ボス部屋
「休憩も終わりだよ」
「ちなみに今、扉の宝石の色は何色なんですか?」
「ああ、えっとね。青だね」
「青…後衛を守るには少し心配ですね」
「でも、オーガみたいに突進してこないですから、逃げ回っていれば安全かも」
「だね。4足の奴がデカかったらそっちの方が面倒だ」
「では、直ぐに行こう」
私たちはシートをしまうとすぐにボス部屋の前に行く。他にも休んでいるパーティーがいるものの、入らないところを見ると風魔法の使い手がいないのかもしれない。
「じゃあ、入ったら私がジャネットさんに風魔法を。リュートがリックさんにお願い」
「分かった」
「三叉の方は回避に使うだけだから、デネブが判断してくれよ。あんたはセンスが良さそうだし」
「分かった。こっちは任せて!」
「ティリン君、気を付けてね!」
「はいっ!ありがとうございます」
「念のため、アルナがついてて」
ピィ!
アルナをティリン君に付けると、私たちは部屋に入っていく。
キィィィィィ!!
部屋に入ると、いきなり甲高い音を響かせてきた。
「あれは…ワイバーンの亜種?」
「みたいだね。色が赤と青、当たりだね」
「おいおい、それはドロップ次第だろう?」
「まあね。行くよ!」
「はいっ!フライ」
私はジャネットさん、次いで自分にフライの魔法をかけて空へと上がる。
「これなら、動き回らなくてもいいかも。三叉の皆さんは左右の端に分かれてください!」
「分かった!」
「分かりました」
デネブさんとファルセットさんの2組に分かれると、端に寄ったことを確認して私はウィンドバリアの魔法を使う。
「そこから動かないでくださいね」
でも、本当に良かった。地属性のワイバーンならみんなに動き回ってもらわないといけないところだった。バリアを張り終えると私はワイバーンに向き直る。私たちの方は火属性のワイバーンだ。
「アスカ、気を付けなよ!」
「大丈夫です」
ワイバーンも飛竜とはいえ、亜種になっても簡単なブレスが使えるだけだ。魔力自体はディーバーンよりも低いだろうし、私が負ける要素はない。
キィィィィ
「ブレス!負けない、ストーム!」
私はワイバーンが放つ炎のブレスに対して風の魔法をぶつける。思った通り、私の魔法の勢いの方が強く炎はワイバーンの方へと返っていく。
グアァァ
「これなら!」
「アスカ、行くよ!」
「はいっ!」
私はジャネットさんがさらに飛ぶのを確認してワイバーンの視界に入る。
「さあ、もう一度ブレスを放ってきなさい!」
キィィィィ
私が魔力を貯めながらワイバーンを挑発すると、今度こそ負けじと大きく口を開く。
キィィィ!!
「その程度で!嵐よ、我が手より出で、敵を切り刻め!」
私はさっき以上の魔力を込めて魔法を放つ。
バンッ
勢いよく吐き出されたブレスを壁に当てて押し戻すように私の魔法が対抗する。そして、直ぐに私の魔法が優位を取り、ワイバーンの口元に一撃を入れる。
ギャァァァ
「ジャネットさん!今です!!」
「あいよ!」
風魔法がワイバーンを通り過ぎると、その頭上からジャネットさんが一気に急降下をかける。
「はぁぁぁぁ!」
ザンッ
首を両断され、私たちが戦っていたワイバーンは倒れた。
「ふぅ、もう一体は…」
「リュート!」
「はいっ!魔槍よ、貫け!」
シュッ
グェェェ
ドォン
リックさんが注意を引くために土魔法でけん制したところに、リュートの魔槍が口から脳を貫いた。
「あっ、アスカ。そっちはどうだった?」
「問題なし!」
「まあ、この程度のボスなら楽勝だな。案外、40Fもいけるかもしれんな」
「おやおや、まだあたしらは1回目だよ。そんな調子だと足元をすくわれるよ」
「まあ、無理は禁物だな。別にそこまで装備に問題があるわけでもないし」
「それにあたしはまだ待ってるものがあるからねぇ」
「そうなのか?」
「ああ。ま、ここを出たら教えてやるよ」
「では、直ぐに確認するか」
「あ、あなたたち、本当に強いのね。ワイバーン2体にけがもないとか…」
「うん?まあ、これぐらいならね。ディーバーンより弱いし」
「ディーバーン!?あんな怪物と戦ったのですか?」
「怪物って…まあ、弱くはないけどさ」
「確かに強かったですよねぇ。属性的にも大変でしたし」
「そうそう。でも、どんな属性でも倒せないことはないけどねぇ」
「はぁ、他の冒険者が知ったら大変ね。まだみんな若いのに」
「それより宝はどうなった?」
「そうです!早く確認を…」
「どうしたアスカ?」
「これって私が開けちゃっていいんでしょうか?」
「いいも何も護衛中に見つけたもんは基本、護衛のものだよ。大体、三叉の方は戦ってないだろ?これで所有権を主張しようもんなら…」
「い、言わないわよ!」
「それじゃあ、開けちゃいますね!」
「ああ」
私は空気を変えるためにもボスを倒して出現した宝箱を開ける。
「まずはワイバーンのボスドロップの方から…」
パカッ
「ん~。んんん!?」
「アスカ、どうした?」
「いえ、何でしょうこれ?鞭ですかね?」
「鞭かどうかなんて見たら…なんだいこりゃ?」
「どうしたジャネット?」
「リック、あんたこんなへんてこな剣見たことあるかい?」
「剣?それぐらい見れば…なんだこれは?いや、どこかの文献で見たことがあるな」
「本当ですか?」
「ああ、武器のランクは知らないが、確か蛇腹剣といったはずだ」
「へ~、こんな見た目でも剣なんですね。で、どうやって使うんですか?」
「分からん。俺も文献でしか見たことがない。というか、こんな剣は実用できないぞ」
「なんでですか?」
「ちょっと借りるぞ」
リックさんが蛇腹剣を手に取ると軽く振る。
ピシッ
「わっ!?鞭みたいな音ですね」
「ああ。だが、こうやって手元で引いて突くと…」
「今度は槍のように!?」
「まあ、こういう変幻自在な武器だとは思うが…」
「リックさん、これ使えるんじゃないですか?」
「そう思うだろ。もう一度やってみるぞ」
リックさんが再びさっきのように突きを繰り出す。
じゃら
「あれ?」
「まあこういうことだ。扱いに慣れるまでは突きすらまともに成功しないわけだ。これを扱うだけで、年単位でかかるだろうな。そして、万が一壊れた場合にはこれまでの経験が無駄になる訳だ」
「な、直せばよくないですか?」
「アスカ、弓矢でも弦や羽根の出来で命中率が変わるだろう?この剣も直せばきっと重量バランスが狂うだろう。その都度、ろくに扱えない武器に逆戻りだ。これは飾りにしかならないさ」
「うう~、せっかくいい武器だと思ったのに…」
「だが、これなら興味を持つ貴族はいるだろう。どれぐらい落ちるものなのかは知らないが、価値はありそうだ」
「ほんとですか!?」
「ま、まあ、貴族にだけな」
どうやら一つ目の宝は冒険には役立たないみたいだ。いい武器だと思ったのにな…。
「アスカ、気を取り直してもう一つの宝箱を開けてみたら?」
「そうだよね。まだ、こっちがあるもんね!」
私は横に並んでいるフロア宝箱を開けてみる。
「ん?子ども用?」
「今度はなんだったんだい?」
「いえ、なんだか子ども用のマントが出て来たみたいです」
「どれどれ」
今度はジャネットさんが宝箱からマントを手に取る。
「あ~、これは子ども用じゃなくて半身を覆うタイプのマントだよ。儀礼とかでもこっちで行けるし、長さも短くて邪魔にならないから騎士は楽なんだってさ」
「ほぅ~、ジャネットはどこでそんなことを聞いたんだ?」
「ああ、神官騎士にちらっと聞いたことがあってね」
「そんな知り合いがいるとはな。俺も会ってみたいな」
「そのうち会えるかもねぇ」
「それじゃあ、どっちもランクを見てみますね」
「ああ、頼んだよ」
そして、それぞれを本の上に置いたものの、どちらも鑑定できなかった。まあ、30Fまで潜ってどちらもDランク!なんてのは寂しいからよかったけどね。
「でも、結局こっちの剣は売り物かぁ。リュートお願い」
「分かったよ」
マントは私のマジックバッグに入れて、剣はリュートへ。う~ん、確かにこの内容だともう10階層降りたいっていうリックさんの言葉も分かるかも。まあ、危険だから今回は降りないけどね。護衛依頼もあるし。
「それじゃあ、この先のワープで地上に戻るか。その前にもう一度確認だよ。あたしらに会ってからのことは助けられて、護衛依頼を頼んだ。これ以外は口外無しだよ」
「分かりました。ここまでありがとうございました」
「報酬の件も忘れずにな。俺たちはディクサーという宿にいるから、準備が出来たら訪ねて来てくれ。居るかは分からんが」
「分かったわ。できるだけ早く済ませるわ」
「とはいっても、この後ギルドには一緒に行くけどね。流石にダンジョンのこととはいえ、全く報告なしは良くないだろう?」
「そう…ですね。お願いできますか?」
「決まりだね。じゃあ、地上に戻るよ」
こうして、アルトゥールでの初めてのダンジョン探索は終わりを告げたのだった。
 




