2度目のダンジョン探索
翌日、メリーダさんと待ち合わせをしたダンジョン前に来た私たち。残念ながらフェゼドさんは用事があるので2組のパーティーでのダンジョン攻略だ。
「あっ、あそこですよ」
「あっ!アスカちゃん、今日はよろしくね!」
「こちらこそ!ギルスもよろしくね!」
わぅ!
しっぽを振って私にあいさつを返してくれるギルス。ちなみに今日私たちの方は人間組が全員と従魔はアルナのみが参加だ。目的地が20Fまでなので大した戦闘にもならないとキシャルはお休み。ティタも他の魔物使いの前で目立つということで宿の方で待ってくれている。
「あら?今日は小鳥だけなの?」
「はい。そんなに深層まで潜りませんし、特にキシャル…キャット種の方は気まぐれで」
「ああ、そういうことね。そういうところは魔物使いが困るところよね。戦力の魔物たちって常に言うことを聞いてくれないから」
「そうですね。でも、キシャルはこういうことが多いので特に気にしません。大事なところはきちんとしてくれますし」
「なら安心できるわね。さあ、早速行きましょうか」
「そうだね」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、ダンジョンの入場料は俺がまとめて払っておく」
「気が利くねぇ」
「まあな」
そうして始まったダンジョン攻略2回目だったのだけど…。
「はぁ」
「ちょっと、ため息つかないで」
「でもぉ」
ただいまの階層は13Fこの階までに出たアイテムといえば、ファルシオンが1本にホーンカウの肉だけだ。肉はありがたいし嬉しいけど、これが2かたまり。現状は入場料にすら届いていない。
「この肉でも焼いて休憩するかい?」
「そしたら本当に得るものがなくなっちゃいます」
「まあねぇ」
「ボスの宝箱が本当に駄目だったものね。ファルシオンが出たことを喜ぶべきだったわね」
「まあ、所詮10Fだ。この先のボス宝箱を取ればマシになるさ」
「リックさん、その表現もどうかと思います。まるで今日はダメみたいじゃないですか!」
「これでも俺は2か月の間にかなり潜っているからな。こういうことも慣れている。問題は今のパーティーが5人だということだがな」
「そうですね。僕らはパーティーでも動いてますから30Fを常に目指さないと結構辛そうですね」
「むぅ、前の半分でいいから欲しいなぁ」
「ま、毎回そう上手くはいかないってことさ。それより、ギルスって本当に爪攻撃ぐらいなんだな」
「この子は角があるので、迂闊にかみつきに行けないんですよ。動きは早いのでそこはいいんですけど…」
メリーダさんの言う通り、ギルスは見ていても動きが早い。ただ、角も皮が硬い魔物には通用しそうにないし、ウルフ種はそこまで重量がないから決定打になりそうにない。やっぱり昨日あげた光の魔力を使った攻撃が一番だと思う。
「まあ、戦力的には問題ありませんし、進みましょう」
「そうね」
リュートの言葉で再び私たちはダンジョンを進んでいく。しかし、多少のドロップはあるものの、結局ろくな収穫を得ることはできずに20Fへ到達してしまった。
「結局、何を拾いましたっけ?」
「追加の肉とオーガが持ってたこん棒か?まあ、売れるかもわからないけどねぇ」
「燃料や道具にはなるかもな。削る手間がいりそうだが」
「たしかに硬いですよね、このこん棒」
コンコンとマジックバッグにしまっていたこん棒を取り出して叩いてみる。音も中身が締まっていて建材にもよさそうだ。
「でも、大きいといっても柱になるほどじゃないしなぁ」
「柱!?こん棒が?」
「これで肉を焼くのはさすがに嫌ですし、そうなったら建材ぐらいかなと」
「それはそれでどうかねぇ。ま、使い道は商人ギルドにでも考えてもらうか」
「そうですね。見せれば何か教えてもらえるかもしれませんし」
こういう一見どうでもいいアイテムにでも、隠された価値があるかもしれない。そう期待だけして、軽く休憩したあと私たちはボス部屋に足を踏み入れた。
「ここのボスは…きゃあ!?おっきな蛇!」
「あれはストップスネークか。みんな気を付けろ!麻痺毒を持っている」
「あいよ」
蛇は大型で私たちの誰に狙いを付けるか迷うように首を動かしている。そのまま待つのかと思いきや、突然魔法を使ってきた。
サァァァァ
「雨?」
「あいつは水の魔法を使える。こうやって雨を降らせるぐらいだが」
「足元に気を付けろってことかい」
「雨…ちょっと攻撃は待ってもらえますか?」
「えっ!?どうしたの。いきなり」
「ちょっと考えがあるんです。ギルス、こっちに来て」
わぅ!
私はギルスを呼ぶとある指示を出す。
「昨日店でやったみたいに角の間でバチバチってできる?」
わぅ
ギルスが昨日みたいに角の間でバチバチさせる。
「よ~し!それじゃあ、空に向かってそれを放ってみて」
わう!
私の指示でギルスが空に向かって攻撃をする。
バチバチッ
「なんだい?」
「今のはギルスが?」
「なんにせよ、あっちに注意を向かせないようにしなければな」
「そうですね。アスカ、こっちで注意は引き付けるよ!」
「ありがとう、リュート!さあ、こっちも行くよ。さっきのは序の口。君にはまだ秘められた力があるんだから!」
わぅ!
ギルスも意気込んだところで、私は魔法の手ほどきをする。ただ、私も使えるわけではないので身振り手振りを交えてだけど。
「いい?こうやって光の魔力を集めるの。ギルスの場合は角の間ね。そして…サンダー!」
ビカッ
魔法を唱えると、一本の小さい稲光がストップスネークに向かう。しかし、全く集中していなかったせいか、かろうじて命中はしたものの有効打にはならなかった。
「あれぇ?使えちゃった。まあ、あんな感じだよ」
わぅ!
私が使ったのを見たのかギルスも意識を角に集中させる。
ビカッ
「できた!あっ…」
私同様にギルスも使える自信はなかったのか、あまり威力はないみたいだ。
「ちょっとアスカ。魔法を使うならもう少し前もってだね…」
「すみません。ギルスに使ってもらったんですけど、いまいち集中できてなくて」
「今の魔法をギルスが!?」
「おっと、説明は後でいい。それより、もう倒してもいいのか?」
「もうちょっと待ってください。もう一つの魔法が使えるかもしれませんから。それと、できるだけ距離を取ってください!」
「また難しい注文だな。まあいい、聞いたなジャネット!」
「はいよ!」
私の言葉を聞いてみんなが協力してくれる。このチャンスを生かさないと。
「さあ、今度はもう一段上の上級魔法だよ。さっきのが出来たんだからきっとできるからね」
わぅ
ギルスに喝を入れる気で声をかける。そして、私はその魔法を唱えるように促した。
「さあ、ギルス!唱えて、ライトニング!」
わぅ!!
ギルスが自分なりに詠唱を終えると、雨を降らせていた霧のようなものが集まり空に一つ雲ができる。ダンジョン内だけど。
「みんな!行きます!!」
「了解!下がりな!」
「はい」
私の声と共にみんなが一気にストップスネークから離れる。
「一応私も唱えておこう。ライトニング…」
ぼそっと私も魔法を呟く。できないと思うけど一応ね、一応。
「あ、あれは!?」
「二つの雷が魔物に…」
あれ?見間違いかな?稲光が2つ落ちたような気がするなぁ。
シャァァァ
ギルスのライトニングを喰らったストップスネークは皮膚を焼かれ倒された。それまでに一部、剣などで皮を斬り裂かれていたからそれも大きいのだろう。
「頑張ったね、ギルス。これで今度から爪以外でも戦えるよ」
わぅ!
魔物は魔法に対しての適性が高いのか一度使えてしまうと、2度目からはすぐだ。メリーダさんもこれからはもっと楽になるだろう。
「い、今の魔法をギルスが?」
「そうですよ~。うまい具合にここのボスが水魔法を使えて助かっちゃいました。雨天時じゃないと、雷系の魔法は使いづらいですから」
「そんな属性の魔法があるの?初めて聞いたわ」
「属性別にみると光の魔法ですね。後は風にもちょっと近いんですけど」
「そうなの。ギルス、また今度冒険に行く時にも使えそう?」
わぅ!
元気にギルスが返事を返す。まだ、魔物が倒れて間もないので残った雲を使って、再びサンダーの魔法を使っている。
「わっ!?すごいわ!でも、危ないからほどほどにしてね」
「あっ、それとこの2種類の魔法なんですけど、ちょっとだけ注意がありまして…」
「何か問題が?」
「はい。最初使った小さめの雷を呼ぶサンダーは雨天時にしか使えません。ダンジョンだと階層でほぼほぼ使えるか決まっちゃいますね。あと、ライトニングは天候関係なく使えますけど、最初に雨雲を作り出すのにかなりMPを使いますから連発はできません。多分、ギルスだと2,3発が限界だと思います。雨だと4,5発は撃てると思いますけど」
「十分よ。これでランクだけCの従魔なんて言われないわ。ねっ、ギルス」
わぅ
メリーダさんの言葉にまた元気に吠えるギルス。2人にとっては初めての武器と言える武器かもしれない。これからも頑張って欲しいな。
「それはそうと、お宝お宝」
私は雨の上がったボス部屋を見渡し、お宝のありかを探す。
「あった!」
ボス部屋の中央やや北にそれは鎮座していた。恐らく左がボスの物、右がフロア宝箱だ。
「今回のは何かなぁ~。ここで挽回しないといけないんだけどなぁ」
パカッという効果音はないので、セルフでSEを付けてまずはボス宝箱を開ける。
「ん?皮?ヘビの皮だぁ!?」
ズササササッと私は離れる。いや、敵として対峙していると覚悟が決まるんだけど、あんまり触りたいとは思わないんだよね。正直、苦手だと思う。
「アスカ、どうしたんだい?」
「こここ、スネ、スネークの皮…」
「あん?ああ、スネークの皮かい。別にビビるもんでもないだろ?」
「驚きますよ!こういうの苦手なんです!」
「とはいってもワイバーンとかも羽付けただけだろ?」
「そうか!」
ジャネットさんに言われてみて気づいたけれど、確かにワイバーンとかもヘビみたいだよね。
「ならいいや」
「軽い子だねぇ。それで、何かありそうかい?」
「とりあえず、ランクを調べてみますね」
私はボス宝箱から大きいストップスネークのものと見られる皮を取り出すと、ランク鑑定のために図鑑の上に載せたのだった。




