不思議な場所
ドロップ品も片付いた私たちは周囲の探索を行う。
「あったわ!降り階段よ」
「よしっ!それじゃあ、直ぐに降りるよ。順番は間違えないように」
「分かりました」
私を先頭にみんなで階段を降りていく。次が28Fだから、あと2フロアでボス部屋だ。
「魔物は近くにはいないな。じゃあ、探知魔法を使ってと…」
私は近くに反応がないか魔法を使って探る。
「う~ん。この近くに魔物はいないみたいだな。他の反応はと…ん?」
地形を確認するために辺りを探っていると後方に小さい岩が見えた。
「アスカどうしたんだい、立ち止まって?」
「いえ、魔物の反応もないので地形を探っていたんですけど、後ろの岩が変なんです」
「変ってどういうこと?」
「ん~、リュートも探ってみたらわかるかも」
「分かったよ」
リュートも私と同じように後ろの岩の辺りを調べる。
「あ~、確かに何か変だね」
「どうかしたんですか?」
「ああ、アスカが何か見つけたみたいでね。ちょっとそこに行ってみよう」
「分かった」
そして、私が気になった場所に着くと…。
「ただの小さい岩があるだけね。ここの何が気になったの?」
「えっと、この岩の下から風が漏れているんです」
「風?」
「はい。リュートも感じたよね?」
「うん。岩のそこから風が漏れてるよね。ちょっとした空洞があるみたいなんです」
「ふ~ん。私には分からないわね」
「デネブさんって風の魔法が使えるんですよね?」
「ええ。でも、本業は水なの。風はそこまで得意じゃないのよ」
「そうだったんですね。とりあえず、この岩を壊してみましょう。行くよ?」
フ~
私はガンドンに乗ったまま岩に体当たりを行う。
ガラガラ
魔法で覆った体当たりの威力は高く、たちまち岩を崩すことができた。
「さ~て、なにが出るかなぁ。えっ!?」
岩が崩れて現れたのは階段だった。
「嘘…」
「こりゃあ困ったね。リック、どうする?」
「どうすると言われてもな。一番近い階段だろう。降りるしかないんじゃないか?」
「そうだよねぇ。戦わずに1フロア稼げるわけだし、しょうがないか。念のため、あたしとあんたで先に降りるよ」
「い、いいんですか?」
「こいつらを抱えたまま、もう一つ階段があるかなんて調べられないしねぇ。しょうがないさ」
というわけで、怪しくは思いながらも見つけた階段を降りていく。
「ねぇ、ファルセットはこんなの見たことある?ダンジョンで隠し階段なんて」
「ないですよ。他のみんなは?」
「俺たちも無いな。そもそも、ファルセット程古株でもないしよ」
「そうよね」
「あれ?こういうのって珍しいんですか?」
「それはそうよ。隠し宝箱さえ私たちは見たことがないもの。あるっていう冒険者はいたけどね。でも、Dランクの見栄っ張りなやつか、Bランクの実力者だけよ」
「そっかぁ~。じゃあ、貴重な体験ですね!」
「これが事実上の撤退戦じゃなければ、だがな」
「そうね。リーダーにも見せたかったな」
「…」
仲の良いパーティーだったのかそこから階段を降りる間は無言だった。
「ここが29Fですね。あと1フロアですよ、頑張りましょう!」
「そうですね」
「にしても、がら~んとしてるわね」
「全くだねぇ。アスカ、反応はあるかい?」
「いえ、反応どころか何も。それにおかしいですよ。草原なのに壁があります」
「そういえば、そうだねぇ。まっ、隠し部屋みたいなもんかね」
「ジャネット、軽々しく言うんじゃない。何が起こるか分からないぞ」
「はいはい。リックの言う通りだね。それで、なにが変なんだい?」
「さっきから探知魔法を全体に掛けようとしてるんですけど、かき消されてるみたいなんです」
「なんだって!?デネブ、何か攻撃魔法を使ってみてくれ」
「わ、分かったわ。アクアスプラッシュ!」
デネブさんが魔法を放つ。しかし、手のひらから離れた瞬間に魔法はかき消えるように消滅した。
「これは…」
「魔法を霧散させる何かが部屋に充満してるみたいだね。もしくはこの階層全体に魔法陣が敷かれてるのか…」
「ど、どうすればいいの?」
「魔法に頼らないようにいくしかないねぇ。アスカ、マジックバッグから弓は取り出せるかい?」
「…無理です。手が入りません」
「ふぅ、参ったね。リュート、魔槍をアスカに」
「魔槍を?分かりました」
「ごめんね。リュート、ちょっとの間借りるね」
「ううん。気にしなくていいよ。僕はこっちもあるから」
私はリュートから魔槍を受け取ると、扱いやすいように短槍の形に変化させる。
「良かった、魔槍の変化は生きてるみたいです」
「直接、手に持てるからかもねぇ。さっきの魔法も発動自体はしていたし」
「そういえば…アルナ!」
ピィ?
「いい子だね。こっちに来て。あなたも魔法が使えないでしょ?」
ピィ!
しばらく私から離れていたせいか、元気よくアルナがこっちに向かってきた。
「キシャルは大丈夫そう?」
にゃ~
「問題ない?分かった。何かあったらこっちに来るんだよ」
こうして、魔法が使えないため、隊列の戦闘を再びジャネットさんとリックさんに任せて私は下がる。
「じゃあ、探索と行くかい」
準備も整った私たちはダンジョンの探索を行う。
「ん~、この辺りは何もないねぇ。ん?」
ボコボコ
突然、先の通路から泡のようなものが出たと思ったら、そこからスライムとスケルトンが現れた。
「気色悪…」
「が、我慢ですよ」
「しかし、どうしたもんかねぇ。あたしの剣も普通の剣だし、リックもそうだろう?」
「ああ。スケルトンはともかく、スライムをどうしたものかな?」
「核を狙えばいいんじゃないんですか?」
「そうだけどねぇ。こいつらの酸で剣が痛むだろ?でも、マジックバッグは使えないから替えがね…」
「そうでした。あっ!?でも、いけるかも?」
「アスカ?」
「魔槍さん。頼みがあるんだけど…」
私は魔槍に自分の考えを話す。
フィィィィ
「できると思うだって。じゃあ、頼んだね」
「アスカ、スライムは任せてもいいのかい?」
「はい!」
私は魔槍さんに向かって炎の魔法を使う。さっきも手のひらまでは魔法が出たから、体に直接触れていれば消えないのかもしれない。
「エンチャントフレイム!」
ゴォッ
私は短槍に炎の魔法を付与する。
「やった!これなら…伸びろ、魔槍よっ!」
グィン
魔槍は炎をまとったまま、スライムたちに向かって行く。そして、その体を蒸発させると核だけが残された。
「あっ、ここってダンジョンだからとどめ刺さないといけないのかな?」
でも、核が魔石に変化することもあるみたいだし、どっちなんだろ?
「あっ、消えていく…」
そう思っていたら核が消えていった。どうやら、これで討伐完了のようだ。
「おっ!何か出たよ」
「ほんとですね。石ですかね?」
私はドロップ品を本の上に載せてみる。
ファイアスライムの魔石:Dランク。中サイズで火属性に対応した魔法を込められる。
「えっ!?珍しいですね。しかも、倒した全部に出るなんて」
「おい!こっちもだぞ」
どうやらスケルトンの方もドロップを落としたみたいだ。
「どうなってんだい?こんなにドロップするなんて」
「変だな」
「そうですね。でも、もう少し強い魔物の物だったらもっといいんですけどね」
「確かにねぇ。おっと、追加だよ」
さらに追加で現れたのは先程よりも巨大なスライムに威圧感のある見た目をしたスケルトンだった。
「…ひょっとして」
「どうしたの、ティタ?」
ティタからわずかに声が漏れる。そして、念話でティタが言葉を伝えてきた。
(ご主人様。少し魔槍をお借りできますか?)
(いいけど…)
私は少し気になったものの、ティタの言う通り、魔槍を渡すことにした。
「魔槍さん、ティタに使わせてあげてね」
フィィィ
しょうがないなというように一瞬輝くと、魔槍はティタの手に納まる。
(行くわよ!アクアランサー)
ティタが水の魔法を魔槍に込めてスライムに放つ。弾力のあるその体が、槍のような水に貫かれ次の瞬間…。
(バースト)
ティタの一言でスライムを貫いた魔槍の水が破裂した。
ギィ
(これで仮説が正しければ…)
コロン
「あっ、また石だ。さっきのより透き通ってる!」
「ジャネット様!」
「なんだい?」
「そのスケルトン、倒さずにお願いします」
「あん?まあ、こいつら程度なら別にいいけど…」
「い、いま、ゴーレムが…」
「なにも聞こえないぞ?」
ティタの言葉がデネブさんには聞こえたのか、反応する。う~ん、彼女は風魔法も使えるから聞こえちゃったのかな?そして、ティタの指示を受けた。ジャネットさんとリックさんが簡単にスケルトンをあしらう。所詮威圧感を持つといっても、実力はDランクからCランクに届こうかという程度の魔物だ。武器を弾いてさらに蹴りで間合いを取る。
「んで、ティタ。一体何なんだい?」
「恐らくですが、この階層の魔物はドロップを高確率で落とします」
「まあそりゃあ、さっきので分かったけど。っと」
再び近づこうとしたスケルトンを再度弾くジャネットさん。格下の相手もいっぱいしてきたからか、退ける戦いも見事だ。
「そのドロップ条件が倒した武器に依ると推察されます」
「要は火で倒せば火属性の物を落とすということか?」
「ええ。リックの言う通りです」
「そ、それってすごくない!?」
「はい。仕組みは分からないですが、先程私が水属性の攻撃で倒したドロップを見てください」
「青くて透き通ってるねぇ」
「あれは恐らくアクアスライムの亜種の物でしょう。進むたびに魔物が強くなるかは分かりませんが、多少頑張る価値はあるかと」
「つまり、このマジックバッグを開けられない状況で、魔槍や近接で倒せってことかい?」
「そうです」
「はぁ、疲れるけどしょうがないか。リックは土魔法を少しは使えるんだろう?」
「多少な」
「それなら私が前に出ます!私も使えますから」
「宝のために無茶はするなよ?」
「分かってますって!」
こうして、不思議な階層に入り込んだ私たちは奥へと進んでいったのだった。




