いたつもりだったが、セルダールさんには聞こえてしまったらしい。ううっ、本職の人に聞かれるなんて恥ずかしいな。
「一応、自分で仕入れたものとか冒険者として入手したものを依頼して、加工してもらって売ってるんです」
「そうでしたか。向こうでオークションには参加を?」
「出たのは出たんですが、みなさんの熱量に当てられて…」
「あはは、確かにあの中では難しいですね。私も最初、親に連れられて行った時は意気込んで行きましたが、結局何も買えずじまいでしたよ」
「セルダールさんでもそうだったんですか?」
意外だ。しっかりしてる人なのに。
「ええ。何度も出入りしてようやくですね。それでも、外れを買うことがありましたが」
セルダールさんの経験談を聞いていると、買えるようになったら今度は場の雰囲気に流されて、売れないものにまで『これはチャンスだ!』と思って手を出してしまうらしい。開催側もそういう雰囲気の時に混ぜて出してくるから、新人さんはいつも大変なんだそうだ。
「うちも何点か商品を仕入れていますが、眺めることも多いですよ。アスカさんのような方なら魔石もいいでしょうが、他の方なら普通の店で大丈夫ですよ」
「私は必要ですか?」
なんでなんだろう?気になってセルダールさんに聞き返した。
「おや?ドレスなどにお使いでしょう?」
「えっ!?どうしてですか?」
「普段から着ておられるのではありませんか?」
「き、着ませんっ!たまにしか…」
「そうでしたか、それは失礼しました。ですが、変わった魔石もいくつかありますので、ぜひいらしてください」
「分かりました。時間があれば寄らせてもらいます」
セルダールさんと会話をしながら馬車はどんどん進んでいく。ちなみに今は砦の兵士さんがいなくなったので私とジャネットさんが前方の左右、リックさんとリュートが後方の左右で、私とリュートでそれぞれ探知魔法を使って警戒している。
「アスカ~、そろそろ前後入れ替えするかい?」
「ん、そうですね。変わりましょうか」
1時間ほど歩いたので、気分を切り替えるために私たちは前後を入れ替える。
「じゃあ、また町に入る時に」
「ええ、それでは」
セルダールさんにも挨拶を返して、私は後ろに行く。それから、さらに30分はスイスイと進んでいたのだが…。
「あ~、これ面倒くさそうです」
「反応かい?リュートの方は何も言わないけど」
「なんか、左右から回り込まれてますね。もうすぐ気が付くと思います」
「なら、いっちょやるか!」
「はい」
それにしても変わった反応だ。いつもの魔物の倍は離れながら回り込むなぁ。万全を期して襲うつもりなんだろうけど、よっぽど自信があるんだろうか?そんな考えを巡らせていると、リュートも気が付いたみたいだ。
「魔物の反応です!」
「何だって!?セルダールさん!」
「ああ、馬車はここで待機だ。行けるな?」
「はいっ!リックさん」
「ああ」
前方からこちらと同じ2体の魔物がやってくる。反応的にはウルフ種だ。でも、回り込んでくるウルフより動きが遅い…。
「ジャネットさん、本命は後ろみたいです」
「分かったよ、アスカは馬車を守りな!」
「はいっ!」
私とジャネットさんは馬車の後ろに残り、仕掛けてくるタイミングを待つ。
「その前に、左右の弱そうな反応は対応しておこう。アルナ、馬車の右側は任せていい?」
ピィ!
この強さは普通のウルフだと思うので、右側はアルナに任せる。私は敵との間に馬車を挟む、狙いにくい方へ攻撃する準備を整える。
「来たっ!」
「普通のウルフだな」
「2人とも、こっち側が本命なので注意してください!」
「分かった」
「了解だ」
襲撃の内容を前方の2人にも伝え、いよいよ戦闘だ。前のウルフも弱いわけではなく、戦い慣れているようで引きが上手い。そして、直ぐに本命のウルフたちに動きがあった。
「後ろ…来ます!」
ガサガサッ
草原の中でも少し高い草むらからこの群れを率いているウルフが姿を現した。
「ソードウルフ!?それなら!」
切断スキルを持つとはいえ、遠距離での戦いができないなら対処は簡単だ。接近できないようにウィンドカッターの魔法で生み出した3本の風の刃を自在に動かし、まずは1体の動きを封じる。
「ナイス!くらいな!!」
ギャン
その間にジャネットさんが1対1になり、2体いた内の1体を仕留める。
ガァァ
ピィ
さらに本来、混乱を誘うためこのタイミングで飛び出て来た左右のウルフは1体をアルナが、もう1体は私の肩口からティタが魔法で仕留めてくれた。私も攻撃手段を用意していたけど、それならそれで使いようはある。
「これで終わり、いけっ!」
今まで目の前にあった風の刃を避けきったと思い、攻撃に移ってきたソードウルフに向かって、上空に置いていたウィンドカッターを振り下ろす。
キャウン
空からの攻撃に気づいたところで、あとの祭りだ。首元に一撃を加えられたソードウルフは倒れた。
「アスカ、そっちはもういいの?」
「うん。リュートたちの方も?」
「こっちも終わったよ。というか、こっちは普通のウルフだったし」
「後ろの本体から気を逸らす動き以外は普通だったな。さて、直ぐにマジックバッグにしまうか」
「そうですね。軽く血だけ埋めてしまいましょう」
護衛依頼中なので、解体はせずに血を覆って直ぐにその場を離れる。鼻のいい魔物は埋めても気づくことがあるからね。
「いや~、皆さんお強いとは思っておりましたが、流石ですね」
「あれぐらいなら造作もないさ。そもそも、あれで手間取っていたらアルトゥールで稼げないだろう?」
「いやはや、おっしゃる通りで。ただ、あそこまであっさりと倒されるとは思いませんでしたので」
「本当ですよ。私も少しは気楽に御者が出来ます」
戦闘が終わるとセルダールさんたちが絶賛してくれた。まあ、Cランクのソードウルフが2体いたものの、他はEランクのウルフが4体だから大したことないんだけどね。それに私たちは探知魔法が使えるから、奇襲にも中々遭わないのは大きいと思う。
「それにしても、この辺りだとソードウルフはよく出るんですか?」
「リュートさんでしたかな?いえいえ、そんなことはありませんよ。魔物たちもこの道を通るのが、腕のいい冒険者と知ってますから街道にソードウルフが現れるのは珍しいんです」
「じゃあ、今回は運が悪かったんですね」
「そうですね。普段であれば、オークや普通のウルフぐらいしか見ませんから。ですが、不幸中の幸いですね。今日の経験で、この道を抜ける時もある程度冒険者を振るいにかけるべきと再認識できましたよ」
そんな風に笑顔を浮かべるセルダールさん。肝が据わってるなぁ。そして、セルダールさんの言葉通り、そのあとは魔物と出会うこともなく、無事にメリサリアの町が見えて来たので少し立ち止まる。
「結構城壁も高いですね」
「ああ、それはですね。レザリークの森を抜けた先にあるでしょう?かつてはアスパルテス砦と相対していた都市なんですよ」
「あっ、そういえば過去に戦争状態にあったんでしたっけ?その名残なんですね」
「ええ。ですが、こちらは森から離れていますから、今やあの城壁は飾りのようなものです。史跡を巡る人には人気があるようですが」
話のタネとしては知っているけど、それ以上は興味ないという風にセルダールさんが説明してくれた。町が近づくと田畑も見えてきており、周囲の魔物は本当に近づいてこないようだ。
「結構治安のいいところみたいですね。ジャネットさん」
「そうみたいだね。ただ、これならいい依頼は無さそうだね」
「確かに。セルダールさんの店をのぞいたらそのまま出発しましょうか」
「だね。港町についてゆっくりした方が楽しめそうだ」
こうして大きな問題もなく、私たちはメリサリアに着いたのだった。




