外れか当たりか
ストップスネークの皮と思われるものを図鑑に乗せてみるも反応は無し。
「やりました!今日初めてのCランクですよ」
「まあ、まだこれが何か分かんないけどねぇ」
「ああ、それなら分かるぞ」
「リックさん知ってるんですかこの皮?」
「ああ。といっても、このダンジョンに潜ってではないがな」
「あん?どういうことだい」
「領…実家の物置に置いてあったんだ。手入れは定期的にされていたがな」
「物置ってことは…」
悪い予感がしつつも私はリックさんに聞き返す。
「効果としては悪くないんだが、いかんせん実用性がな」
「それで、結局こいつはなんなんだい?」
「これは”雷皮”という。魔物の種類によって、皮の部分や雷への耐性は変わるが基本的な性能は同じだ。さっきも言ったが、雷に強い特性を持つが防具としての性能はサンドリザードにやや劣る程度。重量も重くはないが軽いという程でもない。一番のネックは売りの雷に強い特性だな」
「どうしてですか?結構有用そうに見えますけど」
「雷は光属性の魔法だろう?ただでさえ使い手の少ない属性だ。それに、魔物にも効果は高いがその所為で魔物側にも使い手はほぼいない。実際、俺は魔物が光の魔法を使うところなんて見てないからな」
あ~、そっか。確かに言われてみれば火は高温地帯で、キシャルみたいに氷魔法を使う魔物は高山など低温地帯で見ることができるけど、光魔法を使う魔物なんて…サンダーバードぐらいか。あっちは使えるというか、怖いぐらいだけど。
「だが、メリーダが使うなら別だろうな」
「えっ!?」
「彼女の従魔がさっきの魔法を使ったんだろう?ウルフ種にしては魔力が高いといっても細かいコントロールはできないはずだ。そうなれば、周囲が余波を受ける。特に指示役のメリーダが気絶でもしようものなら従魔の行動を制御できないだろう。アスカは知らないかもしれんが、魔物使いが倒れた時に従魔が暴れる事例は多いんだ」
「そ、そうなんですね。私も気を付けます」
「まあ、見ている限りだとアルナたちも知能が高いから大丈夫だろうが、それで敵味方構わず主を守るために暴れると困るだろう?それを雷皮は防げるんだ」
「なるほど!この子がもし魔法の制御に失敗しても私はこの雷皮で守れると」
「そういうことだ。それに、このダンジョンでは少し難しいかもしれないが、ソロやパーティーに入ることもできるようになるかもな。中距離からの攻撃ができるようになる訳だからな」
「確かにそうですね。相手に直接的なダメージを与えなくても、筋肉を弛緩させることができますし」
「あのっ!この雷皮を譲ってもらっても構いませんか?」
「私は別にいいですよ」
「リック、ちなみに雷皮の相場は?」
「さてな?まあ、うちの倉庫に眠っているぐらいだから実用性ではなく、コレクション用だろう。多少の物珍しさはあるかもしれないが、金貨8枚前後じゃないか?」
「一応はストップスネークの皮ってことでそれぐらいかねぇ。それぐらいならまあいいか。金貨4枚ぐらいでどうだい?」
「えっ!?そんなに安くていいんですか?」
「そうはいってもあたしらには無用の長物だし、貴族や商人のコレクション目的なんて売れるのを待つのも面倒だしねぇ。それにほら」
そう言いながらジャネットさんがこっちを見る。
「うちのリーダーが安く売れってうるさくてね」
「私、まだ何も言ってませんよ」
「今から言うつもりだったろ?一緒だって」
「まあ、そうですけど…」
「みなさん、ありがとうございます。きっと、役に立てますから」
「それはそうと、どういうものに加工するんですか?」
「その問題があったか。マントでいいんじゃないか?」
「魔物使いがマントですか。あんまり見かけませんけど」
「でも、その白黒の柄のマントを付けるのかい?」
「うっ!でも、結局革鎧に加工しても付きまといますし…」
「そりゃあそうだね。リュート、何かいい案はないかい?」
「僕ですか!?そうですね…多少重たくはなりますが布を張り合わせるとか?」
「下策だね。この皮にさらに重量を足したら魔物使いじゃまともに動けないよ。パーティーだと移動時に邪魔になるね」
「そうだな。できればこれ以上重量を増やさない方法が望ましいだろうな」
「じゃあ、お2人には何か考えがあるんですか?」
リュートがちょっとだけムスッとして2人に聞き返す。一応答えたのに一蹴されたのが気に障ったのだろう。
「ん~?そうだな。私ならまずは雷皮の裏側を確認するな」
「裏側ねぇ。ほいよ」
ジャネットさんが雷皮を裏向ける。そこは蛇腹状になっていた。
「ま、これじゃあ使えないね」
「ジャネットさん、裏返す前から分かってたんですか?」
「大体はね。こっちは農村育ちだよ。魔物サイズじゃないぐらいのスネークぐらい相手にしてるさ」
「じゃあ、次はジャネットの番だな。何か案はあるのか?」
「そうだねぇ。あたしはやっぱり…リーダーに頼るとするかね!」
バシンと軽く私の背中を叩きつつ、ジャネットさんはそういった。
「ええっ!?私ですか?」
「どうせあたしの後はアスカだろ?一順早くなっただけじゃないか」
「う~ん、急に振られても。あっ!?染色とかどうですか?でも、色が抜けちゃうか…というか、普通にボーダー柄でいいんじゃないでしょうか?」
「うん?」
「いえ。別に白黒の柄の服がないわけじゃないですよね?そのまま、上着にしちゃえばいいんじゃないかと」
「なるほどねぇ。でも、この縞模様ってちょっと微妙じゃないか?ほら、この間隔とかさ」
「それぐらい蛇腹になってるんですから詰めちゃってある程度、柄は調整できると思うんですよね」
「なるほど、流石は細工師だな。ある程度の加工は挟むが、それなら着ていても問題はないか」
「それじゃあ、案も出たところでこっちも開けるかい」
ジャネットさんがボス宝箱の内、フロア宝箱に手をかける。20Fとはいえ何かいいものが出ないかな。
「パカッ」
「いちいち人が開ける時まで音を言わなくていいよ」
「こっちの方が雰囲気出るのに…」
「それで中身も変わるんならいいんだけどねぇ」
そう私に返しつつ、ジャネットさんが宝箱を開ける。
「おっ、ああ…」
その反応で分かってしまった。きっとろくでもないアイテムだったんだろう。
「見るかい?」
「やめときます」
「懸命だね」
「なんだったんだ、ジャネット?」
「こいつさ」
ジャネットさんが取り出したのは見慣れた皮だった。
「ああ、ガンドンの皮か。まあ、草原といえば定番だが未加工ではな」
「さっきの雷皮はまだ使い道があるから許容できるけど、こいつはねぇ。ただの通常ドロップ品だよ」
「何か普通のと違いはないんですか?」
「アスカも持ってみれば?ガンドン製のテントを使ってるんだし、より分かるだろ」
「そうですね。ちょっと貸してください」
私は皮の端を持つと感触を確かめる。
「うん、これは…」
「アスカ、どう?」
「全く同じだね。これ、既製品と同じだよ。ただ、革加工してない状態っぽいから、品質はちょっといいのかも」
「その違いを分かる人間はどのくらいいる?」
「じゅ、熟練の職人さんなら」
「要は店売り価格だね。今日の探索は収穫なしか」
「私はいい思いをさせてもらいました」
「あんたはいいよねぇ。従魔の方も強くなったし」
わぅ
「はいはい。別に怒ってる訳じゃないからさ」
ジャネットさんは近づいて来たギルスを撫でて機嫌を取っている。こうしているとジャネットさんは猛獣使いのようだ。
「なんか顔についてるかい?」
「いえ、リンネとかもそうでしたけど、ジャネットさんって結構従魔に好かれてますよね?魔物使いの適性なかったんですか?」
「適性ねぇ。もうずいぶん前に測ったきりだしねぇ」
「でも、パーティーに2人も魔物使いができるんだよ?」
「別に今じゃないって。ほら、冒険をやめる時とかにどうかなって。アルナもミネルみたいに子どもが出来たら引き取ってもらったりできるし」
ピィ?
そんなのまだまだ先だよというアルナ。でも、ミネルだってアルナを産んだのはもう一年ぐらい先の年齢でだし、今から考えておかないとね。引き取ってもらうのも誰でもってわけにはいかないし。
「そういうことなら今度確認してみるかねぇ」
「ではそろそろ出るか。これ以上長居をしていてもしょうがない」
「そうですね。結局今日のもうけはほとんどありませんでしたね」
「まあ、雷皮が出ただけましと思おうよ」
「明日はどうするんだい?」
「細工をしようと思います。リックさん、デザインは決まりましたよね?」
「ん?ああ。それじゃあ、宿に戻ってその話をしようか」
私たちはボス部屋を出ると奥にあった地上への戻り道を通ってダンジョンを脱出した。
「ふぅ、今日は時間こそ短かったけど有意義に過ごせたわ。ありがとう」
「それならよかったです。これからも頑張ってくださいね!」
「ええ」
メリーダさんとギルスとは泊まっている宿も違うのでここでお別れだ。私たちも宿に戻る。
にゃ~
「お出迎えありがとう、キシャル。でも、どうしたの?いつもは寝てる時間なのに…」
「おかえりなさいませ、ご主人様。この猫ってば寝すぎてお腹が減ったと言うんです。だらしないのでそのまま放っておきました」
「そ、そうだったんだね。ちょっと待ってね。直ぐに用意するから」
にゃ!
ダンジョンから帰ってきたので汚れとかをチェックして服を着替えると、キシャルのご飯を用意する。金額で言えば高級宿に泊まっているのに従魔たちのご飯を別で用意するのはちょっと手間だなぁ。キシャルたちは大事だけど、ダンジョン帰りとかしんどい時に用意するのは大変なのだ。
がつがつ
「急いで食べなくても誰も取らないよ」
そんな私の言葉も何のその、キシャルはあっという間に食べ終えるとジャネットさんの膝で寝始めた。
 




