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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
連合国家アダマス

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レザリークの森を抜けて

 いよいよ連合国家アダマスへ向かうため、アスパルテス砦を出発した私たち。移動には砦の人たちも付いてくれるので、私は今のうちに商人さんへ気になっていることを質問することにした。


「そういえば、セルダールさん。一つ質問があるんですけどいいですか?」


「質問?いいですよ」


「今回の護衛依頼と迂回路の護衛依頼ってほとんど報酬に差がありませんよね?商人さんから見たこっちルートのメリット・デメリットは聞いたんですが、どうして差ができないのかわからなくて。どうしてなんですか?」


「ああ、アスカさんたちはアダマス方面への護衛依頼は初めてなんですね。アスカさんはアルトゥールから出る冒険者と入る冒険者、どちらが多いと思いますか?」


「うう~ん。どっちも同じぐらいですか?」


 ダンジョン都市には割と長く滞在したけど、町の人の数が大きく変動した記憶はないしなぁ。


「正解は出る人数ですよ。アスカさんたちも長期滞在する冒険者に会いませんでしたか?」


「そういえば、何組かは長期滞在してました」


「そうでしょう?それで街に人が溢れないのは出ていく人の方が多いからなんです。そして、出ていく方には大別して2タイプいるんですよ」


「2タイプですか?」


「はい。目的のものや、大金を手に入れてほくほく顔で出ていくパーティーと、背伸びして大した成果も得られず、滞在費を考えて撤退するパーティーの2タイプですね。そして、この真逆のパーティーがどういう気持ちで依頼を受けるか分かりますか?」


「う~ん、最初の方はニコニコで受けるとして…後ろの方はどうでしょう?」


 少し考えてみたものの、良く解らないな。支出が多いから高額依頼?それともいつも通りだったりするのかな?


「正解はどちらもこちらの言い値に近い額で受けてくれる、です」


「ええっ!?そうなんですか?」


 意外だ。どっちも同じ傾向なんだ。


「最初のパーティーは目的を達成していい気分ですから、街を去る時もさほど依頼にはこだわりません。あれば受けて行こうかという感じです。当然、護衛依頼の場合もルートによる金額の違いや、1日2日の着日の差など気にはしません。一方の撤退するパーティーは少しでもお金が欲しい状況です。日程どころか依頼料に関しても贅沢は言えません。結局どっちのパーティーも、最終的には安い値段で受けてくれるのですよ」


「は~、よく考えられてるんですね~」


「それに先程、街を去る冒険者の方が多いと言ったでしょう?日によっては依頼の取り合いになることもあるので、こちらとしても大金を積む必要がないんです」


 なるほど。高い商品を安い護衛料で運べる仕組みなんだ。撤退するパーティーにはかわいそうだけど、受けなきゃさらにマイナスになっちゃうもんね。


「ところでアスカさんたちのパーティーはどちらかお聞きしても?」


「えっ!?私たちですか?う~ん、ダンジョンに行くことが目的でしたし。でも、どちらかというと前者ですかね?」


 大したものが出ない期間もあったけど、それでも潜れば数日間の滞在費にはなったから、持ち出しは無しだもんね。


「それは良かったですね。目当ての物などはなかったのですか?」


「目当てのものですか?特にありませんでしたね。ただ、色々と手に入ったので行った意味はありました」


 石板もそうだけど、占甲とか面白いものも手に入ったので私的には満足だ。後は…私はちらりとジャネットさんの方を見る。入手してからよほど気に入ったのか、今日も両手にガークローを付けている。一番ダンジョンでいいものを手に入れたのはジャネットさんかもしれない。


「そうですか、それは良かったです。もし、まだ欲しいと思うものがありましたら、街に着いたら店に来てください。きっとお気に召すと思いますよ」


「時間があったら伺いますね!」


 私たちと違って商人さんが仕入れるルートは別だろうから、何があるのか興味があるからね。その他にも普段の街での生活などを聞いていると、それなりに時間が過ぎていった。



「あの…」


「どうされました、アスカさん」


「さっきから短い休憩はありますけど、長い休憩ってないんですね」


「ああ、それでしたらありませんね。砦の兵士たちも元の任務は私たちが森に入らないように監視することですから。途中休憩を挟むと、季節によっては暗がりに砦へ戻ることになるんですよ」


「それは危険ですね…」


 森の夜は本当に暗い。焚火をしているとつい忘れがちになるけど、ちょっと野営地から外れるとほんとに真っ暗なんだよね。


「ですから、森を抜けるまで小休止はありますが、長い休憩はないんです。抜けてから各自でということですね」


「じゃあ、セルダールさんは抜けたら休憩を取るんですか?」


「そうですね。森から少し距離が開いたらですね。一度休んでおかないと馬たちもいざという時、動いてくれませんから」


「それじゃあ、もうしばらくはこのままですね」


「ええ、残念ながら」


 今は出発して3時間ぐらいだから、あと1時間は歩く感じみたいだ。そこから森を抜けて10分歩くとしたら長いなぁ。とはいっても、夜にバルデルさんたちを返すわけにもいかないので頑張らないとね。


「それはそれとして…ホバー」


 ずっと歩き詰めも足に悪いので、私はホバーの魔法を発動させ、森を滑るように動く。ふふふっ、ジャネットさんたちが前にいるからこそできる手法だ。リュートは…あっ、こっちを見て来たってことは気づかれた?まあでも、リュートは告げ口とかしないし、大丈夫だ。こうして私は、残りの1時間をすいすいと進んでいったのだった。




「おっ!森の出口か」


「そのようだな。バルデル!」


「どうかしたか?」


「あれが森の出口か?」


「ん…ああ、そうだ。意外と早かったな」


「魔物の襲撃も途中一回だけだったしねぇ。相手も弱いウルフ種だったし」


「そうだな。あんな魔物程度ではな」


「普段は後1,2回あるんだが運が良かったな。では、このまま抜けるぞ!」


 最後の一息ということで、皆の足取りも少し軽くなる。まあ、私たちはここからアダマスへ、バルデルさんたちは折り返して砦に帰らないといけないんだけどね。



「森を抜けた~!」


 私は解放感でそう叫んでみた。実際、森の中って鬱蒼としてるから圧迫感があるんだよね。


「アスカ、索敵は?」


「してます」


「ならいい」


 魔物への注意は怠ってないことをジャネットさんに説明したので、さっきの妙な行動にはお許しが出た。


「さてと。それじゃあ、俺たちはここまでだな。アスカ、今回は世話になった。道中、気を付けてな」


「私たちこそ泊めていただいてありがとうございました!」


 森の入り口で立ち止まるバルデルさんたちアスパルテス砦のみんなにお別れの挨拶をする。


「元気でね!」


「はい!カーディさんもお元気で!」


 挨拶を済ますと、バルデルさんたちは砦へと道を戻っていった。森の入り口で休むのかと思っていたんだけど、行軍練習にもなるとのことでお昼も短く森の中で取るらしい。


「大変だなぁ」


「人の心配ばっかりじゃ困るねぇ。さあ、あたしらも行くよ」


「コービーさん、では私たちはこの辺で」


「ええ。またご一緒しましょう、セルダールさん」


 私たちと一緒に来ていたもう一組の商人さんはこのまま西の街を目指すみたいで、ここでお別れだ。セルダールさんはここから北西にある町を目指すのでルートが異なるためだ。


「それにしても、国境を越えるのにどこからでも行けるんですね」


 お昼の休憩場所まで少し歩く間、再び話をする私たち。


「ええ、アダマスは特にそうですね。連合国家の名が示す通り、たくさんの国が集まっていますから。ですので、国同士の移動が多くなって商人としては大変なんですよ」


 セルダールさんが言うにはアダマスという統一名称にはなっているものの、実際は各国が国としての体制を維持しているため、割と検問が厳しいらしい。国王もローテーション制でこの国が王になったら次の代は別の国と、王族の扱いも複雑なんだって!


「でも、そんなに複雑ならやめちゃえばいいのに」


「はっはっは、そうですね。ですが、そうすると隣国であるリディアス王国に攻められてしまいますから。どちらかというと、軍事同盟的な側面が強いのですよ。成立自体、東側の国が攻められて、焦った西側諸国が呼びかけたのが経緯ですから」


「そういえば、アスパルテス砦でもそんな話を聞きました」


「昔はあそこが最前線だったらしいですからな。お陰でのちの私たちは楽をさせてもらってますが」


 そんな風に割り切っていうセルダールさん。ううむ、こういうところはさすが商人さんだ。



「そろそろ、休憩地です」


 馬を引いていた御者さんが私たちに休憩場所に着いたことを教えてくれる。


「おや、今日は話していたせいか、ずいぶん早く感じますね。では、しばらく休みましょうか」


「分かりました!」


 ピィ!


 にゃ~


「わっ!?2人とも急にどうしたの?遊びたいって?食事もあるんだからあんまり遠くに行かないならいいよ」


「アスカ、キシャルたちが遊びたいって?」


「はい。遠くに行かせないようにしますから」


「分かったよ。リック、見張り頼んだよ」


「任せておけ」


 見張りはするけれど、さすがにセルダールさんたちとは一緒に食べないので、私たちは私たちでお昼の準備に取り掛かる。


「私はひとまず、アルナとキシャルのお昼を用意するよ。飽きて帰ってきた時にすぐ食べられるようにね」


「分かった。それじゃあ、火だけお願いしていい?」


「任せて」


 ジャネットさんとリュートに近くにあった木を持って来てもらい、サッと火をつける。付け終わったら私は薬草や野菜とアルトゥールを出発する前に買っておいた肉を取り出して、アルナとキシャルのご飯を作りだ。


「さあ、戻ってくる前に終わらせよう!」


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