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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
ダンジョン都市での日々

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一時の休息

「ん~、何ごともなくてよかったわ」


「そうですね。オーガ系統はみんな力が強くて危険ですからね」


「そうよね。それにしても、さっきのウィンドウォールの使い方面白かったわね」


「そうですか?結構、メジャーなのかと思ってました。ほら、ファイアウォールとかだと当たり前に使ってませんか?」


「そう言われるとそうかもしれないわね。でも、風って見えにくいし、そういう風に動かそうって発想がなかったわね」


 リクターさんが言っているのはオーガバトラーとの戦闘中に相手の隙を作るため、ウィンドウォールを突き出した出来事だ。風の属性だけど、イメージとしては土壁がズサ~ッと地面を這っていく感じだ。これを正面にいる敵にだけ突き出してバランスを崩し、そこを前衛が仕留めるというものだ。


「旅に出る時に色々考えましたからね。でも、これも教えてもらったので咄嗟の発想じゃないんですよ」


「それが凄いのよ。どんなに学んでいてもこうやって実戦で効果的に使える人は少ないもの。だって、練習とは違って命の危険も伴っているからね。その場面になって使えるのも大事な事よ」


「そうですか?へへへ」


「また調子に乗ってこの子は…」


「だが、実際助かった。ガーキャットの居場所を教えてくれたこともそうだが、オーガバトラーの弓使いへの対応も楽だった」


「本当。あいつってば凄いスピードで矢を放ってくるから嫌いなのよね」


「みなさんもオーガ系は苦手ですか?」


「まあな。苦手というより、どんな冒険者も一度はオーガにやられているからな」


「確かに…」


 そういえば、私も最初に襲われたのはウルフだったけど、大きいケガをしたのはオーガが初めてだったな。


「さて、それじゃあ、このまま進んでいくか」


 こうして、昨日から始まった40Fへのダンジョン探索はいよいよ目的の40Fへと到達したのだった。



「これからどうするんですか?」


 40Fに着いた後、万全を期すために休憩を取る。


「まずは30分ほど休もう。こういう深層階じゃ、大体どのパーティーもやっている」


「へぇ~、どうしてですか?」


「そりゃあ、今生の別れになるかもしれないからね」


「まあ、そういうことだ。ここの40Fではないとは思うが、この下の50Fにもなればまず全員生きて帰れないからな」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。私たちも40F以降には降りたことがないの。なぜだか分かる?」


「えっと、なんででしょう?」


「魔物の格が違うのよ。結局、40FのボスってBランクの魔物までなの。Aランクの魔物は出ないのよ。多くの魔物に言えることだけど、Cランクでその種族の特徴が明確に出て、Bランクでそれがさらに強化されるか弱点をカバーしてくるわ」


「Aランクになればそこからさらに全体的に能力が強化された魔物になるの。そんな魔物の相手ができるのはこっちもAランクの冒険者ぐらいよ」


 リクターさんの説明にリリアナさんが補足を入れてくれた。


「それにね、Cランクの冒険者とBランクの冒険者って実力が違うでしょ?」


「そうですね。Cランクの冒険者ってまだDランクの名残というか突き貫けたものがあまりない人もいますね」


 同じCランクの自分が思うのだから、Bランクのホークスの人たちからすればさらに思うだろう。


「そう。Cランク冒険者とBランク冒険者とはかなり実力に差があるの。でも、Aランク冒険者とBランク冒険者はそうでもないことも多いのよ」


「ええっ!?そうなんですか?」


「俺たちもそうだが、Aランクを目指す冒険者には2タイプいるんだ。1つ目は限りなき高みを目指す、完全実力主義の人間。もう1つは実績を積み上げて最終的にAランクを目指す人間だ。前者は説明しなくても分かるだろうが、後者は数年かけて依頼実績を積んでAランクになった後は2,3年で引退する。実力も経験を積んだBランクだからBランクと大きくは離れていないんだ」


 今度はAランク冒険者についてファイスさんが説明してくれた。


「ふ~ん、そんなにすぐに引退しちゃうんですか。ずっと続ければもっと活躍できそうなのに…」


「ははは、そうだな。だが、歳と共に体は衰えるし、そもそも冒険者は危険な職業だ。Aランクともなれば、取れる依頼も限られてくる。Aランクになってオーガ退治やオーク退治なんて格好がつかないだろ?指名依頼も危険度が高くなるし、死亡リスクも増す。そうならないように、大体は3年ほど活動してそこそこ名が売れたら引退さ。そうすれば、引退の時の装備の処分で後は悠々と生活できる」


「あっ、確かに高ランクの人が低ランク向けの依頼は格好付かないですよね」


「そうそう。だから、私たちもこうやってダンジョンに潜ってお金を稼いだら、今の装備を新調して、またギルドの依頼を受けるの。そして、憧れのAランクになったらそれなりの依頼をこなして、3年後には余生を過ごすわ」


「みんな人生設計しっかりしてるんですね」


「まあ、こういうのはBランクに上がるぐらいかな?自分の実力の底が見えるっていうか、ここまでなら行ける!ってところを見定めるようになるの。そうしたら、どうしてもゴールが見えるのよ」


「ゴール…」


「アスカちゃんはまだまだこれから先長いから、関係ないかもしれないけどね」


「おいおい、ただでさえ調子に乗りやすいんだからあんまりおだてないでくれよ。旅をするってだけでこっちはひやひやしてるんだから」


「そ、そこまで心配されるほどではないと思うんですけど…」


 ジャネットさんが将来の可能性を褒められた私に釘を刺してくる。


「う~ん。でも、商売とか行き先の選定とか割と危ないのは確かだよね」


「ちょっと、リュートまで」


 普段は何も言わないのに、ここぞとばかりにリュートまでガンガンと杭を打ち込んできた。


「本当にみんな仲がいいのね。こんなパーティーならもっと早くに知り合っておけば良かったわね」


「そうね。私たちも毎回40Fまで潜る訳じゃないし、フロートと一緒ならもっと稼げたかも」


「あれっ?毎回40Fまで行ってるんじゃないんですか?」


「ううん。潜りたいのはやまやまなんだけど、どうしても合同パーティーになるからね。ほら、あなた達とは協力して戦えてたけど、例えば相手が4人のパーティーの時でも3人組のパーティーと4人組のパーティーが1つの階層にいるってだけのこともあるのよ」


「そうそう。連携できない人もいるのよね。ダンジョン専門って言うの?被害も考えずにガンガン魔法を撃ち込めばいいって思ってる人とかね」


「でも、実際にダンジョン内だと遠慮せずに魔法は使えますよね?」


「それはそうだけど、だからって10Fごとに魔法を使って『休めば回復する!』なんて言われてもね。結局、街での滞在費もバカにならないんだから、40Fまで潜るより週に何度潜れるかの方が大事だもの。休憩ばかりじゃ、たとえ40Fまで行けても3日かかるのよ?それなら、休日1日を入れるとして単独パーティーで30Fまで2回行けるもの。回収した宝も分けなくていいし、その方がよくなっちゃうのよ」


『はぁ』とため息をつきながら、何かを思い出すようにリクターさんが話してくれた。


「そうだな。大体、初めて組むパーティーとは初回は30Fまでだ。そこで相性が良かったらお互い納得して次から40Fまで潜る。でも、この時に初回の探索は無駄でしかないからな。そこで納得できなければ意味がないどころかマイナスだ。君たちとなら毎回でも40Fまで行けただろう」


「そ、そこまで買ってもらえるなんて嬉しいです!」


 ジャネットさんとリックさんがBランクとはいえ、私たちはCランクのパーティーだからなぁ。


「そんなこと言ってたら苦労するよ。色んなところで苦労するんだから」


「そうなのか?」


「まあ、外から見るのと中で見るのは違うさ」


 私の左右に座っているジャネットさんとリックさんがこっちを見てくる。これはと思いリュートの方を見ると目を逸らされた。


「なんで!?」


「どうしたの?」


「あっ、いえ…そうだ!みなさんは気晴らしとかってしますか?」


「気晴らし?う~ん、私は剣を振ることかしら?」


「私はそうね…街で買い物とか魔道具を探してるわね。珍しいものはやっぱり気になるもの」


「俺は特にないな。本読んだり、剣を振ったりと日によってまちまちだ」


「本って何読んでるんですか?」


「ジャンルは特にないな。本当に店で見かけて手に取って、読む時に初めて中身を知ることもある」


「たまに変な顔してる時あるけど、何だったらあんな顔になるのよ?」


「ん?建築の本とかだな。外装はほとんどの本が同じだから開いた時に驚きの余りな」


「ふ~ん」


「アスカちゃんは何かないの?」


「私ですか?う~ん、細工は一応仕事ですし、これですかね?」


 私はマジックバッグにしまっていた魔笛を取り出す。


「笛?」


「はい、魔笛です。ちょっと待ってくださいね」


 私は周囲に風の結界を張って立ち上がり、魔笛を吹く。


「わぁ~、綺麗な音色」


「しっ!黙って聞いてなさいよ」


「♪~♪♪~~~~」


 この街に来てからも細工の合間の気分転換に吹いていたが、人前で披露するのは久しぶりなので少し緊張しながらも、大きなミスはなく演奏を終えられた。


 パチパチパチ


「ありがとうございます、お粗末でした」


「いいえ。とても良かったわ。でも、魔笛まで吹けるなんてすごいわね。難しいんでしょ?」


「ん~、適性があればそうでもないみたいですよ。吹く技術の基本部分は同じですしね」


「そうなの。でも、中々魔笛の演奏を聴く機会なんてないからいい経験になったわ。ありがとう」


 一度、私の横に視線を置いてからリクターさんが誉めてくれた。緊張したけど、練習してて良かったな。



「おっと、そろそろ休憩は終わりだ。いい経験をさせてもらったし、それを持ち帰ろうじゃないか」


「そうね」


 敷いていたシートを片付けて、みんなで装備の確認をする。そして、私たちはボス部屋の前に向かった。




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