他人の従魔
珍しい女性の魔物使いであるメリーダさんをテーブルに招いて色々ダンジョンでの話を聞いていると、やはりというかなかなか興味深い話が聞けた。
「そう!だから、私とギルスは魔物を見つけたら一度引いてどうするか決めてもらうの。同行料は20Fまでなら銀貨5枚。30Fまでなら金貨2枚よ」
「結構、値上がるんですね」
「危険度が段違いだもの。それにドロップアイテムについても基本は私たちは私たちで倒した分だけなのよ。ダンジョンから出れば個別清算なんだから結構破格だと思うわ」
「ふ~ん、そんなに相手に譲ってもいいのかい?それじゃあ、生活だけで精一杯だろう?」
「そうなんだけどね。あんまり強くも出られない事情があるのよ」
さらりとギルスの背中を撫でながらメリーダさんが続ける。
「実はギルスを従魔にしたのって倒したり、認めさせたりしたわけじゃないの。子どもの頃に傷ついたギルスを助けてそのままついて来ちゃったの。だから、私がEランクとかの頃からずっと冒険に付いてきてくれてたのよ」
「それだと、逆に頼りになりませんか?」
「ええ。もちろん、ランクの低い頃はギルスがいるだけでパーティーも安心できたわ。でも、魔物って野生の生き物なのよ。本能とは違って野生の中で戦い方を得るの。ギルスは私が保護したから本来の戦い方を身に付けないまま大人になっちゃったのよ」
「つまり、そのウルフ種は普通のウルフと変わりのない戦い方しかできないのか?」
「…言いにくいけどそうよ。多少体は大きいけれどかみつきと爪での攻撃以外はできないのよ」
「立派な角があるのにね~」
わぅ!
ギルスは体毛が黄色く、頭部には中央に寄った2本の角がある。種類はツインホーンウルフという少々希少なウルフ種らしいが、そのためメリーダさんも詳しい戦い方を知らないのだそうだ。
「私もなんとかしたいと思って色んな地方を回って生態を調べているんだけど、中々ね。そうこうしているうちにこのダンジョン都市に行きついたって訳なの。ガイドは大変だけど、銀貨5枚なら週に2度ほど20Fまで行ければいいし、掘り出し物の本の中に手掛かりがないか探しているのよ」
「大変なんだね、君も」
わぅ~
(ティタ、ツインホーンウルフについて何か知らない?)
(う~ん、私の知らない種族ですね。ただ、ウルフ種にしては魔力が高いです。ソニアより高いかもしれません)
「ソニアより!?」
「ど、どうしたの?」
「いえ、こっちの話です」
私はメリーダさんに何でもないと手を振りながら再びティタと念話をする。
(ソニックウルフより魔力が高いってどのぐらい?)
(100はあるかと思います。そもそもあの角の角度は刺突に向いていませんから、そういう使い方ではないのかと思われます)
(ふぅ~む。直接本人に聞いてみた方がいいかな?ティタ頼める?)
(かしこまりました)
「あの~」
「どうしたの?」
「ちょっとこのゴーレムがギルスのことを気になってるみたいで、近づけてもいいですか?」
「ええ、ギルスは温厚だから大丈夫だと思うわ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
私はササッとティタをギルスの元に近づける。
「どうかな?」
「少々お待ちを」
………。
わぅ わぅ~
「何か話しているのかな?」
「まあ、従魔同士何かあるんじゃないかい」
「そうなの?私はギルスしか知らないから。さっきも言ったけど、運よく従魔にできただけで他にはいないのよね。アスカちゃんだっけ?あなたも苦労してるでしょ。小さいゴーレムに小鳥にキャット種の子どもだなんて」
「あ、はい。まあ、苦労してますね」
食事方面ではという言葉を飲み込みながら私は答えた。実際、この子たちはみんな強いしね。
(話し終えました)
(どうだった?)
(う~ん、やはり本人も角の使い方は分かっていないようですね。ただ、以前にバチッとした事があったようですが)
(バチッ?ひょっとして…)
私はちょっと思い当たることがあったので、メリーダさんに確認を取る。
「あの~、ちょっと角を触ってもいいですか?」
「角?いいけど、あまり触られるのは好きじゃないからほどほどにね」
「分かりました。ちょっとだけ触らせてもらうね」
わぅ!
「それにしてもアスカちゃんって従魔相手に慣れているのね。ウルフ種は主人には大人しいけど、人によっては良く吠えるのに」
「ああ、アスカもウルフ種とは付き合いがあってね。きっと慣れてるからだろうさ」
「じゃあ、ちょっと掴むね~。ん~、ちょっとだけ寄せてもらってもいい?」
わぅ
バチッ
「うわっ!?ほんとにバチッていった!」
「アスカ、大丈夫かい?」
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど。でも、お陰で分かったかもしれません」
「何を?」
「この子の力の使い方です。もう一度触らせてね」
私は革のグローブを手にはめると、そこから魔力を角に流す。
「うんうん、光の魔力ならいいみたい。さあ、ギルス。角に流れてきた魔力を上手く動かしてごらん」
わぅ
私は魔力を操りやすいよう魔力を角に滞留させる。
「ギルスの角の上で光が動いてる…」
「ほぅ?ウルフ種は近接だけかと思ったら、珍しい種なんだな」
「まあ、別にあたしはいいけどね」
ギルスの魔力操作にみんなが固唾をのんで見守っている。2分ほど頑張るとどうにか角の間を移動させることができたみたいだ。
バチッ
「あっ!?」
「食べたの!?」
光の魔力を扱えるようになったかな?と思っていたら、急にギルスは角の上にあった魔力を口に持っていき食べた。
わぅ~
「お、美味しいの?」
「元はご主人様の魔力ですから美味しいですよ」
「そうなんだ…」
そう言われても私には魔力を食べる感覚は分からないからびっくりしただけだ。
「どう?魔力の扱い方分かった?」
わぅ!
なんとなくだけど掴んだらしい。やっぱり魔物は人より魔力の扱いが上手いみたい。
バササ
その時、奥のテーブルからこっちに何かが向かってきた。
「アールグ!?」
ドンッという形容が最適というほどの音を立てて、一羽の鷹が私の目の前に止まった。
「うわっ!?どうしたの、急に?」
ピィ!
「アルナ?」
どうやら、ギルスが頑張っている間に暇を持て余したアルナが私の魔力のおいしさについてこの鷹に説明していたらしい。そんなことをしなくていいというか、よくこれほど大きい鷹にひるまなかったなぁ。テーブルに乗った鷹のサイズは翼を広げると4mは越えるだろう大型だ。アルナなんて餌ぐらいにしか思われない可能性もあるのに。
「急にどうしたんだ?済まないな、こいつが迷惑かけて」
「いえ、別に構いませんけど…」
テーブルに乗った鷹はジーッとこっちを見てくる。試しに私が左を向いたら覗き込むように左に。右を向いたら右に向く。
「えっと、なにが欲しいのかな?」
ちょっと白々しく訪ねてみる。
ピュィー
魔物言語の鳥の特徴から読み取るとやはり、魔力をご所望のようだ。
(ティタ、この子の魔力って高い?)
(そうでもないです。80ぐらいでしょうか?)
(なら大丈夫だね)
「はいはい。それじゃあ、翼を手に乗せて」
ピュィー
私が話しかけると鷹は返事をしてすぐに翼を乗せて来た。
「それじゃあ、行くからね!風でいいよね?」
鳥系の魔物は大空を自由に動き回るために風属性と親和性の高いものが多い。きっとこの鷹もそうだろうと思って魔力を流してみる。
ピュィー!
魔力を流し終えると、美味しかったのか鷹はゆっくりバサバサと翼をはためかせて浮き上がった。
「わっ!?相殺!」
さすがに4mもあるサイズの羽ばたきは風が起きてしまうのでそうならないように急いで魔法で相殺する。
「おい、アールグ。室内で羽ばたくなって言ってるだろう?」
ピュィー
思わず羽ばたいたことに気が付いたのかアールグと呼ばれた鷹はすぐにテーブルに戻った。
「あ、あの~、お客様…」
「すみません。騒いじゃって」
「いえ、暴れたりしていないのでいいのですが、少々…」
魔力をもらって満足そうな従魔たちと違って、私たち人間の方はお店の人に注意されてしまった。というのも、今日は私たち以外にも3組ほどお客さんがいたからだ。従魔はもちろんのこと、この店は食事もおいしいのでそれなりに賑わっているので、それもあるのだろう。
「うちのアールグが済まなかったな」
「いいえ、フェゼドさんのところはいつも大人しいですよね。ですが、今日はどうされたんですか?」
どうやら鷹使いの人はこの店の常連らしく、店員さんとも顔見知りのようだ。
「いや、そこのお嬢さんの従魔が話しかけてきたと思ったら、急にそっちに飛んで行ってな。こういうことはまずないんだが…」
「そうですよね。これまでもアールグちゃんは暴れたことはありませんでしたし」
「お嬢さんは何か知らないか?」
「ええっと、どうでしょうね?」
まさか私の魔力が食べたいからとはいえず、言葉を濁して応える。
「魔力の補充をしたかったからでは?」
「ん?メリーダか。お前も来てたのか?」
「お二人ともお知り合いなんですか?」
「ああ。魔物使い自体、あまり数がいないからな」
「うちの子もさっきアスカちゃんの魔力をもらったの。ほら、たまに魔法使いに魔力をねだることない?」
「ああ、そういえば…。大体は冒険の途中だから何とか後で融通してもらうが」
「へ~、そんなことがあるんですね。私は特にないですけど」
「きっとアスカちゃんの魔力を気に入っているのね。まあ、いつかは経験すると思うわ。それより、魔力をもらったお礼に明日、一緒にダンジョンに行かない?」
「いいんですか?」
「ええ、20Fまでだけどちょうど用事がなくて暇だったの」
「私たちも明日はダンジョンに行く予定だったんです。よろしくお願いします!」
こうして、明日ダンジョン前で再会することを約束して、みんなで宿へと帰ったのだった。




