前衛たちの戦い
アスカたちがガーゴイルと戦っていたころ、ジャネットたちはもう一体の相手をしていた。
「はぁっ!」
「せやっ!」
キンッ
スパッ
ギャァァァ
「ちっ!また再生かい。面倒だね、全く」
「何か手はないのか?」
「さてね。だけど、なにもなしに再生できるはずじゃないはずだ。ゴーレムみたいに核があるのかもしれないね」
「それはあり得そうですね」
あたしの意見にリュートも賛同する。
「よっと。まあ、それが分かったところで核の位置がつかめなきゃ意味がないけどねぇ」
攻撃を避けながらあたしは左右に分かれているリックとファイスに呼びかける。
「確かにそうだな。差し当たっては頭から右腕、右足と順番にやっていくか」
「それしかなさそうだな。行くぞ!」
「はいっ!」
自然とけん制組と切断組に分かれて攻撃を仕掛けていく。こういう時は純粋な魔法使いがいない分、楽でいい。後ろを気にしなくていいのは援護がないということでもあるけど、たまに確認する必要もないからねぇ。
「頭は…違うか!ならば今度は右腕だ」
「もらった!」
空に逃げようとするガーゴイルの右腕を狙った攻撃はなんとかガーゴイルに届く。しかし、腕を落とすまではいかなかった。
「ちっ、思ったより早いね」
「重量はあるんですけどね。さっきから風の魔法を使っていますけど、落とせません」
「ビッグフライタートルと飛び方が違うのかもな。翼があることだし」
「その可能性はありますね。とりあえず、次に飛ぶ時にストームを使いたいのでそのつもりでお願いします」
「分かった。けがに気を付けろよ」
「はい」
リュートがやや下がって身構える。あたしたちはそれを悟られないようにバラバラに分かれて、ガーゴイルの注意をそらして奴が降下してくるのを待つ。
ギャァァァ
「狙いはあたしかい、来な!」
急降下攻撃に対して、私はくるっと後ろに一回転しながら剣を振るう。
カン
少し剣に入れる力を抜いていたのでそのまま体は後ろに弾かれる。
「ふんっ、これぐらいで一撃でも入れられると思わないことだね!」
「喰らえ!」
あたしへの攻撃の隙をついて、今度はファイスが仕掛ける。
「よしっ!右足を切断した」
「…ダメか。それにしても、リュート君は気づいたか?」
「再生の時の魔力の流れが切った瞬間に出ないんですよね?」
「ああ、ワンテンポ遅れている。理由は分からないがな」
「そりゃあ、変だねぇ。普通だったら斬られた所から再生させるはずだろ?」
「そうなんだ。理由が分かればいいんだが…」
「さっきの核の関係じゃないか?斬られてからそれを認識するまでタイムロスがあるとか」
「それならいいんだけどねぇ。ま、今の所は体力以外に不安はないし、しばらくは斬り続けるかね」
「体力?余裕そうだが」
「あっちは体力があるような奴に見えるかい?」
「そういうことか。確かに死ぬまで動き続けそうだな。外ならともかく、ダンジョン内なら魔力の供給も無尽蔵だろうしな」
「最悪の組み合わせだね」
その後も相手をして頭から一周、体を切り離したが奴は死ななかった。
「こいつは厄介だね。最後に胴体だけど、これでしなかったらどうすんだい?」
「一斉に斬りかかるしかないな」
「これだから戦士は…。ま、他にいい案もないしそうするか。行くよ!リュートは攻撃を防ぐんだ」
「分かりました!」
今度はリュートを狙ってきたので、盾で攻撃を受け止めるように指示する。
ギィン
「今です!」
「行くよ!」
リュートが攻撃を弾いたのを確認して、あたし達は一気に仕掛ける。
「はぁっ!」
「これで!」
剣を振るってガーゴイルを攻撃するものの、胴体には中々届かない。そうしていると、飛び立とうとする仕草を見せた。
「させるか!リック、剣を地面にさせ!」
「こうか?」
「踏むよ!」
「なっ!?」
あたしはリックの背を台座にして逃げようとするガーゴイルに追いすがり剣を振るった。
ズバッ
「斬った」
「やったか!?」
ギャァァァ!
しかし、真っ二つに斬り裂いたガーゴイルは再生してしまった。
「ちぃ!本当に厄介だね」
「ジャネットさ~ん!」
次はどうしようかと思っていた所で後ろから声が聞こえて来た。
「アスカ!そっちはどうだい?」
「片付きました。こっちはまだ見たいですね」
「ああ。すぐ空に飛ぶし、再生するしでね。悪いけど、手伝ってくれるかい?」
「了解です。核があるのには気づきましたか?」
「ああ、それは見当を付けたんだけど、どうにも核のある場所が分からなくてね」
「そっか、こっちじゃ魔力の流れを追えなかったんですね。ガーゴイルは核を移動させられるんです。だから、特定の個所を攻撃し続けても効果がないんですよ」
「なんだって!?そういうことだったのかい。それが分かれば十分だよ。ちょっと待ってな」
「はい」
「皆!ガーゴイルの奴は核を動かせるらしい」
「何?そいつは厄介だな。どうするんだ?」
「一旦、4分割しよう。それから…」
あたしは思いついたことを他の3人にも告げる。
「なるほど。それならやりようがあるか。一番確率が高いのは?」
「リュートのところだな。ひとりだけ槍だろ?ただ、再生を見極めてからでも遅くはないさ」
「了解だ。リック、最初は任せていいか?」
「無論だ。ジャネットと息を合わせるなら俺に任せろ」
「おかしな言い方はしなくていいんだよ!」
「2人とも、まだ戦闘中ですよ」
「任せて大丈夫か?おっと、来るぞ!」
「リック!後で覚えておきなよ」
「分かった。後で、な」
再び、リュートを狙ってきた魔物に対してあたしたちは距離を置く。今度はさっきよりもシビアに攻撃してきた瞬間を狙う。
「降下してきた!」
「行くよ!」
「ああ!」
リックは一気に地上を駆け、あたしはリュートの風魔法でガーゴイルの頭上へと跳び上がる。
「来い!」
魔槍を構えてリュートがガーゴイルに対峙する。しかし、今度は盾を展開することなく、槍さばきで攻撃を回避する。そして、あたし達はその瞬間を狙う。
「3,2,1,行くよ、リック!」
「任せろ!」
ガーゴイルの攻撃をリュートがいなした瞬間、リックが水平にあたしが垂直に薙ぎ払う。
スパン
「ウィンド!」
胴体を四分割した所にリュートの風魔法で各々を引き離す。その時、一番リュートに近い体の切断面がわずかに光った。
「やっぱりここか!こいつをさらに斬り裂けば…せぇの!」
着地したあたしと、剣を振りぬいたリック。そして、どこにいても対応できるように控えていたファイスが一気に詰めて、核がある胴体に斬りかかる。
「僕も行きます。魔槍よ!」
半歩遅れてリュートも攻撃に参加し、4分割された内の1つの体はさらに小さくなっていく。
「ここまでくれば…みんな、離れてください!」
「分かったよ」
リュートの掛け声で直ぐに皆が下がる。
「魔槍よ。魔力を解き放て!バースト!」
リュートが魔槍に込められている魔力を放つと、ガーゴイルに刺さっている穂先が爆発する。
ドォン
そして、大きな音と共に残っていた体は砕けた。
「どうですか?」
「自分の風で煙を払ってみなよ」
「そうですね」
自分で突き刺す感触がないためか、やや自信なさげに言うリュートに対して状況を確認するように言うとすぐに煙が晴れていった。
バラバラバラ
「これが核ですかね」
「再生してこないところを見ると恐らくな。それにしても、核が移動するなんてよくジャネットは分かったな」
「あ、いや~、アスカに教えてもらってね」
「ん?アスカが。そういえば、少し前にこちらに来ていたが、向こうは倒していたのか」
「ああ。核が動くこともあってあっちの方が早く終わったみたいだね」
「だが、見事な指揮だった。我々も合同パーティーは何度も組んでいるが、人の指揮を受けてこうも動きやすかったことはなかったぞ」
「はっはっはっ!こう見えてもジャネットはリーダーの資質があるんだ。アスカがいるからやっていないがな」
「なんであんたが自慢げに話すんだい」
「まあまあ。ボスも倒したことだし、アスカたちと一緒に宝を開けましょう!」
「はいはい」
こうして無事にこちらもガーゴイルを倒して、アスカたちと合流することができた。
「アスカ、大丈夫だった?」
「リュート!そっちこそ大丈夫?」
「うん。ジャネットさんの指揮もあったし、これもあったしね」
そう言いながらリュートは私があげた小型のシールド発生魔道具を見せる。どうやら、ガーゴイルの攻撃にも耐えられたようだ。
「ファイス、やけに遅かったじゃない。こっちは早々に片づけたわよ?」
「悪いな。ああいう魔物はどうにも苦手で…」
「リクター、こっちも手間取ったでしょ。アスカちゃんのお陰なんだから」
「そうなのか?」
「ええ。核が移動するのも突き止めてくれたのよ。あれが本当に大きかったわ」
「確かにその情報は大事だったな。それよりも俺はガーゴイルという魔物のことをアスカが知っていた方が驚きだが。俺もうわさでは聞いたことがあったが、姿形は知らなかったしな」
「あっ、それは~」
まさか、ゲームで見ました!とは言えない。姿とかもなんか似てるな~って感じだったしね。
「ま、無用な詮索は無しだよ。それにしてもおかしいねぇ」
「どうかしましたか、ジャネットさん?」
「いや、アスカお楽しみのボス宝箱とフロア宝箱がないなと思ってね」
「た、楽しみだなんて!でも、確かに変ですね…」
うう~ん、と唸りながら、私はちらりと遺跡の方を見る。そこには重要そうに一つの宝箱が鎮座していた。
「石像がガーゴイルに。ははっ、まさかね」
私は当たって欲しくないもしもの可能性を考えて、エアカッターを宝箱の方へと放つ。
「アスカ、一体何を?」
「まあ、見ててください。私の予想が正しければ…」
そして、私の放ったエアカッターは対象に当たること無く、ひとりでに開いた宝箱の中に吸い込まれていった。




