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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
ダンジョン都市での日々

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大きな猫

「そういえばヴェイル。あなたは信仰してる神様っていないの?」


「俺はグリディア様」


「あっ!私、グリディア様のも持ってますよ」


 護衛をすることに決めた私たちは歩きながら自己紹介を兼ねて色々話をしていると、さっきの神像の件になった。


「あら?お嬢ちゃんの神様は他の神様の像を持っていても大丈夫なの?」


「はいっ!アラシェル様は心が広いのでその程度ではびくともしません!どうです?見てみませんか?」


「見せてもらったらヴェイル。あたし達だけもらってもなんだし」


「ああ」


 というわけで、歩きながら私はグリディア様の神像を取り出す。出したのは剣を授けるグリディア様だ。剣は両手で水平に持っているし、手と一体なので壊れにくいのも特徴だ。


「どうですか?」


「いい。いくらだ?」


「えっ、別に在庫はあるから…」


「あら、私たちの分は護衛の依頼料でもらったけどヴェイルの分は別よ。それより、グリディア様の像があるってことはシェルレーネ様のもあったりするの?」


「ありますけど…」


 エリクアさんに言われて私はシェルレーネ様の神像も取り出した。


「これは…金貨1枚で売ってもらっても?」


「別に構いませんけど、オーク材で作ったものですよ」


 デザインも湖畔にたたずむシェルレーネ様で、一般的な神官服ではなく普通のワンピースなのだが…。


「材料は関係ないわ。この出来!私が今まで見たものの中でもかなりの物よ。実家に送りたいの」


「実家?」


「あら、そういえばまだ言ってなかったわね。私の実家は騎士爵なのよ。それで私は次女って訳」


「へ~、それならなぜ冒険者に?」


「騎士爵って言っても地方領主の騎士だからよ。兄と姉がいて、次女ともなればもう一般人みたいなものよ。冒険者になったのも実家に仕送りするためだったんだもの」


「仕送り?騎士さんの生活って安定してるイメージですけど…」


「まあ、そこそこはね。でも、見た目よりお金がかかるのが騎士なのよ」


「そうなんですか?鎧とか盾とか支給されると思ってたんですけど」


「確かにそうね。鎧や盾は統一感を出すために支給品を着用するのが義務だわ。でも、剣は違うのよ。式典なら支給品を付けるけど、巡回や討伐なら自前の物を持っていくのよ」


「ええっ!?それっていいんですか?」


「良くはないんだけど、実際問題魔物に後れを取ったら大変でしょ?だから、暗黙の了解な訳。鎧なんかも裏側には魔物の革を張ったりしてカスタムしてるしね。でも、そのせいで色々お金がかかるのよ。見えない苦労ね」


「ほんとに大変なんですね」


「そんな兄に頑張ってもらいたくて色々してるんだけど、こんな神像送られたら益々頑張ってくれるでしょうね」


「お兄さん思いなんですね」


「違うわよ!ほら、兄が頑張ったら私にも良縁が来る可能性が上がるじゃない?」


「そうなんですね。それじゃあ、こっちは箱に入れてお渡ししますね」


「違うのよ。ほら、ヴェイルも何か言いなさいよ!」


「俺のはそのままでいい」


「そうじゃないでしょ!」


「まあまあ、ちょっとは落ち着きなさいよ。エリクア」


「でも、エリクアさんのお家もシェルレーネ様信仰なんですね。リックさんと一緒です」


「げっ、こいつと一緒なの」


「なんだ嫌なのか?」


「当たり前でしょ!そのスカした感じが受け付けないのよ」


 う~ん、どうやら同じ水魔法使いで同じ信徒でも駄目らしい。


「でも、それならエリクアさんはシェルレーネ様の神像でなくていいんですか?」


「あら?実家は実家だもの。それに今は出会いが一番よ!」


「そうはっきり言うなんて、あんたも変わってるねぇ」


 ブンッと剣を振りながら話すジャネットさん。忘れてはいないけれど、今はダンジョン攻略中。そこら辺に魔物がいるのだ。でも、ちゃんと探知の魔法は使っているし、適宜ウィンドカッターを周囲に放っているから安全だけどね。


「そういえば、その肩の魔物ってあなたの従魔?」


「そうですよ。みんなとてもいい子なんです」


「でも、大変よね。魔物使いって魔物の強さで評価が決まるから、そんな小さい従魔じゃ大変でしょ?」


「あっ、それが…」


「んんっ!」


 あわわっ!口を滑らさないようにしないと。


「まあ、私に付いてきてくれますし、可愛いからいいんです」


 嘘はついてないな、よしっ!


「確かにかわいいわね。私たちでも触れるの?」


「嫌がらなかったら大丈夫ですよ。ねっ、アルナ」


 ピィ


 私の言葉に反応してアルナがフェリニアさんからエリクアさんへと順に移っていく。


「私はその間にと…」


 後方からこそこそと機会をうかがっているガーキャットを切り捨てていく。ドロップについてはまあいいだろう。どうせ、そこまでいいものは落ちないだろうし、体感ドロップ率は5%ぐらいだし。


「本当に賢いわね。指を出したらそこにつかまるし。あっ…」


 時間が来たのか今度はヴェイルさんにも飛んで行くアルナ。


 ピィ?


 人見知りもするけど今は興味が勝っているようだ。あんまり重戦士って見かけないから、じゃらじゃらした装備が気になるのだろう。


「怖くないのか?」


 ピィ!


 珍しそうに重鎧を見て回るアルナ。私もちょっと気になったのでヴェイルさんに聞いてみる。


「その鎧って重たくないんですか?」


「重量はあるが、内側は革だ」


「あっ、そういう造りなんですね。じゃあ、リュートとかの鎧と一緒ですね!」


 リュートの鎧も魔鉄やミスリルを使っているけれど、内側はハイロックリザードの革を張り合わせたもので、見た目より軽い。いくら重戦士といってもそういうところは変わらないんだな。てっきり、全部鋼鉄製です!って感じかと思ってた。


「それにしても前からは魔物が来るけど、他は全然ね」


「あはは、そういうこともありますよ」


 そんな感じで順調に進んでいき、とうとう30Fへ到着した。



「あ~、長かったわ」


「そうよね。疲れたわ~」


「よく言うよ。真ん中でダラダラ話をしてただけだろ?」


「あら?護衛依頼を出したんだから当然じゃない。それに、魔物も大して出てなかったし」


「そうだねぇ」


 ジャネットさんがこっちをちらりと見る。私も目配せをしてそれに応える。5F降りる間に10体は倒したかな?まあ、後ろ手に放っていたし、後方にはバリアを張ってその後ろから放っていたから分からなかっただろうけど。


「で、この先のボスはなんだい?」


「色からすると4つ足だな。まあ、避けさえすれば問題ないだろう」


「ちょっともう行く訳?」


「お前らも早く戻りたいだろう。ほら入るぞ」


 いつになくリックさんが強気だ。苦手なのは本当かも。



「ごめんくださ~い」


「何、おかしな入り方してるんだい?」


「いやぁ、たまにはって」


「なんだかみんな余裕ね」


「まあ、このぐらいなら大丈夫ですよ」


「さて、出てくるのは何かねぇ」


 私たちが部屋に入って身構えると、魔物が現れた。


「あれ、大きくないですか?」


「気を付けろ、あの足の筋肉。動きは速そうだ」


「分かりました!」


 出てきたボスは体高1.4mで全長は3.6mほどはある大型の魔物だ。その大きな口の上下には大きな牙がついている。あの牙でかみつかれたらひとたまりもないだろう。


 グルルルルル


「ちょっと、これやばくない?」


「ヴェイル、前は頼んだわよ。私たちは後ろ下がってるから」


「分かった」


 フェリニアさんたちのパーティーの方は自分たちで身を守ってくれるようなので、私たちは魔物に集中する。


「リュート!風の魔法を」


「分かったよ」


「ジャネットさんは右から、リックさんは足元を狙ってください」


「了解だ」


「はいよ!」


 ある程度距離を取っている私たちのどれを狙うか魔物はまだ考えている間に、私たちは戦い方を決める。まずはリュートがウィンドカッターやウィンドブレイズで相手の位置を確定させる。そして、ジャネットさんが剣を振って相手を威嚇。


 グルルル


「今です!」


「ああ!」


 その攻撃に反撃しようとする魔物の足元にリックさんが水魔法でぬかるみを作る。


「そこだ!」


 最後にとどめで私が相手の弱点を突く。これが私たちの連係プレーだ。まあ、リックさんがいなくてもある程度安定するけどね。でも、相手の足元を崩せるというのはこういう近接系の魔物相手にはありがたい。私は弓を構えると、足を取られ硬直した魔物の脳天に矢を突き刺す。


 グガ


 バタン


 矢が当たった瞬間、こちらをにらみつけたものの矢は脳に達したようで、魔物は絶命した。


「結局、こいつはなんだったんだい?」


「う~む。パイルキャットかもな。その大きな牙を杭に見立てて名付けられた魔物だ。そんなに現れないから自信はないが」


「それじゃあ、宝箱の中身も期待していいんですね!」


 うきうきして私はリックさんに聞き返す。


「いや、それはどうだろうか。別に毎回いいものを落とすとは限らないしな」


「な~んだ」


 せっかく、いいものが手に入ると思ったのに。私はしぼんだ期待を胸に宝箱を開ける。


「なんだろうこのへんてこなの?槍かな」


「どんなの?」


 槍と聞いて興味がわいたのか、リュートが近づいてくる。


「これ、ひょっとしてさっきの魔物の牙を使ったものじゃない?」


 出てきたのは長い柄を持つ槍で、先端部は二又になっており、そこから2本の牙が突き出ている。きっと、さっきの魔物の上下どちらかの一対が使われたものだろう。


「リュート使えそう?」


「よっと…無理だね。この重さだったら僕はまともに動けないよ」


 特に柄の方が重たいらしく、振り回すのも大変そうだ。


「ヴェイル、あなたも使ってみなさいよ。槍も使えるんでしょ?」


「使ってみる」


「どうぞ」


 リュートがヴェイルさんに槍を渡すと、ヴェイルさんはブンブンと槍を振り回した。


「どう?」


「うむ、重たいがいい感じだ。ただ、突きに特化してる」


「ふ~ん、それで使えそうなの?」


「ああ」


「じゃあ、買取っちゃいなさいよ。ろくな槍持ってないんでしょ?」


「いいか?」


「大丈夫ですよ。うちのパーティーで槍を使えるのはリックさんとリュートだけですし」


 ちょっと使えそうな槍をヴェイルさんに渡して、私たちはもう一つの宝箱に手をかけた。




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― 新着の感想 ―
[一言] >「じゃあ、買取っちゃいなさいよ。ろくな槍持ってないんでしょ?」  買い取っても良いけど、まずは鑑定屋に見せてからですねえ。  どれ位の効果と価値があるか分からんのに、気軽に売る訳にはいか…
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