帰還
シュン
「ん~、ようやく地上だ~」
「まあ、結構長かったね。30Fに挑む時は20Fで休憩を取るのもいいかもねぇ」
「だが、日没になる可能性もある」
「そうだねぇ。ちょっと考えていかないとねぇ」
「ここまで本当にありがとうございました」
「まっ、依頼だしね。それより、まだ一応ダンジョン内だし外に出るとしよう」
「はい」
ダンジョンから出るともう夕暮れ時が迫っていた。やっぱり、結構経ってたんだなぁ。
「そんじゃ、あんまり時間もなさそうだしギルドに行くよ」
「分かりました」
「いらっしゃいませ~!あら、リックさんに…」
「やぁ、フェンナ。一昨日振りぐらいか?」
「リックさん、昨日も報告に来ましたよね?」
「おっと、そうだったな」
「それで、そんな団体でどうされたんです?町の外で合同パーティーを組むほどの依頼はありませんけど…」
「ああ、ちょっと部屋を貸して欲しいんだが」
「それは構いませんけど、備品は壊さないでくださいよ」
「分かった。それと、職員も一人。できればそれなりの人間を」
「!」
受付の人の体がこわばる。どうやらリックさんの言わんとしたことが分かったみたいだ。
「一応私もそれなりの権限を持っていますから、直ぐに行きます。ティーリア!」
「先輩、どうしたんですか?」
「しばらく席を外すわ。それと、第2会議室は誰も入れないで」
「分かりました」
「じゃあ、あっちの部屋を使ってください」
「分かった」
「リック、知り合いかい?」
「ああ。といってもこっちで2度ほど依頼を受けただけだがな」
「その割には名前を憶えられてるんだね」
「ダンジョン都市で通常依頼を受ける冒険者は少ないからな。Bランクならなおさらだ」
「そういうことにしとくよ」
「それより部屋に入りましょう」
「そうだね」
それから、三叉のみんなと部屋に入る。しかし、肝心の話す内容はギルドの人が必要なので沈黙が続いた。
ガチャ
「お待たせ…あら?静かね」
「話すことはギルドの人間がいないと始まらないからな」
「そうだったの。では、始めるけどこれいる?」
そう言って受付のお姉さんはカードの読み取り機を取り出した。
「ああ、頼む」
「分かったわ。それじゃあ、簡単にパーティーの説明を」
「ああ、こっちが俺の所属しているパーティーのフロートで、向こうが三叉だ。主な用事は向こうだな」
「じゃあ、三叉の方に聞きましょう。最初の用事は?」
「これを…」
ファルセットさんが色の変わったメンバーのカードをテーブルに並べる。
「やっぱりこういうことなのね。ダンジョンで?」
「はい。今は臨時で私がリーダーを務めています」
「そう。大変だったわね。それじゃあ、こちらは預かるけど、フロートの皆さんはどうして一緒に?ダンジョンに合同で挑んだのですか?」
「いいや、途中の階層で成り行きで助けただけさ。ただ、パーティーの状態が悪かったから護衛依頼を受けてね。こういうのはギルドにも報告しておいた方が後々助かるだろ?」
「そうですね。ひとまず、フロートのパーティーカードを読ませていただいてもよろしいですか?パーティー間でのこととはいえ、今簡単に状況を聞いた限り、プラスに考慮できる方たちとお見受けしましたので」
「こちらです」
「えっ!?あっ、あなたがリーダーなのですね」
「はいっ!」
ピッ
カードを渡すとそのまま機械の読み取り機に入れられる。
「わぁっ!?すごいわね。ここまでこの達成率なの?」
「は、はい。なんとかここまでやれています」
「内容的にも問題もないわね。三叉の皆さんは良かったですね。ランクこそCですが、実績はその中でも上位の方ですよ」
「ははは、助けてもらって出てくるまでに大いに見せてもらいました」
「それは良かったわね。では、フロートの方にはギルドからの特別ポイントを加算しておきますね。こちらはランクポイントは別に扱われて、ギルドからの信頼を表すものになります」
「なにか特典があるんですか?」
「実入りのいい依頼をもらいやすくなりますよ。ただ、流石に来たばかりの町では難しいでしょうけど」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いいえ、私もいい経験になりました。では、カードをお返しいたしますね。それで、三叉の方々にお聞きしますが、パーティーはどうされますか?見たところそれなりには戦えそうですが…」
「私としては解散を考えています。前衛も数がいませんし、次も助かるとは限りませんので…」
「ファルセット!?あなた本気なの?」
「ええ。戻るまでずっと考えていたの」
「おいおい、いくら何でももう少し相談しようぜ」
「でも…」
「ファルセット」
「は、はい」
「あんた、少し勝手すぎやしないかい?あんたはそれなりに戦える前衛かもしれないけど、そこの斥候やポーターはどうするんだい?パーティーに寄っちゃ、簡単には入れないよ。それに解散って言ったって、ここでかい?」
「そ、それは…」
「解散は簡単だけど、その後のことはもう少し考えな。実力があっても別のパーティーに入りたくないやつだっているだろうしさ」
「はい…早計でした。みんなもごめんね」
「いいわよ。あなたが一番、辛いだろうし…」
「初期のメンバーだからな」
「では、解散については保留ですね。こちらで追加のメンバー募集についても扱っておりますから、その時はお声がけください。他には何かありますか?」
「ええと、鑑定士で信頼できるやつの紹介だね。腕も口もだよ?それと、ここで金の引き渡しをさせてもらってもいいかい?」
「別に構いません。見とどけが必要ですか?」
「一応ね。この街に来て直ぐ問題児扱いは困るんでね」
「分かりました。それでは、契約書を」
「ええっと、ここに簡単なメモ書きが…」
「それじゃあ、少し待ってて。使えそうな紙を持ってくるわ」
受付のお姉さんは一度部屋を出るとすぐに戻ってきた。
「はい。この紙を使うといいわ」
「これは?」
「ギルドへ個人的にモノを売る時の売買契約書よ。基本的には商人ギルドに行くからほとんど使われないの。ここのギルドのところに斜線をして、買取を報酬。品目を内容で単価はこのままでいいわね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。それじゃあ、書いていきますね。26F救助が金貨15枚。27~29Fが10枚×3。ボスエリアが金貨15枚に、軽症者は金貨5枚×3名に重症者は金貨10枚×2名っと。合計は…95枚!?高いなぁ」
「しょうがないだろ。あんまりこういうので安くしても本人のためにならないし、そもそも治療費のところは安いのがばれたら治療院からもクレームが来るんだよ」
「そんなことってあるんですか?」
「まあ、野良の治癒士もどきがはびこらないようにだな。それなりの金額でやる相手じゃないと信用もできないし、そんなやつに頼った後で治らないからって正規の治癒士に頼まれて責任を問われても困るし」
「治癒院はその名前を冠してる通り、払った金額分はきっちりやってくれますからね。でも、三叉の方はお支払いできる額ですか?」
「え~っと、私の口座のお金をパーティー口座に移してもらえますか?先にある程度の支払いは終えておきたいので…」
「他の方は?」
「金額の残りで配分を決めます。私は装備にもある程度余裕があるので」
「ファルセット、大丈夫なの?」
「デネブ、心配しないで。何かあった時のために蓄えはあるから。ナッシュが怪我をした時に何かあったらって思って貯めていたの」
「そうだったの。悪いわね。後できちんとみんなで払うから」
「いつでも構わないから。あっ、お願いします」
「分かりました」
その後もデネブさんやモーリスさんが口座のお金を一部動かして、私たちに金貨65枚も払ってくれた。もらった金額の分配に関しては私たちも今日は疲れていたのでまとめてパーティー資金行きだ。
「それじゃあ、私たちは先に失礼しますね」
「ええ。今回は本当にありがとう」
「ファルセット、あたしがさっき言ったことちゃんと考えるんだよ」
「分かりました。ありがとう」
「失礼します」
「ではな」
リュートたちも軽く挨拶をして宿に戻る。
「ふ~、疲れました~」
「本当にねぇ。もうちょっと楽に帰られるはずだったのにねぇ」
「まあしょうがないさ。あのまま見捨てておくというのも気分が悪いだろう?」
「そうですね。ただ、このお金どうしましょう?」
私はパーティーカードを取り出して金額を見る。今までは金貨50枚程度が入っていたのが、今日のことで一気に115枚近くになった。残り30枚を含めると150枚近くになる。
「適当に分けたらいいんじゃないかい?もちろん、治療費の部分は全部アスカのもんだけど」
「そうですね。僕らはそこに関係ないですし」
ピィ!
アルナもうんうんとうなずくように鳴いている。
「でも、少し骨が折れてるぐらいで金貨10枚だなんて…」
「現地でも言ったけど、ダンジョン内ならいくら吹っ掛けても高くはないさ。骨折程度って言ったって下手な治癒士じゃ、上手くくっつかないこともあるしね」
「う~ん。今度機会があったら治癒院に行った方がいいんですかね?色々学べると思いますし」
「行くのはいいが、登録に奉仕期間が必要なのを忘れるな。新人とはいえ2か月は拘束されるだろう」
「ええ~!?それは嫌ですね…」
「分かったら、変なことを考えるんじゃないよ。まあ、旅が終わったら向いてるかもね。今日みたいなことは初めてじゃないんだし」
「旅が終わったらかぁ~。まだまだ先は長いですね」
「そういうこと。それより、飯を食いに行かないか?流石に今日はもう疲れただろ?」
「そうですね。じゃあ、行きましょうか!」
私たちは疲れた体を休めるため、食事を取った後はお風呂に入った。
「ん~、お風呂があってよかったですね!」
「まあ、これぐらいの規模ならね。2人用が2つだけなのはちょっと気になったけど」
「設備が高いからな。しょうがないさ。それより今日はもう寝よう。俺も疲れた」
「そうですね。おやすみなさい」
「おやすみ、リュート。キシャルもティタも」
アルナはもう寝てしまったので、私は2人に声をかける。
「はい。見張りはお任せください」
にゃ
 




