いざ鑑定へ
「アスカ、朝だよ」
「ふわぁ~~~~。ん~~、よく寝た~。もう朝ですか?」
「今は9時ってとこだね。飯食べたら行くよ」
「行くってどこにですか?」
「ダンジョンで手に入れたものを鑑定にだよ。帰りがけに受付に場所を聞いただろ?」
「えっと、鑑定屋ジュターユでしたっけ?」
「ああ。そこに行くからね」
「みんなは?」
「もう食事は終えて、今は庭でのんびりしてるよ」
「庭だなんて、部屋にいないのは珍しいですね」
「ま、昨日の冒険の余韻が残ってるのかもねぇ。元気なこって。それより、飯に行きな」
「は~い」
ジャネットさんにうながされて下に降りる。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます。朝ごはんありますか?」
「はい。こちらになります」
「うっ、パンとスープだけかぁ。まあ、物価も高いししょうがないよね」
でも、ここでもパンはやわらかいものに変わっていて、それなりに良い味だった。スープも前日の残り物というのは変わりないようで、結構おいしかった。具も毎日変わるだろうし、ちょっと楽しみかも。
「ごちそうさまでした」
「いいえ。食器はできればそちらの棚へお願いします」
「分かりました!」
珍しくこの宿には返却口があるみたいだ。でも、外から人も来ないからその方が面倒もなくていいよね。
「ただいま戻りました~」
「おっ、珍しく早いねぇ。まあ、あの内容じゃしょうがないか」
「ですね。野菜があったらよかったんですけど」
「市場で買ってこないと無理だろうねぇ。それより早く着替えなよ」
「はい」
ご飯も食べて目が覚めてきたところで着替えを済ます。
ピィ!
にゃ~
「えっ!?ご飯がまだだって?そういえば、アルナたちのご飯はないんだったね。ごめんね、直ぐに出すから」
私はマジックバッグに入っているご飯セットを出すと、アルナのおうちに入れてあげる。キシャルには干し肉だ。もちろん、専用のものを出している。私のは味が濃いからね。
「ティタもはい」
「ありがとうございます」
イリス様からもらった魔石屑をティタにもあげる。まだまだ数はあるし、しばらくは買わなくてもよさそうだ。
「さて、アルナたちは置いていくとして、リックたちを呼んでくるよ」
「分かりました」
そして、直ぐにジャネットさんは戻ってきたんだけど…。
「あんたたちねぇ、アスカが飯食ったら行くって言ってただろ?なんでそんなに汗かいてんだい!」
「す、済まんジャネット。ついリュート君と訓練をしていたら力が入ってな」
「ごめんなさい」
「子どもじゃないんだからしっかりしてくれよ。さっさと、風呂に入ってきな!」
「ああ、アスカ。悪いな、直ぐに入ってくる」
「ごめんね、アスカ」
「別にいいですからちゃんと流してきてくださいね」
カラスの行水みたいなので済まされても困るし。臭いもそうだけど、お風呂だって大銅貨5枚なんだからきちんと入ってきて欲しいしね。高いと思うかもしれないけど、冒険者はダンジョンとか外で依頼を受けてくるから、こまめに掃除をしないといけないから高いんだよね。アルバの時は必ず流すように説明してたけど、ここは違うし。
「好きなように入れるって快適だけど、高いんだよね…」
「な~に悟ったみたいに言ってるんだい。アスカも、戻ってきた時に忘れ物がないようにしときなよ」
「は~い」
ジャネットさんの注意を受けて、今一度マジックバッグの中身を確認する。
「ふぅ~、いい湯だった」
「そ、そうですね」
リックさんたちは私の言った通り、きちんとお風呂に入ってきたみたいだ。ただ、ほんとにリックさんはゆったりしてきたみたいだけど。
「リック、もう少し慌てて見せてくれないかい。腹が立つから」
「いや、リーダーの言う通りにしただけだ。実際いい湯だった。朝風呂もいいものだな」
「さっさと着替える!」
こうして、お風呂上りに着替えた2人を待って私たちは鑑定屋に向かった。
「ここだね。鑑定屋ジュターユってのは」
「そうみたいだな。入ろうか」
「ごめんください」
「ん?えらく早いな。昨日の分か?」
「ああ、冒険者ギルドから紹介してもらったんだ。目利きも良くて口の堅いやつってね」
「俺のところは1品で銀貨3枚だぞ?」
「あっ、ホルンさんが銀貨2枚だったからここだと安いですね」
「ふんっ!ただし、いいものがなければ途中でやめるぞ」
「構わないよ。要するに一つでもいいものがあればいいんだろ?」
「ほう?自信ありげだな。初めての奴らにしてはいい面構えだ」
「では出していきますね。まずはこれから…」
私はまず、スコーピオン・キングからドロップした鞭らしきものを出す。
「ほう?確かにやるようだな。これはスコーピオン・キングテールだ。鞭の一種だな」
「今、鑑定を使っていなかったようだが?」
「まあ、俺も長いことやってるからな。これぐらいのものは多少珍しくても何度も見てきている。大銅貨2枚で鑑定結果も書いてやるがいるか?」
「一応お願いします。どういうものか見たいので」
「少し待ってな」
スコーピオン・キングテール:Cランク。補充される毒を先端に備えた鞭の一種。見てくれは非常に悪い
「後はここに俺の店独特のレアランクが書いてある。これはUCだな」
「そんなに珍しくないんですか?」
「珍しくはあるが、珍しい中で持ち込まれる数はそれなりってことだ。後はこの見た目だろ?使いたがる奴は少なくて、ほとんどが観賞用だな」
「ううっ、そうですか」
「んで、いくらぐらいになるんだい?」
「そうだな…金貨7枚ぐらいだな」
「それでも結構するんですね。僕はてっきり金貨2,3枚かと」
「一応、永続的に先端の針部分から毒を出せるからな。見た目にこだわらなきゃ、いい武器だぞ。ダンジョンならな」
「ダンジョンなら?」
「外でこれを使ってみろ。オークの肉すら食えたもんじゃないぞ?」
「まあ、そうだねぇ。どうする?」
「うう~ん、使う機会はなさそうですね。盗賊相手に使うには後処理が面倒ですし、それなら電撃鞭で十分です」
「なんだ、電撃鞭を持ってるのか。なら、こいつはいらないだろうな。ただ、毒をいつでも使えるのは有用だから、金貨7枚未満でしか売れないなら持っているといい」
「売値の変動が大きいものなのか?」
「さっきも言ったように、貴族とかの観賞用が主だからな。需要が少ないから最低限の在庫以外は安いんだよ」
「へ~、ためになります!」
「そ、そうか?ほら、次だ次!」
店主のおじさんにうながされてどんどん物を出していく。
フレイムキラー:Cランク。氷属性の剣。火属性の魔物に有効だが、体温が高すぎる魔物には効かない
フレイムボーンドヘルム:Cランク。火を宿した兜。強靭なスケルトンの骨のため軽くて丈夫
「ん?この盾はもしや…」
「見たことあるんですか?」
「ああ、40Fや30Fで発見報告があるものだな。待ってな、直ぐに書く」
水面の盾:Bランク。盾中央が水面の様に見える。魔力を込めると火と水を無効化する。周囲は骨で軽い
「おっ!Bランクかやはりいい盾だったな」
「サイズはちょっと大きいけど、中央部以外は骨だからか軽いねぇ。こいつは持っとこう」
「次は…ネックレスですね」
「アスカが見つけた、乳白色の宝石だか魔石がついているやつだな」
「ん?これは…」
「知ってるんですか?」
「ああ、何度か見かけたことがあるな」
「じゃあ、思ったより普通のものですか?」
「何を言っとる!わしはこの道、20余年のベテランだぞ。そのわしが何度かしか見たことがないんだ」
「ひょっとしてすごいものなんですか?」
「まあ効果は正直、人次第だがな。これが結果だ」
輝きのネックレス:光の力を高めるネックレス。消費や威力もよくなる
「おおっ!?光属性が強化されるんですね!でも、ランクがありませんよ?」
「ん?ああ、見つかった数が少なくてな。ランク分けが済んでいないのだ。こういったもんはギルドで登録されるんだが、評価し辛いのだろう。珍しいが効果の対象範囲が狭いのも原因だな。これが水属性であればすぐにでも評価ができるんだがな」
「む~」
「でも、よかったじゃないかい。アスカに似合うよ」
「ほんとですか!じゃあ、これは残しておきますね。残りは…」
「うおっ!?これは蛇腹剣か。多分、Dランクだと思うんだがいいのか、鑑定しても?」
「はい。お願いします」
こっちとしては本に載せてCランク以上であることを確認しているから問題ない。
「珍しく、赤色の奴だな。どれどれ…」
おじさんが再び鑑定を使う。そして、また結果を紙に書いてくれた。
赤蛇腹剣:Cランク。赤いワイバーンの鱗でできており、丈夫で切れ味が良い。使いこなすのは難しい
「ふぅむ。こいつは高く売れるかもな」
「えっ!?でも、使いこなすのは難しいんですよね?」
「この武器自体は芸術品のような扱いだ。元々、デザインが貴族に人気なんだが、大体はDランクなんだ。Cランクで実用性もあってこの色だ。きっと、店頭に並べれば直ぐにはけるだろう」
「確かにな。俺の家においてもいい位だ」
「へぇ、言ったね。じゃあ、こいつはリックに買ってもらおう。おやっさん、いくらが相場だい?」
「ん?これなら金貨15枚は下らんな。貴族向けなら倍額だ。オークションに出せればもう少し高く売れるだろう」
「う~ん。ここは間を取って金貨35枚だねぇ」
「ちょっと待てジャネット!どうしてそうなる?間ならせめて金貨25枚ぐらいじゃないのか?」
「貴族の邸に飾れば剣の形で話のタネになるし、息子が取ってきたって話をすればさらに価値が上がるだろ?」
「くっ、言い返せない…」
「まあ、今すぐって言うのは流石に悪いし、リックが家に帰る時でいいさ」
「ん?ついてきてくれるのか?」
「べ、別にそんなことは言ってないだろ?」
「だが、帰る時ならついてこないと渡せないぞ」
「なんでだよ!」
「一応これでも騎士だからな。収支はきちんと報告しないといけないのだ」
「収支って、散々個人で動いているだろ?」
「そうだ。その中から騎士の支出として認められるもの、認められないものを報告するんだ。だから、その時になったらよろしくな」
「こっちはアスカの旅があるんだよ」
「だが、行き先は決めていないんだろう?私の国はいいところだぞ?」
「ぐっ」
してやったりのジャネットさんだったけど、いつの間にかリックさんにやられていた。ううん、仲がいいなぁ。




