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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
ダンジョン都市での日々

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こぼれ話 アルトゥールに向かう2人

「本当にダンジョン都市のアルトゥールまで行く気か、エリクア?」


「兄さん、もう何度も言ったでしょう。そうです」


「しかし、父上も紹介してくれているのだから、そっちでも…」


「私の相手の事でしたらご心配なく。大体、紹介といってもあの荒くれ次男三男たちでしょう?」


 私の名前はエリクア。メルテート帝国にあるベルデガ伯爵領…の騎士を務めるディシア家の次女だ。今は南の大陸にあるダンジョン都市のアルトゥールに出発する準備をしている。


「荒くれものというのは…」


「間違ってないでしょう?長男ならともかく、あんな躾も行き届いていない男たちの中から夫を選べなんて嫌です!」


 騎士爵は貴族の中でも下の下だ。さらに地方領主のお抱え騎士の次女までくればほぼ一般人のようなもの。結婚相手も小規模の商会か同じ騎士爵の次男や三男が相手のことが多い。私も子どもの頃からそういうことは理解していたので、得意の魔力を生かし彼らと冒険者としてパーティーを何度も組んだ。しかし、とにかく言動が荒っぽいのだ。


「兄さんは知ってますか?彼らは普通の冒険者と同様に酒場で暴れたり、依頼中は横やりを入れてさも助けたかのように振る舞うのですよ?騎士と冒険者の職業の違いさえ理解できない野蛮人です!」


 私はそうきっぱりと兄さんに返す。兄さんも他家にお邪魔して多少は知っているだろうけど、長男は長男同士の交流が多いし、やっぱり同年代の人とよく会う。そうなったら、次男三男と会う時には相手が委縮しているだろうから気づかないのだ。


「だが、ダンジョンなど魔物だらけだぞ?危険だ!」


「それは百も承知です。でも、その中でならあんな荒くれどもと違った紳士に出会える可能性があるではありませんか!それに私にはお父様とお母様譲りの魔力があるから大丈夫です」


 騎士であるお父様は100程度の魔力を。そして、平民ながら80というそれなりの魔力を持っていて商会の娘だったお母様との間に生まれた私は、180ほどの魔力を持っていた。冒険者として高いとは言えないものの十分な値であり、水魔法の回復寄りの力を持つ私ならきっと良縁を手にすることができるはずだ。


「大体、兄さんも騎士家を継ぐのにお金が必要でしょう?ついでに私が仕送りします」


「お前はそんなこと気にしなくていい。ああ、ミリアナがいてくれれば…」


 ミリアナというのは私の姉だ。お母様の実家である商会のつてを頼って、今はそれなりの規模の商会を持つ商人に嫁いでいる。というか、家よりぜいたくな暮らしをしているだろう。兄さんは私を可愛がっていた姉さんならと思っているみたいだけど、姉さんはもとより私はお母様からも出発の許可を得ている。


「そうは言いますけれど、そこの剣とか鎧とか傷が目立ちますよ」


「うぐっ!あれはまだメンテ待ちだからだ」


 みんなは勘違いしていると思うが、騎士爵家はとにかくお金がギリギリだ。武具は支給されるのではないかって?それはもちろん支給がある。変な鎧や派手な鎧の騎士がいてはどんな部隊か分からないからだ。だけど、剣は別だ。式典以外では多くの騎士は好きな剣を持つ。これは許可されたことではないけれど、戦場で生き残るためにより良いものを求めるのは当然のことだ。


「兄さんは知っていますか?2軒隣のロートマス家は銀の武器を更新されたそうですよ。何か魔法がかかっているとか…」


 良い武器を持った騎士が生き残るかは分からないが、戦場に行く時に十分な準備がなされているかは行く方も残る方も考慮する。ああしておけばよかった。そう思っても死んだ人間は帰って来ないのだから。家でもこれまでの巡回や魔物討伐の影響で武具に傷が増えた。更新をしたいところではあるが、いかんせんそれほどの収入を得られる訳ではない。騎士の強さを保つため、お母様のような才ある良縁を紹介してもらうのにもお金がかかるものなのだ。


「あいつがか…いや、それにしてもだな。お前に世話をしてもらうようなこと」


「まあそんなことを言っているの、バージア」


「母上!」


「お母様」


「いいではないですか、エリクアは魔法の才もあります。それに、本人の言う通り荒くれものと変わらないような次男坊たちと結婚するより、自分で選んだ人の方が満足できますよ」


「母上は心配ではないのですか?娘があんな危険なダンジョン都市に向かうだなんて!」


「もちろん心配です。いくら相手の性格が悪いからと言って、ギルドでもめ事を起こす娘ですもの。でも、エリクアの言う通り、家には金銭的余裕はないしあなたのことも心配よ?エリクアの送ってくれるものが役に立つのならそれに越したことはないわ」


 う~む、流石はお母様。元商家の娘だけあって合理的な考えだ。


「しかしですね…」


「でも、エリクア。心配なのも本当よ。無理せず、駄目だと思ったらすぐに帰ってくるのですよ。後、嫌だからと言ってパーティーを組むのを諦めないこと!いいわね?」


「はい。きっと、期待に応えて見せます!」


 こうして私は期待と不安を胸に港湾国家ルーシードからリディアス王国行きの船に乗り込んだのだった。



「ねえ、あなた」


「私ですか?」


「ええ、あなたっていつもデッキに上がってきてるけど、何してるの?」


「海を見ています」


「いや、それは知ってるって。その理由を聞いてるのよ」


「初めての船旅なのですが、行き先が不安でして」


「ふ~ん。どこに行くの?ちなみに私はアルトゥールよ」


「奇遇ですね。私もそうなのです」


「あなたも?目的は何なの。買い付けとか?」


 デッキに上がる時は普通の服を着ていたから商家の娘だと思われたらしい。私は少し恥ずかしかったが、誤解を解くために説明する。


「いいえ。私はその…お相手を捜しに」


「相手?結婚相手ってこと?」


 私は恥ずかしくなりコクンとうなずく。


「なんだ、私と一緒じゃない!やけに丁寧な言葉遣いだし、どこかで働くつもりなの?」


「いいえ。私はこう見えても冒険者なのです。こちらを」


 私はポケットから冒険者カードを取り出す。


「エリクア…ランクはC!?私と一緒ね。目的もランクも一緒なんてすごい偶然ね!」


「あなたもCランクなの?」


「ええ。ほら!」


 私は彼女から冒険者カードを受け取る。


「Cランク冒険者フェリニア。本当だわ、すごいのね」


「自分だって同じランクでしょ?」


「でも、私は攻撃が苦手で基本は治癒だったから…」


「それならあなたの方が凄いんじゃない?私は攻撃型だからソロでもやれるしね」


「まあ、私は実家が騎士だったし、装備もそれなりで始まったのもあるから。一緒に行くのも同じ騎士家の人だったりしたしね」


「ふ~ん。なのにその誰とも付き合わなかったの?」


「あっ、あんな人たち嫌です!みんなして乱暴だし、言葉遣いもなってないし…」


「そうなんだ?私のイメージとは違うのね」


「フェリニアさんがイメージしているのは王都や大都市の長男の騎士だと思います。家を継げない騎士たちはそうでもないのですよ」


「げっ!そうなの。私も気を付けよっと」


「ふふふ、フェリニアさんなら大丈夫ですよ」


「そう?あっ、私のことはフェリニアでいいわ。よろしくね、エリクア」


「じゃあ、よろしくお願い。フェリニア」


 こうして船上で意気投合した私たちはアルトゥールへ着くまでの日々を一緒に過ごした。



「さて、ここからはどちらがいい男を先に掴むか勝負ね!」


「望むところよ、フェリニア!」


 と、2人で気合を入れたもののどちらもその場を動くことはない。


「それはそれとして、ひとりでどこかのパーティーに入れてもらうって怖いわよね?」


「そうね。私はこれでも貴族の生まれだしね」


「ちょっと!私だってか弱いわよ!」


「なら…」


「2人でパーティーを組みましょうか。別に一緒だって男を捕まえられる訳だし」


 というわけで、2人でギルドに向かってパーティーを結成する。


「名前どうしようか?」


「ん~、急だから中々思い浮かばないわね」


「シルキーズっていうのはどう?可愛くないかしら?」


「いいわね、それ!そうしましょう」


「では、シルキーズのお名前でパーティー名を登録しますね。代表者はどちらですか?」


「フェリニアで」


「ちょっと!どうして私なのよ」


「私はパーティー名の案を出したもの。というわけでよろしくね、受付さん」


「かしこまりました。こちらになります」


 受付からフェリニアにカードが渡される。2人ともCランクなのでもちろんパーティーのランクもCだ。とはいえ、私たちはどちらも後衛。一緒に行ってくれる男を探さなければ…。




「そんな訳でもう2週間!精力的に活動したっていうのに収穫がないなんてどういうことよ!」


 酒場で…なんて危険な真似はできないので、部屋でお酒を飲みながらフェリニアが愚痴をこぼす。


「全くよね。いい男なんて全然だわ。『俺に任せてくれ!』なんて言いながら腰の引けてる男ばっかり!ダンジョンに入るまではあれだけ自信満々だったのに」


「ほんとよね~。あれなら分け前も2人で分けられる私たちだけの方がましだったわね」


「まあ、私は兄さんに贈り物が出来たからまだましだけど」


「あんたも兄が好きよね~。せっかく苦労して30Fで手に入れた武器なのに」


「剣だけはいいものを使って欲しいもの。鎧とかは制限があるからしょうがないけど」


「まあ、まだ来て1か月も経ってないんだし、焦らなくていいわよね」


「そうそう。これからよ、これから」


 その後、私たちはヴェイルと出会い、なんとか3人パーティーで活動していくことになるのだった。




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