遺跡の守護者
ガチャリ
いよいよ40Fのボスに挑むため部屋に足を踏み入れる。事前の情報でこの40Fはボスの種類が分からないため出たとこ勝負だ。
「さあ、どんなボスが出るかな?」
入ってすぐに周囲の風景が変化する。こういう不可思議な現象もこの部屋の特徴だ。
「これは…遺跡?」
現れたのは遺跡のようなエリアだ。草は生え放題だけど高くはないけど、ツタのようなものが奥にある大きな柱に絡まっている。
「奥に大きい柱が2本あるね。確認に行こう」
「注意は怠るな」
「はい」
リュートが先頭で左右をジャネットさんとリックさんが固める。ボス部屋はボスが確認できるまで最適な陣形が組めないため、今はこの陣形だ。とはいえ、前方に現れるのでいったんは前衛の人数が多いフロートが前を守って、ホークスのリリアナさんとファイスさんが後方を固めている。
「少し近づきましたけど、魔物の気配はありませんね。今見えるのは奥の柱だけです」
「しょうがない、進んでいこう」
前に進んだもののボスの気配がないので再び進んでいく私たち。その内、遠くにあった大きな2本の柱が近くに見えて来た。
「あれは…奥に魔物かな?」
「いや、どうやら石像のようだな」
柱の奥には小さな台座が左右にあり、そこには翼の生えた魔物の石像があった。
「うう~ん、どこかでああいう魔物を見たような…」
「アスカ?見たことあるの?」
「知ってはいるんだけど、見たことはないんだよね。どこで見たかなぁ?」
確かにああいう姿の魔物を見たことはあるんだけど、すぐには思い出せない。ただ、みんなも私の記憶を当てにしているようで、少し待機になった。
「あんたたちは見たことないのかい、こういう地形?」
「ないな。俺たちも40Fまではそこまで潜らないし、遺跡エリアは初めてだ」
「そうか。いずれにせよ警戒だけはしておかなければな。リュート君、本当に魔物の反応はないのか?」
「ちょっと僕では感じられませんね。アスカならもしかしたら分かるかもしれませんけど、あの調子ですし」
うんうん唸っている私をちらりと横目で見るリュート。
「確かにな。しかし、改めてアスカの知識の多さには驚かされるな」
「本好きだからねぇ」
「それだけじゃ説明できないような気もするけど、今はアスカちゃんが頼りね」
「そんなに期待されると緊張しますね。あれ?」
「アスカ、どうかしたの?」
「あそこに宝箱がない?」
「どこ?」
私はリュートに宝箱の方向を指差して伝える。
「本当だ。確かに宝箱みたいだね」
「どうした?」
「アスカがあそこに宝箱があるって。確かに見た目は宝箱なんです」
「妙だな。魔物も倒していないのに宝箱とは…」
「知らず知らずのうちに倒したって訳でもないでしょうし、この遺跡エリアは特別なのかしら?」
「それか、その宝箱を開けると魔物が出るとかかもな。いまだに反応がない訳だし」
「あり得るかもねぇ」
「それじゃあ、もう少し近づいてみます?」
「そうしよう。それにしても、奥に宝箱があるってことはまるで手前の石像は守護者みたいだねぇ」
リュートと一緒に歩きながらポツリとジャネットさんがそんなことを言った。
「宝…守護者…」
「アスカ、どうした?先に進むぞ」
「リュート!下がって!!」
「アスカ!?」
「喰らえ、ストーム!」
あることに気が付いた私はリュートと石像の間に嵐の魔法を放つ。
ギャアァァ
私の放った魔法に反応して今まで石像だったものが黒っぽく色を持っていく。
「な、何だ!?」
「あれは恐らくガーゴイルです。奥の宝を守る守護者なんです!」
「何っ!?あれがガーゴイル?まさか、魔物の反応すら感じられないとは…」
「きっと、一定の距離に近づくまでは完全に石へ擬態しているんです」
「厄介ね」
「じゃあ、残りの1体も…」
リクターさんの発言通り、もう1体もその姿を現した。
バサッバサッ
「石像が飛んだ!?」
「こいつは厄介だねぇ」
「リリアナ!リクターとアスカに付け!!こっちは俺たちがやる!」
「了解よ!」
2体を相手取るため、私たちは私とリクターさんとリリアナさんに従魔たちと、ジャネットさんとリックさんとファイスさんとリュートの4人組に分かれた。
「じゃあ、こっちは私たちが相手です!行きます!!」
私はビッグフライタートルを落とした時のように空に飛び立ったガーゴイルに魔法を放つ。
「落ちない!?どうして!」
「ご主人様。ビッグフライタートルは完全に魔力だけで飛んでおりましたが、あいつは翼に魔力をまとって飛んでおります。あの程度の風では流れを変えられません。それに元が石像ですから、重量もありますので多少の風では無意味かと」
「そうなんだ。ありがとうティタ!」
「いま、ゴーレムが…」
「何してるの?来るわよ、リクター!」
「えっ、ええ」
いくらガーゴイルとは言え、相手は一体だ。風魔法が使える魔法使い2人と戦士の組み合わせでは攻撃を当てることは中々できない。ただし、すぐに空へと逃げるためこちらも有効打を打てなかった。
「なんとか動きを止めて魔法を撃ち込めば…」
「任せて!リリアナ!!」
「ええっ!」
「スプラッシュレイン!」
リクターさんが私の言葉に反応してリリアナさんと連携攻撃を仕掛けてくれる。
「よ~し、今のうちに。竜巻よ、我が敵を討て!トルネード」
スプラッシュレインで敵の動きを限定させ、そこに剣での追撃を受けそれを避けるため、ガーゴイルが飛び上がる。しかし、私の狙いはそこで高く飛んだガーゴイルに魔法を放つ。
ギャァァァ
竜巻から逃れようとするガーゴイルだったけど、そこは私の魔力の方が強くて逃さない。
「このまま切り刻む…喰らえ!」
地面からどんどん風の刃が空に向かって行く。そして、次々にガーゴイルの体を切り刻み、とうとう胴体を切り離すことに成功した。
「やったぁ!」
「すごい威力ね。あいつを閉じ込めて真っ二つなんて」
「待って!様子が変よ…」
胴体を上下に真っ二つにしたはずが、ガーゴイルの体がどんどん再生していく。
「嘘っ!?再生するなんて」
「あれは私と同じです。体の中に核があってそれを壊さない限り再生します」
「分かった。やってみるね!」
再び相手の動きを制限しながら、何か所か壊していく。しかし、なぜか毎回再生されてしまう。
「う~ん、おかしいなぁ。どこを狙っても再生されちゃう。核が小さいのかな?」
「いえ、どうやらあいつは核の位置を動かせるみたいです。今までもある程度当たる位置をコントロールしていたのかと」
「なるほど!それなら手はあるかも。リリアナさん、ひとりでなんとか相手できますか?」
「任せて!でも、何かあいつを倒す方法はあるの?」
「恐らく。リクターさんは水魔法の準備を。できるだけいっぱい水が出る方がいいです」
「分かったわ」
「アルナ、リクターさんの代わりにリリアナさんの攻撃に加わってあげて!」
ピィ!
リクターさんが抜ける代わりにアシストとしてアルナが攻撃に参加する。ジャネットさんとコンビを組むこともあるからか、中々のコンビネーションだ。
「今のうちに準備しましょう!」
「ええ!」
その時を待つため、私たちはそれぞれ詠唱を終えておく。
「アスカちゃん!」
「今だ!トルネード」
再び竜巻がガーゴイルを襲う。
ギャァァァ
抵抗を試みようとするものの、やはり魔力では私が勝っているのでそう簡単には逃げ出せないようだ。
「今です!」
「アクアブレイズ!」
通常より大きな水球をどんどん竜巻にぶつけていくリクターさん。私はそれに合わせてガーゴイルが逃げない程度に風を緩める。そして、水がガーゴイルに達したところで私は次の行動に移った。
「キシャル、今だよ!」
にゃ~~
私の声に呼応して、キシャルがアイスブレスを竜巻に放つ。
「これで予想通りなら…」
カキン
竜巻によって打ち上げられた水がかかったガーゴイルをキシャルのブレスが急速に冷やし、とうとう凍らせることに成功した。
「後は核を砕くだけね」
「だけど、どうするの?核の位置は分からないんじゃ…」
「大丈夫です。今までの戦闘から核の魔力の流れをつかみましたから」
「でも、核は動くんでしょ?ひょっとして凍っている間は動かないの?」
「いえ、相手は石像ですから凍っていても核は動くと思います」
「ならどうするの?」
「同時に体を分割するんです。ある程度細かく割ってしまえば、核は離れた部分には移動できません。そこにさらに追撃を加えるんです」
「なるほど!じゃあ、私はこっちから…」
「リリアナさんはとどめをお願いします。近くだと危険ですから」
「分かったわ」
「それじゃあ、リクターさんにアルナ。行くよ!」
「ええ!」
ピィ
私たちはそれぞれウインドカッターを作り出して攻撃に備える。その間も凍ったガーゴイルは目だけをこちらに向けてどう動くべきか窺っている。ほんとに気が抜けない相手だ。
「行きます!」
私の掛け声とともに風の刃がガーゴイルの体を分断する。どうやら相手は一番威力の低いアルナの部分を選んだようだ。
「甘い!エアカッター」
速度重視で1つの風の刃を追加で作り、追撃する。
スパッ
ギリギリのところで核を移動させたガーゴイル。私にもさすがにほっとしたように見えた。
「今ですっ!」
「ええ!はぁっ!」
スッ
コロン
リリアナさんがガーゴイルの核と思われるものを両断すると、今度は体を再生することはなく。辺りに散らばった破片も砂塵と化した後で消え去った。
「ふぅ。厄介な相手だったわね」
「ええ。それじゃあ、向こうを手伝いましょうか!」
「はいっ!」
何とか1体のガーゴイルを倒した私たちはもう1体を倒すべく、ジャネットさんの方へと向かったのだった。




