ロマンが分からないもの
ガーゴイル2体を倒し、いよいよ40Fも宝を残すのみ!と思っていたところ、宝箱が出ずに困惑していた私たち。そこで、ある可能性に思い当たった私は、残された宝箱にエアカッターを放った。
パクッ
「ひ、ひとりでに宝箱が開いて魔法を食べた!?」
「あ~あ、当たって欲しくなかったなぁ…」
「アスカ、あれは?」
「なんで魔法を食べられたのかは知りませんけど、多分あれはミミックです。宝箱に化けて近づいた人間を食べる魔物です」
「そういえば、前に知り合いの冒険者が深層の宝箱には気を付けろと言っていたな。てっきり、仕掛けられているトラップの事だと思っていたが、こういうことだったとは」
「それよりどうするんだい?あいつの強さも分からないのに…ティタは何か分かるか?」
「あいつはマジックイーターですね」
「マジックイーター?」
「はい。一度だけ戦ったことがありますが、魔法で自身を守りながら戦う魔物です。先ほどご覧になられた通り、相手の魔法を食べることで魔力を補充して戦うので厄介な相手ですよ」
「そうか。アスカ?」
「よ、よくも。分かっていたとはいえ、私のロマンを…」
「あ~あ」
私はぶるぶると体を震わせながら奴を倒す方法を頭の中から捜し出す。
「アルナ!キシャル!」
ピ、ピィ
にゃあ
私は魔物使いの魔力供与スキルの応用で2人に直接指示を出す。
「そんなに魔法を食べたいなら好きなだけ食べなさい!竜巻よ、トルネード!」
風の魔法でマジックイーターを宙に浮かすと、どんどん地上から風の刃を放っていく。
バクバクバク
しかし、さすがはマジックイーターの名前を持つ魔物。私の攻撃速度に付いてくる。
ピィ
にゃ~
だけど、私には頼れる従魔たちがいる。アルナはウィンドカッターをキシャルはアイスブレスで追撃だ。
バクッ
バクバクバクバクバク
マジックイーターは私たちの攻撃にもめげず、相変わらず食べ続けている。
「その余裕もこれまでだよ」
私は少し攻撃の手を緩め、詠唱を始める。
「すべてを蹂躙する風よ、敵を切り裂く大気の渦よ、我が前に立ちはだかるものを突き破れ!ブラストトルネード!!」
私が前に突き出した両手から暴風が吹き荒れ、マジックイーターへと向かう。その強力な風を受け、身動きが出来なくなったマジックイーターに、ウィンドカッターとは比較にならない切れ味の巨大な刃が何本も襲い掛かった。
バクバ…ボンッ!
それでも頑張って口を開けたマジックイーターはブラストトルネードの刃を食べようとして爆ぜた。
「何が起こったんだ?」
「どうやら過剰に魔法を食べたみたいね。生命力を吸収する魔法で同様の結果になった事例を聞いたことがあるわ」
「なるほどな。要は食事の取り過ぎか」
「ふふん!ざまぁ見なさい!」
「アスカちゃんって思っていたより好戦的なのね」
「いくつか条件が揃えばな。おっと、こうしちゃいられない」
「ふぅ、魔物も倒したし、今度こそ宝箱を回収しないと…わっ!?」
急激なMPの消費でよろけそうになるところをジャネットさんに受け止めてもらった。
「ほら、また無茶して」
「しょうがないじゃないですか。あんな事されたら…」
「全く。宝箱、宝箱ってがめついんだから」
「がめつくないです!ただ、ダンジョンの深層まで来ていつもと違う景色なわけじゃないですか。そこに来て祭壇のようなものの手前には石像の姿に擬態した魔物ですよ?それも、ダンジョン内のせいでいつもより戦いにくく強い相手をようやく倒したんです。そしたら、ボス宝箱とフロア宝箱の他にご褒美としてもう一つぐらいあってもいいじゃないですか!それがあんな魔物だなんて…」
「分かった。分かったから、早口で言わなくていいよ。アスカって本当にお宝には目がないよねぇ」
「別に財宝目当てじゃないです。ここの景色とか、どこかの洞窟の奥にある鍾乳石でも感動します。ただ、そういう景色のロマンだけじゃなくて、こういうお宝にもロマンを感じるだけなんです」
「ロマンねぇ。それが金になるならいいけどね。ま、今のところはこうして金になってるからいいか。おっと、さっきが正真正銘、最後の魔物だったらしい。奥に宝箱が出たよ」
「ほんとですか!開けてもいいですよね?」
「いいけど、中身は手に取るんじゃないよ。ただでさえ、未知のエリアなんだ。呪いがかかってるかもしれないからね」
「わ、分かりました」
駆けだそうとした私だったが、ジャネットさんの言葉を聞いてビクッと立ち止まる。
「でも、今の私を止めることはできないのだ」
「はいはい。せいぜい良いものが出ることを祈ってるよ」
「任せてください!」
「アスカったら、任せるっていっても中身はもう決まってるのに…」
「まあまあ、ああいう反応もこれからどれぐらい見れるか分からないんだ。いいじゃないか」
「そうだな。うちのリーダーはまだまだ子どもだからな」
「それ、絶対アスカの前で言わないでくださいね」
「分かってるさ」
「それじゃあ、お姫様のところに行くとするか」
「そうですね」
「みんな何してたんですか?もう開けちゃいますよ」
「ちょっとさっきの戦いのことをね。まだ開けてなかったのかい?」
「はい。やっぱり喜びは分かち合いたいと思いまして」
「そりゃあ、悪かったね。開けてごらんよ」
「はい!ファイスさんたちもどうぞ」
「ああ」
みんなを宝箱のところに集めて、私が代表で宝箱を開ける。
「さ~て、最初のお宝はと…ん~、これは首飾りかな?」
「みたいだね。飾り自体も綺麗だし、値打ちもんかね?」
「う~む、俺たちも見たことがないが、悪くはなさそうだ。そっちの方は?」
「残りの方ですね。でも、この首飾りだとボス宝箱の物か分かりませんね」
「そうだね。もう一つを開けたら判明するかも」
「じゃあ、早速…」
リュートの意見に賛同して残っていた方の宝箱に手をかける。
「パカッ」
「アスカ、そうやって効果音付けるの好きだね」
「だって、自分で付けないと付かないんだもん」
「それで、中身はなんだい?」
「ん~~~、これは剣?でも、不思議な形をしてますね」
宝箱の中に入っていたのは短剣だった。それもちょっと変わった形をしていて、刃は片刃だけど一応突けるように先だけは両刃。そして、特徴的なのは背の部分だ。リリアナさんの大剣も先が大きく反り返っている変わったデザインだけど、こっちは背の部分に8つほどのくぼみがある。
「これはソードブレイカーだな。細身の剣をこの背の部分で受け止めて、武器破壊を狙えるものだ」
「へ~、そんな武器があるんですね」
「ちょっと待ってね。今、呪われてないか確認するわ」
中身を確認したところで、リクターさんがそう言って眼鏡をかける。
「呪いの確認に眼鏡ですか?」
「ええ。これは呪いを判別できる特別な眼鏡なの。こういうおかしな品には使うことにしてるのよ」
リクターさんが得意そうに眼鏡をかけてアイテムを覗き込む。
「どうだ?」
「ふむ、両方とも呪いはないわね。安心して」
「じゃあ、どっちもいいものですね!」
「さて、それは鑑定してもらってからね」
「それにしてもこっちの短剣はおかしなデザインですね~」
「なんだ、そんなに気に行ったのか?」
「気に入ったというか、ちょっと興味があります。どうやって効果的に使うのとか」
「一度持ってみたらどう?」
「そうですね」
私はリリアナさんに言われた通り、一度ソードブレイカーを手に持ってみる。
「思っていたより軽いですね。刀身はがっしりしてるのに」
「刃の部分は厚いが背の部分は鉤状だからな」
「言われてみれば…さてと、何か魔法でも込めてみるかな」
せっかく剣を手に取ったので、久しぶりにエンチャントを試してみる。
「エンチャントファイア!えっ!?」
しかし、エンチャントしたところで急に刀身から炎が失われる。
「これって…もう一度」
私は再びソードブレイカーにエンチャントを試す。
「ああ。私、どっちがフロア宝箱か分かりました」
「なんだいいきなり。どっちでもおかしくないだろ?」
「こっちのソードブレイカー。エンチャントした魔法を吸収してるんです」
「それって…」
「はい。マジックイーターと一緒ですね。ですから、こっちがボス宝箱で、あっちの首飾りがフロア宝箱ですね」
「まあまあ、まだそうと決まった訳じゃないだろう。まだ日は落ちてないだろうから、地上に戻って考えようじゃないか」
「そうですね」
結論付けるのはまだ早いと考え直して私たちは2つをマジックバッグにしまってボス部屋を後にした。
「さっ、後は帰るだけね。このワープに乗るわよ」
「本当にこんなので一気に地上に帰れるんだから不思議よね」
「こういうのが一般化すれば便利なんだがな…」
「ま、できないことを考えてもしょうがないさ。ほら、戻るよ」
「は~い」
各々の意見を言いながら私たちはワープゾーンに乗って地上へと戻った。
「ふぅ、ここは1階のはずだからさっさと入り口を探しましょう」
「そうね」
ワープで戻る時はかなり親切で、今回もすぐ近くに入り口があった。こういうところは至れり尽くせりなんだけどなぁ。




