いざ、アスパルテス砦へ
ダンジョン都市アルトゥールを後にした私たち。そんな私たちの次なる行先はというと…。
「それで、最初はどこに向かうんだ?」
「う~ん、のんびりと行きたいところですけど、アルトゥールで結構時間を使っちゃいましたし、何とかアスパルテス砦まで行こうかなと」
「どこだそれは?」
「ここからだと南西にある砦ですね。昔はアダマスとの最前線だった砦だから、部屋も余っていると思うので。それに、依頼の集合場所もそこになってるんですよね」
「ああ、あそこかい。ついでにワイバーンに乗せてくれると楽なんだがね」
「なんだ、皆は行ったことがあるのか?」
「ああ、カーナヴォン領に向かう時にね」
「それじゃあ、行きましょう!フライ!」
私は自分とジャネットさんに魔法をかけ、空を飛んで行く。
「あっ、リックさんはリュートにかけてもらってくださいね。ティタもキシャルも落ちないように気を付けてよ」
「はい」
にゃ~
ピィ
「アルナは大丈夫だと思うけど、あんまり一人で先行しないようにね」
ずっと町中にいたアルナはきっと空を自由に飛びたいだろう。でも、空を飛ぶ魔物もいるし、注意しないとね。
「今、どのぐらい進んだんだ?」
「う~ん、結構スピードも出てますから半分ぐらいですかね?もうちょっとしたら休みましょうか」
あれから2時間ほど私たちは空を飛び続けた。景色はどんどん後ろに過ぎていき、途中にはミネルナ村らしき場所も見えた。
「村にも寄りたいけど、寄ったら長居しそうだしね」
というわけで、村には寄らずに上空から眺めるだけだった。そうして進んでいくと、標高の低い山の頂上付近で私たちは降り立った。周りには森や林が多くて魔物が多そうだから、それを避けるためにここを選んだのだ。
「ふ~、ちょっと疲れたね」
「うん、僕も久しぶりに魔法をずっと使ったからちょっと疲れたかな?」
「じゃあ、すぐにシートを敷いて準備するね」
私は早めのお昼を食べるためシートを用意する。
「へぇ~、リュートにはもう少し稽古が必要だね」
「こ、怖いこと言わないでくださいよ、ジャネットさん」
「用意できたよ!」
「ほら、アスカが用意できたって」
「ちっ、準備が終わっちまったか」
「どうかしました?」
「何でもないよ。それで、昼はどうするんだい?」
「う~ん、この前買っておいたジュムーアの干し肉ですかね?」
「それじゃあ、半分はスープにする?パンも冷蔵してるんだよね?」
「そうだね。お願い」
私はリュートに頼んでスープを作ってもらう。もちろん、私も協力するけどね。
「鍋を用意して…ティタ、水をお願い」
「はい」
ティタが鍋に水を入れると、小さいかまどを作って私が火魔法で湯を沸かす。まだ何も入っていないので、時短のために水に直接火を入れるのも忘れない。
「お湯、沸いたよ~」
「分かった。ベースの味はと…」
リュートが持っているスパイスからスープの味を決めている。この間、私は鍋を見ないことにしている。その方がどんな味になるか楽しみになるからね。
「別に迷うことないだろ?ほら、こいつを入れたらいいんだよ」
「あっ!?」
う~ん、どうやらお腹が空いたジャネットさんが、悩んでいるリュートを見かねたらしい。ベースの味が決まったところで、簡単な野菜とジュムーアの干し肉が投入される。
「後は15分ほど煮込めばできるね。その間どうしようか?」
「ま、特にやることもないし、のんびりしようじゃないか」
「そうですね」
さっきまで空を飛んで疲れたので、まったりする。
ピィ!
「ん?アルナ、飛んでくるの?気を付けるんだよ」
ピィ
やっぱり、最近は自然に触れ合う機会が少なかったからか、アルナは飛び回りたいようだ。見える位置にいることを約束して、飛ぶことを許可する。
「まあ、この辺は木もあまりないから視界も開けてるし、大丈夫かな?」
そんな風に思い思いに料理の完成までの時間を過ごしていると、にわかに反応があった。
「ん?」
「どうしたアスカ?」
「いえ、何か反応がありますね。このサイズ感はボアでしょうか?」
「ただのボアなの?」
「ん~、グレートボアまでは行かないかな?ジャイアントボアかも」
「それじゃあ、夕食にでもするかね」
「アルナ、戻っておいで」
ピィ
私はアルナを呼び戻し、何食わぬ顔でそのまま鍋のところに行く。その代わりに左右からジャネットさんとリックさんがボアを仕留めに動く。キシャルも攻撃に加わって、冷凍してくれたら助かるんだけど、あいにく今は寝ているので不可能だ。
「まあ、睡眠が大事な子だし、しょうがないね」
そして、しばらくすると鍋の匂いを嗅ぎつけたボアが森を抜けて姿を現した。
ブルルル
「あっ、やっぱりジャイアントボアだ。でも、1頭だけかぁ。もう2,3頭いればなぁ」
「しばらく、肉には困らなかったね」
なんて私はリュートとのんびりとした会話をする。その間にもジャネットさんたちは後方へと回り込んでいる。こっちの鍋の匂いがきついから、相手は気づいていないようだ。
ブモォォォ
「あっ、こっちに来た」
「今だよ!」
「ああ!」
リックさんとジャネットさんがボアのやや後方から一気に詰める。こっちに向かおうとしたボアは急な反応に一瞬動きを止めてしまう。
「もらった!アースグレイブ」
ドスッ
動きが止まったボアの真下から土の槍が生成され、心臓を貫く。
ドサッ
「ふっ、終わったな」
「リック、もうちょっと細くできなかったのかい?これじゃあ、皮が痛むよ」
「む、そうか?久しぶりだったからな」
「まあ、とどめはさせたしいいか。飯の前に血抜きするよ」
「分かった」
「ジャネットさ~ん、もうできますよ~!」
「先に血抜きだけ済ませるよ!」
「分かりました~!」
森の入り口までボアを持って行って2人でつるし始める。それが終わるとリックさんは血が垂れないように足元に穴を掘る。もちろんスコップなんてないので、魔法を使ってだけど。
「待たせたね。別に待ってなくてよかったけど」
「いいえ、みんなのためにしてくれてることですから待ちますよ。どうぞ」
出来上がったスープをジャネットさんとリックさんに渡す。器は前もって作っておいたものだ。ある程度乾燥させているので、しばらくは使い回せるだろう。
「ん~、美味しい!今日はコンソメだね」
「うん。他にも少しだけスパイスが入ってるけど」
「そうなんだ」
「ジュムーアの肉に合うやつを選んだんだよ」
「へぇ~、相変わらず研究熱心だね」
「そういうアスカは結局、料理をしなくなったねぇ」
「まあ、スキルも身に付きませんしね」
「そういえば、パンは焼かないのか?」
「あっ、そうですね」
私はコールドボックスからパンを取り出すと、串に刺して焼いていく。外は香ばしく、中はふんわりするように火は小さめだ。
「焼けましたよ~」
「おっ、ありがとう」
ジャネットさん、リックさん、リュートと食べる量を考えて渡していく。最後に私が自分の分のパンを取ったら、また新しいのを焼いていく。
「アスカ、そろそろまた焼けそうかい?」
「ふぁい。今取りますね~」
「ああ、自分でやるから食べてていいよ」
「は~い」
私は火の番をジャネットさんに代わってもらって食事に集中する。
「アスカ、スープのおかわりいる?」
「ちょっと欲しいかな?」
リュートにスープを足してもらって、再びパンと一緒に食べ始める。その間にもジャネットさんたちは2つ目のパンに手を付け始めた。
「リック、半分いるかい?」
「いいのか?」
「どうせ、まだパンはあるからねぇ」
「なら貰おう」
「リュートはもういいの?」
「次に焼いてるのをちょっと貰おうかな?」
「そう。じゃあ、もう一つ焼いとく?」
「う~ん。でも、時間かかっちゃうしなぁ」
「気にしなくてもいいのに」
そんな話をしながら、結局もう2つパンを焼いてみんなで分けたのだった。私は食べなかったけどね。
「食事も終わったし、あたしらは解体してくるよ」
「あっ、お願いします」
ピィ
「アルナも行ってくる?邪魔しないようにね」
まだまだ自然を満喫したいアルナをジャネットさんに任せて、私といえば敷いたシートの上に寝転がる。
にゃ~
「キシャルも一緒に寝る?」
私が寝転がったので頭から降りたキシャルが胸元に寄ってくる。いつもはあんまり来ないけど、たまに来てくれるのがうれしい。
「解体も30分ぐらいはかかるだろうし、ちょっとゆっくりしよう…」
そうして、私はキシャルと一緒に目を閉じて横になった。
「解体終わったよ。あれ、アスカは寝ちまったのかい?」
「はい。キシャルと一緒に」
「まあ、キシャルはいつものことだからいいとして、しばらくは寝かせとくか」
「いいんですか?」
「どうせあの砦なら少し遅くなっても大丈夫だろ。それより、上の見張りは任せたよ。あたしらはこの時間でもう少し肉を切り分けとくから」
「分かりました。ティタ、アスカを頼むね」
「もちろん」
僕はアスカの護衛をティタに任せて、少し頂上の方へ上る。山頂付近は木がなく、辺りに草が少し生えている程度だ。人の手が少し入っている形跡があるので、たまに使われる場所なのかもしれないな。そんなことを考えつつ、アスカが起きるまで見張りをするのだった。




