ドロップと到達
「ガンドンは後ろに下がっててね!」
フ~
スライムの酸の前では硬い皮は役に立たない。それにガンドンタックルもウィンドバリアがなくては成立しないので、ガンドンにはちょっと下がってもらった。私だけなら自分に魔法をかけられるので問題ないんだけどね。
「それじゃあ、行くよ!ホバー、からの…アースグレイブ!」
私はスライムの核を外すようにアースグレイブでジェル状の部分だけをはがす。リックさんも不得手ながら、ロックランスでスケルトンを倒している。
「わっ!?ドロップした」
「こっちもだ」
「さて、ドロップはと…」
スライムの方も当然、アーススライムの魔石。スケルトンの方も2体いて、それぞれ剣と盾を落とした。よかった、スケルトンの骨を模したボーンメイルとかじゃなくて。
「はっ!?スライムの魔石って、火か水の方がいい?」
「そうだろうねぇ。この場で土ってリックだけだろ?」
「まあ、俺も必要かと言われればな。売値を考えたら水か火だろう」
「くぅ~、もったいない!もっと、強い魔物で挽回しなくちゃ!!」
「おいおい、さっき倒したばっかりだってのに。って!?」
「さ、さっきのより巨大なスライム!?」
「これはスライムロード…存在していたなんて!?」
私たちの前に今度はさっきよりも大きいスライムと、鎧兜をまとったスケルトンが現れた。
「おっきいスライム!これならもっといい魔石が…魔槍よ!」
私は魔槍を手に取ると一気に魔力を吸わせる。この子は私とリュートで言うことを聞いてくれるようになったから、こういうことも可能なのだ。
「いっけ~~~!」
魔槍に火の魔力を込めて伸ばす。そして、スライムの体に突き刺さったところで、火の魔力を解放するのだ。
ボンッ
「やった!?」
「いや、何かおかしいぞ!」
バラバラになったスライムの体はうごうごと蠢いて再び一体のスライムへと戻っていった。
「くっ、やっぱり大きいだけのことはあるね!でも、どうしよう。火で倒したいのにこれじゃあ…そうだ!魔槍さん、ちょっと頑張ってね」
私は魔槍を短槍形態へと戻すと、風の魔力を込める。そして再びスライムに突き刺して解放させる。
バァン
「いまだ!」
魔槍が魔力を解放した瞬間に私は火の魔力を込める。そして、スライムの体が飛び散る前にもう一度、炎の魔力で分裂した体を燃やすのだ。
「どう?」
シュウゥゥゥゥゥ
私の作戦は成功したみたいで、今度は核に集まることはなく消えていった。
「ふぅ。でも、MP消費が大きいな。もう一体はどうすれば…」
にゃ~
その時、キシャルが残ったスライムに対してブレスを吐いた。
「えっ!?使えるの?」
よくよく見て見ると、キシャルはブレスをスライムに吐いているものの、口から放出し続けている。つまり、体から放さずに使うことでこのフロアの制限を回避しているのだ。
「私のアースグレイブを見たのかな?そういえば、あれも無効化されなかったし」
うう~む、私の従魔ながら賢い。ちらりとティタを見てみると、ティタもちょっと驚いている。あれはどっちに対するものだろう?
「あっ、とどめを!手のひらから放出し続ければ倒せます」
「え、ええ。アクアスプラッシュ」
デネブさんが再び魔法を使う。今度は放出し続けることで、氷を割りスライムの体を破壊した。
「さて、これで水の魔石が…あれ?」
ん~、ドロップした魔石はとても青い。これは恐らく氷属性だな。まあ、こっちはこっちで珍しいからいいか。ありがたく回収してスケルトンの方を見る。
「どうですか?」
「大丈夫だよ。所詮スケルトンさ。剣術のLVが低いからどうにでもなるよ」
「良かったです。ティタ、行くよ!」
(分かりました)
それぞれ、魔槍と魔法を駆使してスケルトンの頭部を狙う。どうやら、スケルトンの核は頭部であることが多い。それも厳密な核ではないらしく、体をバラバラにすれば倒せることが多い。
カラン ゴトン
そして、スケルトンを倒すとこれまたドロップだ。ほんとにこのフロアのドロップ率はどうなってるんだろ?まあ、こっち的にはいいんだけど。
「今度は何かな~。兜と盾?」
「兜は火属性で盾は水属性か。どっちも載せて見な」
「はい」
私は本を取り出し、それぞれを置いてみる。
「無反応ですね」
「やったね。これはあたしのところに入れておくよ」
「もう出ませんかね~」
「もうちょっと欲しいところではあるけど、こっちもこのフロアじゃね。もう少し警戒して、もっといい装備で入ってればいいんだけどねぇ」
「そうですね。残念です」
その後は魔物の出現はなく、安全そうだったのでちょっとだけ見て回った。
「そっちはどうだい?」
「う~ん、ちょっと飛んでみますね」
以前見つけたように高い位置に隠し部屋がないか探してみる。
「ん?あれは…伸びろ!」
リュートに借りたままの魔槍を使って、怪しい部分に攻撃を加える。
ガラッ
「ありました!」
おかしな長方形の物質を壊すと中から宝箱が出てきた。
「中身は何かな?おっと!」
私は勢いがなくなったので、地面へと戻る。残念ながらこのフロアでは風魔法で飛ぶのも難しい。しょうがないので、一瞬地面に空気を叩き付け、跳躍する方法で探しているのだ。もちろん、降りる時は痛いのでホバーの応用で着地の衝撃は殺している。
「もう一度行ってきます!」
「はいよ」
「気を付けてね」
「うん」
私は再び跳び上がると宝箱にしがみつく。
「よいしょっと。あとは中身を確認するだけ…パカッ」
残念ながらダンジョン宝箱は開けても音が鳴らないのでセルフSEを追加して宝箱を開けた。
「んん~、首飾り?でも、よかった~。この本を普通のバッグに入れておいて。毎回マジックバッグから取り出すのが面倒だから、出しておいたんだよね」
弓や矢筒なら普段から使っているから無意識に取り出せるけど、この鑑定機能付きの図鑑はダンジョンでしか効果がないから、毎回意識しないと取り出せないんだよね。
「ありゃ、やっぱりというか鑑定できないな。しょうがない、持って帰ろう」
私はマジックバッグに首飾りを入れてみんなの元に戻った。
「ん?何か違和感が…まあいいか」
「アスカ、どうだった?」
「ん~、首飾りでした。一応、Cランク以上ではあるみたいですね」
「へぇ~、どんなのだい?」
「えっと、ですね。あっ!?しまった!マジックバッグに入れちゃいました」
「はぁ~、しょうがない。ボス部屋ででも見るか」
「そうだ!」
「アスカ、どうしたの?」
「なんでマジックバッグに入れられたんですかね?出せないのに」
「そういえばそうだねぇ」
「手に持ってるかどうかではないでしょうか?」
「手に?」
「はい。マジックバッグに入れる時はその口と入れるものと手がつながっています。しかし出す時には手にマジックバッグの口は当たっていますが、その先の物につながっていないのでは?」
「なるほど…」
「そう考えると、このフロアは異質だな。本来、この程度の階層ではありえないぐらい高度な魔術知識によって構築されている」
「ま、考えてもしょうがないことだけどねぇ。あたしたちは研究者じゃないし」
「そうですね。でも、なんだかそう考えるとロマンがありますね!」
「また始まった。アスカのロマン病が」
「それより、そろそろ進むとしよう。次はボスフロアだ」
「そうだね。あんたらももう少しだよ」
「はいっ!ここまでありがとうございます!」
「気を抜くんじゃないよ。ボス部屋の中じゃ、守ってやれないからね」
「そ、そうですよね」
「私もバリアは張れますが、壊されない自信はありませんから気を付けてください」
「分かったわ。私が風魔法で三叉の分はフォローするわ」
「お願いします」
そして、みんなの状態を確認すると、私たちは階段を見つけ出した。
フ~~~~
「あ、そうか。ここでお別れなんだね」
「どうかしたの?」
「アスカが連れてるガンドンは懐いてるだけで従魔じゃないんでね。この先のボスフロアには連れていけないのさ」
「不思議ね。従魔じゃないのにあんなに言うことを聞くなんて」
「ま、魔物使いの事なんてあたしらには分からないけどねぇ」
「そうよね。数が絶対的に少ないもの。こんなかわいい子なら私も連れて歩きたいけど!」
ピィ?
デネブさんに頭を撫でられて、アルナが首をかしげる。アルナは魔物使いの人気のなさとか関係ないもんね。
「さあ、お別れ前にちょっとだけだけどお食べ」
フ~
私がわずかに袋に残っていたアルナ用のご飯を上げると、ガンドンの体は輝きに包まれていった。
コトン
「ガンドン…」
「アスカ、大丈夫?」
「うん!今回はちゃんと心の準備をしてお別れできたから!」
トレニーの時は本当に突然だったからね。もちろん、今回が悲しくないわけじゃないけど。こうして私たちは一抹の寂しさを覚えながらも発見した階段を降りていった。
「ここがボスフロアね」
「なんともまぁ…」
ボスフロアだというのに辺りは草原だった。しかし、中心部と思われるところには遺跡のような大きい部屋があり、きっとあそこがボス部屋なのだろう。
「じゃあ、まずはさっきのフロアのせいでできなかった回復だね。ああ、分かってると思うけど、あの場所のことは秘密だよ?」
「ええ、そうね。私たちでは本来見つけられない場所だったもの」
「ドロップもだな。後でギルドに面倒なことを言うなよ」
「分かってるわよ」
「はい。僕らも、生きて帰るだけで十分ですから」
「まあ、そうだな」
「それより休みましょう!もう疲れちゃって」
その一言で私たちはシートを敷き、魔物のいないボスフロアで休憩を取ったのだった。
 




