さらば、ダンジョン都市!旅は次なる舞台へ
バリボリ
今はジュターユから宿に帰ってきている。そして、室内にはティタが魔石くずや輝石などを食べる音が響いている。
「ティタちゃん、これはどうかしら?」
「これはレッドリザードの魔石。ファイアリザードのはもっと魔力が少ない」
「ええっ!?それ本当?全然魔石の価値が違うわよ!色味とかもほら、赤くなくてオレンジがかってるじゃない」
「魔石の色は個体差がある。たま~に大きい色の変化があるものがある」
「そうなの?それじゃあ、これって数倍の利益ね。じゃあ、この土色の魔石は?」
「こっちはフォレストハウンドの魔石。土属性が強いからこの色」
「ぐぬぬ。まあ、こっちは魔石のセット販売だからよしとしましょう。これなら食べていいわよ」
「う~ん」
「どうしたの?」
「これはご主人様にあげる。どっちの魔法も込められて便利」
「でも、込められる魔法ってかなり限られるわよね?」
「これでもアクアとアースヒールぐらいなら込められる」
「そうなの?まあいいわ。次はこれね」
あれから一度、宿に戻ったリクターさんが訪ねて来て、今は大鑑定中だ。ティタも合間に色々貰っているみたいで、とても満足そうだ。
「ふぅ~、大体こんなものね。ありがとう、ティタちゃん。お陰で随分いらないものを処分出来たわ。それに、鑑定が終わって価値が上がったものもあったし」
「石をもらったからこっちもうれしい。これはお礼」
「あら?これはスクロール?」
「魔道具を作る時とか付与する時に使うといい」
「私も持っているけど、せっかくだし頂くわね」
「あっ、それは本当にいいやつの時に使ってくださいね」
「アスカちゃん!?まあ、貰い物だしそうするわね」
さっきティタがあげたやつって自分で作ったやつだよね。それなら、その辺のスクロールとはわけが違う。とはいえ、効果を説明するわけにもいかないので、私はふんわりと伝えるにとどめる。
「ティタ、これでしばらく魔石はなくても良さそう?」
「はい。ですが、もらえる分には全く問題ありません!」
「そ、そう」
正直なのはいいことだと思うけど、ぼちぼちあげることにしよう。大事に大事になんて言ってるけど、ティタも結構我慢できずに食べちゃうんだよね。前に山肌で魔力を帯びた石を見つけた時も、予定より早くなくなっちゃったし。
「それにしても、こんなに魔石や輝石を鑑定できるのってゴーレムならではなのかしら?」
「普通のゴーレムでもできます。ただ、私ほど鑑定するには普段から色々なものを見たり、食べたりしていないと無理ですが」
「あ~、やっぱりそうよね。竜眼石も分かったってことは近くで見たか食べたことあるんでしょ?ゴーレムのご飯でそこまでできる魔物使いなんて普通いないわよね」
「そうなんです!ですからご主人様は特別なんですよ」
ティタ、褒めてくれるのはうれしいけど、恥ずかしいからあんまり力説しないで欲しいな。
「あはは、ティタがまだ大きかった頃に他の冒険者の人が色々置いて行ってくれたことも大きいんですよ。それに、前のご主人様も良い方だったみたいですし」
「えっ?ティタちゃんって誰かから譲り受けたの?」
「いいえ。前のご主人様とは友人のような関係でした。ですが、ゴーレムと人とは寿命が違うもの。なくなってその後は放浪していたのです」
「そうだったの。それじゃあ、本当に巡り合わせが良かったのね」
「はい」
「リクター、もう調べ終わったの?」
「リリアナ、終わったわよ。あなたはいいの?」
「私は貴方と違ってちゃんとした店で買っているから大丈夫よ」
「ちょっと、変な表現はやめてよね。買うのは正規の店よ」
「でも、誰も手に取らないようなセット物を買ってるでしょう?」
「そりゃあ、ああいうのは店主の目でも見切れない掘り出し物がある可能性もあるからよ」
「だが、結局はティタに頼ってようやく片が付いたんだろう?今後は控えた方がいいんじゃないか?」
「まあ、今回みたいに安く鑑定できる機会もないから、今後は控えるわ」
「控えるって辞める気はないのね」
「だって見てみなさいよ。このレッドリザードの魔石!色味以外は品質もいいし、売ってもそのまま自分で魔道具にしてもかなりの利益よ!」
「当たりを持って来て外れに目を向けないのは良くないわよ」
「でも、この当たりにロマンを感じるのよ」
「あっ、それは分かります。クズ魔石セットとかの中にも昔に作ったセット物なんかは値上がりした魔石とかが潜んでいることもあるんですよね」
「そうそう。やっぱりそういうのに会えると嬉しいわよね」
「はぁ、アスカちゃんはちゃんとクズ魔石の消化先があるけど、貴方はないんでしょ?もう少し計画的に買うようにしなさいよ」
「う~ん、確かにそれはそうなんだけど…そうだわ!不要な魔石とかをティタちゃん宛に送ればいいんじゃない?そうすれば、私もちゃんと整理できるわ!」
「おい、リクター。その場合、魔石の鑑定はどうするんだ?無駄に費用がかかるだけだぞ」
「あっ、そうだったわ」
「それなら、小箱でまとめて送ってみてはどうですか?小箱の輸送ってそこまで高くないですし、ティタが鑑定してくれますよ、ねっ!」
「ま、まあ、定期的に送っていただけるのでしたら…」
ああ、ティタの目が輝いている。よっぽど、リクターさんの中にあった外れ石っていいものが混じっていたんだな。やっぱり、Bランク冒険者だからか不要品のラインが高いのだろう。
「う~ん、時間はかかりそうだけど、今まで寝かしていた期間を考えたら断然短いわね。ティタちゃん、頼んでもいいかしら?」
「私は構いません」
「じゃあ、今日のうちに必要な魔石の属性とか市場での価格がどれぐらいなら送り返してもらうか書いた紙を渡すわね」
「お願いします」
「そういえば、フロートは明日いつ出発するんだ?」
「一応、町を出る時は早朝にしてますけど、別に具体的には決めてません」
「それじゃあ、悪いが8時ぐらいまで待ってもらえるか?まとめるといっても時間がかかるかもしれないからな」
「分かりました。それじゃあ、その時間に間に合うようにこっちも用意しますね!」
「じゃあ、早速帰って準備しないと!さあ、2人とも帰るわよ」
「はいはい」
「全く、強引なやつだ」
こうしてホークスのみんなは宿に帰っていった。
「元気だったねぇ。ダンジョンから帰ってすぐだったのに」
「そうですね。でも、力に成ることができてよかったです。ね、ティタ」
「はい。私もご主人様にも良い形になりましたし」
「でも、価値が低いとはいえ、毎回もらってばっかりも悪いよね。何か渡せるものはないかなぁ?」
「別に気にしなくてもいいんじゃない?」
「う~ん。でもやっぱりちょっと気が引けるかな?」
「それなら、年に1度ぐらい一緒に細工を入れるぐらいでいいだろう。それなら、ある程度のお返しになるはずだ」
「確かに!リックさん、ありがとうございます」
「いや、しかしアスカは本当に律儀だな。そんなこと気にしなくていいというのに」
「そうかもしれないですけど、やっぱり気になるものは気になるんですよね」
「ま、アスカの好きにしたらいいさ」
「ジャネットさん!」
さすがはジャネットさん、私の考えを解ってくれている。今後リクターさんから小箱が届いたら、それなりにお返しをしようと心に誓うのだった。
そして翌日…。今日はいよいよこの街を離れる日だ。
「はぁ~、今日でこの街ともお別れですね。しばらくはロマンに浸ることもないのかぁ~」
「アスカ、それ昨日の夜から何回目?」
「でもリュート。実際、ダンジョンの宝箱ってロマンがいっぱいだったでしょ?」
「それはまあ…」
「こら、ほだされないの。結局、頭の方に少しいいものが出たのと、最後に40Fまで行っていいものが出ただけで、他は大して出てないだろ?」
「まあ、滞在費にはなったからマイナスで終わらない分は良かったがな」
「2人とも夢がないですよ!もう少し粘ったら大金持ちになれるかもしれないんですよ?」
「じゃあ、あと一年ぐらいいるかい?」
「それはいいです。別にいつでも来れますから!」
ロマンに浸りたいという気持ちはあるものの、そうしていたら世界中を回るのがいつになるか分からない。やっぱり、まだ見ていない景色を見るのが先だ。
「あっ、いたいた!」
「リクターさん!おはようございます」
「おはようアスカちゃん。これ、昨日言ってた紙ね」
「確かに」
私はリクターさんから魔石の鑑定基準の紙を受け取ると、大事にマジックバッグにしまう。
「リクター、早いわよ」
「全くだ。そんなに急がなくてもいいだろう」
「お2人も来てくれたんですね」
「もちろんよ。戦場で肩を並べた同士だもの」
「そういうことだ。君たちの実力なら大丈夫だとは思うが元気でな」
「あんたたちも合同パーティーで、しょうもないことになるんじゃないよ」
「ええ、気を付けるわね」
各々が言葉を交わして別れの挨拶をする。
「それじゃあ、私たちはこれで」
「ええ、これからの旅も頑張ってね」
「ありがとうございます!」
こうして私たちはアルトゥールの町を後にした。




