砦に到着
「うう~ん」
「あっ、起きた?」
「リュート?私寝ちゃってた?」
「うん、ちょっとだけだけどね」
「そっか、ごめんね。よっと」
私は体を起こすと周囲を確認する。ジャネットさんたちはもう解体を終えたのか、今は剣の手入れ中みたいだ。
「キシャルは…まだ寝てる。起こさないようにそーっと」
私は風魔法でキシャルを浮かせて頭に乗せると、シートを片付ける。
「ん?アスカ、もう大丈夫かい?」
「はい。すみません、寝ちゃってて」
「いいよ、別に。焦るようなこともないんだし」
「アルナは?」
「ん?あっちで遊んでる。まあ、魔物もいないみたいだし、大丈夫だろ」
ジャネットさんが指をさした方向でアルナはパタパタと羽ばたいていた。
「ひょっとして、ずっと遊んでました?」
「いいや、たまには休んでたよ」
う~ん。でも、いつもなら軽く休んでるはずだし、今日の夜はひょっとしたら直ぐに寝るかも。私はそんなことを考えながら、片付いたことを確認すると、出発の準備をする。
「さあ、出発しましょう!」
「本当にもういいのか?」
「はい。十分休みましたから」
こうして私たちは再び空の旅へと向かう。
「リュート、MPの方は大丈夫?」
「う~ん、多分到着するぐらいまでは大丈夫かな?」
「そっか。怪しくなったら言ってね。リックさんの分は引き受けるから」
「分かったよ」
「それじゃあ、出発!」
そして、空の道を進み始めた私たちだったが…。
ピィ…
「アルナ、眠いなら肩につかまってていいよ?」
ピィ!
どうやら、お昼の時間に遊びすぎたのか、飛びながらアルナはうとうとしてきたようだ。別に寝たらいいのにと声をかけるものの、今のところはなんとか頑張っている。でも、こうなったら気になるから、こっちに来て欲しいんだけどな。
「アルナ、アスカが心配してるから戻りな」
ピィ…
おおっ、ジャネットさんの一言でアルナがこっちに。
「いっぱい遊んだもんね。ゆっくりしててね」
私がそっと肩につかまらせると、すぐに肩で寝始める。
「ふふっ、ほんとに我慢してたんだね」
そのまま私たちは進んでいく。しかし…。
「ん?」
「アスカ?」
「魔物です!」
「ちっ!後、半時間ぐらいなのに」
みんな一度、空中制止すると魔物の気配がする方向へと向く。
「魔物の種類は分かるかい?」
「う~ん、あんまり鳥系の魔物は分かりませんね。でも、そこまで大きくはないですね。数は…3羽ぐらいです」
「それぐらいなら何とかなるな。水よ!」
リックさんはすでに魔物の迎撃のため、剣に水魔法をエンチャントする。私も杖を構えていつでも攻撃できるようにする。
「そろそろ視界に入ります」
「さぁて、どんな奴だろうねぇ」
「魔槍よ、頼むよ!」
キィン
リュートも空での戦闘ということで魔槍を短くして高速戦闘に対応できるように準備を済ませる。そして見えてきた魔物は…。
「あれはサックバード?良かった、大した相手じゃなくて」
「そうだな。俺が左は倒す。残りは任せるぞ」
「分かりました!じゃあ、ジャネットさんは取り逃したらお願いします」
「はいよ」
「リュート、行くよ!」
「うん!」
「くらえっ!」
まずは、リックさんがエンチャントした剣を振るい剣先から水流を飛ばして攻撃する。そのままサックバードに命中し、まずは1体を墜とす。
「私も!ウィンドカッター」
今度は私が3つの刃で正面のサックバードに攻撃を仕掛ける。中央だけ先行させて左右の刃はゆっくりと相手に襲い掛かる。当然、サックバードもそれを感じ取り、最初の刃を避けて残った左右の刃に注意を向ける。
「甘いよっ!」
私は最初に回避した風の刃を操ると、サックバードの下から刃を振り上げる。
ザクッ
「よしっ、仕留めた!」
「よ~し、僕も!」
私に続いてリュートも魔槍を構えて狙いを定める。そして、腕を後ろに引いて…。
「いけっ!」
ヒュン
風の魔法で加速した魔槍がサックバードに向かって一直線に飛んで行く。相手の飛行速度をはるかに超えたその一撃は相手に回避の時間を与えることなく、体を貫いた。
「あっ…」
「リュート、あんたまだダンジョンでの癖が抜けてないねぇ。素材が傷むだろ?」
「す、すみません」
「まあ、最初の戦闘だししょうがないさ。それより、下に降りて処理をしよう」
「そうだね」
戦闘は終わったので、後は素材の回収だ。
「素材、肉以外に何かありそうですかね?」
「どうだろうねぇ。大してないだろうけど、羽ペンぐらいなら使えるかね?」
「それで行くと私は特注のペンがありますからいりませんね。でも、ちょっと加工して販売とか、誰かに渡すぐらいならいいかもしれませんね」
「なら、このでかいやつを使うか」
「そうですね」
全部は多いので3羽の内、一番大きいサックバードの羽根を少しむしって、羽ペン用に確保する。残念ながら魔石はなかったので、後は肉だけだ。
「肉はこっちで処理するよ。それより、周囲の確認よろしくね」
「分かりました!」
解体についてはそんなに得意ではないので、またもやジャネットさんたちにお任せして、私は探知魔法で索敵にいそしむ。
「うん、特に反応は無し!これならゆっくりできそうだね」
「それじゃあ、僕は反対側を見ておくね」
リュートは私と反対側に向かって探知をかける。
「どう?」
「こっちも反応なし、このままアスパルテス砦までは行けそうだよ」
「良かった。それじゃあ、2人の作業が終わるのを待ってようか」
「そうだね」
私とリュートはジャネットさんたちが解体している間、一応は見張りをしながら過ごした。
にゃ~
「あっ、キシャル起きたの?目的地にはまだなんだ。もうちょっと待ってね」
にゃ
せっかく起きたところ悪いけど、特に動き回れるわけでもないのでキシャルにはじっとしててもらう。
「アスカ、終わったよ。ん?なんだい起きたのかい」
にゃ~
「まだ時間かかるから寝てなよ」
ジャネットさんにも寝るように言われて、キシャルは諦めたのか再び寝息を立て始めた。
「全く、寝てばかりで役に立たないんだから」
「ティタったら、そう言わないの」
「アスカ、コールドボックスはあるか?これぐらいなら冷蔵で行けるだろう」
「分かりました」
リックさんに言われて冷蔵室にサックバードの肉を入れると、いよいよ出発だ。
「それじゃあ、アスパルテス砦まで行きますよ~」
「うん」
そうして再び私たちは空へと舞い上がったのだった。
「あっ、砦が見えて来た!」
「どこだい?」
「あっちです」
私が指さした方向には大きな砦の輪郭が見えて来た。懐かしいなぁ。
「それじゃあ、少し高度を落とさないとね」
「分かりました!」
私たちは高度を落として砦に近づいていく。その頃、アスパルテス砦では…。
「ん?なんだあれ?」
「どうかしたのか?」
「いえ、何か空を飛んでいるものが…」
「何っ!?魔物か?」
「ちょっと待ってください。スキル発動!」
俺は遠見のスキルを発動させ、対象を視界にとらえる。このスキルは遠くのものを近くにいるかのように見ることができるが、普段から発動していると、近くの物が詳細に見えすぎて非常に困るスキルでもある。
「あっ、人ですね。だけど、どこかで見たような…」
「人?中央からの連絡か?旗を上げてみよう」
先輩の指示に従って俺は旗を掲げて振る。見たところ冒険者のようだが、こっちに向かっているので気づいてはくれるだろう。
「あっ、なんか旗が上がってますよ」
「向こうもこっちに気づいてるようだねぇ。それじゃあ、あそこに降りるとするか」
「は~い」
こうして久し振りのアスパルテス砦へ私たちは降り立ったのだった。
「こんにちわ~」
「ん?お前は…以前砦の中を歩いていたような」
「アスカと言います。バルデル隊長かカーディさんはいらっしゃいますか?」
「バルデル隊長?彼の隊なら残念ながら今は哨戒に出ている。中で待つか?」
「いいんですか?」
「ああ。確か前は大隊長にも会っていただろう?それなら身分もしっかりしているだろうから、問題ない」
というわけで、話はスムーズに進み以前と同じ部屋へと私たちは通された。
「前もここに泊まりましたけど、やっぱり結構広いですよね」
「そうだね。荷物を置いても余裕があるし」
「本当にここに泊まっていたのか?ここは砦の中なのだが…」
「まあ、こっちには功績があるんでね。これぐらいどうってことないさ」
コンコン
「はい」
「失礼する」
「あっ、コールドウェン大隊長さん!」
「久しぶりだな。空から現れたそうだな。驚いたぞ」
「すみません、少し急いでいて…」
「まあ、別に構わんがな。少し前にそれなりの規模の襲撃があって、その処理も片付いて今は時間がある」
「ええっ!?大丈夫だったんですか?」
「うむ。その折はワグナーが大活躍でな」
「ワグナーが?」
「ああ、なんとあのワグナーが、ブレスを放ったのだ。運がいいことに魔物の襲撃が夜襲でな。本来なら我々が圧倒的不利な状況だが、ワグナーのブレスは光属性で相手を倒すだけでなく、その光で魔物を弱らすこともできたのだ」
「へ~、さすがはワグナーですね!」
「うむ。以前から哨戒任務以外でも頼りにしていたが、今ではこの砦の守護者のような存在になっている。我々も今後は繁殖を考えている」
「繁殖…お嫁さん探しですか?」
「うむ。とはいえ、ワイバーンの生息地も多くはないし、従魔にしている人間なんて限られているからな。交渉も難航している」
「交渉?」
「ああ、実はな…」
コンコン
「は~い」
「アスカ、バルデルだ。入るぞ」
「どうぞ」
「久しぶりだな…大隊長!?」
「お前たちが遅いから私が相手をしていたのだ」
ドアをノックして入ってきたのはバルデルさんとカーディさんだった。




