ところ変わって
キャウン
「そいつで最後だね」
「ええ。他は…」
「周囲には居ません」
「そうなの?まあ、それなら安心ね。じゃあ、陣形を見直しましょうか」
敵を倒し終わったので、私たちは改めて31F以降の隊列を組み直す。
「アスカちゃんとリクターはそのまま真ん中で、もう少し全体的に開く?」
「そうだな。今回は敵の数も多いようだしそうしよう」
「敵の数が変わることなんてあるんですか?」
「数が変わるというより種類ね。あまり群れない種類ばかりの魔物の時もあるのよ」
「へぇ~、パターンがいっぱいあるんですね」
「こればっかりは挑戦数がものを言うから私たちの方が有利ね」
「というわけで先頭は任せてちょうだい」
ブンブンと剣を振りながらリリアナさん宣言して私たちはついて行く形になる。ちなみにけん制が上手いということでリックさんとリュートは位置を交替している。
「はっ!やっ!」
「ストーム!」
「こっちも、ストーム」
リリアナさんの一振りで左右に分かれた魔物の群れを私たちが風魔法で攻撃する。前にいるリュートもジャネットさんも私の風魔法で慣れているからこういう時の移動はスムーズだ。
「やったわ!」
「ふぅ、これで何グループだ?全く、今日は厄介なところに来たな」
「やっぱり、難易度も変わって来ますか?」
「パーティーにもよるが、単純に数が多いのはしんどいな。どうしても注意がそれてしまう」
「助かるのは10匹ぐらいまでってことだね。範囲魔法もあるし、こっちの人数的に一人で2匹相手にすれば事足りる」
「リクター、本当にもっと早く募集を出しておくべきだったな。フロートと一緒なら毎回でも40Fにこれただろう」
「そうね。でも、毎回あの食事を見せられるならちょっと大変ね」
「そんなに美味しかったの?」
「ええ。美味しい店は街にもあるけど中々ああいう料理はないものステーキとかもいいんだけどね」
「分かります!お店の料理もおいしいですけど、豪快な料理を出す店が多いですよね」
「ま、その辺りは冒険者向けの店だから諦めなって。リックの紹介した店だって半分はそういう店だっただろ?」
「確かに」
「おいおい、そういう辛口なコメントはよしてくれよ。頑張って探し回ったんだから」
「へいへい」
それからも何度も戦闘しながら35Fまでたどり着いた私たちは階段前で少し装備を見直していた。
「よし、ここで一度装備を見直しだ。階層変化があるかもしれないからな」
「変わったらまた教えてくださいね」
「ええ。アスカちゃんはどっちの装備にするの?」
「ん~、対応しやすい杖にします。弓だと効かない魔物もいますから」
「そう?なら、私と一緒に確認しましょう」
同じ魔法使い同士、リクターさんと私は互いの装備を確認する。ジャネットさんもリュートと、リックさんはファイスさんと確認している。
「私も点検してよ」
「はいよ」
1人、あぶれていたリリアナさんもジャネットさんに確認してもらい全員分の確認が終わった。
ピィ
「ん、私は?ってアルナは別に大丈夫でしょ」
「こういうのは気分の問題よね?」
ピィ!
「もう、調子がいいんだから」
「それより、頭の上の子は大丈夫?まだ、寝てるみたいだけど…」
「キシャルですか?まだ、危険な場面じゃないって思ってるんじゃないですかね。一応、野生の生まれなので何かあったら起きると思うんですけど」
「なんにしても目を離さないようにしてあげてね」
「はいっ!」
装備の確認も終わり、いよいよ36Fへと降りていく。
「どうだ?」
「あちゃ~、あんまりよくないわね」
「どうしたんだい?」
「草原は草原なんだけど、水場周りのところね。まだましなのは湿地帯とまではいかないところね」
「あれは最低だったな。足も取られるし、相手は順応しているしでな」
「で、この地形は何が厄介なんだい?」
「その水辺が厄介なの。クロックダイルとかがいるのよ」
「聞いたことのない魔物だね」
「俺もダンジョンでしか見たことがないからな。名前の通り規則的に攻撃してくるワニの仲間だ」
「見てる分には面白いのよね。頭のところにある5本の筋が青から1本ずつ赤くなっていくのよ。それが全部赤になったら攻撃してくるの」
「えっ!?それって簡単に避けられちゃうんじゃ…」
「そうね。ただ、攻撃の時は飛びつくように一気に来るから気を抜いてるとかみつかれちゃうわよ」
「うっ、気を付けます」
「それじゃあ、できるだけ水辺に近づかないように進むぞ」
「分かったわ」
そして再び進み始めた私たちだったが…。
「ここは横切らないといけませんね」
「しょうがないな。風魔法で水を吹き飛ばすか?」
「別に構わないけど、絶対に戦闘になるわよ」
「他に手立てがないからな」
「水を飛ばすんですか?」
「ええ、攻撃する時に目印として頭の筋を見るんだけど、本当に水面ギリギリで見えない時もあるのよ」
「えっと、水から出せばいいんですよね?」
「ええ」
「ちょっと待ってくださいね。ちょっと大きめの…ファイアーボール!」
私はいつも浴槽に沈めていたのより大きめの火の玉を作り出すと、そのまま水辺の中央に沈める。
ブクッブクブク
バシャーン
急激に水温が上がったため、水中にいられなくなったクロックダイルが一気に飛び出してくる。
「飛び出しました!」
「こんなに一気に出して、全く…リック!」
「ああ!」
私たちに向かって出て来たクロックダイルへ一気に迫るジャネットさんとリックさん。直ぐに2体を切り伏せ、別方向のターゲットに狙いを付ける。
「こっちも行くぞ!」
「ええ!」
ファイスさんたちも残った相手に向かって行く。
「他の魔物はと…」
にゃ~
「キシャル、どうしたの?上っ!?」
キシャルの鳴き声を聞いて辺りに反応がないか確かめると、空に反応があった。
「まさか、飛行系の魔物もいるなんて」
でも、よく考えたらサバンナとかにはハゲタカなんかもいるし、おかしなことではない。
に~~~
こっちに狙いを定めて、急降下しようとする鳥に先制のブレスを放つキシャル。
バサッ
「避けたっ!?ううん、避けきれてない」
キシャルのブレスは範囲が狭い。だけど、空までは距離があるからか思ったより範囲が広がって、鳥の片翼を凍り付かせることに成功していた。
「これなら、杖じゃなくても!」
私はすぐに弓に持ち替えて落ちていく鳥の体に向かって矢を射る。
トスッ
「行けた!次もお願い」
にゃ~
すやすやと寝ていたのを邪魔されたせいか、キシャルは次々やってくる鳥にブレスを放っていく。相手も警戒はしているものの、急激に冷えた空気が邪魔して当たらないまでも飛行が不安定になる。
「これは難しいかな?杖に戻してと…ストーム」
に~~
私がバランスを崩した鳥に狙いを定めて魔法を放つと、キシャルがそこにブレスを加える。
「嵐の中が凍った空気で満たされてる」
冷えた空気は魔物に届く頃には氷塊になり、物理的に魔物に襲い掛かる。この動きをわたしの手の動きに合わせてキシャルが行ってくれる。
ボトッボトッ
翼にダメージを負ったり、一部が凍ったりした鳥型の魔物がどんどん地面に落ちてくる。
「楽でいいわ。ウィンドカッター!」
私たちが空を攻撃して、落ちてきた魔物をリクターさんが始末する。たちまち空の魔物はいなくなった。
「そっちは大丈夫だったみたいだな」
「ええ。でも、皆行っちゃうんだもの。あと一人ぐらいは残って欲しかったわね」
「リュートがいれば大丈夫さ。なあ?」
「僕に言われても困りますよ。Cランクですし」
「でも、槍も投げられるし、魔法も使えるんだから時間は稼げるだろ?」
「それはそうですけど…」
「それより回収だ。少しは落としてくれたらしい」
ファイスさんに言われて周りを見渡すとドロップ品が落ちていた。
「こっちは箱型の何かでこっちは肉ですね」
どうやらクロックダイルは謎の箱を、鳥の魔物は肉を落としてくれたみたいだ。
「とりあえず、置いてみますね」
図鑑の上に置いてみるものの、魔物のランク自体が高いせいかどちらも未鑑定のままだった。
「肉の方は焼いてみますか?」
「毒があったらどうするんだい。出るまでお預けだよ」
「しょうがないですね」
ちょっとこの場で食べてみたかったけど、さすがに毒があったら危険なのでやめておくことにした。トレニーの毒無効の魔石もあるけど、大事にしたいしね。
「それで、この箱はなんなんですか?」
「これは5クロックね。箱の中には1本の芯があって、開けるとそれが左右に振れるの。それが止まるのがちょうど5分って訳」
「へ~。じゃあ、時間を計るのに便利ですね!」
「短時間ならいいんだけど、長時間になると見張ってないといけないから大変だけどね」
「あ~、それは不便ですね。でも、料理とかには使えそうですね」
「まあ、肝心の料理屋にはあんまり需要がないんだけどね。魔力も使うし、31F以降のドロップだから金貨2枚はするし」
「う~ん。でも、新人さんとかがタイミングを覚えるのによさそう。一個、アルバに送ろうかな?」
「輸送費もこのサイズだとかからないからいいんじゃない?」
「それじゃあ、これは買い取りますね」
「そう?」
私はリクターさんに金貨2枚を渡して自分のマジックバッグに入れる。ちょうど、みんなに手紙も出したかったし一緒に運んでもらおう。
「肉の方は分からないんですか?」
「う~ん、見た目的にはダイブホークだと思うんだけど…」
「だいぶほーく?」
「急降下で獲物を狙う魔物ね。Cランクで物理相手には厄介な敵ね。名前の通り、攻撃手段が急降下だからこっちからは攻撃できる時間が短いのも難点ね」
「なるほど!結構大変な敵だったんですね!」
「それも、この子にしたらそうでもなかったみたいだけど」
にゃ~
自分を脅かす敵を倒したからか、キシャルは満足そうに一声鳴くのだった。




